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異世界で目指せ発明王(笑)  作者: 朝倉一二三
異世界へやって来た?!編

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19話 2人3脚

 

 城内で催されている、祭りと言う名の新作&特許発表会は終盤に差しかかっていた。

「ショウよ、最後の〆は、其方がやるがよい!」

「ええっ!?」

 俺は飲んでいたお茶を吹き出しかけた。


「マジすか?」

 思わず地が出る俺だが、そんな挨拶とかしたことないし、何も考えてないよ。

 そういうのは、予め言ってほしいなぁ……。


「何を言っておる! そなたが纏めず、誰が纏めるのだ」


 マジかよ……。


「皆の者、静まるがよい! 今からこの者が、ことわりを述べる」

「え~皆様。この度、このことわりを示した、真学師ルビアの弟子――ショウと申します。」

 俺は仰々しい、身振り手振りでスピーチを始めた。


「皆様、ここに並んだ素晴らしい、ポンプや新型の馬車をご覧になったと思います。確かにことわりを明らかにしたのは私ですが、このようにことわりの素晴らしい具現化を成したのは、我が国の工作師、鍛冶、細工師、そして、それを支えた資材部の手柄でございます。」

 これは実際に、その通りである。俺は、ネタを考えただけ。

 俺が素晴らしいネタを出しても――この国の技術者にそれを再現する力がなければ、ここにある物は存在しなかった。


「我が君主、ライラ姫殿下の口癖に、国は民に支えられているという言葉があります。これはまさに真理であります。そして、私のことわりの追究、真理の追究は、数々の人々によって、支えられているのであります。支え、支えられる――まさに2人3脚。この言葉を以ってこの場を〆たいと思います」


 俺は、日本的なスピーチにありがちな話で纏めたつもりだったが……。

 ざわ……ざわ……。

 

 あれ? 何かがおかしい。そんなに難しい話をしたつもりではなかったのだが。


「ショウよ! ニニンサンキャクとはなんなのだ?」殿下がヒソヒソ話しかけてくる。

 

 しまったぁ! この異世界で、当然、日本のそんな言葉知らないよね。

 

 ――しかし、俺はニヤリと笑うと、両手を広げた。


「皆様御静粛に! 今、2人3脚という聞き慣れぬ言葉を使ってしまいましたが、そのことわりを説明いたしましょう」

 俺は後ろにいた、ミズキさんに話しかけた。


「ミズキさん、帯び紐を貸してくれませんか?」

「え? これですか?」


 俺は、ミズキさんの帯び紐を借りると、殿下に非礼を願い出た。

「殿下、お叱りは後程お受けいたしますので、御御足おみあしを……」

「其方の好きにするがよい」


 ミズキさんから借りた紐で、俺と殿下の足首を結ぶ。


「皆様! 2人なのに脚が3本、この珍妙なる姿こそ、2人3脚なのであります。お互いの脚を固定して、束縛され、動く事すらままなりません。しかし――」


 殿下と打ち合わせをして、呼吸を合わせて1歩1歩踏み出し、そして走る……。

「このように不自由な状態でも、お互いを支え、協力一致することで歩きだし、あまつさえ走ることも可能になる。2人3脚、これこそが、人間関係から国家までを表す真理なのであります」

 ミズキさんに帯び紐を返して、スピーチを続けた。


「ただ今、肩を並べたライラ姫殿下と共に、まさに2人3脚で、この国の発展に尽くしたい所存であり、この言葉を以ってこの祭りを(しめ)たいと思います」


 おお~っと感嘆と共に、拍手が起きる。


 よっしゃぁぁ! なんとか乗り切ったわ!

 もう冷や汗かきまくりで、背中ビッショリでケツまで濡れてるわ。


 ある漫画家がこう言いました。

 

 ピンチの時こそニヤリと笑え――と。


 しかし、元世界の小中学校でも――スピーチの訓練や、ディベートの勉強をする必要があると思うんだよなぁ。

 社会に出たら、役に立たん勉強よりは、そっちの方が役に立つと思う。


「まったくの、真学師というのは珍妙な事を考えるものよのぅ」

「殿下、御御足おみあしに触れたご無礼を……」

「よいよい、ショウのおかげで祭りは大成功だ。褒美に妾の脚を1本を与えてもよいぐらいだ」

 

