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異世界で目指せ発明王(笑)  作者: 朝倉一二三
異世界へやって来た?!編

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48話 もう後戻りは出来ない


 獣人戦士親子と、ダルゴム一家という無頼の集団の根城へ向かう。

 案内されて到着した建物は、木造2階建てのちょっと大きな建物だった。

 印象としては、ウエスタン映画に出てくる、飲み屋――。


 ここまで来てしまったら、グダグダ考えても仕方ない。

 マリアさんは外に待たせて、3人で中へ入る事にした。



「こんちは、邪魔するぜ」 


 腰にはコルトSAAシングルアクションアーミーの代わりに脇差しを差し、まるでマカロニウエスタンの主人公のように建物の中へ入る。

 薄暗い屋内には椅子とテーブルが少ないが並んでいて、食堂か、飲み屋のようにも見える。

 玄関の正面には、途中で踊り場がある90度折れ曲がった2階へ上がる階段。


「なんだぁ? てめえは!」

 ゴロツキらしい一人が大声をあげる。


「俺は、真学師のショウだ。 お城の殿下からのご命令で、詮議せんぎのためここを訪れた」

「はぁ? 真学師? プレート背負ってないよなぁ、見習いだろ?」

 椅子に座ってたガラの悪そうな男がそんな事を言い出す。

 どうやら、俺が真学師の正式の証となっている胸のプレートを持ってないのに、ケチをつけているらしい。

 無論、俺がまだ見習いなのは事実だが。


「俺はこんな話を聞いたぜ~、お城じゃ真学師見習いのくせにデカイ面してる奴がいるって」


「「「「ハハハ……」」」」

 笑い声が、薄暗い部屋に響く。


「お前等には、城下町プライムの北にある孤児院に対する、嫌がらせの容疑が掛けられている」

「そんなの知らねぇなぁ~」

 男達の1人が、そんなとぼけた声をあげるが――俺が続けて、無頼共に質問を投げかける。

「孤児院で、お前等の仲間を捕縛して、白状させたら、ダルゴム一家の名前を出したぞ?」

「おい、魔導師の先生を呼んでこい」

 奥にいたそのダルゴムらしい男が指示を出すと、小男が二階へ駆け上がった。

 

 あ~、なんだよ、魔導師までいるのかよ。

 面倒になったら、このまま外に出て、電子レンジ魔法で、チンしてやろうかと思ったのに。

 ニニとニムがいるからカマイタチ(ウィンドカッター)もダメ。

 真空衝撃波じゃ、この周辺が吹き飛ぶな……。

 だいたい、俺の事を見習いだとわざわざ誇張して言うって事は、こいつらのバックから、そういう事を吹き込まれているって事だ。

 ということは、ここで引き下がっても、『やっぱり見習いはたいしたことがなかったぜ』 とかいう噂を喜んで流して、孤児院への嫌がらせもエスカレートするに違いない。

 つまり、もう話し合いは通じないって事だ。


「シラを切るつもりか?」 

「知らねぇって言ってんだろ!」

 そんな俺の台詞にダルゴムが切れた口調で叫んだ。

 是非もなしか……。

 面倒臭せぇなぁ。 師匠が、丸ごと焼き払おうとしちゃったのが解る気がするわ。

 元世界じゃ、なんでも話し合いを~とかいう連中がいたが、そんな奇麗事をいくら言ってもここじゃ被害者が増えるだけだ。

 こんな事で孤児院の子供達に何かがあれば、悔やんでも悔やみきれない。


 ふと、ニニ、ニムを見ると、毛が逆立ち、唸り声をあげて、臨戦態勢だ。 俺が手を出すまで仕掛けるなよ、と言っていたので、今にも飛び掛かりたいのを我慢しているだろう。

 

