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異世界で目指せ発明王(笑)  作者: 朝倉一二三
異世界へやって来た?!編

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49話 殿中でござる


 ――ダルゴム一家というゴロツキの集団を壊滅させて数日後。

 ニムがあの建物内を家捜しして発見した、文字の書いてある本やら手紙等のスクロールをいれた大きな竹籠かごを持ってきた。

 獣人達は文字が読めないので、とりあえず、手当たり次第に突っ込んだ形になっている。


 中身を確認すると、封蝋がしてある手紙らしいものもあるな。

 封蝋があるって事は貴族連中関係の手紙だと思うんだが、俺は貴族の名前なんかはロクに知らないので、殿下に確認していただくしかないだろう。

 かごの中を漁ると、一番下に本が5冊入っていた。

 これはたぶん、あの女魔導師の持ち物だと思われる。

 

 ペラペラとその本を捲って確認してみるが、日記らしいのが2冊、魔道書らしいのが1冊――残りの2冊は殆ど読めないのだが、女魔導師のオリジナルの魔法研究書みたいな物だと思う。

 中身が暗号化されてて判別つかないが――日記らしい物も半分暗号化されてて、同様に読めない。


 日記なんて個人の黒歴史を暴くのは、ちょっと気の毒かとも思うが、あんなゴロツキ連中に協力して俺なんかに倒される己の所業を怨んでくれ。

 それに、俺が死んでも同様の事をされると思うので、これはお互い様だ。

 情報も高価、本も高価、紙も高価。 こんな世界では、こんなものでも金になる。


「あまり恥ずかしいネタは残さないほうが良いなぁ……」

 女魔導師の日記を捲りながら、つぶやく。

 

 本やスクロールをひっくり返してそんな作業をしていると、ステラさんと師匠がやってきた。


「何をしてるのっと?」

「ステラさん、おはようございます。 先日潰したゴロツキ連中の巣から、集めた証拠品ですよ」

「ふ~ん、どれどれ……。 あ、ここの貴族連中の封蝋があるじゃん。 これって拙いんじゃないの?」

 ステラさんが薄笑いをしている。

 

「貴族の印がありますか。 やはり、殿下に確認していただかないとダメだな……」


「本もあるのね」

 そういって、師匠が本を手に取る。

 

「日記と、魔道書みたいですよ」

「え? 何々? そんな面白そうなのがあるの?」

 ステラさんが俺の手から魔道研究書らしきものを奪い取ると、興味深そうに本をペラペラと捲っている。

 

「中身が暗号化されて、殆ど読めませんよ」

「へ~へ~ふ~ん、ふ~ん……」

「こっちは日記ね」

 師匠は手にとった本の中身を読んでそうつぶやく。

 

「こんな面白そうなの、私が貰ったぁ!」

「ちょっとステラさん、勝手に決めないでくださいよ」

「なんでぇ、ショウの物は私の物じゃん」


 うぉ! 竹を割ったような、ジャイアニズムが炸裂! 


「ステラ! あなたの好き勝手にはさせないわよ!」

 目の前の興味深い研究材料に、一歩も引けない師匠が叫ぶ。

 

「ハイハイ、2人共落ち着いてください。 どうせ私には解読できませんから、御二方に預けるのは問題ないのですが、半分ずつ仲良く分けて、後で答え合わせとかしてくださいよ」


「「う~ん……」」

 2人共不満があるようだが、俺の折衷案に納得したようだ。

 死者の遺品を取り合うなんて、元世界からの倫理から言えばかなり外れているが、ここでは当たり前の光景だ。


「でも、こんなのどうやって手に入れたのぉ? ゴロツキ連中が持っているようなもんじゃないよ?」

 ステラさんが、本を捲りながら言う。


「私が倒した中に、魔導師がいたんですよ。 多分、そいつの持ち物かと」

「え~? どんな奴だった?」

「全身黒づくめで厚化粧をした下品そうな女でしたよ。 アクセサリーじゃらじゃらで」

「う~ん、それに当てはまるといえば……『黒のミミカ』 ぐらいなんだけど、けっこう有名人よ?」

「そうね……、私もそれしか思い当たらないわ」

 師匠も、ステラさんの意見に同意した。

 

