65話 宝探し
――ある日の夕方、ちょっと早い夕食をニムと一緒に食べた。
夕食の献立はカツ丼。
飯は白米が恋しいが、無い物ねだりをしてもしょうがないので、いつもの麦粟ご飯で食べる。
これはこれでそれなりに美味いのだが……。
ニムもカツ丼を食べて美味しいとは言っていたが、せっかくパリパリに揚げたカツを卵に浸してしまうので、それが理解出来ないと言う。
それが美味いのに。
そんな食事の後、ニムを俺のベッドに寝かせて彼女の背中にブラシを掛けている。
シュッシュッ――そんな音と共に抜ける黒い毛。
「ねこじゃ~ねこじゃ~とおしゃますが――はは、オッチョコチョイのチョイ! ってな」
ニムの背中にブラシを掛けながら歌う俺。
「ニャハハ! 変な歌だにゃ」
「浮気の現場に踏み込まれて、猫がいたんだよって嘘つくんだが。 猫が靴はいて、服着てやって来たのか! って怒られる歌なんだよ」
「猫を悪者にするなんて、悪い奴だにゃ」
あれ? そんな感想なのか……。
「それじゃ~死んじゃったはずじゃないの?~オ○ミさん――という歌はどうだ」
「それはどういう歌なんだにゃ」
俺にブラシを掛けてもらって、うつ伏せでうっとり顔のニムが呟く。
「盗賊の親分が囲っていた情婦に商人の男が惚れるんだよ」
「よくある話だにゃ」
「相思相愛だったんだけど、それが盗賊の親分にバレると簀巻きにされて男は川に投げ込まれる。 女もそれを追って自殺しちゃうんだ」
「酷い話だにゃ」
「ところが2人共生きててな、街でばったりと出会うんだよ。 それで、死んじゃったはずじゃないの?~オ○ミさんってわけだ」
「それでどうなったにゃ」
「その後、また2人共別れ離れになってしまい死んでしまうんだ」
「にゃ~!」
ニムがなんだか叫んでいる。
「でも、それじゃあまりに可哀相って事で、アマテラス様が天国に2人を呼んで、そこで夫婦になれるってそういう話」
「良かったにゃ~やっぱりアマテラス様は、良い神様だにゃ」
あれ? やっぱりそういう感想なのか……文化か人種の違いなのか。
というか、色々と捻った感想を持ってしまう俺が汚れているのか。
「今度は前をブラシしてほしいにゃ……」
ニムは身体を捻り仰向けになると、白い毛に覆われたお腹が現れる。
白い毛は、フワフワで柔らかい。
「いいのか?」
そう言って、腹にブラシをかけると何かに引っ掛かった。
「にゃ!」
ニムが小さく声を上げる。
「ん~なんだ……?」
ブラシを左手に持ち替えると、右手でニムのお腹を撫でる。
すると――何か並んだ突起がある。
「あ~副乳か。 ゴメンな気が付かなかったよ」
副乳に当たらないように、気をつけて腹にブラシを掛けるとニムは気持ち良さそうだ。
「ふにゅ~」
ニムの話によると、副乳は基本大きくはならないが、たまに大きくなって乳が出てしまう娘とかもいるそうだ。
先祖返りってやつだな。
ニムの腹にブラシ掛けながら、思わずフワフワのニムのお腹に顔を埋めてしまう。
「ああ~、モフモフのフカフカじゃ~。 温けぇ~このまま枕にしたい……」
ニムの腹に顔を埋めたまま呟く。
「すれば良いにゃ」
「そんな事したら、怖いお姉さま方に何されるか解らん」
「それが解らないにゃ、獣人なんて愛人にしかにゃらないのに……」
このニムの発言には理由がある。
この世界には混血とかハーフがいない。
人は人、エルフはエルフ、獣人は獣人でしか子供を作れない。 獣人でも犬人と猫人では無理。
極稀に、人間と獣人との間で妊娠することもあるが、出産することはなく途中で流れてしまう。
だから、子供を作れない獣人では本妻や正室にはなれないのだ。
「まあ、それすら嫌なんだろ。 よく分からんけど……」
「ショウ様程の方なら本妻側妻5人ぐらい、愛人が10人ぐらいいてもおかしくにゃいのに」
「おいおい、俺はそんなに絶倫じゃないぞ?」
俺がニムの腹から顔を上げて、彼女の顔を見ると――。
ニムも起き上がって俺のところへ顔を近づけてきた時、彼女の動きが止まり、そしてクルクルと耳を回す動作。
何か気になる音が聞こえているようだ。