「解ったんなら、とっとと帰んな。 見習いさんよ」

「そうそう、お前の師匠にデカイおっぱいでも飲ませてもらえ」

 俺に近づいてきた男は、そんなことを言い出して、ゲラゲラと大笑いしだした。


「ん? ウチの師匠の乳がデカイって有名なのか?」

「ああ、有名だぜぇ。 イッペン拝んでみたいもんよ」


「ハハ、お前等じゃ無理だろうなぁ。 お前等全員此処で死ぬし」


 大口開けて馬鹿笑いしている男の口に、圧縮弾を放り込むと解放させた――破裂音と共に、吹き飛ぶ赤い飛沫をあげ飛び散る脳漿。

 主を失った人間だった物は、為す術もなく床板に叩きつけられた。


「てめぇ!」 

 ざわ立つ男達から、後ろに飛び退くと、懐から4つ閃光玉フラッシュバンを取り出して、放り投げた。


「ニニ、ニム! フラッシュ!!」

 俺は、フラッシュバンに彼女達が巻き込まれて無いことを願い、閃光玉フラッシュバンに魔力を送る。


 閃光玉フラッシュバンが眩い光を放つ!

 この建物の中は薄暗い、この閃光玉フラッシュバン効果覿面こうかてきめんだろう。


「くそっ、目が……」

 フラフラしながら、男の1人が当てずっぽうで出してきた剣を、身体を左に開いて躱すと、抜き打つ!

 これも無影ムエイの応用技だ。

 切っ先が、男の顔面を捉えるとパックリ割れて白い肉が見える。

 数秒後に、ジワジワと血が滲み始めると、床に鮮血が滴り落ちみるみる広がる。

 ステラさんはすんで躱したが、この男は深々と傷を受けた、つまりはステラさんより遥かに格下ってわけだ。

 俺は脇差しを反し男の脇を切り上げる、男の腕が胴体から離ればなれになり、叫び声をあげて転げ回る。


「フギャァァ!」

 ニムの雄叫びが建物内に響く。

 彼女が目の前の男の剣を巧みに躱すと、男の脇腹へ回し蹴りをたたき込む。

 血反吐を吐いてふらついた男の側頭部に後ろ回し蹴りが連続ヒットし、壁まで飛ばされると、男は身体を痙攣させ絶命する。

 近接戦闘で相手が獣人じゃ勝負にならないと思うんだが、こいつらはそう思わないのだろうか?

