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異世界で目指せ発明王(笑)  作者: 朝倉一二三
異世界へやって来た?!編

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72話 荒野の真学師マカロニ風味を添えて

 

 荒野で帝国からやって来た大貴族達と一騎打ちをすることになっていたのだが、やって来たのは1個小隊規模。

 やっぱりというか、最初からそんなつもりもない貴族達と決戦になってしまった。

 公爵閣下が連れていた息子の1人が、先手を打って突っ込んできたので落馬させて、仕留めた――というか自爆させたのだが。 


「********~!」

 公爵閣下が何かを叫んだ。 

 

 聞き取れなかったが、叫んだのは多分目の前で動かなくなった息子の名前だろう。


「あの見習いを殺せぇぇぇ!! 取り囲んでなぶり殺しにして、やつの首級しゅきゅうを上げろ!」

 怒り狂った男の怒号が飛ぶ。

 

 戦闘が確定的になったので、魔導師の位置を確認する。 部隊の右端、数は1人だ。

 もしかして、他にも林に潜んでいるかもしれないが、今は確認できない。

 一斉に、敵が向かってくるのと同時に、右端にいた魔導師も詠唱に入ったようだ。

 

 俺はそれに構わず背中のリンを確認すると、目の前の空間を減圧し真空を作り出すと、間髪容れず解放させた。

 創りだされた真空が魔法の干渉を失い、唸る大気が超音速で虚無に流れ込み、そして中心で跳ね返る。

 結果、暴力的な衝撃波が同心円状に発生し、周囲を薙ぎ払う。

 俺の目の前まで迫っていた敵は、軍馬ごと発生した衝撃波で吹き飛ばされた。

 今までは、単なる自爆技でしかなかったが、防御に使える腕輪を手に入れて、強力な攻撃方法に転化されたのだ。

 

 衝撃波で薙ぎ払われた敵は、落馬をし、鼻や耳から血を流しながらうごめいている。

 俺も自爆をしてこいつを食らった時は、しばらく動けなかったからな。

 