 え、そんなの欲しいに決まってるじゃん~ペロペロしたい! ってそんなことできるわけねぇ。


「素晴らしい演説でございました」なんかミズキさんも目がうるうるしてるし。

 いや、もうイッパイイッパイっスから、もうイッパイイッパイです。マジ勘弁してください。


 マジでこの世界、どんだけハッタリかませるかって――それが勝負みたいな感じなんだよ。

 これは、ハッタリかます特訓をしないとイカンかもしれない……。


 それからしばらくして、大陸中の子供の間で、2人3脚の遊びが流行った。

 殿下は、2人3脚はファーレーン発なので、金を取れないかと騒いでいたが……そんなの取れるわけないでしょ。


 ------◇◇◇------


 第1会場はお開きとなったが、第2会場はまだ宴もたけなわ――まだまだ盛り上がっている。

 お前ら、酒飲んで騒ぎたいだけだろ? とか思うが、それがお祭りだから仕方ない。


 広場には新型の馬車もディスプレイされているが、一般の人が買えるはずもなく、日本で言うと――憧れのスーパーカーみたいなものか。

 もう、辺りは暗くなってるが、かがり火が燃やされているので、周りはオレンジ色に染まっている。

 ――とは言え、やはり暗い。もっと明るく燃やせないものか? と思うのだが……夜中に明るくすると、虫が寄ってくるのだ。

 中にはヤバい奴もいて、結構危険らしい。

 

 臨時で作られた祭壇に、殿下が上がって挨拶すると、客から歓声があがった。

 美人だし、俺も名君だと思うし、やはり人気がある。

 老若男女みんなに人気あるって結構凄い事だと思うけどな。


 俺は一段低い所にいたが、こんな所で狙われたりしないかな? と心配だったのだが、帯同しているメンツを見ると、白くて深いフードを被った人がいる。

 暗くてよく分からなかったが、よく見たらステラさんだった。

 ああ、なんだ。ステラさんが護衛についてるのなら、ミズキさんもいることだし、大丈夫なんだろう。

 

「ああ! ショウ様にゃ! ショウ様~!」


 俺を呼ぶ声が聞こえたので、下を見たら、ニムだった。

 今日はメイド服じゃないんで、全然分からんかったわ。


「ショウ様、ウチ等もお金出し合って、アレ買うにゃ!」

 アレとはポンプの事だ。

 しかし、城から給料もらって、城から売り出すポンプを買ったんじゃ、結果ただ働きのような気もするが……。


「ショウ様! 魔法やってにゃ、魔法~」酔っぱらっているのか、ニムが叫ぶ。

「なに? 魔法? よっしゃ! まかせなさい!」


 俺は金属の筒と、自作の拳ぐらいの弾を取り出した。

 コレは、師匠の自宅で作ったティッケルト()製の迫撃砲の改良版だ。

 

「皆様!これより真学師が、夜空に花を咲かせます!」

 俺はそう叫ぶと、圧縮の魔法を使って作った圧縮弾を金属の筒に入れて――弾を差し込み、夜空に向けて開放!

 

 ポン! という音と共に夜空に向かって飛び上がる弾。それに合図の魔法を送り起爆させると――夜空にパッ! とオレンジ花が開いた。

 次は、白い花。次は緑……緑はすこし暗い。使ってるのは火薬ではないので、炸裂音はしない――静かにパッと開く。

 色の正体は炎色反応で、残念ながら今のところ3色しかない

 オレンジはナトリウム()

 白はスズ

 緑は銅だ。

 本当は花火らしい赤が欲しかったが、ストロンチウムとかないし。


 点火には火石という魔法で燃える魔石を砕いて使ってるが、この火石は結構高価なので、おいそれと使えない。

 元々これは、自衛の武器にしようと作ったものだ。

 筒で飛ばさなくても、投げつけて起爆させれば目つぶしにつかえる――簡易のフラッシュバン。

 今飛ばしたのは花火として作ったので、少し大きいが、目つぶしに使うのはビー玉ぐらいの物だ。

 これ等を作るのには、ステラさんの助言をもらった。

 俺の師匠の専門が動植物とすると、ステラさんは鉱物などの専門家で、この大陸の鉱物に関しては知識が豊富だ。

 

 そして都合5発を夜空へ向って打ち上げたが、みんな空を見上げて、沈黙……。

 迫力はないが、それなりに綺麗だったと思うのだがなぁ。


 やべぇぇ! 思いっきり滑った!?