ニムは、ベッドの横にある戸棚に入れてあった自分のメイド服を掴むと、音もなく工房の裏手へ消えた。
そのニムの動きを見て、俺は――またかと心の中で呟いた。
程なくして開く玄関の扉。
「ショウ、いるのですか?」
扉を開けてやって来たのは師匠だ。
とりあえず師匠にお茶を出し、師匠のところへ持っていくつもりだったカツ丼を用意し始める。
「ショウ、あなた毛だらけですよ」
お茶を飲みながら、師匠が俺の背中を見ながら呟いた。
「はい? あっとすみません。 ちょっとニムにブラシを掛けていたので」
すぐに、外へ出てパタパタと毛を払う。
それにしても、師匠の来るタイミングが毎回ドンピシャすぎる……こりゃ何か……。
用意したカツ丼を見ると、ちょっと警戒しているような顔していた師匠だが、一口食べて美味しいとわかったようだ。
師匠は箸を使えないので、スプーンで食べやすいようにカツも少々細かく切ってある。
「美味しいですよ」
「よかった。 師匠は意外と食べ物にうるさいから」
「あなたが変な材料で変な料理を作るからですよ」
「変って……美味しいものの真理を追究しているだけですが。 それの原料がなんだろうと、真理は1つではありませんか?」
そんな俺の問いかけに黙る師匠。 美味しいのは解っていても、ゲテモノは許せないのだろう。
しかし、そんなことを言ったら、牛の乳を飲んだり、鳥の卵を食べたりだって、結構ゲテモノだと思うのだが。
そんなツッコミは置いておいて、師匠にちょっと疑問をぶつけてみる。
「師匠、ちょっとお聞きしたいことがあるのですが?」
「なんですか?」
「師匠、私の部屋に何か仕掛けてます?」
カツ丼を食べている師匠の動きが止まる。
うん、確信した。 こりゃ、クロだ。
「何の事だか、わかりませんが……」
また平然とした様子でカツ丼を食べ始める、師匠。
「それは、失礼いたしました」
ここで突っ込むと、藪から蛇どころか洞窟からドラゴンって事になりかねない。
要は、師匠が俺の部屋に何か魔法を仕掛けて、俺の動きを監視しているのだろう。
最初は俺が禁忌とかをいじり始めているので、それを監視しているのかと思ったのだが、どうも違うらしい。
ただ、単純に人の出入りだけを見ているようだ。
特に、女の子と2人の時とか――。
それなら、毎回タイミング良く俺の部屋へ踏み込んでこられるのも納得いく。
さすがに、殿下と2人きりの時はやって来ないようだが。
まあ、殿下は周りに護衛がいると言っていたから、実質俺と2人きりということではないのだろうが。
なんだか、師匠の事がよく解からなくなってきたが……つ~か、怖い。
そんな事を考えていると、ジロリと俺を睨む師匠。
どうやら、心を読まれているらしい。
勘弁してほしいのだが、師匠に言わせるとブロック出来ない俺が悪いらしい。
確かに、魔導師などは感応通信をブロックしているのでその方法はあるのだろうが、今の俺にはそれが出来ない……。
う~ん、なんとかしたいのだが。
「師匠、もう1つ質問があるのですが、よろしいでしょうか?」
「なんです?」
「エルフの精霊魔法ありますよね? あれで赤い実を探せないんですか?」
「はぁ……」
それを聞いた師匠は大きなため息をついた。
「あ、実はよく聞かれる事でしたか?」
「そうですね、考える事は皆同じなようです。 精霊魔法と言っても影響する範囲が、大幅に魔法と違っているわけではありません」
「魔法だと100スタックぐらいですが、そんなに変わらないんですか?」
「そうですね、1倍半ぐらいですか。 それに精霊は宥めるのが大変なのです」
カツ丼食べ終わって、お茶の入ったカップを両手でもっている師匠が言う。
「宥める? すぐに飽きて言うことを聞かなくなるとか?」
「そうです。 エルフは基本、精霊を使えはしますが、十分に使いこなす事ができるのは僅かなのですよ」
「じゃあ、ステラさんは結構凄いんですね」
黙って頷ずく師匠だが、いくら凄くてもあのエルフって生き物には閉口させられる。
「それじゃ、人間より若干索敵範囲が広がるぐらいなのか……」
独り言を呟く俺に、師匠が反応する。
