51話 ババユリは故郷の味
森の中に人の丈ほどあるデカイ百合が咲いている。
よく見かけるので珍しい種類ではないが、地元の人間は『ババユリ』と呼んでいる。
なんでババユリなのかはしらないが、多分食えないからハズレの意味なのだと思う。
大きな見かけと同じで大きな鱗茎が出来るのだが、毒があって食えない。
毒の種類は、シュウ酸だ。
山芋とかで肌に付くと、痒くなるやつ。 そして、こんにゃく芋等にも含まれていて、こんにゃくを作るときにはゴム手をしないと手が被れてしまう。
そのシュウ酸だ。
鱗茎にはデンプンは多く含まれているようなので、これを使って酒を作れないか思案中である。
要はシュウ酸だけ中和できれば良いのだ。
森の中で、人の頭の大きさほどあるババユリの鱗茎を掘り出し、大きな背負い籠に10個ほど突っ込む。
籠に重量軽減の魔法を掛けて、お城に持って帰ってくるが、門番の反応は『また真学師が変なことを始めたな』 みたいな感じである。
まったく余計なお世話だっつ~の。
早速、デカいババユリの鱗茎を磨り潰す。
以前作った弾み車を使ったフードプロセッサを使ってみたが、磨り潰しと言うには程遠く結局手作業で磨り潰す事に。
魔法とショートカットするのに慣れてしまっているから、魔法が使えない作業が余計に大変に思える。
磨り潰しの際、手につくと大変な事になるので手袋をするのだが、この手袋が少々変わっていて、大カエルの皮が使われ水を通さないという代物。
元世界で言うゴム手の代わりに使われていて、気触れ物や汚れ物等を弄る時に使う、この世界の定番商品らしい。
水に強いということでパッキンに使えないか試してみたのだが、生物素材なので放置すると腐敗してしまい、実用に耐えなかった。
まずは灰汁抜きの定番である、木灰を使ってみたが、あまり効果なし。
こんにゃく芋ではナントカカルシウムとかいうのを使っていたような記憶があるのだが、ここでは手に入らない。
貝殻を潰して焼けばカルシウムになるが、その貝殻が手に入らないからなぁ。
密閉して蒸し焼きにすれば熱で分解するかと思ったが、やはりダメ。
毒の無毒化判定は、ウサギを使っているのだが、孤児院の子供達に捕まえさせて、買い取った物だ。
ウサギの毛を剃って汁を塗れば、無毒化されたかどうか解る。
以前、動物実験なんて可哀相なんて事を言っていた気もするが、そんな昔のことは忘れたな。
もう、人も殺めてしまったし、どうせ地獄へ堕ちるならもう何をやっても同じだ。
真理の追究のためには、人体実験すら辞さないつもりでいる。
人はそれを開き直りという。
ババユリの鱗茎の山を前に、頭を抱えて思案していると、師匠がやって来た。
テーブルの上の鱗茎を見て、呆れた顔をしている。
「いったい、何をしようと言うのですか? だいたい想像は付きますけど」
「こいつを無毒化してみようかと」
「……」
師匠はマジで呆れた顔をしている。
「そんなに露骨に呆れ顔をしないでくださいよ。 もう少し、柔らかい物で包んだような顔とかしようがあるじゃないですか?」
「そんな器用な顔はできません」
身も蓋もない師匠の言葉に、思わず俺も苦笑いをする。
師匠がやって来たので、オヤツにパンケーキを焼いてみた。
ふくらし粉がないので、卵の白身を泡立ててメレンゲを作り、そいつを使ってふっくら焼き上げてみた。
生クリーム付きである。
今回、甘味料に変わった物を使ってみた。
ぶどう酒に使われている葡萄にある種のカビが生えると凄い糖度が上がるのだが、そいつを魔法で故意にぶどうに繁殖させて、それを煮詰めて甘味料にしている。
量は取れないが、水飴よりはかなり砂糖に近い。
「師匠、どうでしょうか? いつもと違う甘味料を使ってみましたが」
「うふふ……これは美味しいですね。 水糖も美味しいのですが、ちょっともの足りない感じがするので」
「極少量しか取れないのが欠点ですねぇ。 もっと糖分が多い植物があれば良いのですが」
「よくも色々と考えつく物だと感心してしまいますが、そんな植物があればとっくに私が使っています」
「ですよね」
う~ん、甜菜みたいのがあれば良いのだが……。
しかし、高値で売られてるという砂糖は何から作られているんだろうなぁ。
サトウキビとかかな?
