表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で目指せ発明王(笑)  作者: 朝倉一二三
異世界へやって来た?!編
6/158

6話 花を見に行きませんか?

 森の中にあるルビアさんの小さな家で、俺と彼女との共同生活が始まった。


 この家は、俺が死にそうになった滝のすぐ近く――滝から川を下って、右手の高台にあった。

 滝への道は、ルビアさんにはいつもの散歩道だったらしく、散歩の途中で俺を見つけたらしい。

 それから、俺の右手を刺したあの蜘蛛。

 アレは、結構凶悪なやつで、まず単体がこっそりと近づき刺し――エサを麻痺させて動けなくしてから、大群で押し寄せるというタイプらしい。

 聞けば、森の中にもいるそうなので、森の中の奥で刺されなくて良かったわ。

 マジでヤバかった。

 

 しかし、いいのか?

 若い男と二人きりなんて、なにか間違いがあったらどうする? 間違いってのは――つまり、そのなんだ――ゲフンゲフン。

 俺は命の恩人に何かしようとか微塵もないんだが、少し彼女は無防備過ぎるような……。

 俺の目から見ても美人だし、スタイルもいいぞ……俺が来る前にもこんな寂しいところに一人暮らしだったし……。

 実は、ルビアさん超強いとか? ――冗談でそんな事を考えていたんだが、それが洒落ではない事が後々解った。

 マジで結構怖い人だったんです。

 変な事しなくてヨカッタネ、するつもりなかったけどサ。


 それと、ルビアさん一人で倒れて死にそうな俺を運んだのかな? 結構力持ちじゃん……と思ってたら、それも後で解る理由があった。


 ------◇◇◇------


「ラジオもねぇ、TVもねぇ~」

 って歌があったけど、ここはマジでそんな感じ。

 ガス、水道、電気、全部無い。 ナイナイ尽くしの世界。


 暖房とかまどは薪、明かりは蝋燭ろうそくか獣油、水は井戸から汲んでる。

 俺が部屋に使っている納屋にはガラス窓がなかったが、居間と彼女の部屋にはガラス窓が嵌まってた。

 ちょっとヨレヨレで色もくすんでて綺麗な板ガラスというよりは、元世界のステンドグラスに近い気が――こういうのは手作りなんだろうなぁ……。

 ルビアさんに聞いてみても、透明なガラスというのは存在していないらしい。


 あと、紙と鉛筆が無いね、こりゃ不便だわ。

 紙っぽいのは、動物の皮を薄くなめした物(羊皮紙?)と木を薄く削った物を張り合わせて紙っぽくしたものがあり、どちらも高価で簡単に手に入る物ではないらしい。

 普段の書き物には、黒板(プレート)と呼ばれる物を使っている。

 これは黒くあぶった薄い板に白いロウを塗った物で、板を鉄筆で引っ掻くと黒い線が引けるという物。

 間違ったら指で押せば消せるし、全消しする時は火で軽く炙ればいい、完全リサイクルでエコな代物。

 紙がないこの世界で、これは結構便利。

 

 それなりの文化は発達してるけど、やっぱり、科学技術とは無縁の世界のようだ。

 

