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異世界で目指せ発明王(笑)  作者: 朝倉一二三
異世界へやって来た?!編

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74話 ウ○コハイドレード


 師匠とステラさんが、俺の工房へ来ている。

 オヤツを食いながら、ソロバンの使い方を習っているのだ。

 2人して、パチパチとソロバンの珠を弾いている。

 

「ステラさん、全部暗算で出来るなら、ソロバンは要らないじゃないですか」

「けど、桁が多くなると面倒だしさ、これなら、途中で計算止めても残ってるし」

「そりゃそうか」

 

 2人共九九も当然できるので、一回教えてあげればすぐに使い方をマスターしてしまう。


「なるほどねぇ、これは便利だねぇ」

「ちょっと面倒ですが、平方根の計算も出来ますよ」

「平方根ですか?」

 師匠が聞いてくる。

 

「平方根ってのは、平方すると元の値に等しくなる数のことですよ」

「ああ、*****だね」

 ステラさんが聞きなれない単語を言ったが、聞き取れなかった。

 

 平方根の概念はあるようだ。 まあ、一応数学者もいるみたいだったしなぁ。

 平方根の計算は、割り算をひっくり返して逆さにする感じで計算する、凄く面倒臭い。

 前に覚えたのだが、全然使わないので、すっかり忘れてしまった。

 だって、電卓で答え一発だし。


「例えば、2の平方根は1.41421356237」

「は? 何?」

 ステラさんが何やら驚いている。

 

「3の平方根は1.73205080757」

「じゃあ4……じゃなくて5は?」

「5は2.2360679775です」

「なんでそんな事知ってるのぉ?」

「なんでって言われると困ってしまいますが、2とか3の平方根はそれなりに使い道がありますし。 それと、黄金比の1.6180339とか」

「詳しく」

 ステラさんからリクエストだ。

 

 俺は、絵画や美術品に含まれている、√2や√3、そして黄金比の説明を師匠達にしたが、俺もそんなに詳しいわけじゃないからな、ほんの概要だけだが。


「ふむ、それではショウは、人々が美しいと感じる物の中にはその数が含まれていて、すべて計算で表せると言うのですね」

 師匠も興味深そうに聞いている。

 

「まあ、すべてとは言いませんが。 敢えてバラバラの混迷の中に美しさを感じる人もいるかもしれませんし」

「へぇ」

「人々が感じる感情の元も数値で表せるようになれば、それはことわりであり真理なのではありませんか?」

「そうだねぇ。 う~ん、奥が深い」

 ステラさんは腕を組み、目をつぶり考えこんでいる。

 

「一番簡単な黄金比は、五角形の中に星形を描くと、こことここに現れます。 そして、この黄金比を元に正方形をどんどん書いていって、対角線上に弧を描くと――」

「巻き貝ですね……」

「こんな感じで、万物の中に数値が溶け込んでいるんです」


 そんなソロバン談義がしばらく続いた。

 しかし、元世界の江戸時代には微積とかの凄い数学の問題を出しあったり、そういうのが流行ってたなんて話もネットで見たし、もしかしたらこの世界より江戸時代の方が凄かったんじゃね?


 話が終わった後、昼飯を食いにオニャンコポンへ行くと、女主人のニニもソロバンを弄っていた。

 

「おっ、ニニは計算出来るのか」

「おや、真学師様。 このソロバンってやつも真学師様が作ったんだってねぇ」

「そうだ。 最近は商人達は皆持ってるな」


 ニニの話を聞くと、数字の計算は得意ではないが、ソロバンは珠を数えると目で解るから、計算が出来るという。

 なるほどな、目で見てるのか。 指を折って数えるのと一緒だな。

 これで大丈夫なのかと思うが、ファーレーンの値付けは銅貨1枚、銅貨2枚みたいな感じで、日本のようにお買い得感を出すために銅貨1枚+小四角銅貨18枚みたいな値付けは絶対にしない。

