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異世界で目指せ発明王(笑)  作者: 朝倉一二三
異世界へやって来た?!編

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63話 金銀パールには入ってなかった白金(プラチナ)到着

 

 この世界でクズ銀と言われてる白金プラチナをゲットするために、フリフル峡谷という所へやってきた俺。

 白金プラチナはゲット出来たが、大怪我をした獣人を治療するために魔法を使いまくり、疲労困憊――晩飯も食わずにベッドに倒れこんだ。


 ――リンリンリンリン


 魔石が甲高い音を出す!

 俺は、ベッドから飛び起き身構えると――暗くて解らないが、入口からすぐの所に誰か倒れているようだ。


「誰だ!?」

 俺はベッド脇のテーブルに置いていた魔石電灯のスイッチを入れて、侵入者らしき者を照らすと獣人の女が2人倒れていた。

 

 部屋の真ん中に置いた結界用魔石を停止させて、彼女達に近づくが――よく見ると、食堂で一緒だった垂れ耳と黒ブチ子だった。

「なんだ、お前ら刺客とかなのか?」

 魔石電灯で照らしながら尋問する。

 

「ち、ちがうにゃ……ただ、ヤリにきただけにゃ」

「う、キボチ悪い……ま、眩しい」

「対侵入者用の結界に引っ掛かったんだ、そりゃ気持ち悪くもなる」


 色々と聞いたが、逆夜這いに来ただけみたいだな。 人騒がせな。

 

 俺はズボンだけ履くと、重量軽減の魔法を2人に掛けて小脇に抱えると、月明かりの中彼女達の宿舎へ向かった。

 どうやら、都市では中々見られない光景だが、女は一カ所に集められて、人間も獣人も一緒に共同で生活しているらしい。

 こういう所にいる女は狙われる事が多くて、種族を越えた女同士で助け合っていると、俺の小脇に抱えられたままの黒ブチが呟く。

 一方垂れ耳は、結界の効きが酷かったらしく完全に戦意喪失して、ぐったりしている。

 抱えて解ったが、犬人は猫人と違う匂いがするな。 毛並みも猫人より硬くて太いし。

 そういえば、大騒ぎしていたノミはどうなったのか?

 聞けば、灰を浴びまくって、風呂で身体を洗いまくったらしいが……それで本当に大丈夫なのかは不明だ。


 真っ暗な彼女達の宿舎の扉を開けると、女達が飛び起きた。

 さすが、獣人だな。 音に敏感で反応が早い。


「おっと、待て! 勘違いするな。 真学師のショウだ。 お前等の仲間が俺の罠に引っ掛かったんで、返却しにきただけだ」

 俺はそう言って、垂れ耳と黒ブチを床に放り出した。

 

 女の1人が蝋燭の灯を灯すと、浮かび上がる床に倒れた2人の獣人。

「うにゃ~もっと優しくしてにゃぁ……」

 この後に及んで、まだそんな台詞を吐く黒ブチだが――。

 

「あんたら、抜け駆けしてぇ!」 「あたしらまで嫌われたらどうするのさ!」

 2人は、宿舎の女達から集中砲火を浴びている。

 

 女達がギャーギャーと言い合っているが、柴犬みたいな犬人の子が話しかけてきた。

「真学師様、せっかくだから遊んでいく?」

「お誘いありがたいけど、昼間の騒ぎで魔法を使い過ぎてクタクタなんだ」

 俺が頭を撫でると尻尾をブンブンと振って喜んでいた彼女だが――俺の話を聞くと、皆と一緒に尻尾は垂れ下がってしまった。

 実に解りやすい。


「ごめんな。 皆の事嫌いなわけじゃないんだぜ」


 ションボリと意気消沈する獣人達を尻目に、すぐに俺が泊まっている宿舎のベッドに戻った。

 結界をまた張って寝る。 頼む……寝かせてくれ。

 まあ、疲れてやれないとは言ったけど、マジで疲れてると逆に勃ったりするよな。

 仲間内では疲れマ〇とか呼んでいたけど、あれは何故なんだぜ?

 マジで死にそうになると、種族維持の本能に目覚めて――なんて話を聞くけど、ホントかね?