「君、そんなのやっちゃったのぉ? どうやったの?」

「滝でステラさんと鍛練したやつですよ。 魔法で牽制してからの斬撃」

「あ~、アレか。 君のアレは異様に展開が早いからねぇ、まさに初見殺しだよねぇ。 油断したのかな……」

 あの魔導師も、貴族連中から吹き込まれた『あの見習いはショボい奴』 という評価を信じていたのかもしれない。

 あの時は紙鉄砲も併用したのだが、話してはいない。

 紙鉄砲は、ステラさん相手にも強力な武器になるだろうし、手の内は隠しておきたいのだ。


「注意一瞬怪我一生ってね。 怪我どころか死んじゃいましたけど」

「上手い事言うねぇ」

 俺の元世界の交通標語モドキに相槌を打つステラさんだが――師匠のツッコミが入った。

 

「ショウの言った『一寸の虫にも五分の魂』 ね、気をつけなさいよステラ」

「なんで私が」

「一番危ないのが、あなたでしょう? ショウと手合わせをして痛い目に合わされたのを忘れたの?」

「ふん……」

 どうやら、ステラさんは自分の事は棚にあげたいようだ。

 

 竹槍剣にも圧縮弾を装填してみて、披露してみる。

 これは危ないので、ステラさんとの模擬戦とかには使っていなかった。


「そんな物まで作ったの? 確かにそれを使えば動いている敵にも対応できるけど……暗殺稼業でも始めるつもり?」

「そんな事をさせるために、あなたに魔法を教えたわけではないのですが」

 師匠とステラさんは、俺の戦闘装備にあまり良い印象を抱いていないようだ。


「これも、雇われ真学師の仕事でしょうし。 師匠とステラさんがこういう仕事をやりたがらないから、私にお鉢が回ってきてるんですよ」

 それを聞いた2人共、思い当たる節があるのかバツが悪そうだ。



 俺の倒した『黒のミミカ』って奴が有名人だとすると、雇うのはけっこう金が掛かってるはずだ。

 ゴロツキ連中が雇えるような魔導師じゃないらしい。

 ――となると、益々貴族連中の関与が濃厚になる。


 ------◇◇◇------


 ダルゴム一家から回収した証拠品を持って、殿下の執務室を訪れた。

 

「殿下、コレが無頼共の根城から回収した証拠品になります」

「そうか」

「私は貴族の事がよく分からないので、少しステラさんに見ていただいたところ、ファーレーン貴族の封蝋があるという事でした」

「誠か……」

 殿下は俺の持ってきた証拠品を手にとると、見覚えのある封蝋をすぐに見つけたようだ。

 

「誰かある!」

 すぐに、メイドさんチームが集められて、証拠品が吟味ぎんみされた。


 証拠品を詳細に調べた結果、複数のファーレーン貴族がダルゴム一家を使って、商人を脅迫していた事が露顕ろけんして、すぐに処分が下された。

 処分の結果は、関わった貴族の領地2割没収。

 貴族の領地には多数の領民がいるので、いきなりとり潰す訳にもいかない――少々甘いがこのような処分になっている。

 それにしても、はかりごとをするのにわざわざ証拠になる封蝋を押したりして、貴族というのはなんなのであろう。

 そんな事にも見栄を張りたいのであろうか、まったくもって理解に苦しむ。

 しかし、さすがにテテロ卿の証拠になりそうな物は見つかる事が無かった。


「さすがに、間抜けな貴族と違って、テテロ卿の尻尾は中々掴めませんね」

「あやつは実力もある、遣り手だからの」

「それでは、その貴族の誇りを逆手に取って、そろそろ誘き出すとしましょうか。 若輩だの、若造だの侮っている真学師見習いから、喧嘩を売られたら無視は出来ないでしょう」

「妾が出頭を命じれば、卿とて無視は出来んとは思うが、何か勝算はあるのか?」

 殿下が心配顔で言う。

 