 細かい物は纏めて売る。 なぜなら、売る方も買う方も計算が出来ないからだ。

 ちなみに、小四角銅貨(25円)が20枚で、銅貨1枚(500円)だ。

 それ故、2桁の計算ができれば、この世界の買い物で困ることは無い。

 まあ、2桁が出来れば、4桁も5桁も同じようなものなのだが、獣人達にはちょっと辛いようだ。


 オニャンコポンで昼飯を食い、俺の工房へ戻る。

 ニニが料理をしていたが、彼女は魔法を使えないので、普通にかまどで料理をしている。

 竈で難しいのは火加減の調節だ。 俺は五徳ごとくの高さで調節したりしているが、面倒なので、魔法で温めたりしている。


 う~ん、コンロがあればなぁ……。

 ガスか。

 ガスガスガス……そういえば俺の地元で畜産をやってる家が、ガスを作ってたなぁ。

 家畜の糞を発酵させると、メタンガスが発生するという。

 そのガスを使って発電までして、北海道○力に売電していると聞いた。

 しかも、売電の量が多すぎて、ゴニョゴニョ。


 よし! 電気、水道ときたら、今度はガスだな。


 ------◇◇◇------


 そうとなれば、早速設計。

 タンクは、便槽などに使われている古代コンクリート製にしてみよう。

 アレなら丈夫だし、施工の様子を見れば、製法の秘密が解るかもしれない。

 前に製法を教えてもらおうと職人を訪ねたのだが、断られてしまったのだ。

 大きさは2.5立方メートル、厚みは30cmとしてみた。

 なにせ、こんなの作ったことが無いからな。

 こいつを2基作る予定だが、使えるかどうかも解らんのにイキナリ2基はどうかとも思うんだが、まあ失敗しても何か使い道があるだろう。


 設計は終わったので、古代コンクリートを扱っている左官職人を訪ねて図面をみせるが、普通より壁の厚みがかなりあるが、問題なく施工できると言うので、早速仕事をお願いした。

 料金は前払いで、2基で金貨4枚(80万円)也。

 もう金はあるので、自腹だ。

 自分で払えば、殿下に気兼ねをしないで済むし、成功するかどうか解らんものに金を突っ込むのも、自分の金なら気が楽だ。


 左官職人達は、こんなデカイ便槽を作ったりしたことがないというが、そりゃ、これは便槽じゃなくてタンクだからな。

 

