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異世界で目指せ発明王(笑)  作者: 朝倉一二三
異世界へやって来た?!編
54/158

54話 薔薇に生れし者

 

 ふと、朝早く目が覚める。

 そこは、ベッドの上じゃなくて、床の上――。

 蘭のクローンが成功したので喜んだのは良いが、魔法の使い過ぎでそのままぶっ倒れてしまったのだ。

 見直すと、テーブルの上で組織を増殖させて作った白い塊からは、確かに葉っぱが出ている。


 まだ薄暗い。

 ちょっと肌寒い中外へ出ると、霧が立ち込めている。

 森で発生した霧が城下町プライム周辺まで流れ込んできているのだ。


「ハックション! チクショウ!」

 誰もいない静寂な中庭に俺のチクショウ! がコダマする。


 俺がこの世界にやって来て、白い花を見た時も早朝に霧が出ていたが、その霧と同じ物で、この地方には雨が少ないのに作物がよく育つのはこの霧のおかげだ。

 そのせいで、森との境界線を沿うような形で農地が広がっている。

 森から離れた場所にも土地が余って広がっているのだが、霧が届かない場所には入植者が少ない。

 どうしても乾燥しがちで、作物の育ちがよくないせいと、森の恩恵を受けられなくて土地が痩せてくるせいだ。

 化学肥料でもあれば農業も出来るはずだが、そんな物は当然無い。

 肥料はなんとかなっても霧が届かない地域で農業をやろうとすれば、灌漑かんがいの工事をしないといけない。

 それにはどうしても金がいる。

 しかし、ファーレーンの人口が増え続けて土地が不足してくれば、森から離れた土地にも手を付けないといけなくなるだろう。


 霧の中、中庭にあるゴムの木モドキの所へ行ってみる。

 上を見ると枝にカケスモドキがとまっていてギャー! と一鳴き。

 やはり、俺が羽を治してやったカケスモドキみたいだ。

 居座るつもりか解らんが、彼の餌台を作る事にした。

 俺の工房とゴムの木モドキの中間に餌台を立てて、その上にウサギ肉の獣脂を乾燥させた物とリンゴを置く。

 森へ行ったら、ドングリも採っておくか。


 起きてしまったのは仕方ない。 また寝直すわけにもいかず――霧の中、森へ出かける。

 それに、この霧の中であの白い花にまた出会えるかもしれない。

 前がよく見えないので、魔法を使って加速せずに歩いて森へ向かうが、森に近づくほどに霧が濃くなる。

 あの白い花のように、この気候に合わせて霧の中でしか花を咲かせない植物もあるようだ。

 

 霧の中、ドングリを拾いつつしばらく森で物色してみたが、目新しい物は無かった。

 期待してた白い花も咲いてない。 もっと森の奥へ入らないとダメなんだろうな。

 ここら辺で見つかるなら、もっと目撃情報があっても良いはずだし。


 木に登って着生植物を調べていたら、霧で濡れた枝から滑って落ちてしまった。


「あいたた……」

 下は腐葉土なんでそんなにショックは無いが、腰を打ってしまった。

 

 痛みが酷いので、打ち身した所をちょっと魔法で冷しながら、城へ戻る事にした。

 帰りに、痛み止めに使うヤナギの皮を剣鉈けんなたで剥いで、腰を摩りながら城の裏門へ戻ってくると、馬車が停まっている。


「なんで裏門?」


 馬車はサスペンションが付いたファーレーン様式の馬車だ。

 造りも豪華で――ということは、結構なお偉いさんだと思うんだが、それなら正門から入ると思うんだがなぁ……。

 そんな事を考えながら俺の工房へ戻り、朝飯を食った後に、採ってきた材料で痛み止めを作る。

 採ってきたヤナギの皮を魔法で乾燥させてシナモンと一緒に煮出す。

 この痛み止めは師匠から教えてもらったのだ。

 そして、茶色になった煮汁をコップで飲む――。


「苦ぇぇぇぇぇ!」

 良薬口に苦しって言うが、マジで苦い。

 

 俺が、苦いのを飲んでバタバタしていたら、扉がノックされた。

「開いてるよ」

「ショウ様、おはようございますにゃ。 姫様が呼んでるから来てほしいにゃ」

 顔を出したのはニムだ。

 

