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異世界で目指せ発明王(笑)  作者: 朝倉一二三
異世界へやって来た?!編
157/158

157話 戴冠式と婚礼の儀


 ――5ヶ月後、殿下の戴冠式、そして、フィラーゼ公爵とファルタスのミルーナ王女との婚礼の儀が、いとも盛大に行われた。


 式は当初予定通りで連日で執り行われたのだが――。

 当事者の殿下、公爵様とミルーナ、そして準備をしていたお城の人たち、客人の王侯貴族、城下町プライムの住人、他国からの見物客――揃いも揃って、強行スケジュールである。

 遠方からの客が多いために、こうでもしないと式が開催できないのだ。

 どちらかの式を1年程延期する案も出たのだが、殿下とミルーナ――この2人は結構お互いをライバル視しているところがあるので、両者とも引かずに、このような日程となってしまった。


 殿下の戴冠式に続いて、公爵様とミルーナの婚礼の儀もお城を使って行われる。

 貴族の婚礼の儀は、自分の領地の屋敷にて、主君と親戚貴族などが集まって慎ましやかに行われるのが通常で、婚礼の儀に城を使用するのは、あまり前例が無い。

 

 そして、多数の客が集まると、相変わらず数が足りないのが宿泊施設。

 1年~数年に1度あるかないかのお祭り騒ぎに、わざわざ宿を作るはずも無く、改善はしてない。

 馬車でやって来ている一般客は、皆野宿をしており、お城の屋上から覗くと一面に焚き火の煙の筋が並ぶ。


 こんな状態なので、各国の王侯貴族が沢山やって来ても、お城の来賓室は数少なく、宿泊は不可能。

 偉い方々は皆、商人の家に泊まり――民間人とのふれあいに興じる。

 下級貴族は、皆で平民と一緒に野宿。

 これが殿下流の民間交流政策らしい。


 ――戴冠式の着付けをしている殿下曰く。


「貴族街などに固まって住み、特権階級面をしているから、良からぬ事を考えて凝り固まるのだ。 たまには住民の目線まで降りて語らう事も必要であろう?」

「殿下、帝国のような迎賓館を建設するご予定は?」

「全く無い! ファーレーンはまだ小国だ。 小国には小国の進むべき道がある。 そんな物を作るより、やらねばならない公共事業が山のようにある。 貧乏国家、貧乏貴族の見栄ほど見苦しいものは、この世には無い。 貧乏なら貧乏らしく、王侯貴族等も畑を耕せば良いのだ。 そうすれば、民も受け入れてくれよう」

 さすが、我が君。

 政権を取ると、途端に自分の巨大な銅像や巨大建造物を造りたがる独裁者、社員の給料や各種手当の充実そっちのけで、自社ビルを建てたり、超豪華な社長室を作ってふんぞり返る成り上がり社長に、殿下の爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。

 