「それに、あなたが見た白い花はすぐに枯れてしまったそうではないですか」
「そうです。 ものの半時持たなかったですかね」
「そういう条件が特殊な物を見つけるのは簡単にはいきません」
「う~ん、美味い話は無いって事ですね」
「その通りです。 でも、白い花の実が黒くなると独特の匂いを出すので、それを動物や獣人に追わせて、黒い実を狩る事で生計を立てている人もいますよ」
「へぇ」
なるほどな、いろんな商売の人間がいるなぁ。
まあ、黒い実でも金貨100枚(2000万円相当)だからな――1粒でも見つければこの世界では10年は暮らせる。
まさに一攫千金だ。
そんな扱うのが難しい精霊だが、上手く宥めると1リーグ(約1.6km)ぐらいはお使いしてくれることもあるらしい。
それは凄いけど、肝心なところでそっぽ向かれたりしたら大変だしなぁ、趣味でしか使えないよな。
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発電機を作ったが、1台あれば電磁石が作れるので、わざわざ磁石を作るために落雷させる必要が無くなった。
だが、1台では当然容量が足りなく、現在は同軸に5台の発電機が並列に繋がれている。
交流発電機は、直列には繋げないが並列には繋げられる。
出力は――電流計も電圧計も無いのではっきりとは解らないが、おそらく12~16V50Aぐらいは出てるはず。
それを変圧器で昇圧して使っている。
変圧器というのは、鉄心にコイルが巻いてあり、その巻き数によって電圧を変えられる装置だ。
例えば、1次コイルを100回巻いて10V1Aを掛ける。 そして2次コイルを200回巻けば20V0.5Aが出力され、電圧が2倍になれば、電流は1/2――という具合になる。
これはもちろん計算上の話で、実際は変換時に熱が発生するので、それが損失となって失われるわけだ。
この変圧器を使って約100V7A程の出力を得、少し大きな電球も灯す事ができるようになった。
夜中により明るくなった俺の部屋は、ますますステラさんとか師匠のたまり場になってしまうのだが……。
無論、この変圧器は魔石からの起電力にも使用可能で、魔石を並列に繋いだ物に使用して、前から注文があったサーチライト型の大型電灯も作れるようになった。
サーチライトと言っても、電球は原始的なエジソン電球というわけで、あまり明るくはないのだが……。
それでも、蝋燭の明かりでは不可能な事なので、結構重宝されているようだ。
そして、前々からの念願だった溶接だが――100V7A程度ではちょっと出力不足で、後5台程並列に繋ぐか、もっと大型の発電機が必要だと分かった。
それ故、溶接は棚上げして、工作機械のモーター化を進める事にした。
いままでは水車を動力にしていたので、水車から離れて工作機械を使用することが出来なかったが、モーターがあれば電線を引けば何処にでも機械を設置可能だ。
水道のタンクに井戸から揚水するための真空ポンプも作れる。
しかし、何もかも手作り故、地道にコツコツと装備を整えていかないと……。
モーターを弄っていて、モーターの速度をコントロールする方法も見つけた。
いままでは、革のベルトを使って動力伝達をしていたのだが、速度を変えるにはベルトを掛け替えるしかなかった。
ところが魔石を使ってモーターの回転をコントロールする方法があったのだ。
モーターと発電機の間にコイルを設置して、それに大きめの魔石を近づけると発電機からの交流の周波数に干渉できるようで、この現象を使って速度のコントロールが可能になった。
この方法だと、なんといってもモーターのトルクが落ちないのが、メリットだ。
はっきり言ってこれは凄い。 こんな簡単な方法でモーター制御出来るなんて、インバータ要らないじゃん。
魔石マジ便利すぎ。
あと、何が作れるかと色々と考えてみたのだが。
コイルと磁石が作れるなら、マイクとスピーカーが製作できるだろう。
これらから導かれる発明は――つまり、電話だ。
しかし、可能な限り電話は一番後にしたい。
何故ならば!