「殿下が? 殿下からお呼びとは珍しいな。 すぐに行くと言ってくれ」

「解ったにゃ」


 寝起きだし、一応身だしなみをきちんとしないとな。

 さっき見た馬車のお偉いさん関係かもしれんし。


 ------◇◇◇------


 身だしなみを整えて、ニムに案内されて殿下のもとへ向う。

 真学師の正装というのは無い、変わり者がデフォとなってる真学師はどんな格好でもOKなのだ。

 奇天烈な格好をしていても、まあ真学師だし――で済んでしまう。


 部屋に入ると、殿下と師匠の他にもう1人女性がいた。

 外出用の白いドレスに身を包んだ、栗色のウェーブヘアの美しい女性。

 歳は18歳ぐらいだろうか。

 身につけてる物は一級品ばかりで、一目で王族か上級貴族だと解る。

 惜しむべくは、顔の右側に酷い火傷の痕がある。

 師匠がその火傷の痕を見ているということは、火傷の痕の治療に来たのかもしれない。

 裏門のあった馬車の持ち主はこの人かな?


 俺は一番下っぱなので、紹介されてもいないのに、名乗るわけにはいかない。

 静かに会釈すると、部屋の隅に控える。

 

「どうだ、ルビア殿」

 殿下が口を開く。

 

「残念ながら、私の力では……」

「そうか」


 やはり、その女性は顔の火傷痕の治療に来ていたようだ。

「ショウ! こちらにまいれ」

「はい」

「ミルーナ、この者がショウだ」

「初めまして。 真学師ルビアの弟子で、ショウと申します。 以後お見知り置きを」

「初めまして。 ファルタス国のミ・ルーナ・ミ・ファルタスです。 ミルーナとお呼びください。 高名なショウ様にお目にかかれまして光栄でございます」

 マジで美人だ。 火傷の痕が無ければ、さぞ引く手数多だろう。

 

 名前の呼び方は、正確にだとミッルーナに近い。

「いや、高名って。 そんな立派なもんじゃないのですが」

「ご謙遜ですね。 ショウ様がことわりを明らかにした数々の発明は、ファルタスでも珍重されていますのに」

「はあ……。 それで、先程から伺っていると、やはり火傷痕の治療にいらしたのでしょうか」

「はい……」

「ショウ、其方の力でどうにかならぬか?」

「いや、師匠でも無理なのに、私の力では……」

 ミルーナ姫は下をジッと見つめている。

 もしかして、ウサギで試した皮膚再生の魔法が使えるかもしれないが――。


「師匠、ヒトの皮膚を剥いで、再生させる魔法というのは……?」

「私は知りません」

「ショウ、其方はそれが出来ると言うのか?!」

「まあ、出来ると言えば出来るのですが、まだ動物にしか試していなくて」

「それが出来ると言うなら、私に試してください!」

 ミルーナ姫が俺に掴みかかってくる。

 

「いやいや、まだ動物実験しかしてなくて、どんな副作用があるかも解らないんですよ。 それに少しずつしか再生できませんので、時間がかなりかかりますよ」

「それでもかまいません! どの道、この顔が治らなければ、私は死んだも同然なのです。 このまま国に帰る事もままなりません」

「そ、そんな……」

「後生です。 私にそれを試させてくださいませ!」


 ミルーナ姫のまさに命懸けの懇願の迫力に押されて、俺は治療を引き受ける事になってしまった。


 マジでか……なんでこうなった?


 ------◇◇◇------


 場所を俺の工房に移して、皮膚再生治療の準備をする。

 道具と薬を用意、洗浄用の塩水も用意する。

 心を落ち着かせるために、メスを研ぐ。

 殿下には治療が終わるまで、執務室で待ってていただく。

 ミルーナ姫の着付けと身の回りの補助にメイドのルミネスが付いている。


「狭いところで申し訳ございません」

「ここで、いろんなことわりの発明が生み出されたのですね」

「そうです」

 そんな返事をしているが、俺は気が気ではない。

 

 一応、何かあった時のために師匠がバックアップについてはいるが。


 落ち着け、落ち着け俺! ヒッヒッフー! ヒッヒッフー!


 右側のテーブルに道具と薬を広げて、ミルーナ姫と対面して治療を始める。

 背中の紐を外し、袖から腕を抜く。

 そして露になった上半身を見ると、顔だけではなくて右肩から首筋にも火傷の痕がある。

 火事か何かにあったのかもしれないが、詳しい事は失礼に当たるので聞けない。

 美しい胸が露だが、幼少からかしずかれて育っている殿下と同じ階層の人達だ、裸を見られるぐらいはなんとも思ってない。


 まずは、肩から治療を始めて様子を見ることになった。

 切るところをアルコールで、念入りに消毒する。

「冷たい……それは……?」

「これは酒精です。 切開するところを消毒して綺麗にします」

「解りました」

 さすがに、刃物で切られるということで、緊張の色は隠せないでいる。

 

