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異世界で目指せ発明王(笑)  作者: 朝倉一二三
異世界へやって来た?!編

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17話 魔女と破滅

 俺は師匠にぶたれて――赤い手形がついた左頬をさすりながら歩いていた。

 辺りはすっかり暗くなっており、通路には蝋燭の明かりがうっすらとついている。


「なんで俺が叩かれるんですか……?」

「なぜだろうねぇ」

 ステラさんは、何が楽しいのか――アヒャヒャと、俺の背中にくっついて大笑いをしている。


「ステラ様が悪いのに……」

「もうステラって呼んでぇ」俺の背中に抱きついて、耳に息を吹きかけてるし。

「赤くなって可哀相、私が治癒魔法で治してあ げ る」俺の頬を指さし、ステラさんが指をクルクルすると、腫れが引いていく。

「ありがとうございます」俺は、無表情で答えた。


「無視しろって言ったでしょ……?」師匠がボソっとつぶやく。

「ああ、無視しろってそういう……」

「無視しろって言ったでしょ!」

「はい! 申し訳ございません。まさか、こんな人だとは思わなかったもので……」

「ああん、酷いぃ。うふふ、ショウの耳は丸いね」俺の耳をペロペロしてくるステラさん。

「ステラさんの耳は長いですね」

 あまりのウザさに、ちょっとヤケクソ気味に俺は答えた。


「だって、エルフだしぃ」

 ステラさんの行動に、いい加減に師匠も切れた。


「いい加減に離れなさいよ!」

「やだよ~」

 俺に抱きついたまま、ステラさんは舌を出した。


「本当にエルフってのは、のべつ幕なし次から次へと……それしか考える事ないの!?」

「だって、コレぐらいしか楽しみないしぃ、アハハ」

「同じエルフでもダークエルフと、なんでこう違うのかしら」

「おいおい、そいつは聞き捨てならないねぇ あんなク○○○連中とエルフを一緒にしてもらっちゃ困るんだけど」

「エルフより信用できるのは間違いないでしょ!」

 

「え? ダークエルフですか? ダークエルフって、もしかしてこうですか? こう?」

 俺が胸のところで、ボインボインの手つきをしたところ、師匠のロッドと、ステラさんの膝蹴りを同時に喰らった。


「女の魅力は胸じゃないんだよ! 尻と技術テクさ! もう、いっぺん試してみなよ、虜にしてあげるから、ウフ」

「そうやって、虜にしたら、次の男へ行くんでしょ?」

 俺は冷めた視線を送ると、ステラさんは予想外の抵抗をみせた。


「うっ! だってショウはいままでの男と違うかもしれないじゃん、私に白い花を見に行こうって言ってくれたし……」

 

「な、なんですって!?」

 俺は、師匠を両手で押さえるようにさえぎると、必死の弁明を試みる。


「だ、だって師匠。私に、『お花を見に行こう』の意味をちゃんと教えてくれなかったじゃないですか。だから、ステラさんにも言ってしまったんですよ」

「うぐっ」

「だからさぁ、いっぺん試してみようよぉ、ねぇねぇ」

 なんかステラさんは、俺の身体に巻き付いたまま身体をクネクネさせ始めた。


「しませんよ」

 いい加減疲れてきた俺は、徐々に返事がおざなりになっていく。


「わ……」

「わ?」

「私のほうが先に言ってもらったんだもん!!」突然、師匠が大声で叫んだ。


 俺とステラさんは呆気に取られて、沈黙していたが――ステラさんが腹を抱えて笑い始めた。


「アハハハッ言ってもらったんだもん!! とか乙女かよ! アハハ腹痛い。この魔女が!」

「私が魔女なら、あなたは『破滅』でしょうが!」

「そ、それを言うのか!?」

「あなたが先に言ったんでしょ! それにね、私は本当に24歳です! ――乙女でもいいじゃない! あなたみたいな450すぎたババァじゃないんだから!」

 

 マジで? さすがエルフ、マジで長生きなんだな。人間からは想像もつかねぇ……それにしても師匠は24なのか、俺より4つ年上……か。


「え? 450っスか? マジ凄いっスね」思わず、地が出る俺――エルフの歳ってのは、マジパネェッス。


 それを聞いたステラさんの動きがピタリと止まって、彼女の身体から何か黒いものが溢れだした……。

「き……」

「き?」

「記憶をなくせぇぇぇぇ!!」

 

 ステラさんから放たれた、明らかに殺意の籠もった頭部への蹴りを、かろうじてかわす俺。

 自分で言うのもなんだが、マジで奇跡だ。

 奇跡なんて信じないと言ったが、今は信じた。

 