 戴冠式の衣装をまとった殿下を見る。

 ドレスはいつもの白いお召し物だが、お顔に薄化粧を施し、真紅のマントをひるがえす姿は真に美しい。


「ショウ、どうだ今日の妾の姿は? 惚れなおしたであろう?」

「このまま何処かに連れさり、心ゆくまで蹂躙したい衝動を抑えきれません」

「はははっ! 其方、随分と今日は素直だの。 いつもその調子なら良いのにな」

「まさか、そのようなわけには、いきますまい」

「ははは」

 腰に手を当てて、高く笑う殿下のポーズも、今日は一段と輝いて見える。


 準備が整った殿下は、そのまま戴冠式へ向かう。

 元世界の戴冠式は、高位聖職者から冠を賜り、即位の宣言をするが、この世界には聖職者や神官は存在していない。

 一番近い存在は、帝国の巫女であるが――彼女達が王侯貴族の即位に関わることは無い。

 だが、巫女から冠を授かりたいという王侯貴族は、実際に存在する。

 この戴冠式でもそのような話が出たのも確かだが、殿下もサクラコも断固拒否したので実現はしていない。


 ――お城の玉座の間。

 この日の為に、急ピッチで進められた改造工事で、窓には水晶ガラスが嵌め込まれ、約60度で差し込む明るい光が敷かれた赤い絨毯を浮かび上がらせる。

 絨毯の横に並ぶ近衛騎士団と真学師一同、そして明日の主役、フィラーゼ公爵とその相手ミルーナ、ファルタス国王と王妃様の姿も見える。

 王侯貴族達は、勿論正装。 貴族達の普段との大きな違いは、頭の上に載っている宝冠だろう。

 どんな貴族でも、家によって特色のあるデザインの宝冠を所持している。 普段被る事は無いが、正装ではこれを被るのが習わしだ。


 各国の王侯貴族達が見守るなか、そこから飛び出るように目立つプラチナ色の髪をした天をつく長身――エルフの長老ラテラ様だ。

 このような式典に、エルフの長老が出席するなど例が無い事なので、この戴冠式をより印象づける事となった。

 玉座の間、正面の扉から入場した殿下は真紅の絨毯の上を静々と歩みを進め、玉座の前に鎮座ちんざされた王冠の前に立った。

 自ら、きらめく王冠を頭に載せ、玉座の前で振り向くと、高らかに宣言した。


「妾、ライラ・ミラ・ファーレーン・(スォード)は、これより、ファーレーン国の王となる事を宣言する!」

 玉座の間に湧き上がる歓声と拍手。 それは、石造りの広間に反響してお城中に響き渡る。


 この瞬間から、彼女は国王陛下になられた。

 その姿を見て、俺も感極まり少々涙ぐんでしまう。


 人々の歓声が落ち着くまで、陛下はそのままじっと黙っていたが、静かになるとお言葉を続けた。


「妾がここまで来られたのは、ファーレーンの為に尽力してくれた、数多の人々の助けがあったからこそだと、この場で申し上げたい。 特に、真学師ステラ殿。 若くして、母を亡くした妾に進むべき道を示してくれ、まつりごとにも数多の助言を頂いた。 そして、真学師ショウ。 妾の半身として帝国に立ち向かい、この半数をほふるという力を見せ、ファーレーンの経済に於いても多大な貢献は計り知りえず、まさにファーレーンの英雄として褒め称えたい。 この2人には感謝の念を禁じ得ない」


 いきなり、陛下からお礼の言を賜った、俺とステラさんはちょっとビックリ。 俺よりは、ステラさんの方が驚いているようだ。

 だが、さすがにステラさんでも、このような場面で、おちゃらけたりはしない。 盛大に陛下のメンツを潰すことになるからな。

 いつかのエルフの男ではないが、彼等にも分別はあるようだ。


 俺とステラさんが、黙って陛下へ頭を垂れる。


 それから式は、つつがなく進み、一般への参賀が始まる。

 お城の玄関から短い階段を降り、ドラゴンの頭蓋が飾られている正門まで赤い絨毯が長く一直線に伸ばされ――それは跳ね橋を渡り正門の前に設置された、臨時の舞台まで真っ直ぐに続く。

 陛下がお上りになる舞台は、正門を塞がないように少し横に造られて、陛下達の行進が住民達にも見ることが出来るようになっている。

 玄関の前に近衛騎士団が整列すると、陛下がその先頭に立たれた。

 そして始まる、鼓笛隊による行進曲。 


 俺が、鼓笛隊と一緒に作った、ウ○トラ警備隊(UG)マーチだ。

 やはり、騎士団に行進曲は合うな。 まさに、ぴったり。

 

 舞台の壇上に上がった陛下に、住民からの大歓声が上がり――それは幾重にも重なり、怒涛の波の如く押し寄せる。


「「「国王陛下バンザイ!」」」 「「「ファーレーンバンザイ!」」」


 戦が終わり、陛下が即位されたとあって、住民にも安堵感があるのだろう。 人々の顔は明るい。

 舞台の両脇には、白と黒のローブを被った、ステラさんと師匠。

 そして、真後ろには俺が警護の為に付き、住民の歓声を聞きながら感慨に浸る。

 