電話なんか作った日にゃ、殿下や師匠から四六時中呼び出しをくらうに決まってるからだ!
そして、酔っ払ったエルフからのイタ電が掛かりまくってくるに決まってる!
元世界でも、休日に電話で仕事に呼び出されたりと、碌な思い出がない。
というわけで、電話は一番後回しだ。
電線の原料になる銅の値段も安くないしな。
もし、他の土地への通信のために外へ電線などを張ったら、あっという間に盗まれてしまうだろう。
外に銅貨がぶら下がっているような物だからな。
通信をするなら、無電だろう。 一応、無電を作るための材料は揃っているとは思うが――。
装置が複雑になりそうだし、色々と実験しないとダメだろう。
それは後で考える事にするか。
そうなると、他に何が作れるかな~?
コイル……コイルか。
う~ん、そうだ。 金属探知機なら簡単に作れるぞ。
何か宝探しとかに使えるかもしれん。
金属探知機の仕組みはこうだ。
ちょっと大きめの輪に収められたコイルに交流が流れている。
そのコイルの近くに金属があると磁場が発生するので、その変化を利用することで金属を探知できる。
という具合に仕組みはシンプルで、魔石を使えば起電力は丁度交流なので、そのまま使える。
そんな金属探知機だが、俺がガキの頃に自作した事がある。
俺が作ったのは、ゴミ捨て場に落ちていたブラウン管テレビの電子ビーム偏光コイルを使ったジャンクだったけどな。
交流を作る振動子には、マ○チモーターを使ったが、それなりに機能していたと思う。
TVで隕石ハンターの番組を見た俺は、それを真似したくなり、親父が持っていた色んな機器の仕組み大辞典とかいう本の構造図を見ながら、機械を自作したのだ。
どのみち親父に話しても、そんなの自分で作れとかしか言わんし。
そんな昔を思い出していたら、金属探知機が完成してしまった。
作った金属探知機は、長い棒の先にラーメンどんぶり大のコイルがついている。
その中心には魔石が設置され、元世界の金属探知機とはちょっと形が変わっているが、構造的には間違っていないので機能はするはず。
手元には豆電球が光っていて、コイルの中に金属が入ってくると、コイルに発生する磁場が魔石に干渉して豆電球がチラチラと暗くなる。
これで、金属を探知出来る仕組みだ。
試しに工房の外に硬貨を投げて使ってみたが、上手く動いているようだ。
ただ、元世界の探知機のように、予めある程度の大きさの金属に反応を限定させたりとかそういう高機能さは無い。
形はともあれ、完成した。
逸る心を抑えきれず、早速宝探しをしてみたい。
ガキの頃の宝探しは、畑を駆けずり回って挫折したが、この世界では何処を探せば良いか?
森の中を散策しようとも考えたが、こんな世界だ、硬貨を落としたりとか物を無くしたりとかは、戦場の方が頻発にあったのではないか?