 そんな事を考えながら、俺は眠りに落ちた。

 

 ------◇◇◇------


 ――次の日。

 自分的にはかなりぐっすりと眠ったつもりだが、寝る時間がメチャ早かったので、目が覚めてもまだ暗いままの早朝だった。

「腹減った……」

 俺は、鞄からパンとチョコを出すと、チョコを魔法で溶かしてパンに塗って頬張る。


 美味い。


 美味いが、俺の手作り蜘蛛チョコは色が真っ赤なので、見た目は血まみれみたいでよろしくない。

 やっぱり疲れている時は、甘い物が効くな。

 このチョコは、食い過ぎるとアレだが、栄養の塊なので、滋養強壮に実に効く。


 飴玉を舐めながら外へ出ると、霧の中外が白み始めていたが、さすがにこの時間に働いているやつはいない。

 やる事もない俺は、魔石電灯を片手に上流を探索していた。

 まさか、挨拶も無しにこのまま帰るわけにもいかないからな。

 

 しばらく探索していたが、何も面白そうな物が無かったので、宿舎に戻ってきたが――。

 下では大騒ぎになっていた。

 話を聞くと、ウィルオウィスプが出たと言うのだ。

 そんなのは初めて聞いたので、どんな物かと聞いたら霧の中に光る玉が飛んでいたと……。


 ああ、もしかして……俺じゃん!


 まあ、黙っていようか。 説明するのも面倒だし。

 俺も、マジで酷いやつだな――と自分で思う。

 ウィルオウィスプって、日本で言う人魂とか火の玉の事なんだろう。

 不知火とか鬼火とか、こういうのはどんな世界でも共通なんだろうか?


 貴族のフーシェルも顔を見せたので、そろそろおいとまする旨を伝える。

「それではフーシェル様、クズ銀の事よろしくお願いいたしますよ」

「いやあの、それは承知いたしましたが、ウィルオウィスプの件は……」

 オロオロとうろたえる貴族様だが――とりあえず、たしなめる。

 

「出たのは初めてでしょう? 何かの見間違いかもしれませんし」

「はあ、あの……」

「改めて実害が出ましたら、すぐにご連絡ください。 お城の魔女か破滅がすぐに飛んできますので」

「い、いやちょっと待ってください! そ、それはちょっと!」

「それでは失礼いたします。 視察にご協力ありがとうございました」

「――!」


 すがるように引き止めようとする貴族様を尻目にそそくさと退散する俺。

 人魂は見間違いなんだから、もう出ないちゅ~の。 マジで出たら貴族なんだから剣でも振ってくれ。

 自分の事は棚に上げる俺。

 視察もしたし、人助けもしたし、十分に仕事したよな。

 うん。


 ------◇◇◇------


 途中の森で寄り道をしてしまったが、昼前には城下町プライムに帰ってくることができた。

「ふう……やっと帰って来た。 たった1泊2日だってのに、えらい疲れた気がするぜ」

 それにしても、腹が減った。 魔法を使うと腹が減る。

 しかし、旅に出るってのは、食事が粗末になるな。

 美味いものを食うってのは明日への活力に繋がると、改めて思うわ。


 ちょっと早いが燦々(さんさん)亭へ行ってみるか。


 燦々(さんさん)亭のドアを開けて声を掛ける。

「ちわ~、ちょっと早いが大丈夫かい?」

「あれ? 真学師様。 こんな時間は珍しいですね」

 女将さんが出迎えてくれたが、出かけた帰りだと説明すると――奥にいる主人の声が聞こえる。


「真学師様、ちょうど出来たところですんで、大丈夫でございますよ」

「ああ、それじゃ肉焼とスープ、パンをくれ」

「わかりやした!」

 ちょっと早いと思ったが、もう客が何人か入っていた。

 いつも昼しか来ないからな……そんな事を考えていたら、女将さんが料理をもってきた。


「真学師様、なんか帝国で無限連鎖講って新しい商売が流行っているって聞きましたけど、あれってどうなんです?」

「あ、ああ。 あれはインチキだから、手を出すなよ。 お城から厳禁の御触れが出てるだろ? 首が飛んでも知らんぞ」

「はあ……」

 店の他の客も興味があるようだったので、小銭を集めて無限連鎖講の説明をしてやる。


「――こうやって末端の客は損をするわけだ。 それでも、儲けようとすると別の客を誘わないとダメになる」

「それがダメなんですか?」


「ファーレーンで勧誘するやつがいなくなったら他の国を探すだろ? 簡単に言えば、ファーレーンでやってる奴らを全員黒字にしようとしたら、ファルキシム、ファルタス、アルスダット――他の国を全部赤字にしないと、黒字にならない。 そして、他の国も黒字にしようとすると、さらに大量の国が赤字になるんだ。 そうやって、無限に赤字の国が増える」