「まあ、それなりには」

「うむ……。 解った、其方の好きにするがよい」

「師匠とステラさんにも協力してもらわないと、ダメですね」

 

 殿下に作戦を話し、すぐに俺の工房へ戻り準備をする。

 まあ、作戦と言っても、マリアの精神感応を使うんだけどね。

 ただ、マリアの精神感応の事は、殿下にも秘密にしている。 それが、マリアとの約束でもあるし。

 また、殿下に嘘をついてしまう不忠臣者の俺だが、まあいつも悪魔と言われる身だし、そこの所はもう開き直るしかない。

 工房で余っている部品を集めて、それらしい機械をデッチあげて、俺の発明した心を読む機械って事で、殿下を誤魔化す作戦だ。

 銅製のコイルの巻いたガラス管の中にカラの魔石を入れて、配線を施し、旋盤で削ったスイッチモドキをテキトーに付ける。

 こんな沢山スイッチが付いた機械などは見た事がないだろうから、それらしく見えるだろう。


 このデッチあげた機械モドキをマリアに持たせて、オペレーターのフリをしてもらい、マリアの精神感応を誤魔化す。

 師匠とステラさんにはバレるとは思うが、マリアの事を話さなければ良い。

 師匠が本気になれば、それも通じないとは思うが、そこまで突っ込んでは来ないだろう。


 多分。


 ------◇◇◇------


 殿中という、お白州に呼び出されたテテロ卿は、不満たらたらだ。

 テテロ卿という人物をいままではチラ見した程度だったので、マジマジと見たのは今日が初めて。

 ハゲた白髪頭で初老の男で、赤い布に金糸の刺繍をされた法衣のような服を纏っている。

 この世界の平均寿命は60歳ちょっとらしいので、初老といえどけっこう年配になるが……。

 顔には深い年輪が刻まれ、そのしわを深めて俺をにらんでいる。

 殿下の言う通りかなりの遣り手なのだろうが、そのような人物が俺のような若造に取り調べを受けるなど、我慢できないのだろうと察する。


 大広間の中央に立たされ裁きを受けるテテロ卿は、脇に護衛として女魔導師を連れているが、どうみても対感応通信(カウンターテレパシー)用の魔導師だ。

 玉座がある大広間に、この国の他の重鎮達も集められて雁首を揃えているが、他の者達も魔導師を連れているのが多い。

 何か後ろめたい事があるのか、それとも本当に護衛なのかは不明だが。


 だが普段この広間が使われる事は滅多に無く、国策を決める会議なども会議室で行われている。

 俺が作った透明なガラスは、ここにはまだ採用されていないので、広間は薄暗い。

  

 今回、魔導師が集まっているが、玉座があるこの部屋では魔法も剣を抜くのも厳禁だ。

 だからこそ、テテロ卿は何も出来ないと踏んで、このお白州に意気揚々とやって来たのだろう。


「このような場所に呼び出されて、詮議せんぎを受けるなど、不本意に他なりませんな」

 テテロ卿が不満の意を表すのを、殿下は玉座に座ったまま、卿をたしなめた。

「黙れテテロ卿、それは妾が決める事だ、控えよ」


「……」

 窘められて、テテロ卿は膝を折った。

 俺は殿下とテテロ卿の間に立ち、小さな机にメモ用の黒板プレートを積んでいる。

「それでは、テテロ卿の詮議は、不肖ながら真学師 『見習い』 のわたくし、ショウが執り行います。 よろしくお願いいたします」

 

