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異世界で目指せ発明王(笑)  作者: 朝倉一二三
異世界へやって来た?!編

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77話 悪魔が来りて札遊び


「にゃぁ~、にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ!」

 残像を残しニャント百裂拳ばりに繰り出される、ニムの見えざる手。


「ちょっと待て! 速すぎて見えねぇ!」

 何をやっているのかというと、 俺の作ったトランプでメイドさん達とゲームをしているのだ。

 最初にやったのがトランプのスピードという遊び。

 俺の地元ではスピードと呼んでいたんだが、全国区でもそう呼ぶのかは不明。

 遊び方は、真ん中にカードを2枚出して、手元にカードを4枚。

 真ん中に出したカードに、数字を繋げていく遊びだ。 例えば、3、2、3、4、5とか、7、6、5、6、7、8みたいな感じで。

 先に自分の手札が無くなったほうが勝ち。

 なのだが、メイドさん達とトランプをやり始めて、俺とニムでこのスピードという遊びをやってみたのだが――。


 ニムの手の動きが速すぎて勝負にならねぇ。

 獣人の動体視力と素早さには、全く歯がたたないと解っていてもちょっと唖然。

 試しに、手札の数にハンデを付けてやってみたが、また完敗。

 ちょっと獣人にスピードはアカン。 他のメイドさん達とやってみるといい勝負なので、やっぱりニムが別格のようだ。

 ただ、圧倒的なのはスピードだけで、その他ルールの遊びはちょっと分が悪い。

 なにせ、獣人は覚えるのが得意じゃないから、神経衰弱ゲームとかになると、1枚も覚えられない。


 そんなトランプを使った遊びに興じていると、殿下もやってきてゲームに加わった。

 次は、メジャーなババ抜きゲーム。

 ババ=ジョーカーという概念は、この世界の住民達にちょっと説明が難しい。

 そこで、俺が作ったトランプには悪魔カードというのが、ジョーカーの代わりに加えられている。

 

「これは悪魔抜きという、遊びです。 つまり、最後までこの悪魔の手札を持ってる人が負け」

「なるほど、解りやすいな」

 俺から悪魔カードを見せられた殿下がうなずく。

 

 順調にゲームが進み、最後に残ったのがメイドさんと殿下。

 悪魔カードは殿下が持っているらしくて、カードをこれ見よがしにピコンと1枚だけ立てている。


「え~、どちらにしようかな~」

 メイドさんは、どちらの手札にしようか迷っている。

 

「殿下、これは遊びとは言え、手加減無用でよろしいのですね」

 俺が改めて尋ねる。

 

「当然だ。 勝負なら真剣勝負ではなくてはならぬ、身分は関係ない」

「だそうだよ、遠慮要らないそうだ」

「え~い! じゃ、こっち!」

「ぬおっ! くそぉ、何故だ! 裏の裏をかいたつもりであったのに!」

 どうやら、殿下の負けのようだ。

 

「よく判らないので、適当に引きました」

  まあ、こういう事はありがちだが、小学生の頃を思い出す。


 最後は、大富豪。 これ、大貧民って言う地方もあるらしい。

 地方ごとに色んなルールがあるらしく、俺が教えたのは当然、俺の地元のローカルルール。


 最初、ゲームの説明をしながらやって、殿下が一番乗りで大富豪、俺がビリで大貧民になった。


「じゃあ、殿下は大富豪なので、一番高い席へどうぞ」

 俺が椅子で作った玉座へ殿下をエスコートする。

 

「おお、ここに座るのか」

「そして、大富豪は、大貧民から良い手札を貰うことが出来ます」

「なるほど、年貢だな」


 俺は大貧民なので、床に座ってゲームが進み、俺が2連続大貧民の後――。


「よっしゃ! これで上がりだぜ。 革命だ!」

 俺が最後の札を場へ放り出す。

 

「なんだと!?」

「大貧民が最初に上がると、革命が起きた事になって、その場で終了。 そして、全部順位が逆転します」

 4枚切りで革命! ってルールもあるらしいが、ここでやってるのは、俺がガキの頃にやってたローカルルールだ。


「ということは、殿下が大貧民に?」

 メイドさんの1人がつぶやく。

 