「師匠、高価と言われている砂糖って何から作られているのですか?」
「栽培が難しい高山植物から少量取られていますね」
なんと、南の島のサトウキビじゃなくて、高山植物とは……。 それじゃ、平地じゃ栽培できないわ。
そりゃ高価になるだろう。 まだ葡萄から作ったほうがマシってレベルだな。
みんな水飴に飛びつくわけだわ。
クリームいっぱいのパンケーキを喜んで食べていた師匠が、突然固まった。
「師匠、何か……?」
「いえ、ババユリで昔読んだ文献を思い出しました」
「どんなのでしょうか?」
「昔、ファーレーン近辺でも大凶作になった事があったようで、その時にババユリが非常食として食べられと書いてありました」
「どうやって食べたんでしょうか」
「確か……麦の根と一緒に煮たとかなんとか……」
「麦の根? 食うものが無くなってヤケクソで、草の根でもなんでも手当たり次第につっこんでみたら、食えるようになってしまった……とかですかね?」
「まあ、そんなところかもしれませんね」
師匠はパンケーキを口に運んだ。
しかし、麦の根とはなぁ。
この世界の麦には何か違う成分が含まれているのかな?
似ているけど、微妙に違う植物がけっこうあるからな。 意外な使い道が見つかるかもしれん。
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早速、麦の根を採りに行く事に。
麦を刈り取ったところを掘り返せば良いので、街外の畑を探すとすぐに見つかった。
近くで作業していた農民に、小四角銀貨を払って少し分けてもらう。 けっこう歳をくった爺さんだ。
「真学師様~そんな麦の根っこに金など要らねぇですだ」
「まあ、ただで貰っちゃ悪いだろ。 黙って貰っておけって」
「そうですか。 それじゃ、ありがたく頂戴いたしますだ」
麦の根に金を貰って気が引けたのか、麦の根を掘るのを手伝ってくれた。
「真学師様、もしかしてババユリ食うつもりだか?」
「お、鋭いね! 試しにやってみようかと思ってね。 それを知ってるって事は、爺さんも喰った事があるのか?」
「オラが子供の時に、大凶作になりましてなぁ。 ほんとに食うものが無くなって、食いましただ」
「だれが麦の根使うなんて、こんな事を言い出したんだ?」
「さぁ? お父とが何処からか聞いてきたらしいんで、だれが言ったかは解らねぇですだ」
「そうか。 味はどんなだった」
「はぁ……、他に食うものがあるなら、食いたくはない味だった記憶しか無いですだ」
爺さんはそんな事を言いながら頭を掻いている。
不味いんだな。
まあ、俺は酒を作りたいんでデンプンだけ取れれば良いから、味は期待していない。
でも、麦の根でババユリの毒を無効化できるのは間違いないみたいだな。
経験者が語る。 これは確実だろう。
「すまんが足りなくなったら、もう少し堀りに来てもいいか?」
「ええですとも」
俺は、背負い籠を麦の根でいっぱいにして、爺さんと麦畑を後にした。
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工房に戻ってきた俺は早速麦の根を洗って刻み、自作の弾み車を使ったフードプロセッサに掛ける。
マヨネーズを作ったときは掻き混ぜ用だったが、刃を交換すれば刻み用にもできる。
闇雲に混ぜてもしょうがないので、きちんと棒はかりで重さを計ってデータを取りながら投入していく。
棒はかりは色々と種類があって、軽いものを計る時は小さい物を使う。
意外と正確でアナログも侮れないと思う。
ウサギを無毒化の実験台にして可哀相な事をしているが、後でちゃんと〆て鍋にするから勘弁してくれい。
