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異世界で目指せ発明王(笑)  作者: 朝倉一二三
異世界へやって来た?!編

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67話 プチ家出


 師匠が俺の話を聞いてくれそうにない状態になってしまったので、そのまま俺はお城を飛び出し、プチ家出状態になってしまった。

 普段持ち歩いている、武器も道具も何も持っていない。 持ってるのは魔石のセットだけ。

 靴すら履いてなくて、ツッカケ(サンダル)だ。

 いい年してプチ家出とか情けない限りだが、致し方無い。


 街の商店をアチコチ冷やかしながら歩いていくと、マリアがいる孤児院が見えてくる。

 相変わらず、子供達がワイワイと走り回り賑やかだ。


「よっ! 遊びにきたぞ」

「あっ! ショウ様だ」 「ショウ様!」 「ショウ様!」 「ショウ様!」


 軽く挨拶すると、あっという間に子ども達に囲まれる。

 まるで台風の中心に入ったみたいだが、凄いエネルギーで翻弄ほんろうされる。


「すまんが、今日は何も持ってきてないぞ、武器も道具も全部お城に置いてきてしまったんだよ」


 しかし、子どもたちには、そんなことはどうでもいい事のようで、とにかく遊んでほしいようだ。

 ひたすら愛情に飢えている、そんな感じがする。

 そんな子供達のリクエストに応えて、色んなゲームをして遊ぶ。

 子供達の圧倒パワーに押されまくり、いやはや疲れるわ。


 見たところ、知らない子が何人か増えてるな。

 まあ、こんな世界だし。 孤児は沢山いるので、ちょっとでも人助けになればと思う。

 集められた孤児だが、ここにいれば餓えることはない。 だが、集団生活に馴染めなくて元の孤児に戻ってしまう者もいる。

 去った孤児にも、困った事があればいつでも来るようにとは言ってあるが、強制は出来ないのが現状だ。


「ショウ様、何か面白い事やって! 面白い事ぉ」

 抱きついてくるのはいつも元気な、お下げ髪のリコだ。

 

「面白いってなんだ。 そんなにポンポン出てこないぞ」


 俺は、頭をひねる。


「そうだ、紐を探してきてくれ。 細いやつな」

 しばらくすると、子供の1人が紐を持ってきてくれる。

 俺は紐を指に通すと、両手で操り始める。


 そう、アヤトリだ。


 と言っても、曾祖母に教えてもらった2種類しか知らないんだけどな。


「ジャ~ン! ホウキ!」


 得意げに見せてみたが、子供達の反応は皆無……。


「じゃあ、コレは? ジャ~ン! ハシゴ!」

 トラス構造のような模様を見ても静まり返る子供達。

 

 ダメだァァァ! これは滑ったわ!

 こんなに受けないとは……折り紙は大受けだったのに。

 なんてこったい。 やっぱり、アヤトリは地味過ぎたか。


 もっと派手なパフォーマンスを――そうだ、パフォーマンスと言えば。

 あることを思いついた俺は、子供達を横に見ると足をスライドさせ後ろに進む動作をする。

 俗に言うムーンウォークってやつだ。 ガキの頃の特訓がこんな所で役に立つとは。

 

「何それ!」 「変な動き!」 「なんで歩いてるのに後ろに進むの?!」

 子供達の反応は上々だ。

 

 調子に乗った俺は、足首をクルクルと回して平行移動する技も披露する。

 やんやと子供達から歓声があがるが、予想外の所から反応があった。

 

「なんすか? その変な動き? 何かの武術ですか?」

 俺の変なダンスを見てやって来たのは、この孤児院を警備している獣人達だ。

 トラ柄の獣人が2人、俺に近づいてくる。


「ああ、一応大道芸みたいなもんなんだけどな。 興味あるのか?」

 俺の変な動きを不思議そうに眺めている。

 

「へい! ちょっと教えてもらえますかい?」

 獣人達に、ムーンウォークと簡単なロボットダンスってやつを教える。

 俺も、ガキの頃に練習しただけだからな、そんなに技は豊富じゃない。

 獣人達は見よう見まねだが、すぐにマスターしてしまう。

 さすがに足腰も強いし、運動神経抜群だ。

 獣人達と一緒にダンスをやると、子供達に大受けだ。

 