「それじゃ、インチキじゃないですか」

 女将さんは両手を広げた。

 

「だから、インチキなんだよ。 もう帝国じゃ破綻して、大騒ぎになっていると聞いたぞ」

 女将さんはやっと納得したようだ。


「だから、言っただろう、そんな美味い話なんてある訳ねぇって」

 奥から主人の怒鳴り声が聞こえてくる。

 

「そうだ、美味しい話なんてないんだよ。 絶対に儲かる! そんな事を言うやつは間違いなく詐欺師だから」


 皆が幸せになれるって奴も詐欺師だよな。

 地上の楽園――そんな話に騙されて、信じる者は足を掬われる。

 儲かると書いて信者也。

 ハッハッハ。


 ちょっと寄り道したが、やっとお城に到着。


 ――と思ったら、早速ニムに捕まる。

「ショウ様~。 ニャ! にゃんでこんなに臭い付けてるにゃ! しかも犬コロの臭いまでするにゃ! 信じられないにゃ!」

「鉱山に、獣人が沢山いたんだよ。 仕方無いだろ」

「獣人がいても、臭いを付ける事ないにゃ!」

「大怪我した獣人が出て、治療とかしたんだよ、勘弁してくれ」

 身体中をスリスリして、臭いを上書きしようとするニムを振り切り、殿下に報告を済ます。 まあ、何も問題無かったしな。

 落石事故は、あいつらの責任じゃないし……。


 一通り仕事が終わり、自分の部屋のベッドに倒れこむ。

「ふうう……疲れたわ~。 そんなに臭うかな?」

 身体中をクンカクンカしてみるが、解らん!

 鍵も掛かってたし、部屋を荒らされた節も無い。 ステラさんも来なかったか。

 これで荒らされてたら、心が折れてたな。


 さて、一休みしたら、1tの白金プラチナを置くスペースを作らないと。

 そうだ、運搬用にネコ車(1輪の手押し車)を作るか。

 あれがあれば、重いものを運んだり、畑仕事をするのに便利だな。

 ウチの田舎じゃ単にネコって呼んでたけどな。 ネコ車って全国区なのか?

 まあ、名前が面白いんでネコ車で良いか。


 どうやって作るか。

 木の板で箱を作れば簡単だが、重くなりそうだし鉄板プレスで作りたいが……。

 プレス機も無いので、ちょっと難しいかな。

 金型を作って重量増大の魔法とかで、押しつぶせばいけそうな感じはするがな。

 叩き出しでも作れるだろうが、そんな技はないしなぁ。

 相変わらず工作師やドワーフ達は忙しそうだし、個人的な趣味であまり迷惑は掛けられん。

 とりあえず、木の板で箱を作り、焼いた竹でフレームを作り――。

 荷馬車の車輪を付けて車軸にはローラーベアリング入り。

 そんなネコ車は完成した。

 持ち手は負荷がかかりそうなので鉄棒で補強してみたが、耐久性は如何なものか。

 溶接とかが出来るようになったら、鉄製の物にも挑戦したいのだが。


 ------◇◇◇------


 ――ネコ車が完成した次の日。

 外でネコ車の調整をしていると、ステラさんがやってきた。

 ――が、無言。 俺も無言。

 とりあえず、中に入れてコーヒーだけ淹れる。

 サイフォンは盗られてしまったので、普通のネルドリップだ。


「……」

「……」

 2人の間に沈黙の時が流れるが、ステラさんが口を開いた。 

「あのさ……ゴメン」

「……」

「私、ここ数日おかしかったでしょ? エルフってさぁ、数年に何回かおかしくなっちゃう事があって……」

「自分でおかしいって自覚はあるんですか?」

 

 コーヒーを一口飲んで俺が尋ねると、ステラさんは黙って頷いた。

「解りました。 解りましたから、ピコ(コーヒー)を淹れるガラス容器(サイフォン)を返してください」

「やだ」


 この糞BBAァァァァァ!