 工事が始まって、コンクリートはどうやって作るのかな~と見学するつもりだったのだが。

 現場の周囲に、布製のテントを張られてしまい、目隠しをされてしまった。


「真学師様に見せたりしたら、もっと良い物を作られてしまい、ウチ等が飯を食えなくなってしまいますだ」

「でも、真学師様が作ったネコ車は、ありがたく使わせていただいてますだ」

「こりゃ、便利だべぇ。 なぁ」

「んだんだ」


 ――と、言われては引き下がるしかない。

 残念無念。


 工事は3週間程で完了したが、養生に1ヶ月程かかるという。

 魔法で強制養生させようとも思ったが、せっかく作ってもらったのに、失敗してひび割れとか起こすと元の木阿弥なので、自然に任せることにした。

 完成したタンクは埋没式で、50cm程地面から出ている。

 タンク上面には直径50cmのハッチとガスを引き出す鉄管が伸び、一応、安全のためにスプリング式の安全弁を2箇所付け、内部の圧力が高まると開く仕掛けになっている。

 ハッチの蓋はどうしようかと思ったが、単純に鉄板にゴムパッキンを付けて重石で押さえる事にした。

 なにか不具合が出たら他の方法を考えよう。


 ------◇◇◇------


 タンクの養生に1ヶ月掛かるというので、ガスを使うために必要な他の備品を作る。

 まずはガス管。

 最初は加工が簡単な銅を使おうとしたが、元世界のガス管は全部鉄だったなぁと思い直し、鉄管に変更した。

 元世界なら、規格品のガス管が売っているが、ここにはそんなものは売っていないので、自作するしかない。

 鉄の棒に鉄板を巻きつけ、叩いてパイプに整形していく。

 フローが来て、炉を使わなくても簡単に鉄を加熱出来るようになったのが大きい。

 多少凸凹なのも気にしないが、あまり薄い所が出来ると破裂したりするかもしれないので注意して作る。

 接続する部分は別に作って、旋盤でネジを切り、最後にパイプに溶接する。


 パイプを作っていると、近くにいるフローが暇なのか話しかけてくる。


「今度は何を作るっすか?」

「燃える気体を作って、火を簡単に使えるようにしようかと思ってな」

「ふ~ん、ショウはなんでも作るっすね」

「お前みたいなエルフ原理主義じゃ、文明の力は禁忌だろ?」

「そんな事ないっすよ。 便利な方が良いに決まってるっす」

「森と共に生きるようなエルフ本来の暮らしをするのが、原理主義なんじゃないのか?」

「森と共に生きて、便利な物も使えば良いっす」

 なんだ、いい加減なもんだな。 原理主義者なんて言うから、もっと戒律に縛られている連中を想像しがちだが……。


「あ~もう、ステラ様は相手にしてくれないし、ショウに乗り換えよっかな?」

「よせ」

「そんな恥ずかしがる事ないっすよ?」

「やめろ」


 こんな調子で延々と話しかけてくるので、少々ウザいのだが、別にステラさんみたいに悪さをするわけではないから、話半分でスルーしている。

 配管の出口は、工房へ一箇所と、台所に一箇所。 そこからはゴム管を使って引き回す。

 まあ、こんなもんだろ。


 つづいて、コンロ。

 コンロの仕組みは簡単だ。 バーナー部分に沢山小孔が開いていて、そこから吹き出すガスに引火する。

 元世界の市販コンロは、点火装置がついていたが……。

 魔石からの起電力をコイルで高電圧化させて、電極から火花を飛ばせば良いとは思うが、そこまでは要らないな。

 魔法で火を付けられるし。 火打ち石もある。

 五徳はファーレーンにも売っているので、それに自作のバーナーに取り付けて、コンロは完成。

 バーナー部分は、贅沢にイリジウムにしたが、贅沢だと思ってるのは、俺だけだけどな。


 後は、バルブだな。


 俺が知っているバルブの構造は、円筒に穴が開いていて、ソレが回転することで流量を制御出来るものだ。

 親父が使っていたコンプレッサーのバルブが故障して、分解した時にそのバルブを見たのだが、同じ気体だし同様の物を作れば問題無いはず。

 

 配管して、バルブとセットして、その先はゴム管。

 これでいいだろう。 後は、タンクのコンクリートが養生するのをまって、タンクに家畜の糞を入れるだけ。


 上手くできたらの御慰おなぐさみ。

 なんか、やたらウ○コの話しばっかりしているような気がするが、気のせいだ。


 ------◇◇◇------


 コンクリの養生にまだ時間があるので、遊び道具としてトランプを作ってみた。

 紙をいて、同じ大きさに揃えてカット。 そして札柄は鉛で判子を作って押捺おうなつ

 最初は木の判子だったが、すぐに潰れてしまったので、鉛に置き換えた。


 トランプの絵札は木版で作ったが、それを刷りながら思う。

 これって印刷だよなぁ。

 紙も普及してきたみたいだし、印刷とか考えてもいい頃かもしれない。


 マークは元世界と同じハート、ダイヤ、クローバ、スペードの4種類だが、絵札は騎士、女王、王としてみた。

 ジョーカーの概念は無いので、悪魔カードを作る。

 しかし、紙だけではペラペラなので、元世界のトランプに似せるのに頭をひねる。

 木札にしたり、薄い木を紙でくるんだりしても良いのだが、素材に詳しいステラさんに聞いたところ、甲虫の羽が良いのでは? ――という助言を貰って、それを使うことに。


 森の奥に行くと、元世界のカブトムシよりかなりデカイ甲虫が色々といるので、そいつを捕まえて前羽をゲット。

 熱を加えて平に伸ばし、薄く削る。 そして、正方形に切り出しパッチワークのようにトランプの背面に貼り付けると一枚完成だ。

 完成させるのに、50匹程の甲虫を犠牲にしてしまった。

 

 南無――。


 トランプの絵札の仕上げをしていたら、ステラさんがやってきた。

 

「何やってるのっと?」

「遊びで使う絵札を作っていたんですよ」

「ははぁ、聞きに来たのは、これを作るためかぁ」

 ステラさんがトランプを手にとって、裏と表を確認している。

 

 このトランプ、自分でも中々良い出来だと思うのだが、よくよく見ると甲虫の羽の色合いが微妙に違う――このため、記憶力の良い人ならカードを覚えられてしまうかも。

 

「これに使った甲虫はどうしたの?」

「前羽取って捨ててきてしまいましたけど。 大きいのだけ、数匹残ってますよ」

「これ、結構美味しいのに」

「え? 食えるんですか?」

 

 俺が、甲虫を持ってくると、ステラさんが説明をしてくれた。


「こうやって脚を取ると、根本に肉が付いてくるじゃん。 これが美味しいんだょ」

 ステラさんが、その甲虫の脚を魔法で加熱して、口に入れる。

 俺も真似してやってみたが――。


 シーチキンじゃん!


