69話 刺客がやって来たヤァ!ヤァ!ヤァ!
俺が使う魔法の外付けブースターとして利用出来るフローというエルフがやって来た後、色々と魔法を拡張して利用できるようになった。
トラブルメーカーのエルフが増えるのは頭が痛いところだが、それを補うだけのメリットがある。
そのフローと色々な魔法の実験をしていて、以前買った大型の魔石があったのを思い出す。
俺のパワーでは全く魔力の充填が出来なくて計画が頓挫、お蔵入りになっていた。
せっかく大金を出して買ったのに小屋の肥やしになっていた魔石を運び出して、魔力を充填してみることにした。
「なんすかこれ? こんなデカイの買ったんすか? バカですね~」
フローが巨大な魔石の原石を眺めて言う。
「余計なお世話だ」
「こんなお金があるなら、あたしが貰ってあげてもいいっすよ?」
「どういう理屈だ」
フローを使って、魔石への充填を試みる。
1時間ぐらいかかったが、巨大な魔石はほぼ満タンになったようだ。
途中で、魔石に魔力が溜まっていくと、工房にあったコイルが反応してしまい、モーターが暴走しだして焦ったが、魔石を工房の外へ運びだして、充填作業を続けた。
さすがの、フローも疲れたらしい。
「悪かったな、疲れただろう。 手間賃ちょっと多めにやるよ」
そう言って、小四角銀貨4枚(2万円)を渡す。
「こんなにイイっすか? やっほ~い、買い物に行くっす!」
フローはそんな事を言いながら飛び出していってしまったが、俺にはやることがある。
以前作った起電の実験装置を外へ引っ張りだして、変圧器も繋いでみる。
電極に太い針金を接続して、近づけてみると――
青白い閃光が走る。
おお、アークが出た!
これで、溶接ができるぞ。 小躍りしながら巨大な魔石の周りを3周してしまう。
その後、小屋の中で色々と実験を繰り返したが、1個の大きいコイルより、小型のコイルを円周上に並べた物のほうが性能が良いと判明。
今までは銅の単線しかなかったが、このまま取り回しができないので、ゴムの被覆を使った撚り線も作ってみた。
それよりも、問題なのは他のコイルに干渉してしまうことだ。
これだと、工房の中へ運び込めない。
色々と思案した結果、魔石電灯に使われている魔力を遮断する虫糸のシルクでスッポリ覆う事にした。
早速、伯爵領のミルーナ経由でシルクを取り寄せ、城下町の裁縫屋で袋状に加工してもらう。
外側が普通の布で、内側が虫糸シルクになっている構造だ。
裁縫屋で、外側の布はどうしましょう? と聞かれ、オススメされたのが、最近の流行だというマーブル模様。
俺が作ったやつじゃん。
俺はファーレーンの伝統模様の方が好きなので、そちらにしてもらった。
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さて、道具は揃った。
工房に鎮座する、カラフルな袋を被った巨大な魔石。
そこから伸びる、電極に繋がれた溶接棒。 もう片方の電極は銅製のクリップに繋がれて、アースに落とされている。
溶接する鉄の棒を十分に魔法で加熱してから、溶接棒を近づけると、青白いアークが輝く。
遮光メガネがないので、色の濃いガラスで代用してみた。
ジジジという音と共に、溶接が進行していく。 少々スパッタが多いが問題無いレベル。
多分、交流を使っているせいだろう。
魔法を併用すると、溶接の溶け込みが凄いスムーズだ。
そんな作業をしていると、フローが入ってくる。
「それ、何してるっすか?」
「理で雷を作って、その高温で鉄を溶かして接合しているんだよ」
「へぇ~そんなことができるっすか」
「おい、裸眼で見ると目が潰れるぞ」
「平気っすよ」
そんな事を言っていたフローだったが、5分もしないうちに、目がチカチカして痛いとか言い出して、転げ回り始めた。