 思えば、遠くへ来たよな……。

 遠くなんてもんじゃなく、異世界だが。


 ------◇◇◇------


 一般の参賀が終わると、舞台は再びお城の中。

 各国の重鎮を集めて、祝賀会が開かれる。 ほぼ、戦勝祝賀会と同じ顔ぶれだが、見たことがない服装の方々も目に映る。

 一応、紹介されたりするのだが、余程変わってるとか印象深い方じゃないと、全く覚えられない。

 何回か会ってる方もいらっしゃるようなのだが……俺は営業には向かないと、痛感した。


 それでも、以前に比べれば、寄ってくる人は少なくなったな。 やはり、悪い噂が尾を引いているのだろう。

 要は、魔女と呼ばれる師匠と同じレベルになったという事――喜ぶべき事か悲しむべきか、それが問題だ。


 会場には、お城の料理人――ヴェルガーさんが、気合をいれて作った見事な料理が、所狭しと並ぶ。

 戦勝祝賀会とは、違った趣向の料理が並んでいるので、以前来た方でも楽しめる料理構成になっている。

 ここら辺は、さすがプロの仕事だ。


 宴を見回すと、サクラコの人気が相変わらず高い。 多数の王侯貴族に囲まれている。

 しかし、彼女はこういう場面には慣れているのか、あしらい方を心得ている――こちらもプロの仕事だな。


 そんな中、俺に近づいてくる、金糸の刺繍が美しい深い緑軍服のような服装。 短めの金髪が美しい女の子――アルナイト公爵だ。

 彼女の国には王族がおらず、公爵が歴代に渡って領地を治めている海岸沿いの小国だ。

 初めて会ったときは、小さな女の子だったが、今や背も伸びて軍服姿も凛々しい。


「これは、公爵閣下お久しぶりでございます」

「メールで結構ですよ」

「いやいや、公衆の面前で、閣下を呼び捨てにするわけには、まいりません」

「そんな事、気になさらなくても、構いませんのに……」

 彼女の国でも、帝国軍の侵略と略奪に対して上層部が逃げてしまった事に、国民が冷たい視線を向けてくるという。

 碌な軍隊を持たない小国故、貴族達は逃げるしかない訳だが、今後は中々厳しいまつりごとになるだろう。

 そのためにも戦勝国である、ファーレーンの力は借りたいところだ。


「そのためにも、陛下のご信頼が厚い真学師様のお力を……」

「大丈夫ですよ、陛下も心に留めておられるはずです」

 通常なら、これで終了なのだが、彼女は引き下がらない。


「真学師様が望まれるのであれば、私の――か、身体を……」

 いきなりそう来るか。


「いえいえ、大丈夫ですって。 心配なされずとも。 それにそのような事をなされては、後々にお困りになるでしょう」

「国のためであれば、この身体など」

 本心なのか――それとも、誰かに言われて、援助の言質を取ってこいと言われたのか。

 大体、一真学師に、こんな事を持ちかけるのは、あり得ない。 そのぐらい、俺の影響力が大きくなった証拠でもあるのだが。


「承知いたしました。 陛下に進言させていただきますので」

「よろしくお願いします」

 公爵閣下が、ペコリと頭を下げた。 この世界では、このぐらいの歳になれば大人扱いだからな。

 色々と大変だ。


 その様子を、会場にいる皆が遠巻きに見ている。


「閣下は、私のことが恐ろしくはないですか?」