そんな結論から、お城の人間に聴きこみをすると、お城の東側が古戦場だったという話を聞く。
確かに、東側には何もない草むらに、低木と昔の戦に使われたと思われる土塁がそのままになっている。
この土塁が邪魔になっていて、畑の開発に向かないようだし、骨がゴロゴロ出てきたりして開拓が進んでいないのも確かだ。
スコップと金属探知機を担いで、古戦場だったという原っぱにやって来た。
早速、魔石をセットして宝探しを開始すると、すぐに反応が――。
掘り起こすと、矢尻だ。 これは沢山出てきた。
大きなアーマーとか、剣とかは、すぐに回収されてリサイクルされるが、こういう小物はそのまま放置されているのだ。
もちろん、土に塗れてしまうと判別出来なくなるというのも大きいだろう。
次は鉄製の指輪、銅貨と続き、豆電球が妙な反応をしたと思ったら、魔石も拾った。
これはデカイ。 小さい物でも数万円はするからな。
3日間宝探しに興じてみたが、銀貨も1枚見つけた。 これだけでも5万円ぐらいの価値だ。
たまたま運が良かったとはいえ、3日地面掘り起こして、10万弱ならかなり良い稼ぎだ。
しかし、これでいつまでも遊んでいるわけにはいかないので、この金属探知機を獣人に貸して、言葉は悪いが上前をハネる事にした。
獣人食堂オニャンコポンで暇そうな獣人を3人スカウトしてきた。 男2人と女1人。
一応、食堂で何回か見かけた顔なんで、機材の持ち逃げとかはないだろう。
材料費だけでも、結構金が掛かってるからな。 持ち逃げされると結構痛い。
まあ、そんな事をすれば八分になるのが目に見えているからな、いくら目先の金に目が眩み易い獣人でも、心配ないだろう。
その獣人達に金属探知機の使い方の説明をする。
「とまぁ、こんな感じで使って、宝探しが出来る機械なんだ」
「はぁ、土の下に金属があると、この光ってるのが暗くなるでげすね?」
獣人の1人が、豆電球を指さして光っている豆電球を覗きこんでいる。
「信じられないにゃ」
「論より証拠でやってみるか?」
俺は、金属探知機を左右に振りながら歩き始めて、電球が暗くなる場所を見つけると、獣人達に掘らせてみた。
掘り返した土の山に金属探知機を当てると、反応している。
「その山の中にあるみたいだな」
土の山を調べさせると、中から小四角銅貨が出てきた。 こりゃ一番小さい銅貨で、価値は日本円で25円ぐらいの価値しかない。
「あたしがやってみるにゃ!」
この機械で本当にお宝を探せると解ったのだろう。 そう言って、女の獣人が金属探知機を左右に振りながら歩き始めた。
機械と一緒に尻尾もゆらゆらと左右に動いているが、突然くるくると回ったりとか、尻尾だけ見ていても動きが多彩だ。
あまりにユーモラスなので、ちょっと微笑ましくて、顔が緩んでしまう。
そして、金属探知機が反応している所を掘り返してガラクタを見つけるのを十数回繰り返した後、土の中から黄色い物が――。
「にゃ!」 「これ、金貨じゃね?!」 「おおっ!」
なんと、金貨が土の中から出てきた。
「にゃぁぁぁ! 真学師様、金貨にゃ! 金貨が出てきたにゃ!」
興奮した獣人の女が金貨を差し出してくる。
「わかった、わかった。 金貨はお前達が見つけたんだから、お前達で山分けしろ」
「いいのきゃ?!」 「いいんでげすか?」
「ああ。 機械の使い方は解ったろう? 俺もお城の仕事があるから、いつまでも宝探ししてるわけにいかないんだよ。 それを貸してやるから、儲けたら少し分け前をくれれば良い」
「ホントにそれでいいのきゃ?」
「ああ」
獣人達は、金貨を見つけたって事で、俄然やる気を出したようだ。
それから、1週間獣人達は土に塗れて探しまくったそうだが、結局金貨は1枚だけだったらしい。
まあ、金貨1枚20万円相当だ。 3人で分けても1人7万円弱で、探索に1週間掛けても、かなりいい稼ぎになる。
貧民だと一日の稼ぎは銅貨2枚(1000円相当)以下なんて普通だからな。
そりゃ、喜ぶだろう。
魔石の充填に一回数千円程度の経費が掛かるとはいえ、アーマーのパーツ、指輪、銅貨と金になるものは結構出てきたらしく、そんなのは問題にならないぐらいの稼ぎだ。
そんな獣人達の相手をしていたら、その噂を聞いた他の獣人達からも、金属探知機を作ってほしいという要望が来た。
作るのは良いが、材料費が結構掛かる。
1台金貨1枚銀貨2枚(30万円相当)払うなら作ってやると言ったら、ちょっと顔を見合わせて躊躇したようだったが、アチコチから金を集めてきた。
そのために借金をしたやつもいるらしい。
大丈夫なのかよ? 借金を返せないと奴隷に売られるんだぞ?
