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異世界で目指せ発明王(笑)  作者: 朝倉一二三
異世界へやって来た?!編

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50話 獣人食堂オニャンコポン


 ゴロツキ連中をぶっ潰し、その黒幕の貴族共を排除した――その後日。


 やつらを捻った噂も順調に広がってるみたいだし、ファーレーンやファルキシム辺りじゃもう絡んでくる連中はいないだろう。

 なかでも 『黒のミミカ』 とかいうちょっと有名な魔導師をあっさり倒してしまったのが決め手らしい。

 俺にしてみれば、ラッキーが重なったようなものなのだが……。


 貴族連中やゴロツキ連中との殺伐とした日々が終わり、久々に穏やかな日々が戻っていた。


 そんな時は、森へ探索へ出かける。

 ファーレーンの豊かな森は、多種多様な植物に恵まれているが、その中でも多いのが、蘭類だ。

 元世界のデンドロビウムとも、カトレアとも、シンビジウムともつかないが、とにかく種類が多く、着生種、地生種共に変化に富んでいる。

 そんな蘭を集めて栽培するのが、俺の趣味となっていた。

 この蘭の知識は、元世界の実家の婆さんが原因だ。

 ウチの婆さん、ホームセンター等で咲いている鉢植えを買ってくるのだが、花が散ると飽きて放置。

 枯れると可哀相なので、ネットでググッて俺が面倒をみる――というのを繰り返した結果がこの知識だ。

 山野草などは雑草みたいなもんだから放置でも育つが、蘭はけっこう手間が掛かるのだ。


 工房の横に、透明ガラスを使って温室を作り、水を自動的に供給するシステムも作って、蘭の美しい花を咲かせている。

 元世界のバニラ種に近い種類も発見できたので、バニラビーンズも採取できた。

 バニラというのは、アイスクリーム等の香料に使われている、あのバニラだ。

 これを使えば、お菓子類の製作が捗るのも間違いない。

 バニラの種を香料として使うためには、乾燥と発酵を繰り返して、使えるように加工しなければならないが、そこは魔法でショートカット出来るだろう。


 魔法マジ便利。


 そうそう、今回のテテロ卿に対する働きが認められて、給料が月金貨5枚(100万円相当)になりました。

 しかし、給料が増えても、余計な仕事が増えてあまり忙しくなるのは勘弁願いたいなぁ……。


 ------◇◇◇------


 城下町プライムの大通りをプラプラして、露店を冷やかし、ご無沙汰だった燦々(さんさん)亭を訪れてみた。


「ちわ~、いつもの肉焼をくれ。 後パンとスープな」

「いらっしゃ~い」

 女将さんも元気そうだ。

 

 そんな挨拶をしてたら、獣人の女が寄ってきた。

 トラと黒と、白ブチの3人娘だ。

 格好は、ヘソが見えるぐらい短いシャツに、上着とミニスカート。

 基本、裸でも平気な彼女等は、ヘソや肌が見えても気にしないようだ。 まあ、毛皮があるんで肌ではないのだろうけど。

 女の子達はこんな格好だが、男達はシャツに膝上膝下の短いズボンが基本。

 なんかステテコ履いた親父に見えない事もないが、そんな格好が普通になっている。


 ファーレーンで見かけるそんな彼等獣人達は、猫人ばかりなのだが、犬人もいるらしい。 


「お、なんだなんだ?」

 いきなり獣人に囲まれたので、ちょっとびっくりしてしまったが。

 

「ショウ様でしょ?」

「ああ、そうだけど、何か用なのか?」

「用って用はないんだけどさ~」

「ただ、ショウ様とお近づきになりたいだけにゃぁって」

「……」

 黒い子は黙って頷いている。 凄く大人しそうな子だ。

 

「これまた、随分と物好きの獣人がいたもんだな。 真学師なんてロクなもんじゃないのはみんな知ってるだろ?」

「そうだけどさ~、ニニさんとニムは、ショウ様は優しい方だよ~って言ってたしぃ」

「ん~、ニニとニムと同じ部族の子なのか」

「そうにゃぁ」

 