「ぐぬぬ……」

 殿下が手札を持ったまま固まっている。

 

「当然、革命ですから、大富豪から大貧民へ真っ逆さまですよ」

「よっしゃ、早速大富豪の席へ座らせてもらうぜ! オホホホ! さっさと、妾に年貢を収めるがよいぞ!」


 それから、数ゲームやったのだが、殿下はずっと大貧民のまま。

「オホホホ! 上から眺める景色は最高じゃのう! 腹を空かしている貧民共がアリのようじゃ。 パンが無ければ、お菓子を食べればよいのにのう」

「ぶち! ニムよ、武力による革命だ。 あやつを玉座から引きずり降ろすがよい」

 俺のふざけっぷりに、殿下がブチ切れたようだ。


「にゃにゃ!」

 ニムが俺に飛びかかって来て抱きついたので、俺は椅子から転げ落ちた。

 

「え! ちょっと、実力行使は反則ですよ! ちょっと待って! ぎゃぁ、申し訳ございません。 メチャ、調子に乗りました」

「にゃ~ガブガブ!」

「アイタタ! ニム! 甘噛みじゃなくて、本気噛みになってるって、マジで痛ぇ! 噛み跡ついちゃう!」

 獣人には犬歯が生えているので、噛まれるとメチャ痛い。

 痛いどころか、噛まれて引かれると、刃物で切ったように深さ1cmほどの傷が身体に刻まれる。

 獣人の犬歯は、武器としても十分な威力があるのだ。

 俺がニムに噛まれる光景を眺めていた殿下が――。


「ふん!」

 床に胡座あぐらをかいたまま鼻を鳴らした。

 

 俺の態度に切れた殿下であったが、トランプ自体は非常に気に入ったらしく、すぐに商品化したいと言う。

 ただ、紙がまだ高価であるし、背には甲虫の羽なんて凝った物が使われている。

 これでは、一般に普及するのは難しい。

 紙の物はあくまで高級品扱いで、一般には木札の物が売られる事になった。

 ついでに金属活字についても説明してしまおう――という事で、俺がトランプ製作のために作った金属製の判子も、殿下にお見せすることにした。

 

 俺の工房へ、殿下と工作師親方のラジルさん、そしてその弟子のラルク少年がやって来た。


 俺が作った、鉛錫合金の活字を殿下達に見せる。

「これが私の作った、活字です。 あのトランプという絵札を作る際に、同じ模様を沢山描くのが大変だったので、これでペタペタと……」

「なるほどの。 しかし、これは要は『印』であろう? 珍しくもないぞ」

「ここからが本命です」

 俺が作った活字を並べて、簡単な文章になるように木枠に綺麗に収め、隙間には材木を入れる。


「ほう?」

「この活字をこのように沢山作り、木枠に並べて文章を作ります。 そして、ここへインクを塗り、上から紙を乗せて押さえつけると」

「どうなる?」

「このように、文章が紙に転写されます。 これを繰り返せば――」

 皆に文字が転写された紙を見せる。

 

 ――我、タカマガハラから此の地へ来たる、アマテラス也――

 

 これは、この大陸で信じられているアマテラスという神様を讃える教義の、最初の一文だ。


「本が出来るんですね!」

 それを見たラルク少年が声を上げる。

 

「そうです。 これを使えば、写本などをしなくても、同じ本を大量に作ることが出来るようになります」

「なに? 本を大量にか」

「これは、考えましたな」

 転写された紙を手にとり、顎に手をやったラジルさんがうなる。

 

「羊皮紙では、本の大量生産は不可能でしたが、紙が普及すればこのような技術も導入することが可能になるのです」

「大量に作れば、安くも出来るしの」

「お察しの通りでございます」

 