ちなみに、ウサギ鍋は味噌が合う。 異論は認めない。
爺さんの言う通り、ババユリが無毒化できたのは正直驚いた。
ババユリを擦り下ろした物に水をたっぷり入れて、デンプンを沈殿させる。
この沈殿にも魔法は使えない。 下に沈んでるだけだからな、たっぷりと丸一日は掛かる。
白いデンプンができた。
水からあげて、魔法で乾燥させる。 さらさらの白い粉だ。
早速、食ってみることに。 味は期待していないが、食わないとは言っていないから。
元世界の実家に、ベコモチとかカタコモチという上新粉で作る餅があるのだが、それを真似してみるか。
水飴にババユリデンプンを入れて、水を足しながら練る。
と、ここでベコモチなら『型』がいるだろ。 ベコモチなら葉っぱの形をした木の型に入れて蒸さなきゃ。
練る作業を中断して、適当な板に葉っぱの型を掘る。 まあアバウトで良いだろう。
型を3枚ほど作って練ったデンプンを入れて、蒸せば完成だ。
素朴な田舎の味。 ババユリデンプンの味はどうかな? 恐る恐る口に運んでみるが――。
「ん? ちょっと変わった風味だが、イケるじゃん。 美味いぞ。 これなら十分に代用食になると思うがなぁ」
そんな事を考えていたが、あの爺さんがガキの時は水飴とか無かったのか。
甘味もない、デンプンだけ食ったら確かに不味いかもな……。
砂糖ってば偉大だな。
元世界、実家の爺婆共は砂糖に凄い憧れがあったらしくて、平成の時代になっても砂糖をどっさりと入れた料理を喰わされたもんだ。
とにかく、『砂糖がはいってる=美味しい物』 って認識があるらしくて、なんにでも砂糖を入れていた。
そんな事を、ベコモチを食いながら思い出した。
これは師匠に喰わせてやらねばならん。
ベコモチを2枚皿に乗せ、師匠の部屋を訪ねる。
「師匠~! お菓子の新作です。 食べてみませんか」
「はい、みます」
本棚の前で本を読んでいた師匠が即答した。
「例の魔導師の本って解読進んでます?」
「ちょっと手こずってますが、大丈夫でしょう。 あまり複雑な暗号化だと、本人が読むときも難儀するはずですから」
「そりゃ、そうですね」
師匠が、俺が作ったベコモチを口に運んだ。
「あら、素朴な味ね……飽きない味……」
「それ、ババユリが原料ですよ?」
「え!?」
師匠が固まるが、口だけもにょもにょ動いている。
「やっぱり、固定観念はよくありませんね」
それを聞いた師匠が激昂する。
「すみませんね! 思考停止してて、固定観念が激しい師匠で! そりゃ、私はショウみたいに色々思いつきませんよ! ダメな師匠ですよ!」
「ちょ、ちょっと師匠、そんなつもりじゃ!」
「わ~ん!」
師匠が半泣きになりながら、本とか黒板を飛ばしてくる。
「し、失礼します!」
俺は、慌てて師匠の部屋を後にした。
そんなつもりは無かったんだがなぁ……俺の色々は元世界の知識でチートだしなぁ。 師匠に悪いことしちゃったな……。
この軽い口がイカンのだ。
自己嫌悪になりながら、鱗茎からデンプンを作る作業を続けていると――、
ふと玄関の扉が開いた。 そして皿だけが扉から出ている。
師匠だ。
「師匠、申しわけございません、失礼な事を言ってしまって……」
「……さっきのお菓子をもっとくれたら許してあげます」
そう言って、部屋には入ってこないで皿だけ出してヒラヒラさせている。
「もう、2枚しかありませんが、良いですか?」
「仕方ありません」
皿にベコモチを2枚乗せると、師匠はパタパタと小走りに帰っていった。
「機嫌直してくれたのかなぁ……?」
もう少し言動に気をつけよう。
デカいババユリの鱗茎が山になっていたので、結構な量があると思ったのだが、デンプンにしてみれば量は思いの他少ない。