 あえて、『見習い』 という単語を強調してみて、テテロ卿に当てこすりをしてみる。

 テテロ卿は、俺を若輩だと思っているから、小馬鹿にしているのだろうと想像出来る。

 まぁ、解りやすいぐらいに、その態度をあらわにしている。

 テテロ卿以外の貴族連中も、こんな見習いの若造に何が出来るのかと、そんな態度が有り有りだ。


「テテロ卿――卿には畏れ多くも殿下が推進なされる公立学校計画への阻害行為と、不正蓄財に関する容疑が掛けられています」

「何を証拠にそんな事を言うのか?」

「証拠は、これからあなたの口で説明をしていただこうと思っております」

「何を馬鹿な……」


 そんな事を呟いた、テテロ卿の顔色が変わった。

「ぐあああっっ! な、なんだコレは……! くっ、やめろ! 頭の中がぁぁぁぁぁ!」

 テテロ卿は、頭を抱えて、床を転げ回り始めた。

 その光景をみた、他の貴族や大臣達もざわつき始める。


「はぐううっ! 魔導師! なんとかしろおおっ!」

 テテロ卿が連れている魔導師は、金髪にグリーンのロングワンピースを着て、手には長めのロッドを持っている中々の美人だ。

 だが、何も出来るはずがない。

 これは、マリアの特殊能力で、魔法ではカウンター出来ないのだから……。

 

「テテロ卿、落ち着いてください。 誰も何もしていませんよ」

 俺はシレっと、そんな台詞を吐く。

 

「なにぃぃぃ! そ、そんな馬鹿なァァ!」

 周りにいた貴族連中達も、一緒に連れている魔導師に確認をしている。


「静まれ! テテロ卿、亡き前国王とアマテラスに誓って言うが、誰も魔法は使ってはおらぬ」

「くぁぁっ! ……なんですと……それではこれは……いったい」


 俺は黒板プレートに――不正蓄財に関与したと思われる人物の名前を書き出す。

 3人の名前を大きく。 そして、その下に3人の名前を小さく。


「テテロ卿、主にこの3人が卿との不正蓄財に関与が疑われる人物です。 それから、下の3人は金額が少ないですが、関わっていますね」

「し、証拠は……」

「ですから、あなたの口から自白をしていただこうと……」

「くだらぬ……ぐあああっっ! やめろぉぉぉぉ!」

 

 再び、テテロ卿は床を転がり始めた。

 それをみた女魔導師が、事を起こそうとするが……。


「おっと! ここは殿中ですよ? 魔法を使えばどんな事になるか。 テテロ卿は殿下に反旗を翻すおつもりか?」

 俺に行動を止められるそんな台詞を言われて――女魔導師はたじろいだ。

 有力貴族に雇われてそれなりの金額を貰っているだろうが、国家反逆罪を問われるとなれば――そこまでして突っ張る義理は無いだろう。


 その時、殿下の後ろに設置された衝立ついたてから、白と黒のローブが静かに歩み出てくる。

 このローブは、黒が師匠で、白がステラさんだ。

 殿下の正面には、黒い戦闘鎧に身を包んだ、ニムとルミネスが配置される。

 むろん、殿下の脇には近衛兵もいるので、ここを突破などは出来るはずもない。

 近衛兵達は、殿下が身分などに関係無く実力重視で採用しているので、その力は折り紙付きだ。


 その布陣を見て、卿の女魔導師と、その他貴族達の魔導師達も固まった。


 俺は、黒板プレートに1人の名前を書いて、床に這いつくばっているテテロ卿に近づくとそれを見せた。

「くそ……若造がぁ……」


 俺は、周りに聞こえない様な小さな声で、テテロ卿に問いかける。


「コレを見ていただきたい。 『ロクナート・ミル・プレナート・テテロ』 」

「な、何故その名前を……」

「そう、あなたが7歳の時、落馬事故に見せかけて殺した、あなたの弟さんの名前です」

「そ、そんな事が……」

「だからさ~、孤児院への嫌がらせと、不正蓄財をゲロしてくれれば、こういうネタに目を瞑ってやろうって話なんだよ。 白状すれば、改易や取り潰しなんかの苛烈な処分をしないように、殿下にお願いしてあげますから」

「ふざけるな……」


「なんだよ、まだシラを切るのか? しょうがねぇなぁ! それじゃ、テテロ坊やが、ジル婆さんに筆下ろしされちゃった話でもするか~?」

 俺は大声をあげ、皆に聞こえるように話し始めた。

 