「こら、このネコ娘共、商売の邪魔なんだよ。 ロクに注文もしないで、居座りやがってさ。 真学師様が迷惑してるじゃないか」

「まぁまぁ、女将さん、今日のところは俺に免じて許してやってくれ。 俺の知り合いと同じ部族の子達らしいし」

 そう言って、女将さんに少し握らせた。


「まったく、しょうがないねぇ。 真学師様も人が良いんだから」

 それを見て、獣人達は舌を出している。


 ここの女将はあまり獣人が好きではないらしいな。


「そういえば、ニムが部族内でお金出し合ってガチャポンプを買うって話してたけど、使ってるかい?」

「あ~、もう毎日使ってるよ。 あれが井戸に出来て、凄い楽になったし」

「子供達も面白がって、手伝ってくれるにゃぁ」

「……」

「そうか、それは良かったな」

 俺も師匠の所でやっていたが、井戸の水汲みってのは結構重労働だ。

 子供だったら、大変だろう。


「ウチラなんて、あれでなんで水が出てくるのか未だに解らないよ」

「ショウ様、また何か凄い物とか作ってるにゃぁ?」

「今のところは余りないが……例えば馬が要らない馬車とかは考えてるよ」

「え? 馬がいないのに、なんで馬車が走るのさ」

「だから、そういうのを考えているんだよ」

 

 獣人達はニャニャニャと笑っているが。


「そんなに不思議な事じゃないぞ? お前等海に行ったことがあるか?」

「ない」 「ないにゃぁ」

 

「……」

 黒い子が黙って手をあげる。

 

「お、君は行った事があるのか。 じゃあ、海に船が帆を張って浮かんでるだろ?」


 俺は、バッグから、黒板プレートを取り出して、船の絵を描く。


「こうやって、帆が風を受けると、船が進むわけだ。 それは解るか?」

「解るけど……」

 その他の子もウンウンと頷いている。

 

「じゃあ、その船の下に車輪を付けてみよう。 そうすれば、風を受ければ車は進むぞ。 どうだ、馬がいなくても、車は動くだろ?」

「ふにゃ!」

 凄く単純な事なんだが、獣人達はびっくりしたようだ。

 

「それじゃ、馬車に馬は要らなくなるにゃぁ?」

「そう簡単ではないな。 地上には道があるから、決まった所しか走れない。 風の方向によっては進めなくなってしまうし」

「な~んだにゃぁ」

「まあ、真学師っていうのは、そういうしょうもない事をいつも考えているんだよ」

「……」

 黒い子はウンウンと頷いている。

 

 そんな話をしていると、女将さんが料理を持ってきた。

「はいよ~。 真学師様が作った、蝋燭で走る船をウチの子供が欲しがって困ってるんですよ」

「あ~、あれか。 けっこう高いらしいからな」

「まったく、困ったもんさ」

 

 やって来た、料理を食っていると、

「ショウ様、オニャンコポンに来てよ」

「オニャンコポン? なんだそりゃ?」

「ニニさんが、食堂を始めたんだにゃぁ~」

「ああ、あの場所でか。 そりゃ、一度顔を出さないといかんなぁ。 でも、獣人達の専用じゃないのか?」


 あの場所というのは、ダルゴム一家とかいうゴロツキ連中が根城にしていたところを、俺が接収した建物だ。


「確かに、獣人ばっかりだけど、ヒトが来ても問題無いはずさ」


 料理食いながらそんな話をしていると、女将さんが大声をあげて慌てて出てきた。

「コラァ! ネコ娘共、人の店から客を取ろうなんてどういう了見なんだい!」


 要は、此処にやって来たのは、ニニの店に来てほしかったのか。

 お使いクエストを果たした獣人達は、荒れ狂う燦々(さんさん)亭の女将から脱兎の如く逃げ出した。 

 