「……正直、恐ろしゅうございます。 初めて会った頃の真学師様とは、あまりにお変わりになられて……」

 ええ? そんなにかよ……ちょっとショックなんだが。

 ニニに言われた時も、ショックだったが、女の子に言われちゃなぁ。 心の奥でがっくりと肩を落とす。


「で、でも、真学師様がお望みならば……」

「いえいえ、陛下の援助を期待するのであれば、そのような事はしないほうが得策でございますよ。 ほら、陛下が怖い目でこちらを見ている」

 俺にそう言われて、公爵閣下が陛下の方をみると、彼女は小さな悲鳴を上げた。


「ひ」

「援助の事は、陛下に直接お話しした方が宜しいかと思いますよ」

「そういたします……」

 アルナイトは、ファルタスより小さな国だからな、いっそどこかと合併すれば良いのに。

 彼女は、ファルタスの王子達のお相手にピッタリだと思うのだが……無論、隣国なので、その手の話はもう上がっているとは思うが。


 祝賀会も終わりを告げ、陛下の戴冠式は無事に終了した。


 さて、陛下から有り難いお言葉を賜った、ステラさんだが――。


「そりゃ、嬉しいけどさぁ。 あんな事を言われたら、手が出しづらくなるじゃん」

 いや、待て待て。 いくらバイでも、相手を選べよ、このクソBBA。


 エルフに分別あるとか誰が言ったのか。


「いくら私でも、王侯貴族の初物には、手は出さないよ」


 あ、分別ってそういう……。


 ------◇◇◇------


 暗くなり宴も終わったが、お城も周りでは、相変わらずどんちゃん騒ぎが続いている。

 いつもながら、結局騒げればなんでも良いわけだな。

 明日行われる公爵様の婚礼の儀に備えて、客の王侯貴族達は、それぞれの宿泊場所へ戻っていった。

 事前に行われた確認だと、すべての客が婚礼の儀に出席する予定になっている。

 通常、貴族の婚礼に、親族を除く他国の王族貴族が出席するのは、あまり例が無い。 陛下の戴冠式のついでとはいえ、このような事は滅多に無いと言えるだろう。

 明日の主役、公爵様とミルーナ、そしてファルタス国王と王妃様は、お城の貴賓室に泊まっているのだが、その国王が俺の工房を訪れた。


「ほう! 何という明るさだ!」

「本当に――もう日が暮れているのに、まるで真昼のよう……これは蛍石(フローライト)ですか?」

 ファルタス王と王妃様が、俺の工房へ入ってくるなり人工蛍石(フローライト)の光を見て、驚嘆の声を上げる。


「この明かりは、まだ試作品なので、ご内密に」

「はい……」

 椅子に腰掛けるように促したのだが、国王はそのまま頭を下げた。


「この度は、娘の婚礼に関し尽力していただき、感謝の言葉もございません」

「陛下、一国の王が真学師に頭を下げるなど……あってはなりません」

「いいえ、前にも申しましたが、王ではなく、婚礼を控える娘の父として、礼を言わせていただきたい」

「私からもお礼を申しあげます」

「我がファルタスの面目を保つために、娘のミルーナに戦の手柄を譲っていただいたり、真になんと言っていいやら……」

「戦の功績は、ミルーナ様自ら上げたものですから、間違いなく誇って良いもので、ございますよ」

 ひたすら、頭をさげるファルタス王と王妃様に、俺は恐縮しまくり。

 あまりに間が持たないので、飲み物を出すことに。

 