「しかし、こんな踊りを覚えてどうする? 大道芸でもするつもりか?」

「それもいいですが、戦いの相手を幻惑したりするのに使えねぇかなぁと思ったりしまして」

「う~ん、それは結構面白いかもな。 厄介な敵でもいるのか?」

「へへ……」

 獣人達は何やらニヤニヤしている。

 

「うん? なんだ?」

「相手っていうのはニニさんでして」

 獣人食堂オニャンコポンの女主人がこいつらとどんな因縁だというのか。


「ニニと何か問題でもあるのか?」

「いいえ! 実はニニさんに勝てたら、やらしてもらえるって事になってまして……」

「はぁ? やるって、アレか」

「アレです」

「ニニは結構歳だし、3人の子持ちだぞ?」

「いえいえ、まだ若いっすよ! まだ2人ぐらい産めますって」


 話を聞くと、獣人の男達にとってニニは憧れの人らしいな。

 たしかに美人だとは思うけどなぁ……子供を産んでほしいとか、ココらへんは獣人独特の観念なのかね?

 獣人は2人なのだが、ペラペラと喋っているのは1人だけで、もう1人は寡黙かもくに頷いている。

 もう1人の方も考えは同じようだ。

 ムーンウォークで幻惑して、一撃を入れるのか?

 上手くいけば良いが。


「オオオオン! おれはやるぜ! おれはやるぜ!」

「そうか、やるのか。 やるならやらねば。 オオオオン!」

 獣人は短パンのような短いズボンを履いているのだが、2人で雄叫びをあげて股間にテントを張る。


 う~ん、デカイ。 ナニが。


「おいこら、子供達の前でそんなのを勃たせるな」

 それを見た子供達から、チ〇〇の大合唱が始まる。

 

「あちゃー」

 その大合唱を聞くと、孤児院の中からマリアが出てきて子供達を追い回し始めた。

 それを見た獣人達もそそくさと退散する。

 どうやら、本能的にマリアが怖い人種だと解っているようだ。

 

「よ、マリア、元気そうだな」

「あ、ショウ様。 子供達が騒々しいと思ったらショウ様がいらしていたんですね」

「はは、ゴメンな。 マリアに挨拶する前に子供達に囲まれてしまってな」

「いいえ、何かお飲み物をお出しいたしますので、中へ」


 孤児院にはガラスなどは入っていないので、天井の明かり取りの窓から入ってくる僅かな明かりだけで中は薄暗い。

 だが、初めて来た時はボロボロだった内部も綺麗に修繕されていて、中には俺が頼んで大工に作ってもらった2段ベッドがところ狭しと並んでいる。

 その一角に作られた応接スペースで、マリアとお茶を飲む。

 常温のお茶だったが、俺は冷たいのが飲みたかったので、貰った水を氷にしてお茶へ入れる。

 マリアも欲しいというので、入れて上げると嬉しそうに飲んでいる。


「ゼロ様にも、こうやって氷を作って頂きました」

「そのゼロ様は、どこに行っちゃったんだろうねぇ、放置したままとか随分と冷たいよな」

「でも、最初は寂しかったのですが、今はショウ様がいらっしゃいますから……」

「俺もできるだけ力になるよ」


 初めて会った頃に比べて、随分と健康的になったマリアだが、やはり歩んできた過去が過去だけに、たまに見せる陰りのような物が気になってしまう。

 

「そうだ、ちょっと試したい事があるんだが、俺の頭の中を軽く読んでくれないか?」

「はい」

 

 マリア可愛いマリア可愛いマリア可愛い――


 マリアの顔が赤くなる。

「う~ん、やっぱりマリアの能力には効かないか」

「どういう意味なのでしょう?」

「いや、魔法の感応通信(テレパシー)を遮断できるようになったんだよ。 でも、マリアの能力は魔法じゃないから関係ないらしい」

「あの……」

 マリアが下を向いてモジモジし始めた。

 

「なんだい?」

「あの、行くところがないのなら、私の所へ泊まっていただいても良いのですが……」

「ああ」


 どうやら、俺の頭の中を読んだ時に、俺がプチ家出状態なのに気がついたらしい。

 しかし、行く所が無いからといって女の所に転がり込んじゃ、タダのヒモじゃないか。


 男の矜持からそれは出来ん。

 嘘つきでも悪魔でも良いが、ヒモだけはイカン。 俺の謎の矜持が炸裂する。

 

「でも、ショウ様に受けた御恩をお返ししたいのですが」

「色々とマリアには手伝ってもらってるじゃん。 十分に返してもらってるよ」

 

