21話 日本食を食べたい
「草むらに~名も知らず~♪」
例のヴェルサイユのナントカという歌を歌いながら、俺の工房の周りの草を刈る俺。
もう、頻繁に草刈りをしないとすぐにボウボウになってしまう。グリホの除草剤が欲しいわ。
草を根絶やしにするなら、できないこともない――魔法で土を加熱するのだ。
しかし、これをやると、土の中の微生物も何もかも死に絶えてしまい、土が死んでしまう。
すると、今度は草を生やそうとしても、中々生えず困った事になってしまう。
歌は日本語で歌っていたが、独りでいる時はこんな事が多い、使ってないと忘れちゃうので練習を兼ねている。
でも、もう戻れるとも思えないし、あまり戻る気もない。
日本に帰っても、お姫様と知り合いとか、魔法使ったりとかこんな生活できないしさ。
しかし、日本人としての証は残しておきたいんだよ、そんな気持ちだけは残っている。
ああ、日本人といえば、米食って味噌汁飲みたいわ……おにぎり食いてぇ……。
米も味噌も市場で探してみたが、それらしきものはない――ただ、魚の干物は種類が豊富で、乾物の専門店まであった。
内陸で海から遠いし、運送に時間がかかるので、生物じゃ腐ってしまう。現地で取れる野菜や果実以外は乾物が発達しているのだろう。
帝国の商人をつかまえて米の事を聞いてみたが、帝国にもそんなものはないという、ただ、帝国の皇室で儀礼用にそんなのが栽培されているという噂を聞いたことがあるという。
そんな話だったが、噂は噂。そんなの手に入りっこないし、まあ無理だ。
「なんだ、その唄は?」いつのまにか殿下が俺の歌を聞いていたらしい。
俺が日本語で歌っていたので、珍妙に聞こえたのだろう。
以前、殿下の馬車で歌ったドナドナは一応翻訳して歌っていたのだ。
「え~、直訳するとですね、野花ならそこら辺に咲いていればいいが、薔薇に生まれたのなら美しく咲いて、美しく散る運命があるって歌です」
「それは、我等王侯貴族に対する皮肉ではないのか?」
「うっ、するどい! でも、そんな内容の話とも言えるなぁ」
「どういう話なのだ?」
「ある国のお姫様が浪費に浪費を重ねて、国を傾けて、最後は革命で民に捕まって断首されるんです。」
「悲惨ではないか! しかし、それは自業自得だな」
「そして、そのお姫様の護衛をしていたのが、子供の頃から男として育てられた男装の麗人、この2人に纏わる、愛憎の恋愛物語なんですけど」
俺の話を聞いた殿下は、興味津々だ。
「ほう! 面白そうではないか! よし、ショウに命ず。毎晩、妾が寝る前にその話をせよ!」
「マジっスか?」
「しかと申し付けたぞ!」
しかも、決定事項で拒否権無。
この国の人、娯楽に飢えているから、こういうのに食いつき凄い。
もう、噂とかすぐに尾ひれがついて広がりまくるし。
まあ、あんな若いのに、すげぇ頑張ってるしなぁ、ストレスも溜まるだろうし。俺なんて好き勝手やってるだけだし、話相手ぐらいになってもバチは当たらんか……。
しかし、話といっても――SFはアカンだろうし、現代物、学園物もだめ。
歴史ものか……三銃士やレ・ミゼラブルあたりだろうか? やっぱり。
あ、ホラーもいいんじゃね? 洞窟に近親相姦しまくった一族が隠れ住んで、食人しまくった話とかさ。
それはさておき、どうも俺の出自が気になるのは、ステラさんだけらしい。
他の人は全然気にしてない感じ、異国人だとは解ってるみたいだけど、そこら辺はどうでもいいのか。
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もう我慢できない!
日本食が食いたいんじゃぁ~!
