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異世界で目指せ発明王(笑)  作者: 朝倉一二三
異世界へやって来た?!編

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70話 心が折れちゃったら


 俺を狙ってきた刺客を壊滅させた。 1人残った女がリーダーらしい。

 気を失ったままのその女を担いでオニャンコポンにやって来た。


 女を担いでオニャンコポンに入ると女主人のニニが珍しく嫌悪の表情を見せた。

 食堂でたむろしている獣人達も、女を担いだ俺の姿を見てざわついている。


「真学師様、ここは連れ込み宿じゃないんですよ」

 皿を拭きながら言う。

 

「勘違いするな、こいつは俺を狙ってきた刺客だ」

「……何人でした?」

「こいつをいれて4人か」

「随分とお粗末ですねぇ、そんな戦力で真学師とやろうなんて」

 ニニはちょっと呆れ顔をしている。

 

「多分、他にも仲間がいたんだろうが、偶然に俺を街で見かけて突発的に仕掛けたのかもしれん」

「はぁ……素人ですか。 なんなら、あたしが吐かせてもよろしゅうございますけど」

「いや、詮議せんぎは俺がやる。 身につけているものから、貴族かもしれん」

「心当たりは?」

「帝国貴族だとすると、心当たりが多すぎてな」


 カウンターに銀貨1枚を置いてニニに言う。

「これから取り調べを行うから、誰も上に上げないでくれ」

「あいよ」


 階段の踊り場で止まり、下にたむろっている獣人達に声を掛ける。


「おい、誰か孤児院へマリアを呼びに行ってくれないか?」

 小四角銀貨(5000円)を見せる。

 

「あっしが」「いや、おれだ!」

 獣人でチケタ(ジャンケン)が始まる。

 

「やったぜ!」

 勝負が決まったようだ。

 

「それじゃ、頼んだぞ。 なるべく急いでな」

「合点で!」

 獣人が食堂の出入口から疾風の如く飛び出していく。


 それを後目に、ギシギシと床がきしむ音を立ててオニャンコポンの2階へあがり、部屋の一つに入る。

 そこはベッドと小さな机がある、簡素な部屋だ。 

 女を椅子に縛り付け、マリアの到着を待っていたが、女が途中で目を覚ましてしまった。


「はっ、ここは……」

「気がついたか、もうすぐ詮議せんぎを行うから、じっとしてろ」

「くっ、殺せ! お前などに喋ることなどない!」


 はい、くっころいただきました~。

 まさか、リアルでこの台詞を聞けるとは。

 つ~か、これじゃマジで俺が悪役みたいじゃん。

 しかし、女の金切り声がやかましくて気にさわる。


「殺せぇ~!」

 剣鉈を抜くと、バタバタと暴れる女の服を切り裂き、露わになった胸に剣筋を入れる。

 皮膚が割れ白い肉が見え、じわじわと血が溢れ滴り落ちる。

「ひぃ!」

 身体を切られた恐怖で、女の顔から血の気が失せる。

 

 マジで俺に殺されるかと思ったのだろう。


 俺が女の胸を指でなぞると、傷口が塞がり血の跡だけが残る。

 その赤い滴を指ですくい、女の鼻先へつけると――。


「そんなに死にたいなら、詮議が終わった後で、好きなだけなぶり者にしてやる。 それとも、いますぐ裸にひん剥いて、下でたむろしている獣人の中に投げ込んでやろうか?」


 女が下から聞こえてくる獣人の声に聞き耳をたてている。

「獣人のはデカいからなぁ、裂けて使いものにならなくなるかもな」

下素ゲスがぁ!」

「おいおい、俺の命を狙ったのは棚に上げるのか?」

「悪魔め!」

「はいはい、俺は悪魔ですが、何か?」

 

 俺がそう言って両手を広げると、女は下を向いて黙ってしまった。


「真学師様来ましたよ」

 下からニニの声がする。

 