 マリアには騙されやすい獣人達の立会人になってもらったり、感応通信(テレパシー)の魔法が使えない俺の代わりをしてもらっている。

 十二分の働きだ。 孤児院で子供達の世話もあるし、コレ以上は迷惑掛けられん。


「大丈夫、ちゃんと行く所があるから。 言っておくけど、他の女の所じゃないぞ?」

 不満そうなマリアに別れを告げて、暗くなる前に行く宛の所へ向かう。


 その場所とは――。


「金も無いし、行く所といえばここぐらいしかないよな」

 やって来たのは、以前住んでいた師匠の家。 俺の使ってたベッドもあるし、とりあえず雨風が防げるし、一夜過ごすにはピッタリだ。

 ここには侵入者避けの結界も張ってあるが、丁度キャンセル用の魔石は持ってるから問題ない。


 せっかくやって来たので、家の周りの草刈りをする。

 小屋から死神が使うようなバカデカイ鎌を取り出して、刈り始める。

 この鎌、上手く使うとエンジン草刈機より早く刈れるが、結構危ない。

 脚ぐらいは簡単に切断出来る。

 まあ、エンジン草刈機も危ないけどね。

 草刈りの後は、畑の草取りをする。

 ノラ芋が生えていたので、晩飯はコレにするか。 しかし、これだけだと寂しいな。

 そんなことを考えていると、刈った草から追い出された虫を目当てに小鳥が集まってきたので、3羽捕獲。

 こいつをオカズにしよう。


 鳥の羽をむしって、家の中で調理する。

 台所用品は、ほぼそのままだ。 最初はお城で料理はするつもりなんてなかったからな。

 衣食住保証で、お城へ行ったわけだし。

 鳥さんは、塩を摺りこんで大葉で包みかまどへ入れて蒸し焼きした。

 芋は皮を剥いて、魔法で加熱。 

 

 道具が無くても魔法だけで、なんとかなってしまうこの万能さ。

 そりゃ、科学も発展しないよな。 


 早速試食、蒸し焼きはジューシーで美味い。 単純な味付けだが、コレはコレでいける。

 芋はいつもの芋だ。

 元世界でも、畑からこぼれた芋が野良化することがあるが、不味くて食えない。

 普通に売ってる芋は、F1種という中間雑種みたいなもので、種芋を取り続けると先祖返りをしてしまい、最終的には原種に戻ってしまう。

 ナス科の原種は猛毒持ちなので、そうなると食えなくなってしまう。

 だが、この世界の芋は、コレで固定化されてしまっているようで、先祖返りすることもない。


 腹も膨れたので、台所の奥にある小屋に作られた俺のベッドへ行く。

 カビ臭いので、空気の入れ替えのために窓を開ける。

 窓といっても、ガラスなど入っていなくて、ただの木の板だが。

 暗くなってきたが何もすることがなく、ベッドに寝転がる。


 この世界には食ってすぐ横になると牛になるってことわざはない。


 あれこれ考え事をしているとすっかり暗くなってしまったので、蝋燭ろうそくを灯す。

 この蝋燭ろうそくも安い物ではない。 普通の農家等では滅多に使う事はなく、貴重品扱いだ。

 蝋燭ろうそくを使ったり灯油を使うのは、一部の商人と王侯貴族だけになる。

 この世界の人々は、暗くなったら寝て、明るくなったら起きる。

 ここに寝ていると、初めてこの世界へやって来た時のことを思い出す。

 

 そろそろ1年か……。

 

 しかし、マジでやる事ないな。 寝るしかねぇ。

 本も無いし、TVもネットもねぇ。 そんな生活も、もう慣れてしまったが。

 ただ、下ネタになるが、ズ○ネタが無いのかマジで困った。

 なんにもないからなぁ。

 街へ出れば、売りの娼婦がいくらでもいるが、俺はここでは有名人だ。

 そんなのを買えば、あっという間に噂が広まってしまう。

 ステラさんの話だと、王侯貴族が利用するような完全会員制極秘倶楽部みたいな店があるらしいが……。

 そういうのを使うって事は弱みを握られるって事だからな。

 ハニートラップに使われる可能性もある。


「ふう」

 俺はため息をつくと、そんなどうでもいい事を考えながら、左手首の白い腕輪を眺める。


 師匠は対魔法(カウンター)だと言っていたが、耐魔法(レジスト)ともとれるし、ステラさんが使った防御魔法みたいな感じもする。

 便利なものを手に入れたが、使い方は研究の余地がありそうだ。

 

 蝋燭ろうそくが勿体ないから寝るか……でも、今寝たら起きるの3時とか4時だぞ……。


 ------◇◇◇------


「うう……」

 なんか寝苦しい。 つ~か、身体が動かない。

 金縛り? この世界にも金縛りがあるのか?