「ぎゃ~! 目が痛いっす! 真っ白で見えないっす!」
「だから言ったじゃないか。 全然大丈夫じゃねぇじゃん。 自分で治癒魔法を掛けろ」
「そんなの出来ないっす」
「ええ? 治癒魔法もダメなのか?」
どうやら、自分の治癒魔法も自分には掛けられないというポンコツぶり。
しょうがなく、俺を中継して――フロー→俺→フローという感じで、治癒魔法を掛ける。
なんという間抜けな光景。
フローを俺のベッドに寝かせて、魔法で冷やしたタオルを目に当てさせる。
そんなフローを見て、小馬鹿にして呆れていたのだが、俺にもバチが当たった。
夜になると、目が真っ赤に充血して涙ボロボロ、痛くて眠れなくなってしまったのだ。
我慢しきれなくなって、師匠に泣き付き治癒魔法を掛けてもらう。
「くそ、酷い目にあったぜ。 もっと遮光のガラスを厚くしないとダメだな」
とにもかくにも、溶接ができるようになったので、以前から作ってみたかった、圧力鍋を作る。
元世界の圧力鍋は、プレス加工とか絞り加工で作るのだろうが、ここにはそんな技術はない。
鉄板を丸める3本ローラーという工作機械で円筒を作り、底を溶接して、蓋はゴムのパッキンを入れてボルト締めにした。
一応、安全のために、安全弁は2箇所――圧縮弾を入れて圧力検査もしてみた。
かなりゴツイ圧力鍋だが、大食らいが多いのでデカイのを作った。
大は小を兼ねるからな。
早速使ってみたくて、料理を考える。
う~ん、よし! 角煮にするか。
まず、ゆでたまごを作る。
たまり醤油と味醂と昆布ダシを入れてタレを作り、香りつけに行者ニンニクモドキを少々。
こいつはかなり臭いので、マジでほんの少しだけ。
残念なのは、生姜が無いぐらいかな。
バラ肉と材料を鍋に入れて加熱。 ちょっと寂しいので、芋も入れてみた。
もう角煮じゃなくて、煮っころがしみたいになってるが、気にしない。
魔法で材料を加熱。
ここからが、魔法の本領発揮。 圧力鍋にゆるい圧縮弾を入れて蓋を閉めて圧縮弾を解放すると、一気に圧力が臨界まで上がる。
そのまま、15分ぐらい放置。
蓋を開けて、今度は魔法で減圧して蓋を閉める。 これで、一気に材料にタレが染み込む。
これぞ、魔法料理。
30分程で、トロトロの角煮と煮玉子が出来た。
メンツが集まったので、晩飯に角煮を出した。
皆はパンを食べているが、俺だけ麦粟ご飯だ。
「うまっ、うまっ! なんでこんなに美味いっすか!」
「美味いにゃぁ~。 肉がトロトロだにゃ~」
「美味しい……」
「いやぁ、美味しいね。 こんな味付きの卵なんて初めて食べたよぉ」
味に煩い師匠とステラさんを含め、皆に好評である。
「おおい、フロー。 お前食べ過ぎだろ、どんだけ食うつもりだよ」
「今まで碌な物食ってなかったっすから、あたしが一番食う権利があるっす」
「どういう理屈だよ……」
かなり大量に作ったつもりだったが、もう無くなる勢いだ。
今は一緒に飯を食っているけど、フローが工房にいると、ステラさんがやってこないのは良いな。
こいつもかなりウザイが、ステラさんみたいに悪意はないみたいだし。
まあ、エルフなんで、本音はどうだか解らんけどな。
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さて、溶接は出来るようになったが、ちょっと仕上がりが気になる。
多分、交流を使っているせいかスパッタが多いのだ。
ここまできたんだ、直流化に挑戦してみたい。
普通、交流から直流にするのは、整流器とかレクチファイアとか言われる物が必要になる。
元世界の整流器はシリコンダイオード製だったが、もちろんそんなものはここには無い。
――となると。
真空管か……。
俺の親父が作って自慢してた真空管アンプにも、整流管とか言う真空管を使った整流器が付いていた。
電球が作れるなら、真空管も作れるはず。