 女にシーツを被せ目隠しをすると、マリアを2階にあげた。

 マリアの正体を知られたくないので、念話で話す。


 『マリア、こいつは俺を狙った刺客だ、残りの仲間の有無や名前を探ってくれ』

 『わかりました』


「おい!なにをするつもりだ……はっ、なんだこれは! なにか頭の中に! や、やめろおおっ! ひいいいっ!」

 女は何かから逃れようと必死に足掻いているが、それこそ無駄な足掻きというものだ。


 マリアの感応通信(テレパシー)を使った思考読み取りの結果が、彼女の持つ黒板プレートに書き連ねられていく。

 おおよその事が判明したので、マリアに謝礼を渡して帰そうとするが、受け取らない。

 最近は、御喜捨(きしゃ)も多いと返却をしてくるようになって、ガンとして必要な分以外は受け取らない。

 もう、見た目によらず頑固で困ってしまう。


 マリアを孤児院まで送ってくれと獣人に頼んだら、またチケタ大会が始まってしまったので、ニニに金を渡して任せてしまった。


 そして、また女と2人っきり。


 女が椅子に縛り付けられたまま、横を向いている。

「こんな恥辱を……」

「残りの刺客の仲間は4人か、こいつの名前は――リン・ゴーノウズ・ラ・フェルミスタ――?」

「な、なぜ! その名前を!」

「お前、真学師を舐めているだろう。 しかし、このナントカスターって名字は覚えがあるな……たしか、俺の客の予約リストにあったはず」

「そうだ! 母の敵!」

「だからしらねぇっての。 そういえば、ファーレーンに来る途中で、野盗に拉致られた貴族の名前にあったはず」


 野盗に拉致られ、挙句貞操を疑われて、暗殺されたとかいう話だったな。


「そうだ! 覚えたか!」

「覚えたかって、俺全然関係ねぇじゃん。 逆恨みも良いとこだろ、コレ」

「黙れ! 黙れ! この悪魔がぁ!」


 言ってることが滅茶苦茶だが、自分が正しいと思ってるやつと、間違ってると思ってるやつ。

 どちらがゴネるでしょう~ってやつだな。

 自分が多少なりとも間違っていると思ってるから、こうやって分けのわからん事を言ってゴネているんだろう。

 しかし、双方が間違っているとか、双方が嘘つきとかそういう場合はどうなるのか?

 

 その場合は、『声闘』といって、声がデカイ方が勝つらしい。


 笑っちゃうような話。

 

 それは置いて、マリアからさっき嫌な話を聞いた。

 黒板プレートには書いてないが、この女が身内(兄弟)に襲われるイメージが見えたというのだ。

 全く、異母姉妹をヤルとか畜生か。

 多分、死んだこの女の母親の身分が低いのだろう。

 寵愛ちょうあいを取り戻すために、俺の魔法施術を受けて一発逆転を狙ったか?

 とんだ不幸に襲われたな。

 その母親が死んで影響力が失われたので、慰み者になったのだと思うが、ちょっと気の毒な話ではある。

 諸々やり場の無い怒りが、俺に向けられたのか。

 それとも、俺を討つ事によって、影響力を取り戻そうとしたのか。

 どちらにしても、俺を襲っていい理由にはならない――っていうか、俺は全然関係ねぇ。


 なんでこうなるのか、まったくもって理不尽な事態である。


 大体の事情はわかったので、お城までこの女を連行する。

 女の上半身を亀甲縛りにすると、ローブを被せてオニャンコポンを後にする。

 亀甲縛りは、別に変な趣味でやったのではない。

 江戸時代から捕縛に使われた優れた捕縛術であり、捕縛対象を如何いかに傷つけずに固定するかという真髄が込められている。


 まさに日本が生んだ芸術。

 ――が、あまり変に力説すると、変な人だと思われるので、このへんにしておく。

 何故俺が亀甲縛りなんかを知っているかも詮索されると困る。

 

 途中、俺が仕留めた連中から鹵獲ろかくした兵器を武器屋に売った。

 魔導師の杖も当てがあると言うので一緒に武器屋の親父に渡し、金は後で取りに来ると言伝ことづてる。


 お城の裏門に到着すると、門番に騎士団を呼んでもらう。

 10分ほどで、アーマーを着込んだ、騎士団の責任者がガチャガチャと音を立ててやって来た。


「真学師様、何か御用でしょうか?」

 数人、同様のアーマーを着た部下を連れている。

 

「この女は、俺を狙った刺客だ。 俺を襲った奴等は殲滅したが、まだ城下町プライムに4人程潜伏しているらしい。 宿屋改やどやあらためをやってくれ。 魔導師を1人やったが、まだいるかもしれないから注意してな。 対魔法(カウンター)用の魔導師がいるなら連れて行ったほうがいいかもしれん」

「は、はい!」

「それから、この女は貴族らしい。 名前はこの黒板プレートに書いてある。 殿下に報告して指示を仰いでくれ」

「承知いたしました! おい! 仕事だぞ!」

 騎士は振り返ると、他の騎士に指示を出し始める。

 