 それとも、ニム達が強いだけなのか? 獣人の本格的戦闘を見たのはこれが初めてなので、なんとも言えないが。


「フシャ!」 

 床が抜けるような踏み込み音を立てて、今度はニニが前へ出る。

 剣を振ってきた男を軽くいなすと、男の顎へ強烈な掌底が襲った。

 多分、掌底がヒットした瞬間にその男は即死だろう。

 ニニは、まるで丸太のように身体を硬直させた男の身体を掴みあげ高く掲げると、彼女の立て膝の上へ叩き落とした。


 プロレスのナントカ式バックブリーカーである。


 形容しようが無い音を立てて、男の身体がくの字に折れ曲がり、

「ハハ、なんだいお前等、口ばっかか?」 

 ニニが挑発的な台詞を吐き、死体を放り投げて無頼達を煽る。


 その時、上の階へ上がった小男が下に駆け降りてきた。

「親分、先生が来やすぜ」

 やっぱり、あの奥の男がダルゴムか。

 俺は、脇差しを左手に握り直すと、右手で竹槍剣を抜き、鍛練を繰り返した早くて正確なその動きで、圧縮弾を装填した。


 俺は、重量軽減の魔法を自身に掛けて、2階から降りてきた小男との間合いを一気に詰めると、男の腹に竹槍剣を突きたてた。

 魔法を解放すると、爆音と共に男の身体が吹き飛び、生臭い臭いと共に臓物で床が真っ赤に塗られる。

 殺すだけならここまでする必要もないのだが、正直かなりムカついていた。

 感情の抑えが利かない結果がこの惨状を引き起こしたのだ。


「ひいいいっ!」 「はぐっ!」

 血に染まった俺と惨状を目の辺りにして、残った無頼達は剣を放り投げて逃げ始めるが、ニニに捕まり床に壁にと叩きつけられる。

 1人は掴まれて天井に放り投げられ梁に頭が衝突、首があらぬ方向へ曲がり即死。


 彼女が、壁に叩きつけたもう1人を手に掛けようとしたところで、俺が止めた。

「ニニ、1人残しておいてくれ」

「はいよ~」 

 ニニの軽い返事が返ってくる。


 その時、2階から小走りに走る音が聞こえてくるが、階段の上から、黒いローブのような物が見えた瞬間に魔導師だと直感した。

 しかも、詠唱中。

 俺は、重量軽減の魔法が掛かったままの身体で、階段の踊り場までジャンプして一気に間合いを詰めると、耐魔法兵器(カウンターウェポン)を発動した。

 

 耐魔法兵器……それは紙鉄砲!


 俺の作ったこの紙鉄砲は、いつぞやのユミノキを使った和紙ではなく――珍しいヨモの木を使い出来上がった紙は、繊維が細かくて強靱、その上(ろう)を塗ってコーティングしてある。

 こいつを振り降ろすと、その紙だけの姿からは想像出来ないような乾いた爆音が響きわたる。

 階段を駆け降りてきた魔導師の身体が、その音を聞いて硬直するのを確認すると、その隙をついて同時に展開していた圧縮弾を魔導師の目の前で解放する。

 圧縮弾の破裂と共に魔導師の体勢が崩れ、魔法の詠唱失敗がピンク色の光にフラグメンテーションされると同時に、俺の攻撃が魔導師の身体を捉える。


 俺から繰り出された脇差しの突きが魔導師の腹から背中へ貫通した。 その時、俺は初めて相手が女だという事を認識した。

 30代半ばの下品な化粧をして、黒ずくめで胸の開いた格好、胸と腰にアクセサリーが光っている女魔導師。


 同じ攻撃で、ステラさんはすんで止めてみせたが、この女魔導師は為す術もなく串刺しになっているということは、下の男共同様に、ステラさんより実力が落ちるという事なのだろう。


 そのまま脇差しから手を離し、剣鉈を抜き女魔導師の首へ突きたてると、その女魔導師は階段の踊り場まで、崩れ落ちてきた。


 女魔導師の腹から刺さった脇差しを引き抜き振り向くと、ニムに追い詰められたダルゴムが階段を登ってきていた。

 俺は軽く圧縮弾を作って、ダルゴムの前で炸裂させると、ダルゴムはもんどりうって、階段を転げ落ちた。


「ひいい!」

 尻餅をついたまま、必死に逃げようとしているが、もはや逃げ道は無い。


「お前等が言う、ショボい真学師見習いにボコボコにされて、お前等はもっとショボいよな」

 俺は、竹槍剣に圧縮弾を装填すると、ダルゴムの左大腿を吹き飛ばした。


「ぎゃぁぁぁぁ!」

 叫び声と共に大腿がズタボロになって、転げ回る。

 

 ふと建物内を見回すと、残っているのはこいつだけだ。

 1人生き残っている若い男は、ニニが引っ張ってきていた。


 不意に、貧血に似た目眩がする。

 もしかして俺は、呼吸をするのを忘れていたのかもしれない。


「ふううううう~」 

 俺は深く息を吸い込むと、ゆっくりと吐き腰を落とした。

 端から見たら、今の俺はかなり顔色が悪く見えているだろう。


「なんだい、真学師様は今日が初めてなのかい?」 

 さすがベテラン戦士のニニは俺の事に気がついたようだ。


「ああ……」

「大丈夫、すぐに慣れるよ」

「ショウ様、大丈夫かにゃ?」

「大丈夫だ」


 ニニは優しい目で語りかけてくれるのだが、こんなのに慣れたくはなかったな……。


「てめぇら、こんな事をしてタダで済むと思ってるのか?」

 この後に及んでまだ虚勢を張るダルゴム。


「手下は全部死んだぞ? これ以上、どうなるってんだ?」

「俺のバックにはすげぇ人がついているんだ」

「ん? 俺は最初に言ったよな、お城から殿下の命令で詮議に来たって。 この国で一番偉いのはライラ姫殿下だ。 その他にすげぇ人って誰だ? 是非教えてほしいんだが」

 