「避けるなよ~、外れるじゃねぇか~」

 爛々(らんらん)と光る眼を見開き――ゆらゆらと近づいてくるステラさん。


「あ、あやぶい! こいつはあやぶいぜぇぇ! なんスか、なんスか、エルフなら長生きなんてみんな知ってるじゃありませんか、450だっておかしくはないでしょ?」

 地丸出しの俺が、必死にステラさんの説得を試みるが――。


「シェカラシカァァァァ!!」

「何語!? エルフ語!??」


 俺がステラさんから逃げまどっていると、騒ぎを聞きつけて、殿下がやって来た。


「なんだなんだ、何事だ! 其方達はいつも騒々しいのぅ」

「殿下! ここはヤバいです。危険です」

「お?」


 殿下の手を引っ張って逃げ出す俺だが、あまりに殿下が遅い。彼女に重量軽減の魔法を掛けて、お姫さま抱っこすると――暗闇を縫って一目散で逃げ出した。


「おおおおお?」城内に殿下の声がコダマした。

 

 ------◇◇◇------


 薄暗闇の中の城内の通路を走っていくと、明るい光が差し込んでるスペースが見えてきた。

 殿下を抱えたまま、そこまで走っていく。

 塔の基部のような所に出ると、真上から光が差し込んできていて、かなり明るい。

 まるで、ライトに照らされているよう――。


「ここは……」

「ここは、東塔の根元だ、そろそろ妾を降ろしてたもれ」

「こ、これはご無礼をいたしました。お咎めはいかようにもお受けいたします」


 俺が殿下に謝罪の言葉を述べると同時に、ピンクと紫の光が暗闇に輝いて、続いてドスドスという重低音が伝わってきた。

 これは何か――重量物が、土に落下する音だろう。


「よいよい、緊急回避だ」

「ありゃ、城壁か何処かを壊しましたかね……? 俺の部屋は大丈夫だろうな」

「ショウは妾を助けてくれたのであろ? 全く――壊れた物は、あの者達に弁償させるから心配ない。それしても、其方は結構脚が速いの」

「逃げ足には自信があります」

「ハハハッ」腰に手を置き豪快に笑う殿下。


「塔にこんな光が灯ってたのか、暗くなってすぐに寝てたから、解らなかった……」

 師匠の家でも、夜は危険だと言われてて、外へ出る事はなかったが――もしかしたら、この光が見えてたかもな。


「塔の最上部に蛍石(フローライトがある。昇ってみるか?」

「はい」

 殿下の話を聞くと、その蛍石フローライトというのが光っているらしい。

 元世界にも似たような名前の石があったはずだが、無論、こんな強い光を出す石なんて聞いたことがない。


 俺は、殿下と一緒に東塔の内部の螺旋階段を昇り始めたが――階段には手すりとかがないので、結構怖い。

 しかし、かなり明るいので、足下の心配は皆無だ。


「いったい何を騒いでおったのだ?」

「エルフの歳の話になったら、ステラさんが切れてしまって……」

「なんじゃ、エルフに歳の話は禁忌だぞ。其方は凄いことわりやら真理を知っているのに、常識にうといいようだな」アハハと殿下は笑ってる。

「申し訳ございません。なにしろ、エルフを見たのも初めてでして……。それにしても、エルフが長寿なんて、みんな知ってるのに、なんで嫌なんでしょうかね?」

「それよ――エルフは確かに長寿だが、皆見かけは若いままであろ?」

「はい」

「だから、中身まで若いままだと思っておるのよ」

「そりゃまた、随分と厚かましいですね」

「ハハハ、であろ」


 まだ昇りは続く。

「エルフの歳なら、大まかに見る方法はあるぞ。あやつ等の身長を見ればよい」

「それでは、大きいほど年寄りなんですか?」

「そうだ。さすがに1000年ほどで伸びは止まるようだが、1000年程生きると、2スタック(メートル)ほどになるらしい。妾は見た事はないがの」


 マジか――2mかよ。そりゃ、デカいな……。

 

「ふうふう……こんなに高いとエレベーターが欲しいな」

「はぁはぁ、なんだまた真理の話か?」

「塔の天辺に滑車を取り付けて、ロープで箱に乗った殿下を引き上げるんですよ」

「それでは、ロープを引く奴隷が必要になるであろ」

「そこで、最上階から殿下より少し重いおもりをロープに付けて落とすんです――するとゆっくりと殿下が引き上げられるというわけで……」

「おおっ……と思うたが。まずは、上に錘を持ち上げる奴隷が必要になるであろ?」

「ご明察です」

「なんだ、上手くいかんのぅ」

「何処かが儲かれば、何処か損をする――人が楽をしようとすれば、誰かが苦しむ。これが真理でございますよ」

「う~む……」


 そんな話をしながら昇っていくと――塔の頂上には、青白い光を放つサッカーボールぐらいの石が、リングで固定されていた。

 殿下の話によると、天候にもよるが昼の間に光を蓄えた蛍石(フローライトは一晩中光を放つという。

 どこの国もこの蛍石(フローライトが設置してあり、それは国力を示すシンボルとされ、帝国の帝都にある光る石は人間ぐらいもある大きさらしい。


「凄い明るいな。そうか、夜更かししたくなったら、ここへくればいいのか」

「妾もたまに来るぞ」

「え? お一人でですか? 危なくないですか?」

「妾の母の時代から、賊が入り込んだという話は聞かぬから、大丈夫であろ」

 