「な、なに!」

「テテロ坊がジル婆さんに猿ぐつわをされて、馬小屋で――」

「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!」

 テテロ卿が発狂したように絶叫する。

 

「おやぁ?」

「殿下全てをお話しいたします……」

 呆然となったテテロ卿がボソボソと語りだした。

 

「テテロ卿、其方のような国の重鎮が不正に手を染めていた事は、誠に残念だ。 心を入れ換えて、国に尽くす事を切に願う」

「……」

 テテロ卿は沈黙を保ったまま、うずくまっていた。


 その場にいた、その他の貴族連中の騒めきも中々収まらずに――。


 ------◇◇◇------


「それが、人の心を読む機械か」

 ここは執務室、白いローブを着たマリアが持っている、俺が作ったインチキ機械を眺めながら、殿下がつぶやく。

「申しわけございませんが、この機械については、何もお答えできません。 殿下のお嫌いな禁忌に触れる物ですので」

 

 無論嘘で、今回のお白州の出来事は、全てはマリアの精神感応能力によるものだ。


「う~む……」

「このような機械が巷に溢れればどのようなことになるか、想像は難しくないと思います」

「まったくもって、考えるだに恐ろしいの。 その機械も、其方もだ」

「ただ、この機械を使うには相性のようなものがございまして。 今のところ、その資格があるのは、ここにいるマリアだけとなっております」

 殿下が、こういう物に嫌悪感を感じるのも仕方ない。 心を読むなんてのは、真学師の一部が持ってる能力だが、それが機械で再現出来てしまったら、大変だ。


「なるほどな。 しかし、その者とその機械があれば妾の弱みを握り、この国を好き勝手にする事も出来るのだな?」

「ありえませんが」

「でも、やろうと思えば出来るのだろう? そして、逆らえない事を利用して妾の身体をもてあそび……」

 本気でこの機械の心配をしているのかとおもったら、なんだか変な方向へ……。


「あの……? 殿下?」

「凌辱の限りを尽くそうとか、そんな事を考えてるのではあろう!」

「ちょっと待ってくださいませ」

「――という、話をだな、丁度ミズキの帝国お土産の薄い本で読んだところでの」


 薄い本キタ――。


 まさか、転生者が書いてるのか?

 詳しい話を聞くと、印刷物ではなくて写本らしいので、転生者は関係なさそう。

 転生者が関与しているのであれば、印刷の技術まで持ち込んでいるはずだからな。


「浮世草紙のような物でしょうか?」

「まあ、そんなものだ」

「そのような物をお読みになるとは、今は亡き殿下の御母堂ごぼどうが知ったらお嘆きになるのではありませんか」


「ありえん!」


 即座に断言する殿下。

「そうか、其方は知らんのか、我が母がこの国でやった所業を」

「何をなさったのでしょう?」

「国の内外から、自分の好みの男共を集めて、騎士団を作りおったのだ」

「それは……騎士としての実力は無視してですか?」

「その通り、その結果危うく国の財政が傾きかけたわ」

「――」

 俺は返答に困った。 まさか亡くなって良かったですねとは、言えない。

 

「其方の考えてる事は解るぞ、まったく良い時に死んでくれて良かったと思っておる」

「いや、そのなんと言うか……。 その騎士団はどうなりました?」

「妾がまつりごとの実権を握って、即座に解体させた」

 

 ファーレーンの王侯貴族は堅実な方ばかりだと思っていたが、けっこうはっちゃけた方もいらっしゃったのか……。


「というわけでだ、妾が如何わしい本を読んでいても、なんの不思議もないという事なのだ」

「声高らかに胸を張って言う事ではないと思いますが」

「其方も、本の内容が気になるであろ?」

 まあ、薄い本の内容なんて、決まっている。 何処の世界でも考えるような事は然程変わらないのだ。


「どうせ、怪しい真学師や魔導師の作った淫らな発明品や魔法で、王侯貴族の姫様が虜になるとかそういうのではございましょう?」

「何故知っておるのだ!?」

「古今東西、そういう話は定番なのでございますよ」

「それなら、其方も妾にそういう事をしてみたいとは思わんのか?」

 殿下は俺の身体に抱きついて、そんな事を言い始める。 

 あの~この部屋にはマリアもいるんですけどね。


「殿下、お戯れを……。 今の平和な生活を投げ捨ててまで、危ない橋を渡ろうとは思いませんが」

「なるほど、其方は今の生活と妾の身体の価値が、釣り合わんと申すのだな」

「いや、あの……殿下?」

「心して返答するがよいぞ?」

「……」

 マジで俺が返答に困っていると、殿下は笑いだした。

 