 そう俺に質問されて目を逸らし、口に出してしまった事を後悔しているのか、黙り込むダルゴム。


「誰に頼まれた? 事の起こりは誰だ?」

 残ったもう片方の太股にも、剣鉈を突き刺して、絶叫させてみせるが、黒幕の名前は出さなかった。


 面倒だ。


 『マリアさん、繋がってる?』

 『はい』

 『俺の目の前の男の心を読んでほしいんだが』

 『わかりました』


「もう一度聞くぞ、事の起こりは誰だ?」

 俺は掌を差し出して、魔法を使うフリをし始めた。


「だ、誰が喋るかよ……な、なんだ、これ! や、やめろ! 頭の中にぃぃぃ! ぎゃぁぁぁぁ!」

 ダルゴムがマリアさんの精神感応を受けてバタバタとのたうち回る。


 『ショウ様、テテロという貴族の使いが来たそうです』

 『ありがとう、マリアさん』


 精神感応マジ便利。

 でも、怖い。


「黒幕はやはりテテロ卿か……」

 それを聞いた、ダルゴムは目を見開く。

 俺は、脇差しを振り上げると、ダルゴムの首筋へ一閃させた。

 ダルゴムの心臓の鼓動と共に、鮮血が脈を打って噴き出し、ダルゴムは首筋の出血を押さえるような格好で絶命した。

 この世界に警察も司法もなく、刑務所もない。

 基本、役人や殿下の胸三寸で決まる。

 刑務所の役目に近いのは奴隷商になるのだが、この手のゴロツキ連中は奴隷にもならないので、即時処分というのが通例だ。


「真学師様、ホントに今日が初めてなのかい?」

「ああ……」

「初めてにしちゃ、鮮やか過ぎるよ」

 あんまり誉めてもらっても、嬉しくないこともあるのだと、今日解った。


 血糊で、ズルズルになった床を歩いて、1人だけ生かした奴のところへ向かう。

「た、助けてくれ! 俺は反対したんだよ! 真学師なんて絶対にヤバイってぇぇぇ」

 1人残った男は半泣き状態だ。


「ショウってヤツは、見習いだからたいしたことは無いとか言われたのか?」

「そうだよ、でも俺はヤバイって言ったんだよ。 魔女の弟子がそんな甘いもんじゃないって! ぎゃ、ひいいいっ!」

 俺は、加熱の魔法を男の右腕に使うと、その男の腕からは湯気があがり、悶絶して転げ回った。

 魔法だと、内部から加熱されるので、こいつの右手はもう完治しない、切り落とすしかないだろう。


「このまま、ファーレーンを立ち去るなら、このぐらいで勘弁してやる」

「ショウ様良いのかい?」

 ニニが不満そうに聞いてくる。


「まあな……。 もしかして、ニニの仲間が伏せているようなら、逃がすように言ってやってくれ」

「解ったよ」


 ニニは、無頼達の仲間を取り逃がさないように仲間を伏せていたらしい。

 さすが、歴戦の勇士らしく戦闘にソツが無い。

 1人残った男を逃がしたのを確認すると、ニニに訳を説明する。


「ここでダルゴム一家が全滅した事を、噂にして広めてくれる奴がいないと困るんだよ」

「ああ、そうか。 ファーレーンに来ると、ダルゴムみたいになるって、噂を流すんだね。 ウチら獣人はそういうのに頭が回らないからねぇ」