 敵の有り様を確認すると、鞄からスリングショットを取り出し、起き上がろうとしている魔導師へ狙いを定める。

 ここなら流れ弾を心配することもない。

 俺の手から兜割かぶとわりと呼ばれる菱型の弾丸が放たれる。 魔法によって質量を干渉され、威力を増したソレはいとも容易く魔導師の頭蓋を貫通する。


 鎧を着込んだ傭兵にも弾を撃ってみたが、角度が悪いのか弾かれてしまった。

 多分、垂直に当たれば鎧も貫通するだろうが、ちょっとアーマーには分が悪い。


 俺の武器を見た、敵の傭兵らしき連中はかぶとを被っていない貴族たちの盾になり始めた。

 くそ、スリングショットで頭をぶち抜いてやろうと思ったが、高い金で集めたのか結構良い傭兵が揃っているようだ。

 未だに転がってる若い連中は、公爵一族の立派な鎧にはちょいと劣るが、それなりの装備を着込んでいる。

 彼等はおそらく貴族の子息達だろう。


 ちょろい相手――とか聞かされて物見遊山でやって来たのに違いない。


 俺はスリングショットを諦め、竹槍剣を右腰から抜くと、重量軽減の魔法を使い飛んで敵に反時計回りで回り込む。

 林を背にすると、林に潜んだ敵から挟撃される可能性があるが、林の中に獣人達の姿がチラチラと見える。

 すでに獣人達が回り込んでくれているようだ。 これで安心して攻撃に専念出来る。


「ぬおおおおっ!」


 多分、手練の傭兵だろう。

 俺の衝撃波攻撃から素早く立ち直ったらしく、攻撃を仕掛けてきた。

 両手剣を振りかざして突進してくる騎士を、重量増大の魔法で押さえ込むと、騎士は膝をついて地面に固定された。

 俺は竹槍剣の切っ先に圧縮弾を作って装填すると、膝をついている騎士に突き立てた。

 狙う場所は、脇。 どんな鎧でもここが弱点だ。

 鎖帷子くさりかたびらを着込んではいるが、鎖帷子は切る攻撃には強くても、突き刺す攻撃には弱い。

 男に送り込まれた圧縮弾を容赦無く解放すると、鎧の中で行き場を無くした圧力が、文字通りの爆裂を起こし肉片を飛散させる。

 数十メートルに渡って吹き飛ばされた肉片が雨のように降り注ぎ、若い連中の闘志を完全に削いだ。

 俺の腕輪が血糊を球形に切り抜き、貴族の子息達と思われる連中に近づいていくと、なかばパニック状態になり遁走とんそうを始めた。


 だが、すでに後方には獣人達が回り込んでいて難なく捕獲される。

 獣人達のスピードとスタミナから、普通の人間では逃れることはできない。

 耳も鼻も利く彼等に、あっさりと捕まり餌食になるしかないのだ。


「貴族は殺すなよ!」

 俺が獣人達に注意をうながす。

 

「へっへ、わかってまさぁ」

「林の中に伏兵は何人いた?」

「こちらには弓兵が4人で」


 反対側の林からやって来た獣人も指を4本立てている。

「合計8人か、結構つれてきたな」


 小競り合いをしているうちにニニが指揮している本隊も到着した。


「獣人だと! 神聖な戦いの場にこんなけだものを連れてくるとは! この卑怯者が!」

 その言葉を聞いた俺は、公爵閣下の鼻っ柱に圧縮弾を炸裂させた。

「ぐわぁぁぁ!」


 鼻を押さえて悶える、公爵閣下を後目にニニが呆れたように言う。

「この貴族様は何を仰ってるんで?」

アマテラスに選ばれた存在である我らの決めた計画通りにお前等が負けないのは、卑怯だと言ってるのさ」

「あははは! 戦場に貴族も農民もアマテラス様も関係ないわさ、強い奴が勝って、弱い奴が負ける。 ただそれだけのこと、死体になれば皆同じさ」


 さすが、歴戦の勇士、ニニが言うと説得力があるなぁ。


「さぁさ! いっぺん足を洗った鋼鉄のニニが戦場に舞い戻ってきたんだ、楽しませてくれる男はいないのかい!」

 ニニの口上に、1人の戦士が呼応した。


それがしが、うけたまわろう。 つまらぬ戦場だと諦めていたが、楽しめそうではないか、今日は死ぬのに良い日だ! 鋭!!」

「応!」


 男が巨剣を振り回し、右強打者の如くフルスイングをしてくると、剣の柄をニニは足の裏で受け止めた。

 ニニは、そのまま男の剣を踏みつけジャンプすると、時計回りにくるりと回転して後ろ回し蹴り(ローリングソバット)を男の側頭部へ叩き込んだ。

 いくらアーマーで頭部を保護されているとはいえ、衝撃は内部まで伝わる。

 金属性のボウルに豆腐を入れて、ボウルに衝撃を加えれば豆腐は崩れるわけで、獣人の蹴りを食らってタダでは済まない。


 俺が、驚いたのはその後だ。

 ニニは、日本の古流武術(こりゅう)にあるような両手を使っての重ね当てを見せたのだ。

 多分、数多あまたの戦場で戦ううちに身につけたのだろうが、これが天賦てんぷの才ってやつか。

 ニニが使えるってことは、娘のニムも使えるんだろうな。


 獣人の本隊が来た事で雌雄は決し、降伏した傭兵と貴族の子息達は捕虜になった。

 そして、残るのは公爵閣下とその息子2人だけである。


「た、助けてくれ! 金なら払う!」

 尻もちをついている公爵の息子が、両手を差し出して止めるように懇願してくる。

 

「最初にリンに金を払っておけば、こんな事にならなかったのにな」

 俺は左腰から脇差しを抜いて振り上げた。

 

 首を狙いたいが、ネックガードがあるために、狙うのは頭か喉を突くしか無い。


「俺が悪いんじゃない! 全部親父がぁ!」

「いまさら泣き言が利くはずないだろ」

 