「王妃様は甘い飲み物でいいですか?」

「はい」

「それじゃ、陛下にはお酒の方が宜しいかな……」

 王妃様には、ミルクに甘味を入れて、生クリームを乗せた物。

 ファルタス王には、俺の酒を出した。 リキュール――まぁ、ありていに言えば焼酎だな。


「なんと、これは今まで飲んだことがないような酒だ!」

 酒の肴にジャーキーも出す。


「この干し肉も美味い!」

「酒は少々強めなので、飲み過ぎないようにしてください」

「いや、今日は飲ませてください」

 そこから、一杯酒を呷ると――ファルタス王の独演が始まってしまった。 娘の婚礼を控えて、嬉しいような悲しいような、複雑な感情があるのだろう。

 さらにステラさんが、乱入して大騒ぎ――彼女は、ファルタスに居た事があるので、ファルタス王と王妃様とも旧知の仲だ。

 夜明けまで飲み明かしてどんちゃん騒ぎ。 途中で、王妃様は呆れて、自分の部屋へ戻ってしまったが。


 倉庫が空になってしまった……。


 ------◇◇◇------


 ――朝遅く目覚める。 結局3時間程しか眠れなかった。

 眠い目を擦ると、サクラコがすでに起きていて、コーヒーを飲みながら、白い目でこちらを見ていた。

 理由は、俺のベッドで一緒に寝ている、裸のステラさんだ。


「其方等、いったい何時まで騒いでおるのじゃ」

「あ、朝まで……眠い」

「呆れたわぇ」

 サクラコは呆れているが、俺もちょっと自分で呆れた。

 だが俺は、酒を殆ど飲んでいなかったので眠気だけだが、ファルタス王がちょっと心配だ。

 サクラコが淹れてくれていたコーヒーを一杯飲むと、ステラさんをたたき起こす。

 彼女にもコーヒーを無理やり飲ませると、一緒にファルタス王が泊まっている貴賓室へ向った。

 婚礼の儀は昼から始まるので、まだ時間がある。


 貴賓室を訪ねると――案の定、白い寝巻き姿のファルタス王はベッドの縁に腰掛けて頭を抱えていた。

「陛下! いい加減にしてくださいませ。 この大切な日に!」

「お父さま!」

 ボサボサ頭で、妻と娘にお小言を貰っているその姿は、とても一国の王様には見えない。

 一緒に飲んでいたステラさんは至って平気。 酒を飲みながら、蜘蛛チョコを一緒に食べなきゃ、エルフが宿酔(ふつかよ)いになることはない。


「解ったから、耳の近くで叫ぶのは止めてくれ……」

 どうやら、見るからに宿酔(ふつかよ)いらしい。


「あんたも歳を食ったねぇ」

「ステラ様、あれから15年ですぞ」

「まぁ、そうだねぇ、ははは。 まったく人ってのは、すぐに年食って死んじゃうんだからねぇ」

 宿酔(ふつかよ)いが酷そうなので、お城の食堂から塩味を利かせたスープと水を持ってくるように、お付のメイドさんに頼む。

 ファルタス王が、スープと水を飲んだら、ステラさんに治癒魔法を掛けてもらう。


「ふうう……やっと落ち着きました」

「さぁ、陛下、準備をなさってくださいませ」

「ご迷惑をお掛けして申し訳ございません。 師匠、ショウ様」

 ミルーナとの間にも、帝都にいた時のようなギスギス感が無くなったのが幸いだ。

 頭を下げる彼女だが、これから式の着付けがある。 こんな事をしている暇は無い。


 今日を限りに、彼女は故郷を捨てて、ファーレーン公爵領に入り、世継を生むという大切な仕事があるのだ。


 俺は、正門の前に集まっている子供達に声を掛けると、お昼までにある物を採ってきてほしいと、小遣いを少々渡した。

 

 ------◇◇◇------


 お城で、公爵様とミルーナの婚礼の儀を行うということで、公爵様の家臣の方々も大勢に訪れている。

 その中には、公爵領へ出向中のメイドのルミネスもいる。

 廊下にいた彼女に声を掛ける。


「ルミネス、久しぶり。 どうだ、ミルーナ様のドレスは?」

「とてもお美しくて――私もあのようなドレスを着ることが出来れば……」

 やはり、女性には白いドレスは憧れの的か、他のメイドさん達も盛り上がっている。 どこの世界でも、あまり変わらないようだ。


 万端整い――いよいよ、婚礼の儀が始まる。

 場所は、陛下の戴冠式と同じ、お城の玉座の間で、赤い絨毯もそのまま使っている。

 絨毯の脇に並ぶ、各国重鎮の顔ぶれも同じだが、近衛騎士団が並んでいないのが違うところか。 

 そして、街の子供達が入り口付近に並んでいるが、この子供達は俺の演出だ。

 