 大声で笑ってる殿下を横目で見ながら、俺は外の景色へ目を移した。

「おお~っ! すげぇ眺めいいな」

「そうであろう、こんな高い物見は、戦ぐらいでしか使わんからな」

「戦と言えば――戦で負けたりしたら、真学師などは真っ先に殺されたりするんでしょうか?」

「そんな勿体ない事するはずがないであろ。自分の国に連れて帰って働かすのよ」

「真学師はそれについていくんですか?」

「通常はそうだな。真学師は基本、自分の好きなことをできれば良い連中ゆえ――ハハハ、ショウもそうであろ?」

「いいえ、私は殿下に拾っていただいた御恩がございますので、殿下にお供いたしますよ」

「そなたは変わっておるのう、そんな真学師は聞いた事もないわ」


 また変わってるって言われたわ。


「国がなくなっても、殿下と私がいれば、国の1つや2つあっという間に盗れますよ」

「ハハハ、随分と大きく出たな! そなたも中々言うのぅ!」

 この世界はハッタリが重要みたいなので、ちょっとデカい事を言ってみました。


 俺と殿下は月と満天の星を眺めていた。

「ふ……国を追われて、落ちぶれた姫と真学師の逃避行など、聞いた事がない……」

「でも、お姫様と騎士とかなら、ありますでしょ?」

「ああ、たまにな……結果はロクな事にならぬが」

「そりゃ、生まれてから働いた事もなく、皆に甲斐甲斐しくお世話されて育った、頭の中がお花畑のお姫様と、剣を振り回すだけしか能のない騎士では……」

「耳が痛いのぅ」

「え、いえ――殿下の事ではなくて……」

「よいのだ、妾がこの地位におられるのも、家臣がいて、そして民がいればこそだ。それを捨てて、原野で一人叫んだとしても、妾の相手などしてくれるものなどおらぬ」

「はあ、申し訳ございません」

「ショウが謝ることはない。そなたが申したであろう、誰かが楽をしようとすれば、誰かが苦しむとな。妾が楽をしようとすれば、家臣と民が苦しむ、それを胆に銘じねばならぬ」


 はぁ、立派な方だなぁ……。こういう人が国のトップなら、君主制もありなんだろうけど……ね。

 でも、15歳だよなぁ、凄いよな~。俺が15の時なんて、ド田舎のISDN回線でエロ画像落として喜んでたわ……この差はなんだよ?

 

 ここから見る景色は、空気が綺麗なのかかなり遠くまで見える。

「これだけ眺めがいいなら、ここから測量するだけで地図が作れそうだな、暇だしやってみるか」

「地図をだと? どうやって作る?」

「ああ、こうやって三角形を……」

 ――と、黒板プレートに三角形を描いて殿下に説明しようとしたら、ステラさんへ見せた、リルルメルヒの花の絵が残っていた。

 

「殿下、リルルメルヒの花って有名ですよね? これですよ、これがその花です」

「なに? これがか。伝承の通り5枚の花びらなのだな。そなた、これを見たのか?」

「そうです。花びらの半分が透明で綺麗でしたよ」

「なんと羨ましいのぅ、妾も見てみたいものだ」

「それじゃ一緒に……」と言いかけて、口に手をやった。

 

 あぶねぇ、また言っちゃうところだったよ。

 これって罠なんじゃね?


「よいよい、戯れだ」

「それでは、殿下が城を捨てて、私と一緒に逃げた時に見にいくということで……」

「楽しみにしておるぞ!」殿下は、腰に手を置いた、いつものポーズで笑った。

 俺が見た白い花は、この国――ファーレーンの国旗にも描かれている。


「それより、先程の地図の話を説明するがよい」


 と言われて、国土を三角形で覆い、測量することで詳細な地図を作れることを説明したら、殿下は俄然乗り気になり――国の数学者や数に強いものを集めるので、皆に説明せよと言い出した。

 俺は、数学は専門ではないので固辞しようとしたが――勅令だと言われ、渋々受諾。


 本職の数学者の前で三角関数の説明をするという、なんというバツゲーム。

 背中が冷や汗でビチョビチョになりながらなんとかこなして、最後は実際にロープで三角形を作り、理論的に正しい事を証明。

 皆でオーチンハラショー(すばらしい)の拍手喝采で、なんとか終わった。

 そりゃ、元世界で証明されてる理論だからなぁ……正しいのは当たり前なのだが。


 一緒に集まっていた無役の貴族には、国土やこの大陸の詳細な地図を作ることが出来れば、その偉業を行った者は後世に名を残すでしょう――みたいなことを演説したらすっかりその気に。

 早速、地図事業が始まる事になった。


 王侯貴族は偉業とか名誉とかへの食いつきがすごい。

 

 でも、日本でも初めて詳細地図を作った伊能忠敬は歴史に名前を残してるし――この世界でも絶対に名前が残るよね。


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