 うわぁ、味がまんまシーチキンだよ、コレ。

 この味を見つけたんじゃ、調理するしかねぇ。

 急遽トランプは放置して、可哀相だが甲虫の脚を全部もぎ取り、肉を削ぎ落として加熱する。

 卵、リンゴ酢、昆布だし、油をフードプロセッサーで混ぜてマヨネーズを作り、野菜を刻んで加熱した肉とえる。


「ステラさん、はいこれ」

「どれどれ――うまっ。 美味しいね!」

 ステラさんがシーチキンモドキサラダに舌鼓を打つ。

 

「う~む、これは美味いなぁ」

 

 ああ、これで米があれば、シーチキンおにぎりが出来るのに……。

 麦粟飯で作ってみようかな。 などと、俺が郷愁の味に浸っていると――。


「ショウ! 酒!」

「ええ? 昼間から? あ! そうだ、倉庫の結界をかけ直してもらわないと!」

「なんだよぉ ケチ!」

「新しい酒造所から、酒が出始めたじゃありませんか。 ソレを買ったらどうです?」

「あんなの、ショウが造った酒に比べたら、馬の小便だよぉ」

「馬の小便とか言わないでください。 酒を1本出しますから」

「ホント! ありがとうぉ」

 ステラさんが抱きついてキスしてこようとするのを、全力で拒否する。


 このシーチキンモドキサラダ、美味いけど師匠は嫌がるだろうなぁ。

 どうも植物系のゲテモノは平気みたいだけど、動物系はダメみたいだし。

 最近は無理に食べさせることもしていない。


 在庫の酒をステラさんに大分飲まれてしまったので、新たに仕込んだり、師匠に新たな結界を倉庫に掛けてもらったり。

 そんな日々を過ごしていると、コンクリの養生期間の1ヶ月が過ぎた。


 ------◇◇◇------


「さて、始めるか」

 タンクに家畜の糞を入れるのだが、苦情が来ないように夜中に決行することにした。

 運搬する業者には、多めに金を渡してある。

 巨大な魔石の原石を外に運び出し、電灯のバッテリーとして使えるようにして、夜間作業にも抜かりがないようにした。

 うっすらと魔石電灯がタンクを灯していると、裏門を通り運搬業者がやって来た。


「悪いな、こんな夜中に運ばせてしまって」

「いえいえ、金さえ貰えば問題ねぇですよ。 それに、夜中に運ぶのは結構ありますし」

「そうなのか」

「こんなの運んで、真昼の大通りとか歩けねぇでしょ。 それにしてもここは明るいべな、これって魔法ですか?」

 業者の若い男は、電灯を見て少々驚いている。

 元世界の電灯に比べればかなり暗いのだが、蝋燭ろうそくの灯りと比べればかなり明るいのだ。


「まあ、魔法みたいなもんだ。 じゃあ、この口から中に入れてくれ」

 俺がタンクのハッチを指さす。

 

「え? 糞をまた便槽に戻すんですか?」

「まあ、理由があってな。 よろしく頼むぜ」

 説明しても解らんだろうから、俺は苦笑いをするしかない。

 

 業者はネコ車を使ってタンクに糞を入れはじめた。

 ここでも、ネコ車が大活躍しているが、この業者が使っているのは金属製だ。


「金属製のネコ車は造ってないと思ったが」

「これ、特注ですよ。 木製じゃ、糞尿ですぐに腐っちまうんで、あつらえです」

 若い男が笑いながら言う。

 

「俺も最初は金属製にしようと思ってたが、高価になってしまうからと、木製にしたんだよ」

「そうです、木製の4倍の金が掛かってんですよ」

 それでも腐らないなら、4倍の価値はあるだろう。


 そんな話をしているうちに、糞の投入は完了した。 タンクには2/3ほどの糞尿が詰まっている。

 業者には礼を言って少しチップを持たせたが、成功すればちょくちょく来てもらう事になるからな。


 さて、金属製ハッチの蓋を閉めて、上に重石を載せる。

 糞尿を閉じ込めて、酸素が無い状態で発酵させると、メタンガスが発生するらしいが……。


「とりあえず、やってみるか」


 盛大に発酵させても、使いきれなくなってしまうので、様子を見ながら徐々に魔法で発酵させる。

 魔法を使うのは最初だけで、あとは自然発酵に任せていいだろう。


 台所に戻り、ガスのバルブを開けてみる。

 小枝に火を付けて、近づけてみるが、反応無し……。


 ――失敗か?