 すぐに実用化というわけにはいかないだろうが、ネタは教えたので、なんとか物にしてくれるだろう。

 そんなに難しい技術では無いしな。

 印刷の際にプレスする機械は、ぶどう酒を作る時に使っているネジ式の絞り器が使えるだろう。


「それとこういう物も作ってみました」

「それは?」

「これは鉛筆という物で、黒鉛と粘土を油で練って焼き固めた黒い芯を、木に挟んでいます」

 俺は、鉛筆でさらさらと絵を描いてみせる。


「おおショウ、其方中々上手いの」

「インクが無くても紙に字を書くことが出来るのでございますか」

 ラジルさんが鉛筆を手にとり、興味深そうに観察している。

 

「親方! これ、材木に印をつけるのに使えますよ」

「おお! そうだな」


 この世界で、木材に印を付けたり、ナンバーを振ったりするのには、墨が使われている。

 長い線を引くのには、墨壺が使われているのだが、ちょっとした線や注釈を入れたいなら、鉛筆が便利だろう。

 工作師の2人には、印刷より鉛筆の方が受けが良いようだ。

 個人的にイリジウムと鉄を使ったペンも作ったのだが、この世界で普通に使われている羽根ペンが耐久性を備えた優れもので、鉄製のペンや万年筆の出番は無いと判断して、皆には見せてない。

 インク漏れや、上手くインクが出なくて書けなくなる等々の欠点だらけで、元世界の万年筆レベルにするには、まだまだ改良が必要であるし。

 

 その後、俺と殿下とラジルさんで、色々と打ち合わせをしているのだが――。


 ラルクは、俺の工房にあるモーターやら、発電機に興味津々で、覗きこんだりしている。

 教えてやりたい気持ちもあるのだが、皆魔法の力で動く、魔導器だと言って誤魔化している。

 電気やら、真空管の説明するのに困ってしまうからな。

 実際、作るのに魔法を使ったりしているので、これらは大量生産できずに商売にならないものばかりだ。

 俺が集めた白金プラチナも大量に使ってるし。 白金は個人的な宝物だから流出させたくないんだよね。


 皆さんとの話の続きで、第2工作師工房の相談を受けた。

 工作師工房が手狭になってしまい、城郭工房内に空きスペースが無くなってしまったので、城壁の外へ第2工房を作るという。

 いずれは石造りにするというが、とりあえずは丸太を立てた砦で誤魔化すという計画で、その際、防衛や警備で良い策は無いか? という話なのだが。


 う~ん、フェンスとか? 金網はちょっと作るのは面倒だろうなぁ。

 やっぱり、こういう時は鉄条網――有刺鉄線か。


 俺は、手元にあった銅線をカットして、有刺鉄線のサンプルを作った。

「殿下、これは有刺鉄線とかバラ線と呼ばれるものですが、これがお役に立つかもしれません。 これは銅で作りましたが、実際は質が悪くても構いませんので鋼を使います」

「むう、確かにバラの蔓に似ているの。 しかし、こんな貧弱な物が役に立つのか?」

「そう思いますでしょ? これが意外と凶悪なんですよ」

「ほう?」

 殿下はイマイチ信用していないようだが。

 

 殿下は半信半疑ながらも、有刺鉄線のサンプルをドワーフのいる鍛冶場へ発注したようだ。

 ドワーフなら、こんな物を作るのはわけないだろう。

 すぐに物は出来上がったので、早速設置試験が行われ、その効果をまざまざと見せつけた。

 そりゃ、元世界で定番な代物だからな。 悪魔の網なんて言われることもあるぐらいで、それだけ効果的って事だ。

 

 その有刺鉄線だが、殿下が発した鶴の一声で、バラ線という呼び方にするらしい。 それが解りやすくて良いのだそうだ。

 試験で設置されたバラ線は、クルクルと螺旋を巻いて壁を作っており、そこを工作師の連中が越えようとしているのだが――。


「よう、真学師様。 こいつを考えたのは真学師様だって?」

 このバラ線のサンプルを作ったドワーフの親方だ。

 

「そうですよ」

「バラ線なんて言うから、最初は冗談かと思ってたが、こいつはえげつないぜ。 こんな物を考えつくなんぞ、さすが悪魔と言われるだけあるな」

 バラ線の効果を確かめる試験を眺めていた親方は腕を組んだ。

 