 ニニは俺の説明に納得したようだ。


 俺が5人、ニニが4人、ニムが3人。 合計12人の死体が転がっている。

「まあ、やっちまったもんじゃしょうがない」


 俺は、カウンターの奥から麻袋を見つけると、それに入れる物を探して床に転がっている死体を漁り始めた。


 この世界で死んだやつは身ぐるみ剥がされて全てリサイクルされる。

 それ専門に商売をしている連中もいるぐらいで――知りたくもないが、下手をすると死体すらリサイクルされている可能性もある。


 ダルゴムの死体からは、中々に上等そうな短剣。 そして、ずっしりと重い硬貨が入った財布。

 女魔導師の死体からは、宝飾の付いた短剣、ネックレス、イアリング、アンクレット、腰回りのアクセサリー、そして指輪を両手で20個ぐらい付けているのを抜き取る。

 指輪の抜き取りは簡単だ、乾燥の魔法を指へ掛ければ簡単に抜き取れる。

 手下が持っていた剣は俺が打ち直してリサイクルする原料に使う。


 そんな追剥おいはぎをしながら、ニニに言葉を掛ける。

「ニニ、この建物は俺の名前で接収するが、今日手伝ってくれたお礼の代わりにココを好きに使って良いぞ」

「え?! ホントかい?」

 ニニは思いがけない俺の申し出にびっくりしたようだ。


「金貨が良いなら、後で用意するが……」

「いやいや、こっちの方が良いに決まってるよ」

「そのかわり、この死体を片づけてくれ。 それと、2階にある物も好きに処分して良いが、本とかスクロールとか黒板プレートとか文字の書いてある物は、お城に持ってきて俺に届けてくれ」

「ホントにそれだけで良いのかい? 金貨とか金目の物があったらどうするのさ」

「それもお前等の好きにして良い。 ニムへのお礼はそこから取ってくれ」

「ウチはそんなの要らないのにゃ」

 

 それを聞いたニニは、俺に寄り掛かってきた。

「なんだよ~、ニムの話だと、真学師様は優しいけど、ちょっと頼りないにゃ! とか言ってたのに、もう頼りがいありまくりじゃないか」

「この建物を好きに使って良いとは言ったけど、悪いことには使うなよ。 いくらニムの母親でも、処罰しなけりゃダメになる」

「そんなの解ってるよ~。 せっかく良い思いが出来て、娘もお城に勤めているのに、ケチな事でフイにしたくないよ」 

 そんなことを言ってニニは俺に抱きついてくるが、圧力が凄くて身体が折れそうだ。

 それを見ていた、ニムが割って入ってくる。


「母ちゃん! ショウ様はウチのショウ様だにゃ!」

「ハハ、ハイハイ。 さすがに娘より先に食っちゃまずいよねぇ~」

 ニニはケタケタと笑いながら俺から離れた。


 脇差しと竹槍剣についた血糊をぬぐうと、建物の裏手へ行き、血まみれになった顔を洗う。

 玄関に戻ってくると、マリアさんが待っていた。

 

「ごめんマリアさん、待たせてしまったな」 

「いいえ。 あの……それから、マリアで良いです」

「そうか……解った」

 