 俺は、その男の頭部に脇差しを振り下ろすと、白い線が走り男の頭部が裂ける。

 裂け目から血が流れ出ると、男はその血をぬぐい声にならない嗚咽を漏らし絶命した。


「うわぁぁぁぁ!」

 最後に残った公爵閣下の息子が、脱兎の如く逃げ出したが、後ろに居た獣人に捕まり、地面へたたきつけられる。

 

「そいつは殺してもいいぞ」

「ホントですかい! へへ」

 カエルのように地面にへばりついた男に、獣人が舌なめずりをしながら近づく。

 

「や、止めろ! 金なら払う! が、ぎゃぁ! はぐぅ!」

 いくら敵とはいえ、リンチを見るのは気分が良い物ではない。

 そのまま構わず、公爵閣下のもとへ向かった。


「どうでしょう、公爵閣下。 見習いにボコボコにされた感想は? 今どんなお気持ちでしょうか?」

「ぎぎぎ……。 くそ! この悪魔め。 私にこんな事をしてどうなるか解っているのか?」

 へたり込んでいる公爵閣下がこの期に及んで強がりを言ってるが、自分の立場が解ってないのだろうか。


「どうもならないでしょう。 今回のコレはあくまで私闘けんかですから。 どうにかなっても、受けて立つだけです。 さて、とどめを刺すのが戦の作法ならば、覚悟していただきましょう」

「ま、待て。 話せば解る!」

「問答無用!」


 公爵閣下が差し出したてのひらへ脇差しを水平に払うと、閣下の指が飛ぶ。


「ひゃぁぁぁ!」


 己の指が無くなった事に驚嘆して、四つん這いになって悲鳴を上げている公爵閣下の後頭部に、俺は躊躇ちゅうちょなく脇差しを振り下ろした。


 ------◇◇◇------ 


「片付いたか……」

 俺は戦場を見渡す。

 

 首級しゅきゅうは4つ。 捕虜は貴族が11人と傭兵が3人。 死体は数えてないが15前後だろ。

 林の中には8人という話だったか。


 捕虜の傭兵は、装備と金を取り上げて、即時解放。 どうせ金で雇われた奴らだし、恨みもない。

 金次第で敵にも味方にもなる連中だ。


 とりあえず、戦利品を回収する。

 魔導師からは魔石が5個。 俺が仕留めた、公爵と息子2人の金と剣を回収した。

 剣も改めてみると、金や石が埋め込まれて、下品な装飾が施されている。

 金は多分金貨で100枚ぐらいだろう。

 そんな追い剥ぎ行為をしていると、リンがやってきて、呆然と自分の父親と兄弟の死体を見ている。

 ブロンドの髪と、メイドの服のスカートを風に揺らし、じっと死体を見てたたずむ彼女の心中は計り知れないが、一応声を掛ける。

 

「おい、リン。 お前は殿下の物だから、勝手に死んだりは許されんのだぞ」

「解っています。 我が母と、私の仇を討っていただき、ありがとうございます」

「別にお前のためにやったことじゃない。 ただの私闘けんかだからな」

「はい……」

「お前は罪を償いたいと言っていたが、それなら仕事を覚えて殿下とファーレーンの為に尽くせ」

「承知いたしました……」


 剣と金は回収したが、後は興味はないので、獣人達に声を掛ける。

「軍馬はお城で使うから貰うが、後はお前らの好きにしていいぞ」

「えぇ! ホントですかい!」

「ああ、この鎧なんて、これだけで多分金貨数百枚だぞ」

 俺は、公爵のゴテゴテ飾りの付いて下品な鎧を指差した。

 

「全くねぇ、こんな鎧着て祭りの仮装にでも出るつもりだったんですかねぇ」

 ニニが鎧を見てつぶやく。

 

「真学師様、こいつはどうするんで?」

 すでに死体になっているが、後ろに逃げようとした、公爵の息子だ。

 