 なんだか、褒められているのかけなされているのか解らんが。

 

 工作師達は、バラ線を斧や剣で切ろうとしたり、なんとか乗り越えようと必死になっているが、簡単にはいかない。

 バラ線は、斧や剣を嘲笑い、工作師達を絡めとり引き裂く。


「このような物で、こんなに効果がある物なのか」

 殿下も考えを改めたようだ。

 

「殿下、切り傷を負った工作師の消毒や治療を怠らぬようにしてください」

「解っておる」


 バラ線が持つ効果の程が解ったので、すぐに追加で製作され、悪魔の線は幾重にも砦を這い、第2工作師工房の防御のかなめに使われる事になった。

 バラ線の効果をお認めになった殿下も、こいつは売り物にはしないと言う。

 逆に敵に使われると厄介だし、戦に使われる可能性大だからな。

 金に固執はするが、戦で金儲けをするのは、殿下の信条に反するという事らしい。

 しかし、牧畜の柵を作ったりにも使えますよ――という俺の言葉に迷っているようだ。


 今まで、色んな物を作った俺だが、殿下に兵器を作れとは言われた事はいままで無かった。

 しかし、そんな俺の発明で、各国のパワーバランスが崩れ始めている。

 殿下とタッグを組んで、帝国を散々煽った責任もあるしな。

 来る日々のために、新しい防御用の兵器や、既にある兵器の改良は必要になるかもしれない。

 強力な兵器を作れば、沢山の犠牲者が出ることになる。


 無論、殿下とファーレーンを守るため、この身は既に覚悟完了なのだが。

 

  ------◇◇◇------


増額(レイズ)

 ステラさんの声と一緒に、テーブルの上に銅貨が積まれていく。

 師匠とステラさんがポーカーをやっているのだ。

 俺も混ざっていたのだが、2人に全く歯がたたないので、降りた。

 勝てない勝負をするのは、性に合わない。


勝負(コール)

3枚札(スリーカード)

 ステラさんが手札を見せる。

 

「くっ!」

 どうやら、師匠が負けたようだ。

 

 師匠も強いのだが、駆け引きとなると半端無く長生きしているステラさんに一日の長があるようだ。

「もう1回よ!」

「え~? もう止めようよぉ」

 珍しく、ステラさんから泣きが入っている。

 

 師匠が、博打の勝敗にこんなに拘るとは思っていなかった。

 ――というか、相手がステラさんだから、負けたくないのか?

 

 再び、勝負が始まったのだが――また師匠が負けた。

「ステラさん、強いですね。 やっぱり年の功ですかね?」

「歳は関係ねぇ!」

「なんでですか、褒めているんですよ」

「それでも、関係ないのぉ!」

 なんとしても、歳のせいだとは言われたくない模様。

 

「もう1回よ!」

「もう、ヤメヤメ!」

 食って掛かる師匠を振り払うと、ステラさんは席から立つ。

 

「ちょっと! 勝ち逃げするつもり?!」

「もう、勘弁してよぉ」

 ステラさんはそのまま、逃げてしまった。

 

「ううう~」

 師匠が、トランプを睨みつけて何を思うのか、彼女の心中は解らないが――。

 