 しばらく沈黙していたが――。

 「魔法だよ魔法」「ホントに花が咲いたよ、すげぇ……」

  観客に徐々にざわつきが広まり始めた。


「うにゃ! ショウ様凄いにゃあ! ホントに花が咲いたにゃ!」

 ニムの叫んだ声に釣られて歓声があがった。

 なんだ、単に花火を初めて見たので、反応に困ってただけなのか。ちょっと、焦ったわ。

 獣人はホントに反応がストレートというか、解りやすい。悪く言えば単純だ。


 良かった良かったと胸を撫で下ろしてたら、殿下が祭壇から駆け降りてきて、俺の筒を持っている手に噛みついた。

「あだだだっ! 殿下、何をすんッスか!?」

「やかましい! 美味しいところを持っていきおって! 主役は妾だぞ! 今日の褒美に妾の脚をやろうと思うたが、止めだ!」


 え? マジで?


 祭壇に近い観衆にはそれが聞こえたらしくて、クスクスと笑ってる声が聞こえる。


 ------◇◇◇------


 一応、祭りは終了のお達しが出たが、まだまだ人出は多い。

 ニムに聞いた話だと、一晩中続くというのだが――やっぱり、住人達は酒飲んで騒ぎたいだけみたいだ。

 お城を見上げると、東西の塔には蛍石(フローライトの明かりが灯っている。

 お祭り前、蛍石(フローライトが光を出すなら、その光を集めて、レーザーとか作れるんじゃね?

 ――と考え、ステラさんから小さな石を借りて試してみたのが、蛍石(フローライトの光は冷光。

 文字通りの蛍の光で熱がなく、レーザー計画は失敗した。

 目潰し等には使えるかもしれないが、ステラさんから蛍石の値段を聞いて、驚愕。

 まぁ、無理だわ。

 

 出店を見てみたいので、ステラさんから白いローブを借りて、メインの通りをぶらつく。

 美味そうな竹串の肉焼きを見つけたので、買ってみた。

 ただの串焼きだが、炭で焼いてあるので、香ばしくて美味い。お祭り価格なのか、ちょっと高めの銅貨2枚(1000円)。

 まぁ、何の肉なのか、ちょっと心配なのではあるが……皆食ってるから平気だろう。

 それにしても、ステラさんのローブは長すぎて、裾を引きずりそうで怖いわ。

 ローブは要らんような気がするが――一応有名人になっているので、念のための用心だ。


 出店でピコ(コーヒー)を買い、飲みながら歩いてると――知ってる黒髪の女性の姿が……ミズキさんだった。

 恰好がこの国の人と違うから、結構目立つなぁ。

 声をかけようとしたら、こちらに気が付かなかったのか、脇道に逸れてしまった。

 食ってた串焼きの串をどうしようかと思ったが、ごみ箱というものがないので、そのままポケットへ突っ込む。

 危ないから、脇道には入るなとメイドさんから言われたが、ミズキさんが一緒なら心配ないだろう……と曲がったのだが――。


 裏道はマジで真っ暗だわ、こりゃ失敗したか……。


 ――と思ったら、暗闇から言い争う声が聞こえる。続いて、剣を交わす音が響く。

 え? ミズキさんか?


 音のする方へ走り、自作のフラッシュバンを握って叫ぶ、

「ミズキさんですか!?」

「え!? ショウ様ですか?」

 

 え?どこから声が……と思ったら、地面に座り込んでいた。その前に4~5人の輩がいるようだ。

 俺は、ローブでミズキさんを覆うと、フラッシュバンを投げつけて起爆させた。

 昼間では大した光ではないが、暗闇でいきなり使われたら、目が眩むはずだ。

 相手が怯んだ隙に、空気圧縮の魔法を使って、そいつらの前で破裂させた。


 デカい炸裂音と共に怪しい輩がひっくり返った。

「何? こいつは、あの真学師か!? ひけぇ!」

 フフフ、暗闇であの光と音はビビるだろう――と格好つけてみたが……。

 

 はぅ、やべぇぇ! ガクブルだよ。こちとら、戦闘とかそういうキャラじゃないんだよ……マジ勘弁してよ。


「大丈夫ですか?」

 ミズキさんに聞いてみるが、暗くてよく分からん……。


「はい……」

 彼女の返事は聞こえるが、らちがアカンので、ミズキさんを支えてメインの通りの明かりへ向って歩き始めた。

 空気の圧縮弾の炸裂で結構大きい音がしたと思ったのだが、皆で酒を飲んで大騒ぎしているせいか、誰も騒ぎに気づいていないようだった。

 

 通りに出て明かりで確認してみたら、思いっきり怪我してるじゃん! 血出てるし!