「ここにおいて、俺は宣言する。日本食補完計画を発動する」
テーブルに肘を突き、目の前で指を交差させたポーズで一人芝居をする。
――要は日本食が食いたいのである。
まず米、これは無理だと解った。
それじゃ、麦で麦飯を食おう、というわけで、石製の臼と大麦を買い込んできた。
水車はあるので、それを動力として精麦するための仕掛けを作る。工房の地面に臼を埋めて、固い木材で杵を作って、水車を動力に杵が上下するようにした。
そして、臼に麦を入れて、杵でつくと精麦ができる。
お城ではこの精麦と粉を挽く作業を風車でやってる。俺の食い扶持ぐらいの粉挽きは挽き臼で十分なのだが、杵つきは大変&面倒なんで機械化してしまった。
精麦を終わった麦を早速炊いて、焼き肉と一緒に食ってみたが、パサパサだし独特の香りはするが結構美味い。
100%の麦飯を食ったのは初めてだったが、中々いける。
「やべぇ! 結構美味いじゃん」
ただパラパラなので、おにぎりは無理っぽい。
よし、調子はでてきた、次はなんだ~。
昆布かな? グルタミン酸が欲しい。
いつもの干物を買っている乾物屋に出かけて昆布を物色してみる。魚の干物はあるので、魚の出汁は取れるんだよね。
店内をウロウロ探していると、乾物屋の親父が話しかけてきた。
「何かお探しで?」
「ああ、海草という、海に生える草の干物を探してるんだが、あるかな?」
「ええ? 海の草ですかい?」
最初は、何をバカな事を言ってるんだ? みたいな顔をしていたが、何か思い出したのか奥へ走っていった。
「もしかしてこれですかい?」
――と、店主が真っ白になった、枕木みたいなものを持ってきた。
それは昆布。多分昆布。きっと昆布。
「しかし、これ真っ白にカビが生えてますぜ、こんなのしかねぇんですが」
いやいや、それカビじゃないし――旨味成分だし。しかも上物くさい。
「他になければ仕方ない、それをくれ」
それを顔に出さずに、しれっと言う。この世界にやって来て、俺も交渉が上手くなってきたぜ。
「ホントですかい? 売れないから捨てようと思ってたやつですぜ?」
「ああ、かまわん。それじゃ、他の干物も買うから、それをオマケにつけてくれ」
「へへ、よござんすよ。ありがとうごぜえます」
早速、俺の工房へ帰り、その昆布を削って、お湯をコップに投入。
「おおっ、こりゃ昆布茶だよ! すげぇ美味い!」
そして、岩塩を投入すると、美味いお吸い物が……飲んでいると涙が出てきたわ。
母さん、俺がいなくなって大騒ぎしてるだろうなぁ、こんな親不孝者の息子でゴメン……クソ親父はどうでもいいけどな。
そもそも、元世界が残ってるのかすら解らん。もしかして、世界が消滅したショックで俺だけ弾かれたとかさ。
あまりネガティブな事を考えると暗くなるので、止めよう……。
板を持ってきて、昆布専用の保存箱を作った。
これは俺の宝物だよ。
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次の日、大仕事を決行する。
異世界初の味噌の醸造である。この世界の味噌の歴史に燦然と輝く第一歩を示すのだ!