 ------◇◇◇------


 昼飯を食った後、そのまま自分の工房へ帰ってきたが、燦々(さんさん)亭で獣人の女の子達と 『馬が必要ない馬車』 の話をした際に、ちょっと思いついた玩具を作ってみた。


 作ったのは、弾み車(フライホイール)を使った、車の玩具。

 重量のある弾み車(フライホイール)に運動エネルギーを貯めて、手を離してもそのまま走っていく玩具だ。

 元世界でエンジンが付いた車なども、やっていることは同じだ。

 この玩具は、手でエネルギーを貯めているが、それがエンジンなどに置き換わるだけ。


 試しに、走らせてみると、けっこうなスピードで走り出すが、4輪車ではなくて、リアカーのような2輪車なので、何処へ進むか解らないところが、逆に面白い。


 木材で作ったガワを取り付けて、木タールで黒く塗ってみると、何かの虫のようにも見える。

「これも、玩具で売れるかもな」

 そんな事を思いつつ、工房の床で走らせて、しばらく遊んでいた。


 ------◇◇◇------

 

 次の日、作った玩具を持って、話に聞いたオニャンコポンとかいう店へ行ってみる事に。

 場所は……マリアの孤児院経由で行ってたからな。

 大通りを西端まで行って、北へ向かえば良いはず。

 しばらく、ファーレーンに住んでいて解ったが、それほど治安が酷い地域はないようだ。

 ただ、人口が増え始めて、余所から流れ込んだ連中が、お城の南に貧民街を作り始めている。

 あそこは、川に挟まれた窪地になってるから、水が出るとヤバイんだがなぁ。


 店の場所を探しながら歩いていると、見覚えのある建物が目に入る。

 看板をみると、確かにオニャンコポン――と書いてあるが、獣人は文盲のはずなので、誰に書いてもらったのやら……。


「ちわ~、邪魔するぜ」

 以前殴り込みに来た記憶が蘇り、ちょっと複雑な思いだが、店中のテーブルは獣人で埋まり繁盛しているようだった。


「あ~ショウ様だぁ、来てくれた?」

 燦々(さんさん)亭にいた子達が座っている。

 

「ああ、早速お邪魔したよ」

 寄ってきた女の子達の頭を撫でて、喉を撫でると目を細めてゴロゴロと喉を鳴らす。

 俺の声を聞いて、奥からニニが顔を出した。

「あら、真学師様? 店の事を誰に聞いたんだい?」

「この子達から、来てくれ~って頼まれたんで、寄ってみたよ。 客が獣人ばっかりだけど、大丈夫かね?」

「大丈夫に決まっているじゃないか。 真学師様は、ここら辺の獣人の恩人なんだよ」

 それを聞いた、テーブルに座っている獣人の男達が、杯を掲げる。


「そうか、そりゃ良かったな」

 店内を見回すと、アチコチにまだ血糊の跡が盛大に残っている。

 まあ、あれだけ暴れたんだから仕方ないんだが、あまり綺麗にリフォームしようとか、そんな気持ちも無いようだ。


「それはそうと、どんな料理があるんだ? 全然解らんぞ」

「オススメは、肉玉スープだにゃぁ~」

 

 肉玉? 肉団子ミートボールみたいなやつかな?


「じゃあ、その肉玉スープとパンだな」

「にゃ! 私が頼んであげる。 ニニさん! ショウ様は肉玉スープとパンだってさ!」

「はいよ~」

 奥からニニの返事が聞こえる。

 

 メニューも無いのに、どうやって注文するのかな? と思ったら、カウンターに今日の料理の見本が並んでいて、そのまえにネコの人形が並んでいる。

 黒、白、トラ、三毛と、毛色を指定して、注文するらしい。


 中々、面白い。


 昨日、燦々(さんさん)亭に居た3人娘+2人の計5人の獣人娘に囲まれている。

 新しい子は、トラと黒くて白い手袋とソックスを履いた子だ。

 なんだこれ、モテキなのか? 思わず笑ってしまうが。


「オニャンコポンってどういう意味なんだ?」

 相変わらず、無口で黙ったままの黒い子を撫でながら質問する。

 