 ミズキさんの左の上腕が服ごと切り裂かれて、血が滲んでいた。

 止血! 止血! 

 ミズキさんの帯び紐を抜くと、止血のために上腕に巻き――さっき食ってた串焼きの串を取り出してねじって留める。

「申し訳ございません……」

「お城にステラさんがいるので、診てもらいましょう」

「あの、ローブを汚してしまって……」

「え?」とみたら、ローブの裾に血糊がベットリと……。


 やっべぇぇぇぇ!


 ――と叫びたかったが、人命救助が先なので急いでミズキさんをお城へ連れていった。


 ------◇◇◇------


「やだね」

 これがステラさんの口から出た第一声。


「えっ!? ちょっと待ってください」

「私は帝国の輩は嫌いなんだよ。それになんだよ、貸してあげたローブを汚して」


 ノォォォ! やっぱりアカンか。


「す、すみません。べ、弁償しますから!」

「ショウの給料で買えるような物じゃないからぁ」プイと横向くステラさん。


 え? マジっスか?


「いや、でもお願いしますよ、ステラさん」手を合わせて、ミズキさんの治療を懇願する。

「ん~どうしようかな~、それじゃ、ショウは一晩私の相手をしてくれるなら、考えてもいいかな~」

 とか言って、ステラさんは俺の首に手を回してくる。

「わ、わかりましたよ、なんでもしますからお願いしますよ」


 観念したようにそう言うと――それを聞いたステラさんは俺から離れ、俺の尻に蹴りを入れてから、耳を掴んでこう叫んだ。

「こっちにもね、女の意地があるんだよ! そんなついでにみたいな事を言われて喜ぶとおもうのかい!?」

「わぁ、すみません!」耳の側で大声で怒鳴られたので、俺は飛び上がった。

「ふん……」

 ステラさんは面倒くさそうに、鼻を鳴らすと、座っているミズキさんの側へいって治療を始めた。


「ステラ様、申し訳ございません……」

「別に? 礼ならショウに言えば? 私は、あんたがどうなろうと、知ったことじゃないしぃ」


 治療が終わったステラさんは立ち上がると――。

「血は止まったけど、動かすと傷が開くよ。そうなったら、もう知らないよ」

「あ、ありがとうございます。あの、このローブどうしましょう?」

 俺は深々礼をしたのだが、ステラさんは、そんな声も耳も貸さずに帰ろうとした。


「帝国人の血がついたローブとか、もう要らないから。好きにすれば?」

 もう、これ以上会話したくないっていう感じで、手をヒラヒラされて、行ってしまった。


 帝国人を露骨に嫌う態度なのだが、なにか事情があるんだろうなぁ。

 ああ、もしかして、最初俺に当たりが強かったのは帝国の人間だと思われてたのかな? 俺、髪黒いし。

 とにかく、この国の人は、物事をハッキリ言う傾向が強い感じ。


「ミズキさん、なにか心配ごとがあるなら、相談にのりますから」

「いえ、これは個人的な事ですので、ショウ様には関係ありませんし……」


 詮索するなという事か……実際、俺じゃ何の役にも立ちそうにないのが悔しい……。

 ただのチート野郎だし……う~ん、何もなきゃ国元を出奔したりしないよなぁ。


 汚れたローブは、仕立屋に持ち込んで、血糊がついたところを切り取ったデザインに仕立て直してもらった。

 元々、ステラさんの長身に合わせたデザインだったので、少し長かったし。

 仕立て料金は銀貨2枚(10万)も取られたわ……。

 仕立て屋の女性には、凄い上等なローブだと言われて――ローブの値段を聞いたら、金貨5枚(100万円)はくだらないと言われた。

 そりゃ、仕立てにも金かかるはずだ。

 

 もう、迂闊にステラさんから物借りられないよ。



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