「俺は、自分の工房にいるから、何かあったら呼んでくれ」

 

 こういうのは人海戦術だから、俺の出番は無い。 殿下からの勅令ちょくれいでもあれば、別だが。

 全部騎士団に任せて、成り行きを見守る。

 問題はあの女だが……。


 すぐに、騎士団を動員した、ローラー作戦が城下町プライムに展開された。

 敵が潜伏していた宿が発見されて、戦闘の後2人処刑されて、1人捕縛。 残り1人は逃亡した挙句、ファーレーンとファルキシムの中間辺りで戦闘になり、刺殺された。


 最後に残った貴族だという女の家との折衝せっしょうが始まった。

 こういう折衝作業で、活躍するのがステラさんだ。

 持ち前の顔の広さを使って、次々と交渉をセッティングしていく。

 この大陸の主立った王侯貴族とか商人のほとんどと顔見知りだという。 伊達に450年もBBAをやってないってことだ。

 もちろん、慈善事業ではないので、ファーレーンと帝国側双方から手数料を取る。

 こういう副業をやっているステラさん、実は大金持ちで、もう真学師としての給金などどうでもいいレベルなのだ。

 ステラさんクラスになると、仕事の選択は金の問題ではなく――面白いか面白くないか、もうそれだけで決まると言っても過言ではない。


 問題の貴族だが、殿下の話を聞くと、帝国でも古参の名家だという。

 それ故殿下も、身代金をたっぷりと踏んだくれると喜んでいたのだが、大貴族様は身代金の支払いを拒否してきたらしい。

 怒った殿下は、女を奴隷として売ろうとしたのだが、没落貴族ならともかく、現役バリバリの大貴族の身内を買ったとなれば、どんな制裁を受けるか解らず、どこの奴隷商も手を出さなかった。

 こんな人身売買が普通に行われているのだが、この世界では当たり前の事なので仕方ない。

 ステラさんづてに非公式で、裏から売買の打診もあったのだが、値段の折り合いが付かず頓挫とんざ

 殿下も頭を抱えた。 まさか実の娘を解放するための身代金を拒否するとは思わないものなぁ。


 いったいどういうことなのか。


 実家のみならず、母親の実家でも引取を拒否したと言う。

 完全に見放された――。

 事ここに至って、女の心は折れた。

 殿下に土下座して、命乞いをしたのである。

 身寄りもない、何も出来ない貴族の娘が、いきなり外へ放り出されでもしたらどうなるか。

 お城の1歩外が、地獄の1丁目である。 奴隷まで落とされた自分の過酷な未来が明確な(ビジョン)となって、己の脳裏に見えたのだろう。


 引取り手も無いということなので、放り出すわけにもいかず、お城で働かせる事になった。

 無論、師匠の感応通信(テレパシー)の試験もパスして、敵意がすでに無いことが証明されている。

 だが、貴族故教育は受けていて読み書きは出来るが、今まで働いた事がない娘である。

 師匠もステラさんもお城で雇うことには反対していたが、決定権は殿下にあり最終的な決断には口出しできない。

 衣食住だけ保証して、しばらくは無給の見習いということになった。

 師匠に聞いてもこんな例――身代金も払わず、引取もしないというのは珍しいという。

 

 んで、その娘が俺の工房にいるんだが――しかも、目の前に一糸(まと)わず裸で。


 なんでこうなるの?


「で、名前はリンだっけ? お前はなんで裸なんだ?」

 工房にあるベッドの前で、水晶ガラスの窓から差し込んだ光が照らしたブロンド髪と白い裸体は小刻みに震え、鳶色の瞳は潤んでいる。

 正確な歳を聞いたら、18だと言っていたな。

 オニャンコポンで暴れていた女と同一人物だとは思えんぐらいの変わりようだ。


「……ショウ様にお情けを……」

 リンが裸で下を向いたまま話す。

 

「俺は、お前になんて興味はないぞ」

「しかし、私の浅はかで手前勝手な行動から、ショウ様のお命を狙うなどという愚行を犯した罪を償いたいのですが……」

「それが、なんで裸と関係あるんだ?」

「私にはもう何もありません。 あるとすれば、この身体だけなのでございます」

「お前の身体にそんな価値はないので、俺には必要ない。 さっさと服を着ろ」


 とりあえず、俺を襲った代金はもみもみ堪能で回収したからな。


「う……うう……、私のけがれた身体では、もう罪はつぐなえないのでしょうか?」

 彼女の語りに嗚咽が混じり始める。

 

「あ~、お前が誰に何をされたかも俺は知っているが、そんな事はどうでもいい。 個人的には気の毒だと思うけれど、今の俺には関係ない」

 

 リンは、顔を両手で覆い完全に泣き始めてしまった。

 俺も、こんな事には興味は無いみたいなクールなフリをしているが、内心心臓がバクバクである。

 こんなところに師匠でも入ってこられたら、言い訳できないじゃん!