「獣人の昔の神様だよ」

「へぇ、今はアマテラス様なんだろ?」

「うん、でも昔の神様を拝んでる獣人もいるんだよ」

「なるほどな~。 まあ、神様は神様だし、それで喧嘩とかしなけりゃなんでも良いよな」

 皆、ウンウンと頷いている。

 俺は獣人の女の子が寄ってくると触れたり撫でたりするのだが、獣人の男達はこういう行為をまずやらないらしい。

 ニムなども『獣人の男は嫌いにゃ!』 とか言っていたが、そこら辺に問題があるようだ。 


「そうそう、昨日の話の続きで、こんな玩具を作ってみたんだよ。 魔法を使わなくてもことわりで動く玩具だ」

 俺は、テーブルの上で弾み車(フライホイール)を勢いよく回すと、車の玩具を床に走らせた。


 キュウ~という音を立てながらランダムに疾走する黒塗りの玩具。

 皆、驚くだろうと思っていたら、女の子達が一斉にその玩具へ飛び掛かり、テーブルへ激突! 

 テーブルと椅子が纏めてひっくり返り、狂騒な音を立てる。


 メチャクチャだ。


「いったい何事だい!?」

 ニニが俺の注文した料理を持って、やって来た。

 

「ああニニ、悪い。 俺が玩具を床に走らせたら、この子達が一斉に飛び掛かってしまって……」

「こんなの見ちゃったら、追いかけちゃうに決まってるじゃん……」

 女の子達は顔を見合せながら、ションボリしている。

 

「あんたらそんな事だから、仕事にあぶれるんだよ!」

 ニニが女の子達に説教をし始めた。

 

「え? これが仕事に関係あるの?」

「当たり前さ。 こんなのに一々反応して飛び掛かってたら仕事にならないじゃないか」

「まあ、これから戦闘だ――って時に、脇から出てきたネズミとかに反応しちゃったら、やられちゃうか……」

「そういうことさ」

「そういえば、ニムは尻尾がちょっと動くぐらいで、飛び掛かったりはしなかったなぁ」

「そりゃ、あたしが鍛えたからね」

 ニニはそう言って、俺のテーブルに料理を置いた。

 

 テーブルに置かれた料理を見ると、やはり肉団子ミートボールスープだった。

 一口スープをすすってみる。


「ん? 美味い!」

 ちゃんと出汁が取ってある。 

 

 だが、出汁を取った魚の乾物をすぐに取り出さないで、そのまま煮込んでしまっているので、ちょっと魚臭い。

 その臭みを誤魔化すために、スパイスを沢山使ってあるようだ。

 だが、これはこれでスパイシーで美味い。


「美味しいよねぇ~。 それってショウ様が、ニムに作ってくれたのをニニさんが作り直したんだよ」

「なるほどな。 これが獣人好みの味なのか。 でも、美味いよ」

「うふふ。 連れてきたかいがあったにゃぁ」


 肉団子を食いながらそんな話をしていると、黒毛白手袋ソックスの子が、スルリと俺の膝の上に滑り込んでくる。

「おいおい、そんなところに入ってきたら、お尻触っちゃうぞ」

「いいにゃ~、あたしお尻に自信あるし」

 そう言う彼女のお尻を見るとスカートが割れていて、ボタンで留められている穴から出た尻尾が、俺の目の前でユラユラと揺れている。

 飯を食いながら、彼女の背中から尻尾を撫でてみると、先っぽがカギ尻尾だ。


「お、カギ尻尾だな。 お父さんかお母さんがカギ尻尾なのか」

「そうだよ。 お父ちゃんがカギ尻尾、えへへ」

「ちょっとミル! あんたばっかりズルいじゃないか」

 そう言ってきたのは長身で細身のトラ子だ。

 