その後、何回か鱗茎を掘り出しに行き、麦の根も追加で掘り出しに行った。
「さて、準備完了だな。 醸造に行ってみるか」
水飴を少し酒にした事はあったが、デンプンから醸造するのは今回初めてである。
大樽を2つ用意して、デンプンにお湯を入れて糊化して、そこに味噌を作るのに使っているコウジカビを投入。
発効促進の魔法をかけると、みるみる甘い匂いが漂う。
日本でドブロク等を個人で醸造をすると法律違反になるのだが、独特の匂いがするのですぐにバレると聞いたな。
大樽の中が糖化したら、今度は酵母を投入して、アルコール発酵させる。
魔法をかけると、すぐにボコボコと泡立って酒の匂いが漂い始める。
ちょっとコップで掬って飲んでみると、まだ糖が残っているので甘い酒だ。
甘酒のようだが、かなり風味は違う。
そんなに匂いをさせていると、早速鼻を利かせてステラさんがやって来た。
「いい匂いさせてるじゃん~、酒作ってるでしょ?」
「ステラさん、少し飲んでみますか? 少しですよ、少し」
一応、念を押す。
コップに掬ってステラさんに飲ませると、口に含んだり匂いを嗅いだりと利き酒をしているようだ。
「甘くて美味いねぇ、でもこれで完成じゃないでしょ?」
「もっと発酵させてから、蒸留しますよ」
そんな事を話をしながらコップでガブガブ飲むので、ステラさんを慌てて追い出した。
「なんだよ~、ケチぃ!」
そんな捨て台詞を吐いて帰っていったが、ありゃまた来るな……注意しないと。
アルコール発酵が終了したので、全部をポッドスチルへ移して蒸留する。
普通の蒸留と減圧蒸留を比べてみたのだが、然程違いは無かったので、スピードの早い減圧蒸留で蒸留を始める。
都合3回蒸留して、小樽に移して熟成工程に入る。
小樽は2つ用意して、1つは普通の樽。
もう1つは樽の内部を焦がしたウイスキーの樽の真似した物を用意してみた。
2つの小樽に、魔石を使った超音波熟成器を入れて、熟成開始。
超音波熟成器は、魔石と銅板の間に緩衝用のゴム板を入れてみると魔石の破損が無くなった。
高価な魔石を使い捨てにしなくて済むのはありがたい。
延べ時間で丸一日、超音波&魔法で熟成して完了。
「早速、飲んでみるか……、むっ!?」
飲んで解ったが、普通の樽と中を焦がした樽の違いが結構ある。
焦がした方は、琥珀色が付いて香りも違う。 雑味も少ないようだ。
焦げの炭素が、活性炭みたいな作用をしたのかね? 普通に炭を樽に入れても良いかもな……。
どちらが美味いと言われると困るが、好みの差だろう。
ガラス瓶は綺麗だが作るのが大変なので、陶器屋に特注で陶器製の瓶を作ってもらったので、それに酒を入れる。
これは、元世界でもジンなどに陶器製の瓶があったのを真似してみたのだが。
俺が漉いた紙で手書きのラベルも作り、木の蓋に蝋でコーティングをしてその上から紙を被せて紐で縛る。
随分と酒らしくなったぜ。
普通の小樽で熟成したのが4本、焦がした小樽で熟成したのが4本、合計8本の酒がババユリから出来た。
まあ、普通に酒造るだけならババユリから造らなくても、芋でも麦でも良いんだけどね。
粟とかヒエは使えるのかな?
工房の棚に出来上がった酒を並べてご満悦な俺。
なんか、こういうコレクションっぽいのが並んでいると嬉しくなるな。
一息ついて、居間で飯を食っていたら、なにやら音がしたので工房を覗いてみると――。
酒瓶を抱えたステラさんが、工房の窓から逃げるところだった。
「ちょ、ちょっとステラさん!」
ケケケ! という怪しい笑い声と共に外へ逃げるステラさんを追って、玄関から出てみるがもう居ねぇし!