先に醤油かな? と思ったが――以前ネットでググッた時に、醤油の醸造は難しいみたいな事を見たんだよなぁ。
手前味噌みたいな言葉があるぐらい、昔は普通に家庭で味噌を作ってたはずだが、醤油は聞いたことがないような……。
家庭で作れるなら、俺も作れるだろうと、味噌の醸造作業を始めた。
まず豆――大豆とちょっと違うが、それっぽい豆はある、それを使う。
塩――これはある。
次は米麹――これは米がないので、麦麹になる、つまり最終的には麦味噌だ。
麹というと、日本で売ってるのは白いやつなんだが、あれは近代に見つかった突然変異種で、昔から使われてた麹カビというやつは黄色らしい。
味噌の醸造なんて年仕事だが、ここには魔法があり、ドンドン早回しが出来る。
もう色々と試し放題だ。失敗しても、次を試せばいい。
まず小麦を蒸す、水を掛けて魔法で加熱すればOK。魔法電子レンジだし、道具の消毒も簡単――魔法で100℃以上に加熱すればいい。
この手の醸造事は、とにかく消毒が大切。雑菌が混入すると、たちまち失敗する。
蒸した小麦を小分けにして、成長促進の魔法を掛けてカビを生やし――そこから、黄色いぼんぼりがついたものを選んで、他の小麦へ移す。
この黄色のぼんぼりが付いた物が麹カビだ。
この作業を何回か繰り返して、全体を黄色に染める――その後さらに、カビの成長を魔法で促進させて、全体に甘い匂いが漂ってきたら麦麹が完成。
豆も魔法で蒸して、潰して塩を混ぜる。そして完成した麦麹を満遍なく混ぜ、殺菌した壺に入れて蓋をして蝋で完全密封。
塩の分量が解らなかったため、少し口に入れながら記憶の中の味噌の塩分に近づけたが、岩塩があまり塩辛くないので、結構量が多い。
そして、魔法で発酵促進――休みながら1時間ぐらい掛けて熟成。魔法を使うと、おおよそ1時間で1年ぐらい加速できるようだ。
意を決して、蓋を開けると……おおっ! それっぽい、うん、味噌の匂いがするわ。
早速、昨日作った昆布のお吸い物に味噌を投入――ちょっと米味噌とか風味が違うがこりゃ味噌汁だわ。
「うめぇ……そうだ豚汁を作ろう」
というわけで、野菜と肉を買い出しに行った後、竈に火を入れて、豚汁作り。
出汁は昆布と魚の干物を使い、野菜は、芋と人参ぽいやつと、タマネギっぽいやつ。
人参モドキはやっぱり苦いので、灰汁抜きをした。残念ながら大根は見つからなかった。
後は、麦飯と肉の味噌焼。
豚汁もそうだが、こういうのはチマチマ作るより沢山作ったほうが美味いので、一気に4人前ぐらい作る。
そうだ、ティッケルトで箸も作ろう。
ついに、出来た。苦労の末、完成だ。
そして、食う――しみじみと美味い。
ちょっと大げさに格好つけて言うと、間違いなしに日本の魂を感じる。
やっぱり、ちょっとうるうるきちゃう、だって日本人だもん、解ってぇ。
「なんか、美味しそうな匂いがするにゃ」
ニムがまたやって来た。今度は匂いに引き寄せられたようだ。
耳も良いし、鼻も良い。脚は速いし、腕力もあるが単純で素直で知恵はちょっとない、それが獣人っぽい。
ただ、それが悪い方向へいっちゃう連中もいるようだけど。
「ニム、また来たのか、口に合うか解らんが食っていくか?」
ニムを工房に招きいれて、小さなテーブルに座らせ、俺の作った日本食モドキを並べる。
ニムは不思議そうに頭を傾げていたが、こう言った。
「虫の卵にゃ? こっちは泥水?」
「そんなのは食わすわけないだろ、白いのは麦だよ。まあ、口に合わなかったら他の料理をつくってやるよ。」
そんな泥水って事はないだろう……。
恐る恐る、豚汁に口を付けるニムだったが――。
「ふみゃっ! 美味しいにゃ! にゃにゃにゃ!」と叫びながら、勢いよく食い始めた。
なんかエライ勢いで食ってるが、ずっとにゃにゃにゃ言ってて、少々ウザイ。
でも、可愛い。
「ショウ様なんか魚の匂いがするにゃ」
「さすが、鼻が良いな。魚の干物でスープ取ってるんだよ」
「ショウ様はなんで棒で食ってるにゃ?」
「俺の故郷じゃ、これで食うんだよ」
「へんなのにゃ!」
彼女は食いながら笑っている。
ニムと一緒に飯を食ってると、ひょっこりとステラさんが顔をだした。
「なんかいい匂いがする~腹減ったぁ~なんか食わしてぇ」
「あれ? 珍しいですね。こんなところにやって来るなんて」
「食堂に行こうとしたら、なんかこっちからいい匂いするし……」
つまり、匂いに釣られたわけね。
「食べますか? エルフ様の口に合わないかもしれませんが」
俺の座っていた席にステラさんを座らせて、料理を並べる。俺はベッドの縁に座ったが、その料理を見たステラさんの感想は……。
「何これ? 虫の卵と泥水?」
ちょっと、エルフの真学師が獣人と思考が同じとか少々拙くありませんか?