 獣人の名前は、ニニ、ニム、ニケのように家族で頭文字が同じにするのが定番で、ニャ〇、ミャ〇という名前もいるらしい。

 トラ子は、黒白手袋ソックス子を追い立てると、俺の膝上にドッカと腰を下ろした。

 しかも、向かい合って。


「おい、これじゃ俺が飯を食えないじゃないか」

「うふふ、あたしを食べても良いよ」

 なんて言い出すが、もちろんここはそんな店ではない。

 

 トラ子の腰に手を回して毛並みに触れてみる。 人間やエルフは脇の下が弱い奴がいるが、獣人はまったく平気。

 そのかわり、尻尾の付け根が弱い。

 少し撫でてやると「なぉぉぉん」

  なんて甘い声を出す。


 少し冗談のつもりだったが、テーブルに座っている男の獣人達が騒めき立って、ガタガタとテーブルや椅子が床に擦れる音が響く。

 この声は男共の本能に訴えるようだ。

「おい、こら変な声出すな、男共が反応してるじゃないか。 ヤバイぞ」

「だってぇ……」

 そんな事をしていたら、トラ子の頭がおぼん(トレイ)はたかれた!

 

「こら! ウチはそんな店じゃないんだよ。 真学師様が迷惑してるじゃないか」

 ニニに怒られて、トラ子は渋々俺の膝上から退いた。 調子に乗った俺も悪いのだが……。

「すまんね。 これでやっと普通に食えるよ」

 

 ニニの作った料理を味わいながら、獣人達にちょっと質問をしてみる。

「獣人達で何か困ったこととかはないか?」

 俺の質問を受けて、獣人の男が声をあげた。


「困った事っていうと、オレっち達は字が読めないから、商人達からよく騙されてよ~」

「ああ、そうそう。 それが困った事だよな」

 獣人達は顔を見合せて、頷いている。

 

「そんな悪い商人がいるのか? それは困ったもんだ、そうだな――」


 俺はちょっと考えながら、獣人達へ提案をしてみた。


「それなら、取引の間に役人が入ってもらうとかだな、もちろん少々の手数料は掛かるが……、そうだ! 街の北に孤児院をやっているマリアって女性がいるから、彼女に仲介を頼むと良い。 彼女は字が読めるしな」


 ついでに、心も読めるし。 怪しい商人が騙す気満々でも、一発でバレるだろう。

 娼館で獣人に世話をしてもらっていたので、獣人にも偏見も無いしな。


「ニニに聞けば解るが、人を騙すような女性じゃないし」

 

 話を聞いていたニニが厨房から顔を出す。

「マリアの事はあたしが保証するけど、あたしゃあの人ちょっと苦手なんだけどね」

「そうなのか?」

「なんだか、心を見透かされているような気がしてね……」


 お、さすが歴戦の戦士、中々勘が鋭いな。

 マリアも何か仕事を持って、子供達の飯代を稼がないとダメだろうからな。

 公立学校の予算が出てもあくまで学校の予算で、孤児院にいる子供達の飯代は別勘定なのだから。


 獣人達の商取引にマリアが立ち会ってもらえるように、彼女に頼んでおくよ――そんな話をしていると、俺が背中を向けていた玄関の扉が開いた。

「あれ? リリ、お母さんは良いの?」

 女の子の1人がそんな声を掛ける。

 

 その声に釣られて後ろを向くと、真っ白な獣人の女の子が立っていた。


 黄金色に光る目を持つ、純白の毛色をした美しい獣人。


 思わず感嘆の声が出てしまう。

 ネコでも美ネコってやつがいるが、まさに美ネコである。

「リリ、この人真学師のショウ様だよ。 知ってるよね」

 純白の子がコクリと頷く。


「なんだ、俺もけっこう有名人だな」

「そりゃ、ここにいたロクデナシ共をぶっ殺してくれたじゃん。 もうホントに嫌なやつらだったよ」

 そんな話をしていると、純白の子が俺の隣へやって来た。

 

「初めまして、真学師のショウだ。 よろしくな」

 俺は立ち上がって挨拶をする。

 

「はい、初めまして、リリです」

 

「それにしても、美しいな……」

 俺が手を伸ばしても逃げるでもなし、恥ずかしそうに手を前で組んでいる。

 

 そんな彼女の手を取り、彼女の毛並みに触れてみる。

 凄い細かくて、柔らかい毛だ。


「凄い、ふわふわだな……」

 

 そして、彼女の喉を撫でようと手を伸ばした瞬間――。

 俺の目を激痛が襲う。 涙がボロボロ出て、目が開けられない!