 こりゃ、師匠はしばらく機嫌が悪そうだ。


 しかし、ポーカーに使われる役の翻訳には、結構悩んだ。

 ストレート→稲妻

 フラッシュ→森

 フルハウス→屋敷

 という感じにしてみたが、己のセンスの無さに頭を抱える。

 だが、教育も受けてない普通の人達にも解るような言葉にしなくちゃならないし、難しい言葉は使えないのだ。

 ロイヤルストレートフラッシュは、王家の森に稲妻(落雷)ってな感じになる。

 まあ、皆問題無く遊んでいるみたいだし、これで大丈夫かと思う。


 ------◇◇◇------


 バラ線を商品にするか殿下は悩んでいたようだが、結局商品化された。

 鉛筆も売りに出されたのだが、まだ紙が一般的ではないので、鉛筆は大工や職人などに受けているという。


 しかし、ヒット商品はトランプだろう。 これは老若男女問わず楽しめるからな。


 子供達には、大富豪やらババ抜きで。 大人たちには、ノーマルポーカーやスタッドポーカーが流行った。

 大人たちは、無論ギャンブルに使っている。 それでも、ファーレーンではそんなに問題にならなかったのだが――。

 しかし、帝国では、政府が禁止に走るほど大流行してしまい、取り締まりに手を焼く事態になる。

 そして、これが大陸間で大問題になった。


 今回のトランプ、実は帝国には販売の許可を出していなかったのだ。


 多少は他の国から持ち込まれる物があるとしても、それを遥かに上回る数が存在しており、帝国が各国間の取り決めを無視して商売しているのが、証明されてしまった格好になった。

 要はパチもんなのだが。

 

 殿下の執務室で、俺が尋ねる。


「殿下、どうなさるおつもりで?」

「決まっておる。 輸出入の制限だ」

「つまり、経済制裁――」

「そうだ」

 

 今回の騒ぎ、それといままでインチキした分プラス迷惑料を上乗せして、それを回収するまで輸出入に報復関税を掛ける事になった。

 ファーレーンはほぼ自給自足が可能であり。 その他の必需品も帝国からどうしても輸入しなくてはならないという物は無い。

 やはり、今回の措置は帝国側に痛手だろう。

 そもそも、財政が厳しいからインチキをしたはずなのだ。


 まだ経済制裁だけで、人的物資的往来禁止や国交断絶にはなっていないが――。

 俺の発明も、帝国側に売れないとなると実入りが減るかもなぁ。

 まあ、それは仕方ないのだが、この先どうなることやら。


 帝国からの難民もふえるだろうし、ミルーナとやる事も増えそうだ。


 ------◇◇◇------


 個人的にやってみたいことがあって、ロープを担いで師匠の家にやって来た。

 しかし、目的地はここではなくて、俺が修行に使ったりしている、いつもの滝。

 いつ見ても、大迫力だ。

 水量はそれほど無いのだが、なんと言っても落差がある。

 この世界の人達は全く興味ないようだが、立派な観光地になると思うんだがなぁ。


 いや、やって来た目的はそんな事でなく、ちょっとした冒険行為なのだ。

 そのために作ってきた物がある――

 漫画やアニメ等でよく出てくる、かぎ爪を打ち上げ引っ掛けて、崖を登る装置だ。

 普段は折りたたまれている鈎爪が、傘のように開く構造になっている。

 これを、筒に差し込んで、筒内に圧縮弾を入れて打ち上げるという寸法だ。


 まず、軽く水平発射してみると――ポン! という音と共に、鈎爪が飛び出した。

 これを使って、この滝を登ろうというわけなのだが、正直こんな鈎爪を打ち上げて引っ掛けただけで、人間の体重を支えれるとは思えない。


 だが、俺には魔法がある。


 重量軽減の魔法を自分で掛けて縄を登れば良いのだ。

 工房の屋根を使って試した時には、腕の力だけでスルスルと登れたので、大丈夫だろう。

 さて問題は、滝の上に生えている木まで届くかだが、河原で45度発射した時は100m以上飛んだ。

 垂直発射では果たして――。


 筒に魔法の圧縮弾を入れて、ロープを結んだ鈎爪を差し込む。

 圧縮弾を解放すると、甲高い音と共に鈎爪が打ちあがった。

 が、ちょっと飛距離が足りず、途中で落ちてきてしまったので、もう少し強い圧縮弾を使わないとダメか。

 この鈎爪の重量が結構あるんだよな。

 鋼で頑丈に作らないと、体重を支えきれず壊れてしまうし。


 再度挑戦すると、鈎爪は滝の上まで飛んで、何処かに引っ掛かったようだ。

 ビンビン! と引張り、試しにロープにぶら下がって俺の体重を掛けてみるが、大丈夫だ。

 自分で作って言うのもなんだが、意外と丈夫な物らしい。 これなら、魔法無しでも登れるかも……。

 まあ、そんな冒険を敢えてする必要もないのだが。


 滝の上を眺めて、覚悟を決めて重量軽減の魔法を自分に掛けると、ロープを登り始めた。

 