多分。
真空管の原理はこうだ。
真空の中に電極板が2枚離れている。 当然、この間には電流が流れない。
だが、片方の電極板をヒーターで加熱するとアラ不思議、電極板から電子が飛び出して電流が流れるようになるのだ。
この場合電流が1方向にしか流れない。 この特性を使って交流から直流へ変換することが出来る。
これをエジソン効果というが、発見したのは名前の通り、発明王エジソン。
でも、このエジソンさん、エジソン効果の特許まで取ったのに、そのまま放置。
この現象を使えるようにしたのが、理科の教科書左手の法則で有名なフレミングさん。
――というわけで、真空管の父はフレミングさんということになる。
親父が持っていた真空管アンプの本で、真空管の構造は大体把握していたので、すぐに試作してみることにした。
色々と試作してみた結果、中心にヒーター代わりの炭素フィラメント。
その外側に円筒の電極板。 さらにその外側に1回り大きい円筒形の電極板。
電極板はアノードとかカソードという名前があったはずだが、どちらがどっちなのか覚えていない。
整流した後、平滑化するのにコンデンサが必要なのだが、まさかこんなものまで自作することになるとは……。
色々と試作してみた結果、薄い紙を虫蠟に浸して巻加工したものを採用した。
こんなもんで本当に動くのか不安だったが、機能はしているようだ。
まあ、電子部品の初期段階でも、パーツは手作りだったはずだし、初期のラジオなんて鉱石検波だったしな。
為せば成る。
直流化した電源を使って溶接をしてみるが、ほとんど音もなくアークが出て滑らかな仕上がり。
スパッタもほとんど出ない。
う~む、素晴らしい。
こんな些細な事に拘るなんて変と言うなかれ、神は細部に宿るのだ。
蛇足だが、車などに使われる普通のバッテリーを直列に繋いで、バッテリー溶接機を作ることは可能だ。
しかし、溶接の際に水素ガスが発生する結構危険な代物で、屋内で使用することは出来ない。
発生した水素ガスに、アークが引火して爆発する危険性がある。
実際、俺の爺が作った自作バッテリー溶接機でやらかして、小屋を半壊させた。
激怒した婆さんと、離婚騒動にまで発展した我が家の修羅場である。
ずっと考えていた溶接も出来るようになったし、次は何を作ろうか。
フローが来たから、デカイ魔石が使えるようになって奴に感謝だな。
彼女がいなくなったら、魔石がまた漬物石に戻る可能性もあるが、その頃にはもっとデカイ発電機が完成しているだろう。
そんな折、帝都から間諜の仕事をしているミズキさんが帰ってきた。
彼女の仕事とはいえ、長い距離を何度も往復とか大変だな……。
そうだ、無線機とかを作れば、何度も往復せずに済むな。
ファーレーンと帝都の間で、馬を飛ばしても5~7日は掛かるので、無線を使ってリアルタイムで情報を入手出来れば、情報戦で大幅なアドバンテージになるはずだ。
しかし、ガキの頃にラジオをキットで作った事あるとはいえ、変調の掛け方が判らんな……。
可変コンデンサとかどうやって作ろう……。
でも、簡単な情報だけなら、無電でも良いか。
変調も無しで1番原始的な送信機となると、火花送信機――。
パーツは揃っている――と思う。
なにやら帝国に不穏な空気が流れているようだし、一抹考えておくべきか。
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お城の中庭に木剣の擦れる音が微かに囁く。
久々に帰ってきていたミズキさんに、稽古を付けてもらう。
ミズキさんから教えてもらっているカミヨ剣術は、基本剣を直角に受けないため、剣を打ち合わせる音ではなく擦れる音がするのだ。
カミヨ剣術の剣套(型)は4つ。
1つの剣套は24の動作から成っており、後半の12動作は前半に行う技の返し技になっている。