「それは、お前にやるよ。 首だけは回収するが」

「マジですかい!」

「わはは! お前、そんなに鎧ボコボコにして、勿体ねぇ」

「ああ! なんだよ~、失敗したわ。 貰えるなら、もっと優しくしてやったのに」

 そんな事を言いながら、獣人達がゲラゲラ笑っている。


 俺も笑っている。

 実にほのぼのして、皆和気藹々(わきあいあい)だ。

 死体がゴロゴロ転がっている、殺戮の現場で正直いかがなものかと思う。

 元世界の常識では異常とも言える光景だが、この世界では当たり前――俺もすっかりと、異世界ナイズされてしまったようで、何も感じない。


 そんな俺を、別の俺が離れた所から冷ややかな目で見ている――そんな奇妙な感覚に襲われて戸惑っていると、ニニが樽を運んできた。


 ニニに聞くと、首を入れる樽だという。

 さすが、ベテランの傭兵だ。 戦後いくさごの用意も万端だった。

 樽の中には塩が入っていて、これで首を塩漬けにして運ぶのだと言う。

 

 なるほどな。

 そんな事まで考えてなかったわ。 俺は冷却の魔法が使えるから、多分氷漬けにしていたと思う。

 使える軍馬も回収したが、いい馬ばかりだからな、良い戦果になったはず。

 鹵獲ろかく品を馬車に積み、11人に及ぶ貴族の捕虜を引き連れて、ファーレーンに凱旋がいせんする。

 途中、捕虜の貴族達が、捕虜の扱いが~とか料理が~とか、ツマラン事を言い出したので、獣人達に可愛がってもらうと静かになった。

 まったく、自分達の立場を理解していないのが、帝国貴族らしい。


 ミルーナのいる伯爵領でリンを降ろすため、ミルーナと伯爵領に出向中のルミネスの出迎えを受ける。

 

「ショウ様、ご勝利おめでとうございます」

 ミルーナの後ろにルミネスが控えている。

 

「勝利って、タダの喧嘩だからなぁ」

「いいえ、帝国貴族を捕虜にしたのでしょう? 大変な戦果ですよ」

「そうなのか。 リンを置いていくから、また面倒見てやってくれ」

「おまかせくださいませ」

 

 リンと一緒に馬を降り、ルミネスを呼び寄せて、ひそひそ話をする。

 

「ルミネス、リンを頼む。 アイツの親兄弟を目の前でぶっ殺してしまったからなぁ。 気に掛けてやってくれ」

「はい、承知いたしました。 あの……、ニムはちゃんと仕事してますでしょうか?」

「ああ、大丈夫だ。 アイツなりに頑張ってるぞ」

  

 そんな話をしていると、フィラーゼ伯爵に捕まり泣きつかれる。

 実は、行く時にも捕まったのだが、伯爵様は俺と一緒に戦いたかったらしい。

 今回は、あくまで俺の私闘けんかなので、ファーレーンの貴族や騎士団が出ると拙いと説得したのだが、やはり未練が大きかったようで、延々と恨み節を聞かされてしまった。


 そんな伯爵領を後にして、一路ファーレーン城下町プライムへ。

 街には一足早く獣人の先遣が到着していて、今回の戦果が広められていた。

 城下町プライムへの橋を渡ると、道路に溢れて歓声を上げる人々でごった返している。

 

 なんで、こんな大騒ぎになるんだ――と思ったが。


 原因は、捕虜になった帝国貴族らしい。

 通常、帝国貴族がこんな沢山捕虜になることは無い。

 なぜなら、帝国貴族と言えば、戦場でも最前線には傭兵や獣人や農民を送り込んで、自分達は後方で酒を飲み肉を食い、女を抱く。

 ファーレーンのフィラーゼ伯爵みたいに、前線に立ってガチで騎士三昧――そんな奴らは皆無で、自ら戦うことなど殆ど無い。

 そんな帝国貴族を11人も捕虜としたのが、非常に珍しいようだ。

 

 人でごった返してる道を馬に乗りながらお城を目指すが、馬に乗っているのは俺だけで、獣人達は皆、馬から降りて歩いている。

 コレが儀礼だという。 身分の低い者はこういう場面で馬上にいることが許されていないらしい。

 当然、捕虜になった貴族達も歩かされている。

 