 と思っていたら――ボッ! という音と共に青白い火がついた。

 圧力があまり高くないので、あまり火力は無いようだが、確かに燃えている。


「やったぜ!」

 昇○拳を3連発。 くるくる回っていたら脚を滑らせぶっ倒れ、頭をテーブルにぶつける。

 一応火がついたし、夜も遅くなってしまったので、ぶつけた頭を抱えながらこのまま寝ることにした。

 一晩発酵が進めば、もう少し圧力があがって火の勢いも増すだろう。


 ------◇◇◇------


 次の日――。

 朝、起きて一番にコンロに火を入れてみる。

 点火すると、昨夜よりかなり火の勢いが良い。 これなら、十分に料理に使える。

 もっと火力が欲しかったら、魔法を併用すればいいのだ。


 早速、朝飯のゆでたまごと玉子焼きを作る。

 ウチの玉子焼きは甘いのだが、これは地方によるらしい。 ここには砂糖はないので、水飴を使っているが。

 ちなみに、サッカリンを使うと焦げ付かずに綺麗に仕上がる。

 まあ、わざわざサッカリン使う奴はいないとは思うが。

 サッカリンの発がん性が――みたいな話もあるが、ありゃデマだ。

 同時期に売っていたチクロがやばかっただけで、サッカリンがあおり食った格好なのだが、今も普通に売ってるし。

 しかし、魔法よりコンロで作った方が美味い気がするな。 やっぱり、赤外線とかの関係か。

 そして、コンロよりかまどで作った方が美味いが、魔法だと電子レンジで温めるようなものだからな。


 朝飯を食っていると、師匠達がやって来たのだが、コンロを見て――。

 

「そんなのわざわざ作ったの? 魔法で良いじゃん」

 ――で終了。

 評価はイマイチだった。 う~ん、結構凄いと思うんだがなぁ。

 

 殿下にも見せて評価上々だったのだが、脇に作られた巨大なタンクと貯められた糞尿を見て、唖然。

 どうも、殿下はコンロだけで火が出る発明だと思ったらしい。

 そりゃ、コンロだけでガスも無く火が出れば凄いよ。 元世界でも大発明だろう。

 工作師親方ラジルさんもやってきて色々と構造等を調べてたが、あまりの設備の大きさに、渋い顔だ。


「金持ちの屋敷なら、家畜も飼ってるでしょうから、糞尿を再利用できて便利だと思うんですけどね」

「それは解りますが、これはちょっと扱いが難しそうですなぁ」

 タンクに糞尿を入れる作業、そして、発酵が終わったブツを取り出す作業をしなければならない。

 それについては一応、考えてはいるのだが。


 殿下と工作師の意見を統合すると、買えるのは金持ちだし、火を使うのは裏方なので、そんな所に金を使っても見栄を張れないから売れないんじゃないか?

 ――ということらしい。

 

 う~む。


 売るのは置いといても、コンロだけじゃガスを使い切れないな。

 他に何か利用出来るものは……。

 バーナーも考えたのだが、フローが来て魔法を使い自在に加熱が出来るようになって、困らなくなってるし。

 細工師なんかは、バーナー欲しいだろうけど、ちょっと設置場所が――細工師の工房は、城壁内部の部屋にあるからな。

 元世界のボンベバーナーとかなら、使い道があるんだろうけど。


 ガスガスガス、ガスか~。

 瞬間湯沸器? まあ、魔法があるしなぁ。 あれば便利そうな気もするが……。

 ガスストーブ? ここはストーブ使う程寒くならないし……。


 う~む。


 お! ガス灯はどうだ?