つまり、1つの剣套を覚えれば、単練にも対練にも使えるのだ。
そんな2人の稽古の様子を、ルミネスがタオルを持って観戦している。
「ふう、そろそろ終わりにいたしましょう」
ミズキさんが手をあげる。
「ありがとうございました。 長旅でお疲れのところ、申し訳ございません」
「そんな事ありませんよ。 いい気分転換になってます」
ルミネスから受け取ったタオルで汗を拭いながら、ミズキさんが答える。
事前に冷たいカフェオレを作って、台所の保存瓶にいれていた物をミズキさんとルミネスに渡す。
「冷たくて美味しい」
ルミネスが呟く。
「しかし、ショウ様は随分とお変わりになられましたね」
ミズキさんがそんなことを言う。
「変わりましたか?」
「ええ、私は帝都に行っていてたまにしか帰ってこないので、その変化が分かりますよ」
「そうですか」
「以前はもっと気軽な感じでしたが、今は何か思いつめていらっしゃるような……」
「ここへ来た時は、私も遊び半分でしたからね。 飯が食えればいいやぐらいにしか思ってませんでした」
「でも今は?」
「すべては殿下のため、ファーレーンのためですよ」
そんな話をしていると、中庭奥のゴムの木林からライナスが飛んできて、俺の頭頂に乗った。
「コンニチワ コンニチワ」
「まあ、この子は喋るんですね」
「ああ、こいつはあそこの林に住み着いている奴で――」
俺が説明をしようとすると、ライナスはトンデモナイ事を口走り始めた。
「ステラ〇〇○ ステラ〇〇○ ショウチ〇〇 ショウチ〇〇」
俺はカフェオレを吹き出した。
「ショウ様、コレは……」
女性陣は顔が真っ赤だ。
「あの、糞BBA! ふざけやがって!」
慌てて、多分ステラさんの仕業だと説明したら、2人共納得していたが。
「くそ、地味な嫌がらせを……」
こんなイケナイ単語を叫ぶ鳥を野放しに出来ない。
鳥カゴに入れて、俺の工房でエルフ避けの般若心経を教えこんで上書きする事にする。
ミズキさんは再び、間諜の仕事のため、帝都に戻った。
彼女に、帝国が特許を無視してるらしい件を尋ねたのだが、殿下から直接聞いてほしいと言う。
やはり、機密は漏らせないか。
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数日後、市場調査を兼ねて城下町を散策していた。
景気が良いせいか品物が溢れ、新製品のネコ車もソロバンも皆使っている。
新しい物が広まるのは早いが、数千年ずっとこんな感じで停滞していて何も考えなかったんだろうか?
ハサミも無かったが、押切はあるのだからハサミとか誰か考えてもおかしくないはずなんだがなぁ。
1年近く住んでみて解ったのだが、気候は穏やかで四季もほとんど無く、似たような気候が毎日続く。
天変地異も皆無で、飢饉も滅多にないらしい。
最近だと、農家の爺さんがガキの頃に一回飢饉があったぐらいだという。
帝都では食料不足になっているようだが、それは失政のせいで、普通に農業を営んでいれば餓えることはない。
危機感に駆られることがなく、いつでものんびりだ。
最初は、進歩が遅いのは便利な魔法があるせいか? と思っていたのだが、このぬるま湯のような世界がいけないのかもしれないな。
ただ、閉塞感は皆感じているようで、変わりたい願望はもっているようだ。
そんなことを考えながら歩いていると、なにやら不審な影が――。
ガキ共の遊びではないらしい。
俺を狙ってきたのか? それにしても、こんな往来では仕掛けては来まい――と思ったのだが。
正面から来た。
「真学師のショウか?!」
俺の前に立ち塞がったのは、3人組だ。 1人はデカイ戦斧を持って、プレートアーマーで完全装備だ。
「そうだが。 何か用か?」
このデカイ斧ってなんて言ったっけ? ポールアックス?