 マリアと少し立ち話をしていると、騒ぎを聞きつけて役人達がやってきた。


「お前等、ここで何をしている」

 2人の役人が俺達に乱暴な口調で話しかけてくる。


「俺は真学師のショウだ。 殿下のご命令で、此処の詮議せんぎにやってきたが、抵抗にあったのでこれを排除した」

「し、真学師様でしたか、これはご無礼をいたしました」

「あの建物は真学師ショウの名前で接収する、何か不満があるなら、殿下に申し立てをすれば良い」

「決してそのような……」


『ショウ様、この人たち、ここのならず者からお金も貰っていたようです』

 そんなマリアの言葉が頭の中に響いてくる。


「ああ、そうか。 お前等はあのダルゴムから、金を貰ってたのか? ああなりたくなかったら、少し心を入れ換えろ」

 そう言って、獣人達によって運び出される原形を留めてない死体を指さすが――イキナリ核心を指摘され、役人は地面にひれ伏した。


「あ、いえ、ま、誠に申し訳ございません!」

 ――だが、コレ以上はとがめるつもりも無い。 こんな袖の下を貰うなんてのは日常茶飯事だからな。

 しかし、度が過ぎれば、処断される。


「今日は見逃すが、次は無い」

 そう言って役人達を帰らせ、集まってきた野次馬も散らせる。


 建物は獣人達に任せて引き上げ、マリアを孤児院へ送っていったが、孤児院の手前で別れる事にした。


「今日は手伝ってくれて、ありがとう。 悪いが此処で勘弁してくれ。 子供達にこんな血まみれの姿を見られたくない」

「わかりました」

 マリアがそう言って、彼女に貸した白いローブを脱ぎ始めたが、俺はそれを止めた。

「そのローブは預かっておいてくれ。 今日返してもらうと、この格好なんで汚れてしまいそうだ」

「……わかりました」

 

「それから、今日のお礼なんだが……」

 俺が金貨を懐から出そうとすると、マリアが即答した。


「要りません」

「いや、危ない仕事を手伝ってくれて、お礼をしないわけには……」

「要りません」

「学校として予算がついても、あくまで学校の予算なんで、孤児院の子供達の食い扶持は稼がないとダメなんだよ? そのために、お金はいくらあっても……」

「要りません」

 

 今気づいた。 けっこうマリアは強情らしい。

 ゼロって奴に、金貨渡されて捨てられるような別れ方をしたから、トラウマになっているとかかな?

 しばらく押し問答をしていたが、どうやっても受け取ってくれないようなので、諦めた。

 お礼として受け取ってくれないなら、アマテラス袋にいれて喜捨にすれば拒否出来ないだろう。


 うん、そうしよう。


 そのまま、マリアと別れてお城へ戻ると、門番にドン引きされつつ、工房へ帰ってきて着替える。

 まさか、血まみれのまま殿下に報告へいくわけにもいかないからな。

 新しい服も買わなきゃ……。

 この世界にやってきた時に、師匠に用意してもらった思い出の服だったのだが、違う服に着替えて行けば良かったか。

 俺は、この服を汚してしまった事を、少し後悔した。



 ------◇◇◇------


 殿下の執務室に入ると、顛末を報告する。

「北の孤児院への嫌がらせの詮議せんぎのため、ダルゴム一家という無頼者の集団を訪れましたが、苛烈な抵抗に遭ったため、これを排除いたしました」

「そうか」

「その際、頭目とうもくのダルゴムへ尋問したところ、事の起こりがテテロ卿からの使者だと判明いたしました」

「やはりテテロ卿か……」

「後で、手紙等の証拠品が見つかれば、殿下へご報告いたします」

「あい解った。 それで、何人(ほふ)った?」

「そうですね……、10(ジュウ)(フタ)