 麻酔用の蜘蛛毒を取り出す。

「これは一時的に患部を麻痺させて、痛みを感じさせなくする薬です。 すぐに冷たくなって、触っても解らなくなりますよ」

「そんな物も作ったのですか?」

 師匠が俺の麻酔に興味を示したようだ。

 

「私は麻痺の魔法を使えませんから。 それに、これなら魔法を使えない普通の医者とかでも、使えますし」

「本当に冷たくなってきました」

「気分悪くなったりしてませんか? 触った感触がありますか?」

 俺は切開する場所を突ついてみる。

 

「いいえ……」

「ではいきます」

 覚悟を決めて、ミルーナ姫の右肩にメスを入れると、ゆっくりと引いていく。

 すぐに血が出てくるので、血止めのノコギリソウモドキの粉を塗る。


「この粉は血止めです」

「はい……」

 彼女の顔からは見にくい位置なので、切開しているところは見えないと思うが、彼女も目を背けて見ないようにしている。

 切った真皮を捲り、皮膚再生の魔法を掛けて健康な部分の皮膚を増殖させて埋めていく。


「再生できる速さは半時に約3ミル(センチ)です」

「……」

 俺の言葉に返答できる余裕はないようだ。

 そのまま再生を続けて、真皮を切り取った場所を埋め終わった。

 切り取った部分は約3cm×10cm。 ミルーナ姫の右肩にパッチワークのような新しい皮膚が埋め込まれている。

「ふううっ」

 俺は大きく深呼吸した。

 なんとか上手くいったようだ。


「最初なので、このぐらいで様子をみましょう」

「私はまだ平気ですが」

「いいえ、何が起きるか解りませんから。 慎重にいきましょう」

「……解りました」

 ミルーナ姫は若干不満なようだが、納得したようだ。

 どんな副作用や後遺症が出るか、マジで解らんからな……。


 俺は鏡を出すと、ミルーナ姫に右肩の再生した場所を見せた。

「ここですよ。 綺麗に繋がってますでしょ?」

「まあ! これは鏡ですか? こんな綺麗な鏡は初めて見ました!」

 え? そっちかい!

 

「鏡じゃなくて、施術したところを見てほしいのですが」

「あ、失礼いたしました。 こちらも綺麗ですね」

「繰り返しになりますが、人間にこの魔法を使用するのは初めてなのでございます。 従いまして、慎重にいきましょう。 それと、私の魔法の都合で一日に再生出来る量は5~6ミル(センチ)で限界、それ以上は不可能ですので長期戦を覚悟してください」

「解りました」

 ミルーナ姫は頭を下げると、ルミネスの手を借りて上着を着始めた。

 背中で紐を使って止めているタイプの服なので、1人では着付けが出来ないのだ。


 しかし、なんとかなりそうだな。

 人の身体を切り刻むなんて、緊張しまくったが――成功して良かったぜ!

 師匠は、俺に任せて問題無しと判断したのか、自分の部屋へ戻った。

 何か言いたげな顔をしていたが。


 ------◇◇◇------


 治療の1回目が無事に終了したので、殿下がやってきてそのまま俺の部屋でお茶会になった。

 

「上手くいったようだの」

 殿下が生クリーム入りのピコ(コーヒー)を飲みながら、俺に確認する。

 

「そうですね。 見たところ何も問題はなさそうです」

「魔法でこんなことが出来るなんて」

 ミルーナ姫も殿下と同じ物を飲んでいるが、彼女のリクエストで甘味を強めにした。

 

「師匠も見たことがない魔法らしいですけど――。 帝国の巫女とかいう人なら同様な事を出来るのかもしれませんが」

「どうかの……やつらが実際どのぐらいの力を持っているか、あまり公になっておらんからな」

 ミルーナ姫は少し上着をはだけて、肩口の施術痕を殿下に見せている。


「それにしても、ここはまるで別世界のよう。 飲んだことの無い美味しい飲物。 食べたことが無い美味しいお菓子。 そして、水晶のような透明なガラスで明るいお部屋。 素晴らしいの一言ですわ」

 ミルーナ姫が俺の部屋を見渡し、両手を広げてそんな事を言う。

 

 今日のお菓子は、パンケーキに煮豆を裏ごしした物に生クリームを合わせてみた。

 味は元世界のモンブランに近いかも。 もちろん、香りにバニラビーンズも使っている。

 