「お命頂戴つかまつる!」
言うと同時にアーマー野郎が戦斧を振り下ろす。
おい、マジかよ! こんな場所で!
攻撃を躱して後ろに飛ぶと、戦斧が地面にめり込み礫が舞う。
こいつらのメンツはこれだけじゃないだろう。 どこかに魔導師がいるはずだ。
そいつを先に片付けないと……。
アーマー野郎の両脇にいた、チンピラ風の男と、深いフードを被ったやつも剣を抜いた。
通常はこいつらが前衛で、その後ろに魔導師がいるはずだ。
魔法の詠唱には時間がかかるからな。 前衛の奴らが時間稼ぎをするわけだ。
咄嗟に俺は戦術を練る。
スリングショットを使おうとするが、流れ弾が住民に当たる可能性がある。
それに、これだけ通行人がいるとなると、取れる選択は余り多くない。
となると――チンピラ男の顔面に牽制の圧縮弾を炸裂させると、男の左側に回り込みアーマーの隙間から脇を切り上げる。
どんなアーマーでも腕の可動部分の確保のため脇が開いているので、ここが急所になるし、人体的にも動脈が通っており、ここを切られるとまず助からない。
脇を切られ、うめき声をあげている男に追い打ちをかけた。
脇差しを横に払うと男の顔面が真一文字に開き白い肉を露出させ、流れ出た鮮血が血溜まりを作る。
男の戦意が完全に喪失したのを確認すると靴のスパイクを立てて、自らにかけた重量軽減の魔法を使って刺客達の脇をすり抜けていく。
こいつらの後ろに魔導師がいるはずだ。
いた――。
建物の脇の細道でなにやら魔法を詠唱中だ。
俺は、高速でジグザグを描きながら魔導師に接近していく。
魔法は強力だが、発動するまでに時間差があるので、高速で動く物体には使うのは難しい。
しかし、相手も手練なのだろう。
瞬時に呪文を組み替えて、俺の接近を防ぐ火炎壁を出現させた。
だが、その炎の壁を俺の左手首に光る腕輪が丸く切り開く。
敵の魔法が無効化されると同時に、俺の放った牽制の圧縮弾が魔導師の顔面に炸裂する。
刹那――怯む魔導師の胸を俺の脇差しが貫通した。
止めを刺すための剣鉈を抜き、魔導師の首に一閃させると、切り開かれた気管から風の通る音が漏れ、ゴボゴボと血の泡が吹き出る。
「ぬおおおおっ!」
魔導師に突き立てた脇差しを抜く暇もなく、背後から降り下ろされた戦斧を躱す。
向き直り、フルアーマー野郎と対峙するが、厄介な魔導師を始末した後ならどうとでも料理が出来る。
男の動きを止めるために重量増大の魔法をかける。
フルアーマーを着ていれば、少なくとも重量は100kg。 それがいきなり1tにもなれば、動くことは不可能だ。
男の内へ入り理を反転させ重量を軽減、軽くなった男の巨躯を抱えあげると、弧を描いて地面へ激突させる。
そして、激突する際に、再び重量を増大させるとどうなるか?
激突の衝撃は数十トンにも及び、いくら完全防御のフルアーマーでも大型トレーラーにひかれたら――。
結果はお察し。
見るも無惨な肉塊が出来上がる。
「ひいい!」
残ったフードの敵が悲鳴を上げる。
女?