どうも、獣人というのは勢いで行動しがちなんで、ちょっと困ってしまう。
一応その旨も確認したが、古戦場は他にもあるので、機械の代金ぐらいは稼げると踏んだようだ。
まあ、それなりに考えているなら大丈夫か……。
最初心配していたが、意外と宝探しは上手くいってるようで、機械の代金はすぐに回収出来ているらしい。
俺の機械のせいで、獣人達が奴隷に売られたりしたら寝覚めが悪いので、借金の面倒も見なくちゃならんかな?
――とか思っていたのだが、余計気苦労だったか。
めでたし、めでたし――と思ったら。
「ショウ! 其方、また妾を蔑ろにしおって!」
息を切らして俺の工房に飛び込んできたのは殿下だ。
「はいぃ?」
俺は、突然の殿下の問に間抜けな返答をしてしまう。
「其方、獣人達に怪しげな機械を持たせて、宝探しをさせているそうではないか!」
「はぁ……。 まあ、私が指図して行わせているわけではありませんよ。 儲けから少し分け前を貰ってはおりますが」
「すぐに、妾にもその機械を用意いたせ!」
「はぁ? 何故に?」
「妾も宝探しするに決まっておろうが!」
殿下は俺の回答が気に入らないのか、足を踏み鳴らしている。
「宝探しと言っても、出てくるのは小銭ですよ? なんで大金持ちの殿下が、わざわざ小金探しをしなければならないのですか?」
「小銭と言っても金だぞ! 小銭も積もればテルル山だと、以前申したであろう!」
「まあ、確かにそうおっしゃいましたが……」
「四の五の言わずに、はよ用意するが良い!」
「では、私用に作った物がありますので、用意いたします」
「うむ!」
殿下は両手を腰に当て、ふんぞり返っている。
とりあえず、金属探知機を用意して殿下に使い方を教える。 それは良いのだが、意味が解らん。
なんで、大金持ちの殿下が小銭探しするのか?
俺の疑問を余所に、殿下は古戦場へ宝探しに繰り出した。
当然、殿下が外に出るとなると、単身というわけにはいかない。
従者、護衛、騎士隊を配置して、周囲を警戒。
これだけ経費を掛けて小銭探しとは、全く意味不明だが、ここまで固執するには何か殿下に拘りがあるに違いない。
1日で飽きて放り出すかと思ったのが――余程、宝探しが楽しいとみえて、3日連続で泥まみれになって作業をしている。
益々解せないが、さすがに3日も政務を放棄して宝探しをしたところで、大臣と政務官の泣きが入り、宝探しは終了した。
そして、これは売れると踏んだのか、工作師工房で金属探知機のコピーを作らせるようだ。
電球は工作師工房では作れないので、伯爵領になったミルーナ様の所に発注するのだろう。
そりゃ、しばらくはアチコチの古戦場で、宝探しは出来るだろうが、全部掘り出してしまったら、ただの役立たずになるんじゃないかな?
と、余計な心配をしてしまう。
まあ、魔石やコイルの銅は再利用出来るし、まったく無駄になるわけでもないのだが。
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後日、殿下に取られた俺用の金属探知機をもう1つ作った。
朝食後、その動作試験をするために工房の隣にある離れの脇へ――。
離れがある中庭は、一番奥がゴムの木林になっていて、離れと林の間は色々な作物が植えてある俺の試験栽培場になってる。
ガキの頃にやったように、畑の中を金属探知機を振りながら歩く。
まあ、何の気なしに始めたのだが、何か反応がある。
しかもちょっとデカイ。
工房に戻ると、スコップを持ってきて反応のあった所を掘り始めた。
重量軽減の魔法を使えば、掘削も簡単だ。
掘りながら金属探知機を使うと、下へ行くほど反応が強い。
2m程掘削すると、何か鉄製の物と石組みが出てきた。
「なんだこりゃ? 扉か?」
それは錆びついた鉄の塊になっていたが、扉のようだった。