 辺りはまだ暗いが開けっぱなしだった窓から霧が流れこんできている。

 寝ぼけていたが、俺の身体の上に何かが乗っているのに気がついて、一気に目が覚めた!

 

 なっ!?


 なんだこれ? なんか乗ってるぞ? 人間? マジで?

 手を動かして確認してみると、確かに実体のある人間だ。 温かい。

 おれはそっと起き上がって、灯り代わりに圧縮弾を作る。

 圧縮弾が放つオレンジ色の光に照らしだされる物体。


 人間だ――女。 

 腰くらいまであるちょっとウェーブした栗色の髪。 白い薄い寝間着から、こぼれそうなデカイ胸――。


 師匠じゃん!


 なんで、こんなところに師匠が。

 圧縮弾が破裂しないようにそっと解除すると、師匠を起こさないように抜き足差し足で脱出を試みる。

 そんな行動も虚しく、師匠にシャツのケツを掴まれて、首が絞まる。


「ぐぇ!」

「何処へ行くのです?」

「あ、起こしてしまいましたか? 師匠を起こさないようにしようとしたんですが……」

 

 そんな事を言ってとぼける俺を、無視するようにベッドの縁をポンポンする師匠。

 座りなさい――の意味だ。


 俺が観念して座ると、師匠が抱きついてくる。

 

「師匠、何故ここにいらっしゃるんです?」

「ここは私の家ですよ。 居ておかしいんですか?」

「え~、おかしくはないんですが、何故私のベッドで……」

「ここは私の家ですよ。 何処で寝ようと私の勝手です」

「そうですが……」

 

 師匠が腕を俺の首に巻きつけて、胸を押し付けてくる。

 俺は、師匠の脇をまさぐると、くすぐり始めた。


「はっ、ちょっとショウ! ハハハッ、止めなさい。 アハハハ」

 身体をくねくねさせて悶え始める師匠。

 

「師匠が、ステラさんと同じ事をしろって言ったんですよ」

「クックックッ、アハハハ、だめぇ!」

 伸びたり縮んだりベッドの上でバタバタと繰り返す。


「魔法使ってもいいですよ」

「アハハハ、使えるわけないでしょ、ヒヒヒッ、やめて!」

 

 パッと手を離して、くすぐりを止める。

 

「こんな感じで、ステラさんを縛り付けて、泣くまでやったんです」

「あの、ステラを泣かせたのですか? あなた恨まれますよ?」

 少し涙目の師匠が言葉を返してくる。

 

「エルフから少し嫌われたほうが良いのでは」

「ふう、貴方解っていませんね。 エルフに恨まれると死ぬまで付きまとわれますよ」

 くしゃくしゃになってしまった髪を気にしているようだ。

 

「ええ? 普通嫌ったら、離れたり無視したりしませんか?」

「エルフは嫌いな者ほどつきまとって、嫌がらせを繰り返すのです。 ショウの言葉で言うと『粘着』されます」

「うわぁ、なんてこったい」

「でも、大丈夫。 私が守ってあげます」

 そんな事を言って抱きついてくる師匠の目先に指を立てて制する。

 

「師匠の申し出大変にありがたいのですが。 私も男ですので、自分で蒔いた種は自分で刈り取ります。 申し訳ございません」

「そうですか。 解りました」


 師匠は少しムッとした表情をすると、髪をまとめお城へ戻り支度を始めた。

 俺も帰ろう、腹減ったし。


 そとへ出ると、霧で真っ白な世界だ。

 しかし、森のほうをみると、何か光る物がユラユラと動いているような……。

 

「師匠、あれ何ですか? 何か光るものがいますよね?」

 師匠がジッと森のほうを眺めて――。

「……ウィル・オ・ウィスプでしょう。 魔法が効かない魔物ですよ。 こちらには来ないと思いますが、厄介なので早く去りましょう」

 おお、ウィル・オ・ウィスプってマジでいるのか。

 感心していると、ポケットに地下で見つけた金の腕輪を入れっぱなしなのに気がついた。


「師匠、コレあげます」

 そう言って、金の腕輪を師匠に差し出す。

 