少し躊躇してたみたいだったが、ニムが一心不乱に食べているのを見て、口にしてみたようだった。
「美味しい……」一言呟くと、ステラさんは黙々と食べ始めた。
背筋を伸ばして、静々と食べるステラさんは気品に満ちて美しい、やっぱり育ちの良さって出るよなぁ……。
ニムはメチャクチャだ。
豚汁を食べるステラさんのその姿は、間違いなく俺が想い描いていたエルフそのものだった。
ただ、口を開かなければだけど。
口を開かなければネ! 大事な事なので、2回言いました。
「ショウ様、この赤いの苦くないけど、どうやったにゃ」
ニムが言うのは、あの苦い人参モドキだ。
人参モドキを切って、水を張ったボウルに入れ、竈から灰を入れる――そして、魔法で早回しをする。
「こうやって灰汁抜きと言ってな、苦いのを抜いたんだよ。ちょっと齧ってみな」
「ホントにゃ、苦くないにゃ! 魔法にゃ」
「これは魔法じゃないよ。今は魔法で早回しをしただけで、魔法なしでも普通に灰汁に一晩ぐらい漬ければいいはずだよ」
「ホントかにゃ、ウチらもやるにゃ」
「苦くて食えない木の実とかにも使えるぞ。ただ2~3日の間、毎日灰汁を取り替えて、漬けないとダメなやつもあるけど」
「ほう、まだ私の知らない事があるのは嬉しいね……」ステラさんが呟く。
そう、450年も生きてて飽きないかね? やることなくなっちゃってさ――ああだから、アレなのかな?
「さてと、食事ありがとう。美味しかったよ」
「美味しかったにゃ!」
ちなみに、日本語のごちそうさまに相当する言葉はない。
「さあ、食欲を満たしたし、今度は性欲を満たそうじゃないかぁ」
――とか言いながら、ベッドの縁に座っていた俺の所へやってくる。
え~っ、なんでそうなるのっ?
「ちょっと、またそれですか」
「あの女を助けた時に、してもいいって言ったじゃん……」
「た、確かにそうですが……」
「あにゃ! ステラ様! ショウ様にそういうことをしてもいいにゃ? それなら、ウチもやるにゃ!」
何を言い出すのか、このネコ耳は。
「いいねぇ、久々の3人遊びとか、しかも獣人が混ざる――燃えるねぇ」
とか言いながら俺にのしかかってるステラさんがニヤニヤしていると……。
トントンと扉を叩く音が聞こえる。
そして、軽く扉が開くと師匠が首をだした。
「ショウ、いるのですか? 明日の植物採取に……!!」
目を見開いて固まった師匠が、ニコリと微笑むと――何か呟き、スッと姿を消した。
「あぁ、師匠! これは違うんですけど!」と叫んで身体を起こそうとしたら、身体が動かない。
「あれ? 固まってる? 魔法?」
「うん、麻痺魔法だね」
「早く治してくださいよ」
「あいつなんか新しいのを使ったな、すぐは無理だねぇ」
「え? ちょっと、なんで最初に耐魔法してないんですか?」
「いやぁ、頭の中がアノ事でイッパイになってしまって、対処が遅れた、テヘ」
テヘじゃねぇよ、このBBA! もちろん、口に出せないし、耐魔法出来ない俺の事は棚にあげるけどね。
ニムは、獣人特有の危機回避能力で、とっくに逃げ出していた。
「どうするんですか? コレどのくらいこのままなんですか?」
「さぁ? 1時間か1日か」
「1日ってトイレとかどうするんですか?!」
「垂れ流すしかないな」
「ちょっと待って!」
「2人で汚物まみれなんて興奮するな!」とか言ってハァハァしてるし。
だめだぁ! マジでこの人! 早くなんとかしないと!
でも、マジで固まったままなんにも出来ないから、ステラさんとこの大陸の鉱物について話をしてたら、結局30分ぐらいで魔法は解けた。
俺が作った手前味噌1号は塩分少し足りなかったらしく、すぐに傷んでしまったが、すぐに塩分を足した2号を作った。
だが、この味噌は製作が難しいので、売り物には無理だなぁ……。