 どうすんだよコレ。 誰かナントカしてくれよ。


 そんな事を考えていると、背後から白い長い腕が伸びてきて、俺の身体を絡めとった。


「このガキぃ~、新しい女が入ったら、早速味見か? 私には見向きもしないくせにぃ」

「ちょっとステラさん、何処から湧いてきたんですか?」

 長い腕の持ち主はステラさんだった。

 一瞬、師匠かと思って焦るも、ステラさんだと解って逆に安堵したが、この状況が気に入らないのか、俺の事をネチネチと責め始めた。


「この女が、勝手に服を脱いで騒いでるだけですよ」

 

 ステラさんに抱きつかれて、腕を固定されているので、脚でリンに再度服を着ろと指示を出した。

「ふん」

 もっと絡んでくるかと思ったが、ステラさんはあっさりと引き下がると、俺のベッドにゴロンと横になる。

 

 脚をパタパタさせているので、何をするのか見ていたら、ステラさんも服を脱ぎ始めた。

「ちょっと、なんでステラさんまで、服を脱ぐんです?!」

「そんな帝国の小娘じゃなくて、私とやろうよぉ。 ねぇねぇ」

「あの意味解らないんですけど」

「もうちょっとだけでいいからさぁ。 先っぽだけ。 先っぽだけぇ」

「それ、女のセリフじゃないですよね」


 つ~か、こんな台詞がこの世界にもあるのが、ちょっと嫌。 やはり、この世界でも男どもはバカなのか。

 

「ほれほれ、どう?」

 ステラさんが、また見たくもない物を見せ付けてくる。

 

「あ~、はいはい。 そういうのを見せなくてもいいからね~。 しまってねぇ~いい子だから」

 ステラさんのプラチナ色をした髪をでながら言う。

 

「ぷう」

 何が気に入らないのか、ステラさんはふくれっ面だ。

 

「それに、色はフローの方が綺麗だし……」


 ボソっと言った俺の言葉に、ステラさんの顔が真っ赤になり、耳まで紅色に染まった。


「アイィィィィィィ! このクソガキ! 死ねぇ! 私に対する愛はないのかぁっ!」

 素っ裸で怒鳴り散らすステラさんが投げた毛布が俺に絡みつき、次々に投げられた枕や棚にあった本は腕輪の力で俺に当たること無く、床に落ちた。

 どうやら、俺の余計な一言が、ステラさんの秘孔を突いてしまったらしい。


「あ~もう、はいはい。 コレをあげますからおとなしくしてくださいよ」

 俺は床に落ちた1冊の本をステラさんに差し出す。

 

「なにこれ?」

「刺客の仲間に居た魔導師がもってた、本ですよ。 中身はまた暗号化されてますけどね」

 ステラさんは、俺が差し出した本をひったくると、うつ伏せになって読み始めた。

「へぇ~ふんふん」

 尻が丸出しなんだが……。

 

「ステラさん、服を着てくださいよ」

「後で」


 ステラさんは、俺が渡した本を熱心にめくっている。

 またこのまま押さえこんで、死ぬほどくすぐってやろうかと思ったが、結局変な噂を立てられて俺が不利になるだけだから、止めた。

 やるせない感情を抑えて、そのままステラさんに毛布を被せた。


「この前の、黒のナントカという女魔導師の本は解読できたんですか?」

「ん~、出来たよ」

「どんな内容だったんです?」

「1冊は大したことがなかったね。 でも、もう1冊の方が面白かったよ」

「どんな内容だったんです?」

「持ち主の女が、どんな男とナニをして~とかが、事細かく克明に記録されてた」


 うわぁ、ドン引き。


「それ、ステラさんが持ってるんですか?」

「今、ルビアが一生懸命写本してるよ」


 うわぁ、さらにドン引き。


 もうステラさんは放置して、泣いていたリンの方を見ると、まだ裸なんだが……。

「で? なんでお前はまだ裸なんだよ。 服を着ろと言ったろ」

「で、でも……」

「なんでもするって言うのか?」

「はい……」

「それじゃ、お前の身体を縦割りして、魔法でくっつくか試してみるか?」

 