「ショウ様~!」

 声を掛けてきたのは、マリアと孤児院の子供達だ。

 

 馬上から子供達に手を振っていると、ニムが走ってきた。

「ショウ様! 母ちゃん! ウチも行きたかったにゃ! にゃ~!」

 なんだが、悔しがってはいるが、お前には殿下をお守りする護衛の仕事があるだろう。

 仕事をほっぽり出して、一緒にやって来そうな気配だったので、出る前に釘を刺しておいたのだ。

 ルミネスも心配していたが、気をつけないと無鉄砲な事をやりかねない。


 ニムの話を聞いていると、馬に誰かが飛び乗ってきて、そいつは――「いぇ~っす!」

  群衆に向かってアピールを始めた。

  

「フロー! お前は関係ないだろ」

 誰かと思ったらフローだった。

 

「何て事言うっすか。 もうあたしとショウは一心同体っすよ」

「いつの間にそんな事になったんだよ」

「あたしの〇〇〇見たじゃないっすか」

「お前が勝手に見せたんだろうが!」

 

 そんなアホな会話を馬の上でしていると、お城の前に白と黒のローブが立っている。

 師匠とステラさんだ。

 ステラさんは手を振っているが、師匠は――多分怒っているのかなぁ。

 深く被ったローブの奥、その表情は解らない。


 人混みを抜け、やっとお城に到着して、殿下に報告に行く。

 ニニとニムには、戦利品の配分と鹵獲ろかくした軍馬を厩舎へ駒留めしてもらう。


 ------◇◇◇------


 報告を受けた殿下は狂喜乱舞だ。


「なん……だと」

「ですから、貴族の捕虜が11人です」

「真なのか?」

「もちろんです。 それと、公爵一族の首が4つ。 たっぷり金が取れますね」

「取れるに決まってるだろう! あははは!」


 殿下は、その場でクルクルと両手を広げて踊りだして、勢い余って指を机の角で強打してうずくまった。


「ふぐぐぐ……」

「大丈夫ですか?」

「はぐ……この悪魔め」

「私のせいですか?」

「其方のせいに決まっているだろう!」

 そんな理不尽な事を仰る殿下を見ると、泣きながら笑っていた。

 

 早速、帝国との捕虜に対する身代金の折衝せっしょうが行われる。 もちろん、仲介はステラさんだ。

 ステラさんは、捕虜にした11人を全部知っていたらしい。

 

 マジで顔が広いなこの人。


 捕虜になった貴族の子息達に話を聞くと、やはり公爵の息子達にたぶらかされたようだ。

 ファーレーンに調子に乗っている見習い真学師がいるから、痛めつけてやろうぜ――そんな感じだったらしい。

 そして、リンを取り戻したら貴族の息子達に好きにしていいと、言っていたという。

 元から美人のリンを狙っていた貴族もいたので、2つ返事で付いてきたら、このザマだ。


 まさしく、ざまぁぁぁ! なんだが、まったく同情の余地がないな。

 

 そんな貴族の身代金は、身分により格差はあるが、大体金貨200~300枚(4000万円~6000万円)ぐらい。

 俺は知らなかったのだが、首級しゅきゅうも金になるようだ。

 無論、無名の首などには価値は無いが、貴族の首となると別だ。

 家が金を払って買い戻さなければ、大変不名誉だと言われるので、払わざるを得ない。

 まして、貧乏貴族ではなくて帝国の大貴族なのだ。


 数ヶ月に渡る交渉の結果、ファーレーンに転がり込んだ金は、金貨4000枚に及んだ。

 金貨4000枚というと、日本円で8億円相当である。

 ファーレーンの国家予算が50億ちょっとだから、国家予算の15%前後が手に入った計算になる。

 そりゃ、殿下も狂喜乱舞するだろう。

 当然、仲介したステラさんにも1割程度の手数料が入っているので、8000万円ぐらいは手にしたようだ。


 そりゃ、金持ちになるわ。


 大金を手にした殿下。 その金をどうするのかな~?