 師匠は金の腕輪をジッと見ていたが、パッと俺の手から取ると、魔法を発動した。


「先に行きます」

 そう言って師匠は霧の中へ消えていった。

 

 俺は、ツッカケ(サンダル)なんで、魔法を使ってもゆっくりしか移動できない。

 のんびり帰ることにしよう。


 お城に帰って朝ごはんを食べる。

 簡単に玉子焼きとスープとパンにした。

 玄関のドアが壊れたままなので、早く直さないと。

 朝飯を食いながら、ドアの修繕を思案しているとステラさんがやってきた。

 

 飯を食べるかと聞いても無言なので、とりあえずコーヒーだけ出した。

 だが、横を向いたまま、じっと座ってるだけだ。

 嫌いなら来なきゃいいんじゃないかと思うんだが、エルフってのはよく解らん。


「コレ、要ります?」

 テーブルの上にポケットから取り出した、金の腕輪を乗せる。

 

 ステラさんは横を向いたまま、横目でじ~っと見ている。

 その姿は元世界の動物園で見たハシビロコウを思い出した。

 いったい、何がしたいんだこの人は。


 少し呆れて、コーヒーのおかわりを入れようとシンクに立ったのだが、振り向いたら腕輪とコーヒーが無かった。

 

 う~ん、解らん。

 考えるだけ無駄のような気がしたので、玄関のドアを直すことにした。


 ------◇◇◇------


 次の日、殿下の急襲を受ける。

 馬乗りになって首を絞められて、挙句噛み付かれた。

 どんなご褒美なんだよ。

 激怒している殿下の話を聞くと、師匠とステラさんが、俺がプレゼントした金の腕輪を自慢したらしい。


 なんだ、2人とも反応が薄かったので、あまり嬉しくなかったのかな? と思っていたのだが。


 アレは元々お城の地下で見つけた物だし、ちょっと殿下には負い目を感じてしまう。

 その負い目を埋めるために、細工師のカリナンさんと一緒に殿下の腕輪を作る事にした。

 デザインは、RPGに出てくるような蛇が腕に巻き付いているようなデザインにしてみたい。

 その旨をカリナンさんに相談したところ、凄い面白いデザインだという事で、彼女の工作も捗ったようだ。

 材料は、俺の所で精錬した白金プラチナ

 かくして、白い蛇は紅玉ルビーを咥え、目は赤く光り、殿下の珠肌が光る腕に巻き付く――。

 そんなデザインの腕輪が完成した。


「如何でございましょう、その腕輪は」

「少々珍妙なデザインだと思うたが、中々良い」

「私の故郷では、白い蛇は金を運んでくる金運の証ともうします」

「うむ、ファーレーンでも白い蛇は吉報の証と尊ばれているぞ。 まさに妾にピッタリではないか」

「その通りでございます」

「ハハハハッ」

 手に腰を当て、高らかに笑う殿下。

 

「殿下、噛み付くのは止めてください。 噛み傷は治りにくいんですよ」

「腕輪の褒美だ。 ありがたく受け取るがよい!」

 

 確かにご褒美に違いないのだが。

 だが良かった、御機嫌を直していただいたか……。

 

 安心したのもつかの間、今度は伯爵領のミルーナに泣きつかれてしまった。

 いや~、ミルーナに贈り物は拙いんだけどなぁ。

 この世界でも、不義密通はよろしくない行為だ。

 まだ結婚式は挙げてないとはいえ……。

 

 しかし、ミルーナがいる伯爵領は、現在かなり重要なファーレーンの拠点になりつつある。

 彼女の御機嫌も無視出来ない状況だ。

 人前で入手先を明かさないという条件で納得してもらい、腕輪を製作してプレゼントした。


 メイドさん達も腕輪が欲しいという、さすがに全部を金銀で作るわけにもいかず市販の物で我慢してもらった。

 市販の物は木製で、組紐などで飾りが施してある。 それでも、買うと結構高価な物だ。

 ニムにも腕輪が欲しいか聞いてみたんだが、腕輪より美味しいものが良いという事だったので、2人で猟に行って鳥を沢山捕ってきた。

 メイドさん達と一緒に調理して、出来上がったフライドチキンを腹いっぱい食う。

 まあ、チキンじゃないから、正確にはフライドチキンではないけどな。


 

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