 下を見るなぁ~下を見るなぁ~。

 恐怖で、集中力が落ちると、魔法が切れるかもしれん。 これも修行だと思えぇぇぇぇ。

 

 そんな恐怖を乗り越え、ついに滝の上へ登り詰めた。

 俺が打ち上げた鈎爪は、木の根っこに引っ掛かっていたので、それを外してロープを樹幹へ結び直す。

 これを使えば、好きなときに滝上まで登ってこられるだろう。


 俺が登ってきた崖を覗きこんでみる。

 

「ひょえ~高ぇぇぇぇ!」

 まさしくタマヒュンである。

 蛇足だが、手術や事故でタマを取ったりすると、タマヒュンが無くなるという。

 

 そして、崖から見える大パノラマ。 お城を含めファーレーン近辺が一望できて、近くにある師匠の家も見える。

 この滝は50mぐらいの高さだが、師匠の家も高台にあるので、お城を起点にすると100m程高いという事になるだろう。


 ここに天守閣を作った方が、防御が完璧だと思うんだがな。

 日本の城はこういう場所に建造したのが多い気がするのだが。


 そんな事を考えつつ、改めて城下町プライムを見る。

 帝国は東側にあるので、帝国が攻めてくるとすればここからだろう。 過去数戦でも、東側が主戦場になったらしいし。

 西側には小高い丘があり、回りこむのは結構大変。 南にも開けているが、南に陣を構えるとファーレーンの同盟国ファルキシムに挟撃される可能性がある。

 ファルキシムは自軍は強くないのだが、商業国家であり、なんと言っても金がある。

 金を使っての強力な傭兵団を有しており、こいつの戦力がバカにならない。

 

 となると東側に陣を構えるのが定石となるのだが、その場合でもファルキシムにも睨みを利かせて、戦をしなくてはいけなくなる。

 ファーレーンの北側には森が広がっているので、北側から攻めるのは不可能だろう。

 しかも、ファーレーン城と城下町プライムは2本の川に挟まれており、橋を落とされると川越をしなくてはならない……。


 う~ん、やっぱりお城があそこに建っているというのは、ちゃんとした理由があるのか。

 

 帝国がやって来る場所が決まっているというなら、地雷でも埋めておけばいいかもな。

 魔法は100mぐらいしか届かないが、魔石を使って100m毎に中継すれば、火石に点火するぐらいは可能だ。

 

 地雷――つまり火薬、爆薬だが。

 やはり、考える必要があるのかなぁ……。


 この滝の上が気に入ったので、この場所に俺の秘密基地を作ることにした。

 秘密基地と言っても、3畳ぐらいの簡単なツリーハウスなのだが。

 崖の上の木を伐採すれば、材料はあるからな。 ただ、平板は作れないので、お城の資材置場から拝借して、簡素なベッドも作ってみた。

 虫除けの魔石を使えば、虫に悩まされる事もない。

 

 ガキの頃、似たような事をやったことがあるのだが、とにかく虫だらけになるんだよ。

 蛇とかネズミも入ってくるし。

 あの時に、この魔石なんて便利な物があれば、もっと楽しめたのにと思う。


 ツリーハウスからだと、他の木が邪魔で大パノラマというわけにはいかないが、中々いい景色だ。

 俺が登った後に、崖のロープを引き上げれば、ここには誰も登ってこられまい。 防御も完璧。

 ヒャッハー、まさに秘密基地。


 金を死ぬほど儲けたら、ここに自分のお城を建てたいぜ。

 ノイシュバンシュタイン城みたいな奴を。

 あのお城が格好良いので調べた事があるのだが、あれは古城ではなくて近代に建築された物らしい。

 お城マニアが――ぼくのかんがえたさいきょうのおしろ――というのを具現化した物だという。

 某ネズミ国のお城もアレがモデルとかいう話も聞いたことがある。


 全くもって羨ましい。

 しかし、俺も目指せ一国一城の主! 俺もやれば出来る子だ!

 まあ、その割には結構散財してるからなぁ。

 何時のことになるやら。


 

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