 皆が見守る中、玉座の間正面の扉がおごそかに開く。

 戴冠式と違うのはここから――入場と共に音楽が流れる。 そう、メンデルスゾーンの真夏の夜の夢――結婚行進曲だ。

 扉から入ってくる新郎新婦に、脇に並んだ子供達からの白い花吹雪が舞う。

 このために、子供達に小遣いをやって、白い花びらを集めさせたのだ。

 花吹雪の中を進む新郎新婦を複雑な表情で眺めているのが一人。 サエッタだ。

 欠席するのかな? ――と思っていたのだが、意を決して参加したようだ。 まぁ、どんなに憧れても高嶺の花だからねぇ。

 吟遊詩人が奏でる、物語のようにはいかないさ。

 誰が言ったか、信じていれば夢が叶うなんて話もあったが、絶対に叶わない夢もある。

 

 花びらまみれになった、正装の公爵様と白いドレスのミルーナが、絨毯の上をゆっくりと、玉座にいる陛下の所まで進む。

 公爵様は、陛下に仕えているので、陛下が司祭代わりだ。 陛下の前には台が設置され、その上に2つの宝冠が赤いクッションに乗せられている。

 音楽が止むと、静寂しじまの中、陛下のお言葉が始まる。


いにしえの習わしに従い、宝冠を交わして、婚姻の証と成す。  ロイ・ル・フィラーゼ公爵よ――」

 陛下のお言葉が続き、式は進む。


 己のボキャブラリーの貧困さを恨むしかないが、まるで結婚式場のパンフレットのような光景が繰り広げられる。

 底辺貴族から成り上がったイケメン公爵と隣国の美しき王女様――究極のリア充同士の結婚。

 どんな映画のヒーローヒロインなんだよ――だが、爆発しろとか、もげろとか言うはずもない。

 政略結婚といえば、本人が望まぬ結婚も少なくない。 だが、この2人は相思相愛の仲。

 俺を含む会場の皆に祝福を受け、2人は幸せそうだ。

 今、この大陸で一番幸せな2人かもしれない。

 

 そして、陛下の戴冠式と同様、正門まで敷かれた赤い絨毯の上を、結婚行進曲と共に2人は舞台まで進んでいく。

 舞台の上から、手を振る公爵様とミルーナに歓声を送り、共に盛り上がる住民達。

 その最前列には、公爵領の住民達が優先的に集められて、祝福を送っている。

 人々の表情も明るい。

 師匠達と俺は、舞台の下で警備に当たっているが、人々のファーレーンに期待する気持ちが伝わってくる。

 この2人の結婚が、ファーレーンの明るい未来を示していると考えているのだろう。

 戴冠式以上の盛り上がりに、陛下は少々渋い顔だが……だが、このめでたい場面に小言を言う程、陛下も無粋ではないだろう。


 ファーレーン住民と、各国の人々の祝福を受け、婚礼の儀は無事に終了した。


 ------◇◇◇------


 この婚礼の儀は、各国王侯貴族達の年頃の女達に、多大な影響を及ぼした。

 つまり、似たような結婚式をあげて、沢山の人々の祝福を受けたい! ――という、結婚式ブームである。


 お城で婚礼の儀を行なったのは、大量の客人を捌くための苦肉の策だったのだが。

 これには、陛下も苦笑いである。


「また貧乏貴族が見栄を張って、わざわざ城を使って、豪奢ごうしゃな婚礼の儀を行うのであろう? 見苦しい限りだ」

「まぁ、一生に一度なら、それも良いではございませんか」

「金の無駄だな」


 陛下は無下もないが――本来なら、貴族の婚礼の儀で、お城を使ったり、鳴り物が入ったり、参賀のための舞台が用意される事はないのだ。

 あくまで、陛下の戴冠式で使った物を、ついでに利用しただけ。

 だが、客として訪れた王侯貴族達には、かなり刺激的だったらしい。

 同じ曲を使わせてほしいと――自分達の鼓笛隊を、ファーレーンまで練習のために遠征させてきた国もあった。


 それが大陸中に広がって、この世界でも、婚礼の儀に結婚行進曲が演奏されるのが、定番になってしまったのだ。


 それと、陛下の戴冠式で使った、ウ○トラ警備隊(UG)マーチであるが――。

 陛下が大層気に入ったらしく、これを国歌として採用するらしい。

 勿論もちろん、歌詞はファーレーンで作詞した物を用意するのだが……。


 マジですか?

 

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