いったい、どんなスピードなんだよ。
「っていうか、何処から入ったんだよ!」
窓は全部ねじ込み式のカギを掛けていたはずだ。 今日はカギを壊されていない。
それに俺が居たんだから、カギが壊された音がすれば気がつく。
工房内を隈なくチェックしたが、問題なし……と思ったら、ポッドスチルが置いてある部屋の天辺の換気窓が開いていた。
あそこから入ったのかよ、まるで忍者だな……。
というわけで、クソBBAに酒を3本持っていかれた。
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ステラさん避けというわけでもないが、酒用のワインセラーのような保管室を作る事にした。
半地下にして、コウジカビや酵母の保管に使う予定だ。
工房の奥に物置を増設して、その奥に隠し扉を設置。 そこから、半地下へ潜れるようになっている。
地下部分は石を組んであり、素人仕事だが崩れなければ良いだろう。
そこに棚を置いて、斜めに酒を並べる。 蝋で蓋をしてあるので、溢れる事はないはず。
隠し扉には、師匠にお願いして結界を施してもらう。
ステラさんならその気になれば破れるとは思うが、簡単には入れないという抑止力に期待する。
無事にババユリから酒が出来たので、実験に使っていたウサギを捌いて鍋にする事にした。
ウサギを食べるのは初めてではなく、元世界で親父が散弾銃で猟をしていた時に、よく食べていたので馴染の味だ。
散弾銃で仕留めた獲物を食うと、肉から散弾が出てくるのが玉にきずなんだが……。
テーブルの上に口から出てきた散弾を入れる小皿があったのを思い出す。
鍋の面子は、ニムとルミネス、そして師匠とステラさんだ。
「私がテーブルに入って良いんでしょうか?」
「いつもニムばかり食べてるから、たまにはルミネスも一緒に食べようぜ」
「美味いにゃ~! この泥みたいな調味料美味いにゃ~」
「泥じゃない、味噌だ」
「ウサギは森に住んでた時によく食べてたけど、この味はイケるねぇ」
「ステラさん、お酒返してくださいよ……」
「やだ」
即答。
二の句が継げない俺。
「だいたい、そんなに大切な物なら仕舞っておくべきでしょ? 信頼している人に道を踏み外させないようにするってのが本当の優しさでしょうが」
「師匠、エルフ様が何か仰っているんですが、全く理解出来ないのは、私がおかしいのでしょうか?」
「さあ? エルフの戯言は私の耳には入らないようになっているので、何も聞こえません」
「戯言ってなんだよ?」
「ステラさんの言う通りに、今度はしっかりと保管しましたのでご安心ください。 師匠にお願いして結界まで張って貰ったので、簡単には出来心は起こさせませんよ」
「ステラ、結界は新しく造った試作品で制限掛けてないから、手出ししてどうなっても知らないわよ?」
師匠がウサギ鍋の汁をスプーンで掬いながら言う。
「くそ、お前等……師弟揃ってぇ。 私に対する愛は無いのかぁ?!」
「「ありません!」」
もちろん即答である。
「ちくしょう! 肉を全部食ってやる!」
「フギャ~!」
ニムの絶叫がコダマし、ルミネスは呆気にとられている。
「ステラさん、いい歳して止めてくださいよ」
「歳は関係ねぇだろ!」
「ニム、大丈夫だ。 まだ肉はあるから」
そんな会話をしながら晩飯は続いた。
------◇◇◇------
後日、ババユリのデンプンから作ったベコモチを持って、麦の根をくれた農家の爺さんを訪ねてみた。
「爺さん、麦の根は本当に役に立ったよ。 これ、ババユリから作ったお菓子だ」
「え? こんなのを作ったのでごぜえますか?」
「ああ、ちょっと食べてみてくれ。 作ったばかりだから、まだ柔らかいぞ」
爺さんは、ベコモチを少し手で千切って口へ入れた。
「う、美味いですなぁ。 こんな食い物があれば、飢饉で人死を出さなくても済んだかもしれねぇ……」
爺さんはちょっと涙ぐみそんな事を言い出す。
「いやいや、真学師でも自然や天候には敵わんよ。 アマテラスの思し召しってやつだ」
「でも、真学師様がきっとなんとかしてくれたと思いますだ」
ベコモチは日持ちするんでしばらく大丈夫だという事と、固くなったら焼けばOKという事を伝えて、爺さんと畑を後にした。
しかし、この世界と畑を眺めていると、俺が転生してくるより曾祖父さんあたりが転生してきたほうが良かったかもな。
曾祖父さんは原野に開拓に入り、機械を一切使わず人力で10ヘクタールぐらい開墾したそうで、新しい農法や栽培方法を開発して国から何度も表彰を受けていた農業の達人だったからな。
爺さんの兄弟は10人兄弟姉妹で、昔の人のバイタリティはマジで凄まじい。
小卒で学は無かったが、きっと農業でこの世界に革命を起こしてくれたに違いない。
そんな事を思うのだ。