 全然反省するつもりは無いらしい。

 つ~か、ちょっとでも期待した俺がバカだった。

 まぁ俺も、ステラさんがひっくり返って死んだフリしてても、ほったらかしで逃げてきたりしているから、ちょっと可哀相だとは思ったけど。


「あ! いまちょっと、私の事可哀相かな~って思ったでしょ? 思ったよね。 その気持ちを大切にしないといけないと思うんだぁ」

 そんな戯言を言いながら、椅子から立ち上がったステラさんがやってくると、長い両手を伸ばし俺に抱きついた。


 うぜえぇぇぇぇぇ!


 マジで全然反省してねぇし!

 このうざいエルフをどうにかしようとバタバタしていたら、玄関の扉が開いた。

「ショウ? 帰ってきて――!」

 これまたタイミングよく師匠が顔を出してくる。

 

 次の瞬間、部屋の中心に光が集まり始めた。

 おおい! ヤバイって!


「ハッ!」

 俺の掛け声と共に弾けるような乾いた反響音が響き、師匠の集中力は途切れた。

 中断された魔法はピンク色の破片となり瓦解する。

 咄嗟にやった即席の魔法だが、上手くいった。

 要は、紙鉄砲と同じ――空気の圧力差から生れる音をシミュレートしたのだ。


 これは紙鉄砲魔法と名付けよう。


 紙鉄砲は距離が離れたり、屋外では効かないが、コレなら効果を期待できるはず。

 なら、紙鉄砲は要らないか? 紙鉄砲は魔法では無いので、併用できるのが強みだ。

 『黒のミミカ』 をやった時のように、紙鉄砲と魔法を併用すれば、初見殺しを成功させる確率を飛躍的に高める事ができると踏んでいる。


「師匠! 今度は、私の部屋を吹き飛ばすつもりですか?!」

「……」

 横を向いて黙り込む師匠。

 

 都合が悪くなると、すぐこれだ。


「はいはい! 私はやる事があるんで、帰った! 帰った!」

「ちょっと、ショウ! ああん!」

「可愛い声出してもダメです」

 2人をなんとか追い出し、ネコ車の調整を済ます。

 今日あたり、来るはずなんだよ。 2人の相手はしてられん。


 そんなアホな事をやっていたら、荷物が到着したと裏門から連絡を受けた。

「キター!」


 俺は裏門へBダッシュをかましてお城の裏門へ急ぐと、荷馬車が2台入ってきていた。

 馬車は、国営鉱山があるフリフル峡谷というファーレーン直轄地からやって来ているので、当然お城に入る際必要な魔石は持っている。

 普段は副門へ入り、直接鍛冶場のドワーフ達に地金持ち込んだりしているようだ。


 そんな荷馬車に知った顔の獣人がいるのに気がついた。

「なんだ、お前らだったのか」

「おう! 真学師様!」

 その獣人は、峡谷で大怪我をして、俺が魔法で脚を繋げた男だ。


「真学師様、ひでぇぜ! すぐに帰っちまうなんて。 せっかく大騒ぎしてドンチャンしようとしてたのによ」

「悪いな、俺も宮勤めなんでな。 色々と仕事があるんだよ。 大体仕事で訪れているのに、酒飲んで大騒ぎは出来ん」

「ちぇ! 固ぇな」

 遊んでくれない猫が拗ねるような態度が、中々可愛い。 無論、口に出してはいえないが。

 

「脚は大丈夫なのか?」

「まだちょっと動かし辛いですが、大丈夫でさぁ。 峡谷の魔導師も、大丈夫なら動かしたほうが早く治るって言ってましたし」

「それは、間違いないな」


 ちょっと左足を確認させてもらったが、内出血から鬱血うっけつが見られるが、それ以外は問題はないようだ。

 鬱血うっけつを長引かせないためにも、脚は動かした方が良い。


「よし、魔法で手伝うから、早速下ろしてくれ。 ここに下ろしてくれるだけで良い」

 荷物の下ろしを魔法で手伝うと、楽ちんだと獣人達は喜んでいる。

 やって来た獣人は4人で皆猫人だ。 荷馬車に2人ずつ乗ってきたんだな。

 荷馬車にはちょうど2つに分けるために、峡谷にあった200kg程の大瓶と、小さい瓶が2つ並んでいる。

 