「ライラ様もお人が悪いですわ。 このような素晴らしい物をお独り占めなさって」

「ショウは妾の物なのだ。 このぐらいは当然であろう」

 してやったりの表情の殿下だが。

 

「ショウ様! ファーレーンの2倍、いや3倍の給金をお出しいたしますので、我がファルタスへ来ていただけませんか?」

「妾の目の前で引き抜きの話をするとは! その前に3倍とか今のショウの給金を知らないで、そんな事を申して良いのか?」

「ええ、5倍でもよろしゅうございます。 締まり屋のライラ様の事ですもの、きっと安い給金でショウ様を酷使なさっておいででしょうから」

「ふぐっ!」

 殿下がピコ(コーヒー)を吹き出し言葉に詰まる。 殿下から見ても、俺の働きの割には給金が少ないとは思っているようだ。

 

 まあ、俺が何も不満を言わないので、そのままにしているって感じらしい。


「ショウ様いかがでしょうか?」

「せっかくのお誘いなのに申し訳ないのですが、私はファーレーンが好きでここに骨を埋めるつもりですので。 それに殿下に忠誠を誓っている私が、ここを離れるわけにはいきません」

「忠誠を?」

「はい」

「真学師様が?」

「はい」

「ほほほほほ……、まるで騎士のよう」

 ミルーナ姫はコロコロと明るい笑い声を出している。

 真学師が忠誠を――って話になると、皆笑う――それは、真学師ってのは、マジでアレな人が多いせいなんだが。

 

「おかしいですか?」

「申し訳ございませんが、そんな真学師様を初めて見ましたわ」

「こやつは変わっておるからの」

 殿下はピコ(コーヒー)を一口飲む。

 

「従いまして、金の問題ではないのです。 普通に食えるだけの金があれば十分です。 別口で研究費は用意されていますし、大金があっても使う宛ても贅沢するつもりもありません」

「ショウはな、稼いだ大金をそのまま孤児院やらに喜捨しておるのだぞ」

「まあ、孤児院に?」

「私が贅沢しても、ファーレーンには何のためにもなりませんが、子供は国の宝です。 子供達に投資して、その子供達が国のために役立ってくれる方が良いに決まっています」

「な? 変わっておるだろ?」

「でも、ことわりに適っておりますわ」


 農家の子供でも、貧しい家の子供でも、孤児でも、才能があるのに機会が与えられないのは不公平だからな。

 身分に関係無く、才能のある者を取り立てるという殿下の政策にも合ってると思うし。


「そうだショウ、アレを見せてやってくれ」

「アレとは?」

「紙で作った鳥だ」

 ああ、折り鶴の事か。

 俺は、棚にある紙のストックから一枚引っ張り出すと、ナイフで正方形にカットして、鶴を折り始めた。


「何を……?」

 ミルーナ姫が不思議そうな顔をしている。

 

「まあ、見ておれ」

 俺がパタパタと鶴を折り、最後にフッ! と息を胴に吹き込むと、鶴が完成した。


「まあ! これはルーですか?」

「ルー?」

「ああ、ミルーナ姫の国ファルタスには大きな湖があるのだが、そこに白い大きな鳥がおるのだ」

 殿下が両手を広げて鳥の真似をする。

 

「そうです。 我がファルタスを象徴する国鳥になっていて、紋章にも刻まれております」

「へぇ~」

 まさか鶴って事はないだろうから、白鳥かフラミンゴみたいな鳥かもしれない。

 折り鶴も、鶴というよりは水に浮かぶ白鳥と言った方がピッタリだしな。


「それにしても、こんな薄い紙なんてみた事がありません。 しかも、それをこんな複雑に折って形にするなんて……」

 ミルーナ姫は折り鶴を分解し始めて、折り目を確かめている。

 ん? 普通の人みたいに『魔法!』 って騒がないな。 しかも、折り鶴の構造に興味を持つとは。


「ミルーナ様、もしかして真学師の才能がおありなのでは?」

「え?」

 俺の素っ頓狂な問いかけにミルーナ姫は固まり、殿下はちょっと呆れているが――。

「ショウ、それはちょっと明後日の問いなのではないか?」


 ミルーナ姫は何か迷っているようだったが、口を開いた。

「実は私、魔法が使えるのです」

「なに? それは初耳だの!」

 殿下はミルーナ姫と付き合いが長いように感じられたが、これは初めて聞いた事のようだった。

 

「私は、ある真学師様に師事しておりましたの」

「ん? それはもしかして――」

 殿下が口を開いたと同時に玄関の扉が開いた。

 