 そう言って俺は、リンの股間から人差し指の爪を立てて、胸までゆっくりと線を引いた。


「ひ……」

 オニャンコポンで俺に切られたので、彼女は本当に切られたのだと思ったのだろう。

 小さな悲鳴を上げると、顔面を蒼白にして身体を震わせ、膝から崩れ落ちそうになった。


「そんなに恐ろしいなら、なんでもするとか言うな」

 彼女の内股を通り、雫が床を濡らしている。


 こんなことをやっていても、らちが明かない。 というか、もはや完全に悪人状態の俺に、加速度がついているように思える。

 そんな考えを振り払うように、リンに強引に服を着せると、工房から追い出した。

 

「そんなに裸が好きなら、首輪を付けて裸で街へ繰り出してやろうか?」

 そんな意地悪を言ってみたのだが。

 

「シ……ショウ様の仰せのとおりに……」


 ただ、震えて復唱するだけ――。

 

 ああ、これが心が折れてしまった人間の有り様か。

 全く、自分で考えて行動してない。 まるで考えるのを止めてしまった人形のようだ。

 こういう人間は、人によっては便利な存在だろうが、俺には必要ない。

 マリアを見てみろ。

 人に言うのもはばかられるような人生送って、死線をも越えたのに、立派に子供達の面倒みたりとかやっているじゃないか。

 

 しかし、逆説的には魔法を使ってこのような精神状態に追い込めれば、洗脳も容易く可能って事だな。

 まあ、そんな禁忌に触れるような研究を師匠が見逃してくれるはずもないがな。

 心に留めておく事にする。


 折しも、ミルーナがいる伯爵領で、帝国からの難民が多数流れ込んできて、人手不足になっているという。

 検討の結果、帝国の事情に明るいリンと、サポートでルミネスが伯爵領に送り込まれる事になった。


 ------◇◇◇------


「ということがあったんだよ」

 

 ニムが俺のベッドに横たわり、白い柔らかな毛が生えているお腹を露わにしている。

 その真っ白でもふもふの毛皮をでながら俺は先日の事を話した。


「ふにゃ、なんだかよく解らにゃいけど、ショウ様が悪いにゃ」

「え~そうなの? そうか、やっぱり俺が悪いのか~なんでかな~? でも、獣人の直感は当たるからなぁ」

「いったい、何人たらしこめば気が済むにゃ」

「たらしこんでないんだよな~、命狙われただけなんだよな~」

「そうじゃないなら、なんであの女を裸にする必要があるにゃ」

「なんで、そんな事がバレてるのかな~?」

 あのクソBBA(エルフ)

 

 ニムのもふもふのお腹に顔を埋め、俺が呟く。

「ここだけが、俺のオアシスか……」

「オアシスって何だにゃ?」

「砂漠って知ってるか? 砂だらけなんだが」

「知らないにゃ」

「ここら辺には砂漠は無いのか。 それじゃ、水を持ってないで大草原で迷走して、突然ポツンと水が湧いている、それがオアシスだ」

「にゃ~、解ったにゃ。 ショウ様、お乳が飲みたいのにゃ」

「なんでそうなるのっ!」

「うちは、子供が出来てないから、お乳は出ないにゃぁ」

「そうじゃないっての」


 そんなどうでもいい、オアシスの説明に手間取ってしまった。


「んにゃ~」

 ニムが両手を上げて、ベッドの上で伸びのポーズをしている。

 

「そういえば、獣人って脇がくすぐったくないのな」

「脇にゃ?」

 ニムが不思議そうにしている。

 

「いや、人は脇を触れられると、苦手な人が多いんだよ。 ステラさんもダメだったから、エルフも弱点なのかもしれないな」

「ホントかにゃ!」


 ニムは俺に飛びつくと、俺の脇をくすぐり始めた。

「お、おい! ちょっと待てこら! あはは! ちょっと待てって!」

「にゃにゃ、ホントに弱点にゃ。 面白いにゃ」

「面白くねって! ははははっ!」


 ちょっと待て、すげぇ力だ。 まるで万力で挟まれるみたいだぞコレ、獣人に抱きつかれたらもう脱出できないじゃん。

 これがニニだったら、骨が折れるかもしれん。

 改めて、獣人のパワーに驚きながら、床でニムと転げ回っていると、白いドレスが目に入る。

 

 そのまま顔を上げると――殿下がいた。



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