 鼻の奥がツ~ン! となって、鼻から何かが滝のように流れ出てくる。

 すわ、鼻血かと思い、思わず手で拭くがただの鼻水だ。


「な、なんだこれ! ハ、ハックション! ハックション! なんだこれ!」

 クシャミが止まらない。

 

「あ~リリ、ショウ様から離れて」

 獣人の男共もコップを掲げて笑っている。

 

「なんだ、もしかしてネコアレルギーか?! この子の細かい毛が原因なのか?」

 涙と鼻水でグシャグシャになりながら、思わずアレルギーとかいう単語を使ってしまう。


「そうなんだよ、リリはヒトの男が好きなんだけど、ヒトの男がリリに触ると、みんなこうなっちゃうんだよね~」

「そ、そうなのか? こりゃダメだ。 ハックション!」

 この世界にはティッシュなんてないので、ハンカチで鼻をかむが止まる気配はない。

 俺は、慌てて残りの料理をかき込むと、ニニに銀貨を差し出して言った。

「ニニ、騒がしてスマン。 ハ、ハックション! これで女の子達に食わせてやってくれ。 俺はもうダメだ」

「はいよ~。 お大事にね」

 ニニも少し呆れ顔だが、そんな事を言ってる場合じゃない。 これじゃ、何もできん。

 

「ゴメンね」

 なんだか落ち込んでそうな顔をしている純白の子に軽く謝罪をして、オニャンコポンを飛び出ると、そのままお城まで走り、裏門

 に飛び込んだ。


「ハクション! ハクション! くそ、まだ止まらんぞ」

 クシャミを連発していると、それを聞きつけてニムがやって来た。


「ショウ様、どうしたにゃ?」

「ああ、ちょっとニム、今は勘弁してくれ!」

 獣人が側に来ただけで、鼻がムズムズするような気がする。

 

「なんでにゃ……? フ、フギャ~!」

 ニムが突然大声を上げる。

 

「なんだ?! ハックション!」

「ショウ様! なんでこんなにいろんな女の匂いがついてるにゃ!」

「ニニの店、オニャンコポンに行ったんだよ。 ハクション! そこで女の子達に囲まれちゃってさ。 ハックション、チクショウ!」

 思わず、チクショウとか言っちゃう俺、オヤジかよ。

 

 ニムは懸命に身体を俺にすり寄せて、匂いを上書きしようとしている。

「ちょっとニム、勘弁してくれ」

「その様子だと、リリに触ったにゃ? 浮気するからだにゃ」

 浮気って、何処がどう浮気なんだよとツッコミを入れたいが、今はそれどころじゃない。

 ニムをそのまま振り切って俺の工房へ駆け込み、素っ裸になって服を払う!

 岩塩で塩水を作って鼻ウガイを5回ほどやって、やっと落ち着いた。


「はぁ……酷い目にあった……」

 それにしても、ネコアレルギーとはな、たまげたなぁ……。

 元世界でも一度も無かったのに……。

 ありゃ、生物兵器レベルだぞ。

 あの子が1人いれば戦闘で敵を無力化できるじゃんって、俺も無力化しちゃうか。

 あの子の毛を集めてバラ蒔けば阿鼻叫喚地獄に……でも、収拾が大変だな。


「う~む……、アレルギー抑える魔法とかないのかな?」

 俺は素っ裸でベッドに横になりながら、そんなどうしようもない事をしばらく考えていた。

 

 後日、獣人達が取引を行う際にマリアが立ち会うという件は、獣人達には孤児院の警備をしてもらっているので、少しでも手助けになればという事で、彼女の快い返事を貰った。



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