「ふふ、真学師へ喧嘩を売る連中が、そんなにいるとは」

 殿下は呆れたような表情をしている。

 本物の真学師なら手向かいもしないのだろうが、俺は見習いという事で侮っている奴が多いのだろう。


「彼らの言い分は 『お城にいるショウって真学師は見習いでたいしたことが無いのに、デカい面をしている』 そうです」

「呆れたな、ショウがそのような者であれば、ルビア殿やステラ殿が黙っているはずが無いであろうよ」

「多分、出入りしていた貴族連中からそのような事を吹き込まれたのでしょう」

「全く、ショウを馬鹿にするということは、ショウを雇った妾の人を見る目も馬鹿にしているという事だ」

「確かに」

「ほんに不愉快だのう」

 殿下は腕を組むと、ムスっとした表情になってしまった。


「殿下を侮り、私を侮る。 それを逆手に取って、仕掛けるとしましょうか」

「何か良い手があるというのか?」

「はい、しかしもうすこし証拠を煮詰めてからにいたしましょう。 それから、今日接収した無頼達の建物は獣人達に管理させております」

 殿下は少し、意外そうな反応を示した。


「ニムの他にも、獣人が行ったのか?」

「ニムの母親のニニですが……」

「ニニか。 実はな、ニムと一緒にニニも雇うつもりだったのだが、幼い子がいるからと断られてしまったのだ」

「そうでございましたか。 そのニニの幼い子供ですが、女の子の方が強くなりそうな子でしたよ」

「そうか。 それは楽しみだの」


「それにしても……」 

 殿下が言葉を続ける。

「12か……。 ショウ、妾の側にいてこの数がどれだけ増えると思う?」 

 12というのは、今日の死者の数だ。


「そうですね、10万か100万か」

「そんなに妾は戦好きに見えるのか?」

「いいえ、こちらから仕掛けなくても身を守るために必要な数になるかもしれません」

「それにしても、いくら真学師とはいえ100万は無理であろう」


 俺は黙って空を指差す。


「空が如何した」

「空に光っている物がございますな」

アマテラス(太陽)がどうかしたのか?」

「そのアマテラスを降臨させて、地上を焼き払います」

「なに!?」 

 殿下は目を丸くして、驚愕の表情だ。

「今のところ、ことわりは解っていますが、実現する方法が見つかりません。 当然、禁呪という事になるでしょうし」


 魔法で物質の原理に干渉できるのであれば、核融合を起こす方法もあるだろうと予測がつく。

 しかし、魔法の射程は100mほど、そんな魔法が可能だとしても完全な自爆技という事になる。


「真か……其方はほんに魔女の弟子だの。 このような男を無能扱いとは、無知というのは恐ろしい物よの」


 そんな会話をしつつ、殿下と少々打ち合わせをして俺の工房へ戻ることにした。


 ------◇◇◇------


 戻ってくると、師匠が騒ぎを聞きつけて心配そうな顔で問いかけてくる。

 遠目にステラさんも覗いている。


「ショウ、大丈夫なのですか?」

「あ、師匠。 大丈夫です、怪我もありません。 師匠達に特訓につき合っていただいた成果ですよ」

「そう」

 師匠はまだ心配そうな顔をしているが――ちょっと精神的にも肉体的にも疲れた……。


「師匠、申しわけございません。 今日は独りにしてください」


 無礼としりつつ、師匠に礼をして自分の部屋へ戻ると、今日使った武器の手入れをすることにした。

 アルコールで血糊と脂を拭き取り、錆止めの脂を塗る。

 刀身を見てみたが、刃欠けはないようだ。


 晩飯を食い、暗くなるまでベッドの上で寝ころんでいる。

 月明かりが射し込んでも、そのまま灯もつけずにじっと寝ていた。


 ウトウトし始めたら、外からなにやら言い争いが聞こえる。

 玄関の扉を開けてみると、スケスケの寝巻きを着た、師匠とステラさんがたっていた。


「どうしたんです? 2人共そんな格好して」

「あの……、ショウが元気なさそうだったから、慰めてあげようと思って」

「もうさ、3人でやろうぜ、3人で!」

 師匠に抱きついた格好になっているステラさんは、すでにやる気満々なのだが、さすがに今日は勘弁して欲しい。


「師匠と大先輩のお優しい気配りに応えられず大変申しわけないのですが、今日は独りにしてください。 ハイハイ、帰った帰った!」

「ち、ちょっとショウ」


 スケスケ寝巻きの2人を師匠の部屋の前まで押し返してお帰り願うと、再びベッドの上でじっと窓から射し込む月明かりを眺めている。


「すぐに慣れるか……」

 ニニの言葉が、頭の中に浮かぶ。


 元より、元世界へ帰るつもりなどなかったが、今日は完全にその想いを断ち切った日になった。


 

挿絵(By みてみん)

ファーレーン国 国章

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