 と見ていたら、道路工事や、河川工事などの公共事業へ入れはじめた。

 まあ、公共事業は景気浮揚策の基本だな。

 後は、ウ○コ蜘蛛の養殖をするらしい。

 え~? と思ったが、ウ○コ蜘蛛は、脚は美味いし、内臓は薬になるし、毒は麻酔に使える等々、確かに利用価値が高い。


 なるほど。 さすが殿下、目の付け所がシャー○だ。

 

 個人的には養蜂をやりたいんだが、さすがに養蜂の知識は全くないし、俺の地元でも養蜂をやっている話しなどは聞いたことがなかった。

 農林業なら、多少の知識もあるんだが。

 養蜂も、技術が確立されたのは近代に入ってかららしいからな。

 この世界のミツバチの生態もよく判らんし……う~ん、難しいか。


 この後、俺はこの戦で掛かった費用を補填してもらい、褒美としてリンの所有権を希望してソレを譲り受けた。

 別に奴隷にするとか、そういうのではない。

 リンが、ファーレーンに馴染めなくて、他の土地へ行きたい等の申し出があった時に、スムーズに事を運ぶためだ。

 ファーレーンではあまり差別等はないが、一応その時のために。

 しかし、行く場所あるのかなぁ。 母親の実家からも縁を切られたって話だったし……。


 今回の騒ぎで、俺の給金も金貨10枚になった。

 もう、師匠達と同レベルであり、これ以上は昇給しない。

 これ以上金が欲しければ、自分でバイトでもして稼いでくれって事になる。

 例えば、此の度の帝国貴族と折衝を行ったステラさんのようにだ。

 無論、特許を売ったりは出来ないので、やるとすれば魔法を使って手伝いをしたりとか、盗賊団を壊滅させたりとか、料理を売ったりとかだな。

 貴族の奥方様に出張魔法(しわ)伸ばしなんて儲かりそうだな。

 まあ、金は十分あるので、バイトをやるつもりはないのだが……。

 

 ------◇◇◇------


 主と跡取り息子達を失った帝国の公爵家だが、御家お取り潰しにでもなるかと思ったら、そうはならないらしい。

 残った正室、側室は娘達に婿養子を縁組して御家の存続を図るようだ。

 ただ、誰の婿養子が跡取りになるのか、本家別家主流傍流入り乱れて揉めに揉めて、3つ程の勢力に分かれて内戦状態になっていると聞く。

 まったくもう、双方全滅するまでやってろよって溜息しか出ない。

 貴族が全滅した後、最後に残った直系の血がリンだけだったりすれば、面白いと思うのだが、ちょっと不謹慎だろうか。


 今度は公爵の仇討ちを――みたいなループ展開になるかと心配していたのだが、この分じゃその心配はないみたいだな。

 

 そういえば、ウチの実家も相続で揉めたなぁ。

 曾祖父の土地やら田畑の相続で、親戚の間で結構揉めたのだ。

 大叔父や大叔母の兄弟姉妹だけの話し合いなら、すぐに決着が付くのだが、こういう時に問題を起こすのが、兄弟姉妹の配偶者なんだよ。

 兄弟姉妹の配偶者なんて、何の権利も無いのに口出ししてきて、かき回してグチャグチャにしてくれる。

 

 ウチの実家みたいなチンケな土地でも揉めたんだ、大貴族様の資産なら膨大な金額だろう。

 そりゃ、眼の色も変わるよな。


 俺の爺さんは、相続の揉め事のあまりのバカらしさに早々と相続放棄して、トンズラ。

 曾祖父の面倒を最後まで見てたのは、爺さんだっていうのに。

 全く、何処の世界でもやることは同じか。


 今回の件で、帝国でも公爵家への同情の声は少ないと言う。

 帝国が情報を秘匿していても、各国から噂が入ってきて、どんどん拡散するからな。

 まあ、自業自得だよな。

 

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