フードを深くかぶっているので、よくわからないが、女の声に聞こえた。
俺は右腰から竹槍剣を抜くと、残った敵に問いかける。
「賞金稼ぎか?」
「は、母の敵!」
「は?」
俺の頭の中は疑問符でいっぱいになった。
俺が殺した女といえば、黒のナントカという魔導師だけだ。
まさか、あいつの子供のわけないよな……。
カタカタと震える手で剣を構えているが、剣は正中を捉えておらず、明らかに素人だ。
俺は竹槍の鍔についた半球状の反射板に真空衝撃波を作ると、指向性を与えられた衝撃波が相手を吹き飛ばし――。
そのまま、敵は動かなくなった。
「う~む、初めて人間に使ったが、これは使える」
俺は鞄からオニャンコポンのニニから貰った笛を取り出すと、力一杯吹いてみた――が、音はしない。
本当にコレ聞こえているのか?
少々心配だが、とりあえず目の前の問題を片づけなくてはいけない。
衝撃波でひっくり返っているやつの身体をまさぐる。
柔らかい感触に、短いブロンドの髪と鳶色の目。 歳は17~18ぐらいか。
美しい肢体、確かに女だ。
もみもみもみもみ……。
そんな事をしている場合ではない。
まずは、剣を取り上げて――良い剣だな。 何処のお嬢様だ?
財布ももう俺のもんだ――たんまり持ってるじゃねぇか。
へへへ……待て、これじゃどっちが盗賊か解らんな。
指輪とかは、まだ生きてるし勘弁してやろう。 武士の情けだ。 武士じゃないけどな。
そんな追剥プレイをしていると、街のやつらが集まってきた。
「し、真学師様、何事ですか?」
「刺客らしい。 何処からきたかは解らん」
「帝国ですか?」
「かもしれんな。 それ以外に俺を狙うやつらは考えられんし……」
「帝国?」 「帝国だってよ」
次々と人の噂の輪が広がっていく。
「まだ決まった訳じゃないけどな、まあ多分そうだろ」
女の方を隅々までまさぐり終わったので、魔導師を追い剥ぎするか。
魔導師に突き刺さったままの脇差しを死体を足蹴にして引き抜く。
魔導師は深い緑色のローブを被った髪の長い中年男だった。
まずは杖を回収、魔石が5個、金が少々、後は指輪と腕輪。
ちょっと持ち物はしょぼいが、ナイフは良いものを持っていた。
後は、荷物を探ると本? 中をちょっと見てみると、定番の如く暗号化されている。
以前の黒のナントカという女魔導師の本と同様だ。 そんな事をしていると獣人が2人やって来た。
あの笛は本当に獣人には聞こえるんだな。
「真学師様、お呼びですか――なんじゃこりゃ! オーガでも出たんですかい?」
獣人は、潰れたフルアーマー男の死体を見て驚いたようだ。
「俺が魔法でやったんだよ」
「うひゃ、剣呑剣呑……」
「随分、難しい言葉を知ってるなぁ」
「傭兵をやってた時に、一緒に戦ってたお偉い騎士様の口癖だったんですよ」
獣人に話を聞くと、帝国は戦にオーガという巨大な人形兵器を使うらしい。
そんな話を聞きながら、俺は巾着から銀貨を2枚(10万円相当)取り出すと、獣人達に渡した。
「悪いがこの死体を片づけてくれ。 向こうにも1体あるからな」
「こんなに貰っていいんですかい?」
「ああ、すまんな嫌な仕事を押しつけて」
「なに、かまいませんぜ。 真学師様、この潰れたフルアーマーと戦斧はどうしやす?」
「お前達で処分して好きにして良い」
「ホントですかい? こりゃ、結構値が張りますぜ」
「無論だ。 ちゃんと2人で山分けしろよ」
「ひゃっは~こいつは儲けたぜ。 ははは!」
小躍りしている獣人達を後目にして、生き残った女に重量軽減の魔法を掛けてかつぎ上げると、オニャンコポンに向かう。
歩きながら手持ち無沙汰なんで尻でも揉んでおくか、命を狙われた代金だ。
もみもみもみ。
「ふ~む。 ふふふ、なるほど思った通りだ」
もみもみもみ。