「重い荷物で苦労しなかったか?」

「峡谷は下りだから、問題ありやせんでしたけど、丘の坂道を登るのに苦労しましたぜ。 荷物下ろして、昇って下ろしてってな」

 獣人達は笑いながら話しているが、ちょっと悪いことをしたな。

 

「そいつは悪かったな。 責任者のあの貴族からは、ちゃんと金はもらったか?」

「1人頭、小四角銀貨2枚(1万円相当)でさ」

「なに? それだけなのか? あの貴族には結構金を払ったんだぞ? あいつ、殆ど自分の懐に入れやがって……」

 俺は、懐から巾着を出して、獣人達に金貨を渡した。


「ほら、俺が金貨1枚追加してやるから、皆で分けろ」

「え? 良いんですかい?」

「ああ」

「やりましたね兄貴! え~と1人頭いくらで?」

「バカ、金貨1枚(20万円相当)を4人で分けたら、1人銀貨1枚(5万円相当)だろうが」

「さすが、兄貴!」

 アホな子分が、ベシッと頭をはたかれる。

 

 ああ、こんな計算もできないようじゃ、商人にカモにされるのも頷ける……。

「ハハハ、やったぜ、これで1週間分の稼ぎだぜ」

「まさか、日帰りするんじゃないだろうな」

「1泊する許可は貰ってますんで、宿を何処か探しますぜ」

「そうか、ここから西にな、獣人がやっているオニャンコポンって食堂があるから、そこの料理が美味いぞ。 たしか泊まりもやってるはずだ」

「オニャンコポンか、名前が良いぜ。 気に入った」

「女主人は美人だが、メチャ強いからな、手を出すなよ。 どうなってもしらんぞ」

「ハハハッ! 益々気に入ったぜ。 金も入ったし、久々に下の女でも買うとするかな」

「ナオオン!」

 天に向かって雄叫びを上げる獣人達。

 

「おいおい、大丈夫か?」


 荷物を下ろした獣人達は引き上げていったが、何もなきゃ良いが。



 さて、こんなもんを門に置いていたら邪魔だから、さっさと片づけてしまおう。

 工房の裏手に屋根付きの仮置き場を作った。

 ここじゃゴミ扱いだから、盗るやつもいないだろし。

 しかし、ゴミ扱いは酷いよな。

 一応金属なんだから、利用価値はいくらでもあると思うのに。

 今ある物で困ってないから、改めて新しい物を使う必要がないって事なのか?


 そんな事を考えつつ、重量軽減の魔法を掛けてネコ車で運ぶが、200kgの大瓶が魔法を使えば20kg以下になっているはず。

 20kgで壊れるような物なら、俺の作り方が悪いって事だよな。

 ギシギシと音はしているが、とりあえずは大丈夫なようだ。

 

 せっせと、白金プラチナという俺だけのお宝を工房の裏へ運んでいたら、殿下が飛んできた。

「ショウ! 其方、なんだそれは!」

「え~? クズ銀ですが……」

 殿下の剣幕に、ネコ車を持ったまま固まる俺。

 

「なんだと、クズ銀? なんでそんなものを……そうではない! その下の珍妙な荷車だ!」

「え? ああ、ネコ車ですけど……何か?」

「ラジルを呼べ!」


 ああ、白金プラチナの事かと思ったら、ネコ車の方が問題だったのね。

 早速、工作師の親方ラジルさんと工作師に弟子入りしたラルク少年が走ってやってくる。


 仕事とはいえ、忙しいのにちょっと気の毒になってしまう。


 彼等は、ネコ車の周囲をグルグルと回りながら、メモを取りながらアレコレ調べている。

「ラルク、元気にやってる?」

「はい! もう、勉強する事が多くて大変です」

「そうだろうなぁ……それにしても、このネコ車みたいな物は作られていなかったですか?」

「ネコ車という名前なのでございますか。 小型の荷車はあるのですが、このような1輪車は見たことがありませんな」

「この1輪ってところが、きもなんですよ」

 

 俺は、ネコ車を持ってクルクルと回ってみせる。

「こんな感じで、上手くバランスをとれば、狭い足場の上でも入っていけるわけで、最後はこうやって、ドサーと中身を空ける事もできます」

「なるほど!」

 殿下もネコ車の周りをグルグルと回っている。

 