「ショウ! 何か甘い物ぉ!」

 扉から入ってくる長い耳、ステラさんだ。


「え? まあ! ステラ様、お久しゅうございます」

「んあ? なんだミルーナ姫じゃない、なんでこんなところに」

 

 ミルーナ姫の師匠というのはステラさんだったらしい。

 ミルーナ姫が火傷痕の治療にファーレーンを訪れた事。 そして、俺の魔法を使っての治療方法とその結果の説明を、自分の肩をステラさんに見せながら説明している。


「また、君はとんでもない事を始めたねぇ」

「呪文系の魔法で、こういう治癒魔法があるかと思いましたが、無いんですか?」

「無いとは言わないが、ここら辺はねぇ……禁忌に引っ掛かるんだよねぇ」

「そうなんですか?」

「組織再生とかさ、ソレ突き詰めていくと何処へ行くと思う?」

「生命そのものの再生、人体の練成、そしてその器に入れる反魂(はんごん)ですかね?」

 まあ、人体練成とか定番だよな。

 

「知ってるじゃないか! 君は知っててそんな事をするのかい?」

「そこまで行かなきゃ良いんでしょ?」

「そうなんだけどさ、一度踏み込むとその先が見たくなるのが、魔法なんだよ」

 ステラさんは思い当たる事があるのか、複雑な表情だ。

 ああ、師匠が何か言いたげな顔をしていたのは、この事だったのか。


 俺は、ステラさんにモンブランモドキを出すと、ステラさんは一口放り込む。


「くそぉ! こんな美味しい物作ってムカツクぅ!」

「なんで怒ってるんですか?」

「ルビアにはこんな良い弟子がいるのに、私にはロクなのがいない! たまに良いのがいたと思えば、真学師になりたくないときた!」

「ああ、エルフ風に言うと腹が痛いんですよね」

「シェカラシカァ!」

「申し訳ございません、ステラ様」

 謝ったのはミルーナ姫だ。

 

「ふん!」

「でも、フローさんがいたじゃありませんか」

 ミルーナ姫の口から、フローなる人物の名前が出た。

 ふ~む、ステラさんの弟子か……。


「あいつの話はするな! あいつのせいで、どんだけ私の人生が無駄になった事か」

「フローっていうのは?」

「私の姉弟子になります。 エルフの方ですよ」

「破門したから、もう弟子じゃないし」

 ステラさんが言い切る。

 

「ああ、その人どうしたんですか?」

「やつは死んだ!」

 もう投げやりだ。

 

「そんなあっさり言ってますが、実は死んでないんでしょ?」

 そんな俺の問いに、ステラさんは無視だ。

 余程、嫌いな人物らしい。

 しかし、ステラさん以外のエルフか。

 ステラさんの反応を見ると、かなりの逆逸材らしい。


「ミルーナ様は、真学師にはなるつもりは無いんですか」

 俺はそんな質問をしてみたのだが――それが、ステラさんが爆発する引き金になってしまった。

 

「はい、私は王族ですし……。 好き勝手に振る舞うわけには。 王族に生まれた誇りも意地もありますし、女としての意地もございます」

「う~ん、俺は男だからなぁ」

「ショウ、其方が申したであろう。 薔薇に生まれし者は、薔薇として生きる運命さだめがあると」

「そうです、野の花ではなくて薔薇に生まれてしまったのですから」

「美しく咲き、美しく散る運命さだめ……」

 俺が短く呟いた……。

 

「それが、王族の女に生まれた意地と誇りでございます」

 だから、危険を侵してでも、火傷痕を治したいと言うのか。


「くだらない!」

 両手でテーブルを叩いて立ち上がり、吐き捨てるようにステラさんが一言言うと、シンクに用意してあった師匠の分のモンブランモドキを皿ごと奪う。


「ステラさん、それ師匠の分なんですけど」

 ステラさんは、俺の引き止めを無視して、そのまま出て行ってしまった。


「「「……」」」


 どうすんだよ、この雰囲気。


「申し訳ありません。 私がステラさんを怒らせてしまったようで」

「いいえ、元はと言えば私のせいなのです」

「ステラ殿は我が母が引き抜いたのだが、ファルタスからここに移ってきたのは、このせいもあったのかの?」

「恐らくは……それにステラ様も……」

 ミルーナ姫が言い掛けて止める。 個人的な事は拙いと思ったのだろう。

 

 ステラさんの事だから、殿下の母君が作ったイケメン騎士団が目的で移ってきたのかと思ったが、違ったのか。

 メチャクチャな人だけど、メチャクチャじゃないところもあるんだなぁ。

 フォローになってないか。

 

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