 ガス灯なんて、見たことはないが、昔は結構使われてたとか教科書か何かに書いてあったような。

 銀座に初めてのガス灯が~とか。

 何かで見たが、ガス灯はガスの炎ではなくて、何かを加熱して光を出してた――そう、マントルがどうのこうのと。


 鉄を加熱するとオレンジ色の光が出るが、あんな感じか? 鉄だとあまり加熱すると溶けるかもしれないな。

 熱に強いと言えば。

 

 プラチナかイリジウム。


 いや、どっちも勿体無いな。 もう少し、安価で――。

 骨粉はどうだ? やってみるか。


 骨粉は粉なので、そのままガスでは加熱は出来ない。 何か入れるものを作らなくては。

 熱に強い、白金プラチナで、白金糸を作り籠を編み、その中へ骨粉を入れる。

 とりあえず完成したので、コンロであぶってみると、オレンジ色の光が灯り辺りを照らす。

 もっと火力を上げれば、いけそうだな。


 真鍮でバーナー部分を作り、フローを呼んでガラスカバーを作る。

 フローがいれば、魔法でガラスも簡単に溶かせるようになったので、ガラスの加工も自在になった。

 真鍮でフレームを作り、骨粉の入った白金糸のかごを吊り下げ、ソレをバーナーであぶる構造にした。

 ベッドの上方に横たわってるはりにガス灯を固定して、ガスの配管を行い、点火試験も問題なし。

 火を入れると、オレンジ色の光が明明あかあかと輝くが、魔法で補助すると、さらに輝きが増す――。

 それでも、灯油ランプや魔石電灯より明るいのだが。

 

 う~ん。 こりゃ、火力不足かな。


 鉄板を3本ローラーで丸めて溶接、小さいボンベを作り、そこに一旦ガスを貯めてみることにした。

 ピストン式の圧縮機をでっち上げて、モーターに繋ぐ。 ピストン式って要は自転車の空気入れだけど。

 上手くいったら、もっと大きいタンクや高性能の圧縮機を作ってもいい。

 しばらくタンクに充填した後に、ガス灯を灯してみると――。


 うほ、かなり明るくなった。


 元世界の100W白熱球ぐらいの明るさで、夜でも十分に本が読めるぐらいあかるい。

 もっと明るくしたいなら、もう1つ反対側にも付ければ良いが、このぐらいの明るさで十分だろう。


 俺の部屋が、以前に増して夜に明るくなってしまったので、益々溜まり場になってしまった。

 まあ、師匠は本を読んで、ステラさんは酒を飲んでるだけなんだけど。

 騒ぐと師匠が怒るのでステラさんも静かなのだが、酔っ払うと絡み酒なので普段に増してウザい。

 師匠達も、ガス灯を各部屋に付けてほしいと言っているのだが、ガス管を引っ張るのはちょっと大変だな。

 ボンベに詰めて、運べばなんとかなるかなぁ

 大体、ステラさんは高価な蛍石フローライトを持ってるんだから、それを使えば良いのに――と思う。


 発酵の終わったタンクはどうするのか?

 もう一つのタンクの中に糞尿をいれてガスを取り、終わったタンクにはワームを入れて、浄化。

 すべて分解されて水になったら、小川へ流して最初に戻る。

 なんという、完璧パーペキなリサイクル。


 ガスコンロにイマイチな反応だった殿下も、ガス灯の明るさに感激。

 金持ちの家に煌々(こうこう)と灯る灯りがあれば、さぞかし金持ちの虚栄心をくすぐるだろうと、すぐに外で実験を始めたのだが――。


 一晩でガス灯の周りが虫だらけになって頓挫とんざした。


 特に、灯りに向かって飛んでくる突撃虫と呼ばれる大型の甲虫は非常に危険で、まれに犠牲者が出る事もある。

 目標を見つけると、超加速をして突撃してくる事から、その名前が付いているのだが――。

 こんなのが家に突撃されたら窓が割れるだろうし、もしかしたら、薄い壁なら貫通するかもしれん。

 俺の工房は高い城壁の内側にあり、灯りが虫から見えないので、今まで襲撃を受けてないだけだったようだ。


 まあ、俺の実家も夏の夜は虫だらけだったしなぁ。


 魔石電灯を売った際に、そんな話は聞いたことがなかったのだが、単に電球が暗いから、虫の反応が悪かっただけなのか。

 それとも場所によるのか? 確かにファーレーンは森に近いから、虫も多い。

 タングステンフィラメント球や、蛍光灯がこの世界で実用化されたら、虫の襲撃に悩まされるのに違いない。


 それでは、お城の上で爛々(らんらん)と輝いている蛍石フローライトはどうなのか?

 聞いてみたが、あの青白い光には虫は寄ってこないのだそうだ。



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