 お世話になっている代わりに、俺は井戸から水をくみ上げたり、薪を割ったり、畑の世話をしたりとか、あれこれとこなしていた。

 俺は山中のド田舎出身なんで、こんなのは別に苦にはならない――ガキの頃は薪割とか畑仕事も手伝わされたしね。

 ちなみに今の薪割は、油圧を使った機械(ログスプリッター)でやっていて、斧やまさかりの出番は少ない。

 そんな感じで色々と家の仕事を手伝っていたが、いうほどやることもなく、余った時間は、彼女から現地の言葉を習ったりしていた。

 我ながら習熟のペースは早い、なんといっても、解らない事があれば感応通信(テレパシー)で聞けばいいんだから、こりゃ便利だ。

 俺は、1週間ぐらいで片言の現地語を話せるようになった。

 ついでに、ここの地理や生活の様式なども教えてもらう。

 この地方はファーレーンと呼ばれているらしい。

 この家から徒歩で1時間ほど行ったところに、ファーレーンを治めている支配者のお城と城下町(プライム)があるという話。


 話を聞くほど中世っぽいね。

 お城なんて聞くと、ファンタジーっぽくて、ワクワクしてくる。

 見てみたいわ――お城。


 ------◇◇◇------


「あっ」


 すっかり忘れていたが、リュックの中身を確認して俺は声をあげた。

 やべぇ、タッパーに突っ込んだあの『紅い実』の事をすっかり忘れてたわ、もう腐ってるんじゃね?

 と、恐る恐るタッパーの蓋を開けると――辺りに甘そうな香りが漂う。

 俺の心配をよそに、それは紅いままだった。


「ふう、良かったわ」


 ほっと胸を撫で下ろす。 くんくん――匂いを嗅いでも、腐ってる風ではない。

 蓋を開けたまま、ルビアさんにコレが何か聞いてみる事にした。


「ルビア、コレ何か――解る?」


 俺は片言の現地語で話し掛けた。 

 タッパーに入った紅い実を見て、彼女はかなり驚いたようだ。


「こ、これをどこで……?」

「オレ、森の中迷った、白い花と紅い実、見つけた」

「これは、リルルメルヒの実ですよ。凄く貴重な物です」


 え? 貴重な物なのか。

 そうかそれなら、ルビアさんに世話になりっぱなしで、恩返しも出来ない状態だから、コレをあげたほうがいいな。


「コレ、ルビアにあげる、ルビア、いのちの恩人」

「え? そ、それは……」


 彼女は少し迷っていたが、タッパーから紅い実を2個取り出して、大事そうに掌に包んだ。


「もっとあげる、ルビア、いのちの恩人」

  

 彼女は少し困ったような嬉しそうな顔をして、俺に答えた。


「私は、2個で十分ですよ。 それはとても貴重な物ですから、あなたが持っているべきです」


 そうか――う~ん、俺としてはもっと貰ってほしかったが――。

 3つだ! 2つで十分ですよ――とか、何処かで見た押し問答をする必要もない。

 無理に押しつけてもしょうがないしなぁ……

 しかし、助けてもらった人がルビアさんでよかったわ。 悪いやつにでも捕まってたら、こんなの全部盗られて、異世界へ放り出されてたところだもんなぁ。

 

 ――剣呑剣呑(けんのんけんのん)


「それにしても、ショウはリルルメルヒの花も見たのですか?」

「そう、オレ見た、きれいな白い花、白い花枯れて、紅い実なった」

「そうですか……言い伝えの通りですね、私も見たかったです」

 

 紅い実も貴重だが、白い花も凄く貴重らしい。

 それなら……

 

「オレ場所わかる、オレ見に行く、ルビアといっしょに白い花見に行く、ルビアもいっしょに行くか?」


 それを聞いたルビアさんは、凄く驚いた顔をして、じっと俺の顔を見つめていたが、

 紅い実を包んだ掌を胸の前に置き、頬を赤らめながら――少し下を向くと小さくうなずく。


「はい」


 と答えた。

 

 あれ? なんで、ルビアさん赤い顔してるの?

 もしかして、俺何か踏んじゃいました?



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
124fgnn52i5e8u8x3skwgjssjkm6_5lf_dw_a3_2
スクウェア・エニックス様より刊行の月刊「Gファンタジー」にてアラフォー男の異世界通販生活コミカライズ連載中! 角川書店様より刊行の月刊「コンプティーク」にて、黒い魔女と白い聖女の狭間で ~アラサー魔女、聖女になる!~のコミカライズ連載中! 異世界で目指せ発明王(笑)のコミカライズ、電子書籍が全7巻発売中~!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