「農作業にも土木作業にも使えますよ。 もっと深い箱なら、荷車にも使えます」

「凄い!」

 ラルクが黒板プレートへメモを取っている。

 

「本当はこの箱を鉄板で作りたいんですけど……」

「それだと値段が高くなってしまいますね、土木や農作業に使うなら安い方が良いです」

 ラルクの鋭い指摘が来る。

 

「そうだなぁ」

「よし! 早速作って売り出せ。 これなら売れるであろう!」

「ははっ!」

 ラジルさんは、早速工作師工房へ戻った。

 

「これ、狭い所にも入れるから、ネコ車なんて変な名前なんですか?」

 ラルクが質問してくる。

 

「まあ、そんな感じだ。 面白いだろ?」

 このままネコ車で定着してしまいそうだが、ネコ車が無かったとは思わなかった。

 ネットで木製のネコ車とかみかけていたんで、結構古い物だと思ってたからな。

 ということは、近代に入ってから普及した物なのか。

 ゴムタイヤじゃないのが残念だが、ゴムタイヤなんてまだまだ先だ。

 

 それにしても、変な名前を付けるとそのまま定着したり、変な事が流行ったりしちゃいそうで困る。

 真学師の地位を利用して、女性はミニスカを()()()()()と、寿命が延びることが判明しました!

 ――とかいう理論を発表したら、みんなミニスカになってくれるのかな?


 まあ、無理か。

 それに、BBAが揃ってミニスカになったら、大変だ。


 バカなことを考えてないで、持ってきた白金プラチナを調べてみるか。

 瓶から白金を一掴み皿に入れて観察してみると、白金なら柔らかいはずだが、硬い。

 ということは、何かの合金という事なのだが、白金と合金で考えられるのは、パラジウムかイリジウム。

 パラジウムの融点は白金よりかなり低いので、加熱してみれば解るだろう。

 すぐに溶ければパラジウムという事になる。


 早速炉に火を入れて魔法を併用して加熱してみるが、溶けない。 この事実から、これは白金イリジウム合金の可能性が高い。

 イリジウムは白金より、これまたかなり融点が高いので、このまま加熱して先に溶けるのがプラチナになる。

 白金合金は硬いので、そのまま使って――と思ったが、ダメだ。

 加工するとなると溶けないのは致命的な欠点で、叩いて延ばして加工しようとしても脆くて割れてしまう。

 やはり、白金だけ分離して利用した方が良さそう。

 これじゃ、この世界で利用できないのも道理だな。

 使い道が無さ過ぎる。

 

 市場を回り骨粉を買い集めると、炉で焼いて骨灰こっかいを作る。

 この灰の上で白金合金を加熱すると、先に白金が溶けて下に落ちるというわけだ。

 合金の中の白金の割合は70~80%ぐらいな感じで、合金を加熱して白金を取り出した後にはイリジウムらしき物が残っている。

 

 この方法で、50kgばかりの白金の地金をゲットしたが、単純な形なら鍛造もできるだろう――。

 しかし、本格的に加工するとなると溶かす事を考えないといけない。

 溶かすとなると、坩堝るつぼが必要なのだ。

 現状、溶けた白金を入れておけるだけの高温に耐えうる坩堝がない……。


 どうしようどうするか。

 詰んだか? 詰んだのか?


 俺は腹を空かせた、クマのようにウロウロと部屋の中を回り始めた。

 こうすると良い考えが浮かぶことがある。


 白金より融点が高いとなると、やはりイリジウムということになるが、イリジウムの融点は2500℃近かったはず。

 そんな物をいったい、どうやって溶かす?

 炉と魔法を併用しても、2500℃という高温は現状無理だろう。

 電気があって、プラズマでもつくれれば……。


 ……プラズマか。

 前に落雷で溶接出来たよな。

 魔法で落雷させて、プラズマ溶着させるのはどうだ?

 もしかしていけるかも――。


 俺は、粘土で坩堝るつぼの型を作ると、集めたイリジウムを砕いて粉にし始めた。

 粘土で作った型にイリジウムの粉を入れて、ここへ魔法で落雷させれば、一瞬でプラズマ溶着するはず。

 

 ――はずだ。

 あくまで希望的観測。


 俺は道具を揃えると、イリジウム粉が詰まった型を担いで、誰もいない河原に急いだ。

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