「ははは、困っておるな。 本当にこやつは困っておるぞ、あはは!」

「勘弁してくださいよ」

「ならぬ! そうさな、妾の花びらに口づけをするなら、許してやるぞ」


 そういって、俺から離れた殿下は、スカートの裾を手繰りあげる。

この世界の女性は下着を付けていない、

 殿下に言われるまま膝を折り、彼女の黄金色の草原に咲く花弁に口づけを――。


「するわけないでしょ」

「チッ! なんだつまらんの」

  殿下は舌打ちして、プイと後ろを向いてしまった。


「しかし、テテロ卿の問題も片づきそうであるし、ショウの困り顔を見て、妾は満足だ。 下がってよい!」

「ははっ」


 俺はマリアと一緒に殿下の執務室を後にした。


 少し補足しよう、この世界の女性はノーブラ、ノー〇ンである。 それ故、基本がロングスカート。 当然裾を捲れば――ゲフンゲフン。

 一応、ドロワース、ズロースのような物もあるのだが、履いている女性は少ない。

 元世界でも、女性の下着が一般的になったのは戦後になってからであるし。

 殿下のような身分の高い方は、ロングドレス+手袋+シルクのストッキングを履いて、肌を露出させることは滅多にない。

 帝国の女性で、膝上等の多少短いスカートを履く人もいるようだが、その場合も生足はストッキングでガードされている。

 例外でミニスカートが多いのが獣人だが、彼女達は元々裸でも平気らしいので、スカートの短さは関係ないらしい。


「とても、楽しい方ですね」

「楽しいって? もう仕事に追われて、娯楽不足になってるから、俺をからかって遊んでいるんだよ」

「仲が良さそうで、羨ましいです」

「ごめんね~、変な寸劇に付き合わせちゃって」

「いいえ、楽しかったです」

 マリアを見ると、喜んでいるようだ。

 

 女の子には、あまり楽しい場面では無かったように思えるんだがなぁ。

 だが、マリアは元娼婦だ。

 こんなシーンは見慣れて――いや、その時は目が見えなかったが……そういう場面が日常だったわけで。

 人の心が読める彼女は、俺と殿下の悪ふざけも楽しい寸劇に見えるのかもしれない。


 そのままマリアを孤児院まで送る事にした。

 途中で、テテロ坊の筆下ろしの詳細を教えろという、ステラさんに絡まれるも、なんとかお城を脱出。

 武士の情けってもんがあるでしょう。 そりゃ、やつは武士でも武人でもありませんけどね。

 マリアの精神感応能力については、師匠は薄々勘づいていたようだが、見て見ぬふりをしてくれたようだ。


 これで公立学校も動きだす。

 成績優秀者は、さらに高度な教育を国費で受けられて、身分に関係なく役人になれる可能性もある。

 工作や手先が器用などの職業適性も調べる計画であるから、工作師や細工師になれる可能性もある。

 そうなれば、学校へ通わせたいと思う親も増えるだろう。

 

 その後、明らかになったテテロ卿の不正に対する処分が決まり、領地の5割が没収とされた。

 没収と言っても、一時天領になるだけで再度他の貴族に再分配される。

 テテロ卿も強制引退させられて、息子にその席を譲ったが、もう日の目は見ないだろう。

 元世界の江戸時代、飛ぶ鳥を落とす勢いだった老中田沼意次が、息子の不祥事を境に一気に足場を無くして失脚したように、一度落ち始めると復活は困難を極めるのだ。



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