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異世界で目指せ発明王(笑)  作者: 朝倉一二三
異世界へやって来た?!編
148/158

148話 異世界人の俺は……


 殿下がまずい事を言い出した。

 パズズの弟子――ファラをお咎め無しで保護する条件に、自分を抱けと言うのだ。

 大勢の面前で、こんな事を仰るなんて……。


「其方はどうなのだ?!」

「そ、そうしたいのは山々なのですが――膝に矢を受けてしまって……」

「なんだと! 其方、怪我をしていたのか! 何故黙っておった!」

「あ、いや……違います。 今のはホンの冗談で――」

「こんな時に、何を考えておる! 悪ふざけも大概にするがよい!」

 殿下は俺の襟を両手で捕まえると、前後にガクガクと振り始めた。


「も、申し訳ございません。 ちょっとした冗談で」

「冗談にも時と場所があるであろうが!」

「いや、全くその通りです」

 俺は、殿下の手を外すと、彼女の真意を確かめようとした。


「殿下――何故、私なのです? 他に、家柄が相応しい方がいらっしゃるでしょう?」

「何故? 其方は、今更そんな事を申すのか? この白金(プラチナ)のティアラも、この白蛇の腕輪も、この甘い香りも全部其方が作ってくれた物だぞ?!」

「全くもって、光栄の限りでございます」

 俺の淡々とした返事に、殿下は少々動揺したようだ。


「ま、まさか其方……この期に及んで、妾の事が嫌いだと申すのではないだろうな……?」

「いや、ライラの体中の隅々まで舐め回して、たぎる俺の物であらゆる秘所を蹂躙したいと、いつも夢に見ているよ」

 俺の突然の言葉に、殿下の顔が真っ赤に染まる。


「それなら、すぐに其方の欲望のままに、妾を押し倒せばよかろう!」

「ねぇねぇ! それって、私も混ざって良いのぉ?」

 俺と殿下の会話を聞いていたステラさんが、茶々を入れてくる。


「ステラさん、ちょっと黙っててください」

 ――次の瞬間、部屋の中央にまばゆい青い光が集まり始める――こりゃ、魔法だ。


「ちょっとちょっと! ステラさん何やってるんですか!」

「私じゃないって!」

 発動寸前で、ピンク色の破片になって床に散らばり、魔法が中断された。


「やれやれじゃな。 弟子狂いも程々にするがよいわぇ」

 魔法を阻止したのは、サクラコ。 魔法――多分『爆裂魔法(エクスプロージョン)』を使ったのは――師匠だ。

 いつの間にか、ステラさんの首掴み(ネックピンチ)から、復活していたらしい。

 ベッドの上で、片手で顔を隠して、泣いているようだ。


「ちょっと、ルビア! あんた、建物ごと私達まで吹き飛ばすつもりぃ?!」

「……だ、だって、ショウが悪いんだもん……」

「ふう――若い男女の師弟がいない慣習というのは、こういう事になるからなんですよねぇ。 良い見本ですね」

「はい、師匠。 でも、これは良い見本なのか、それとも悪い見本なのか……」

 ファルゴーレとサエッタの嫌味だが、こういう状態になってしまっては、否定できない。


「ちょっと、皆さん落ち着いて。 今、説明をしますから」

「今更、何を説明するというのだ!」

「殿下は私の何をお求めですか?」

「そんな事は決まっておろう!」

「殿下がお求めの中に、私の子種も含まれているのですよね?」

「当然だ! 王侯貴族の女子おなごに生まれたのであれば、子を成し、家を存続させる務めがある」

 殿下が腕を組み、胸を張る。


「この世界の住人同士でも、違う世界から来た種族は交配できません。 例えば、人とエルフ、ダークエルフは姿形は似ていても、子供を作れません」

「そんなことは、今更言わずとも解っておる!」

「以前、お話しいたしましたが、私は異世界から来た異世界人です。 種族が違うんですよ。 姿形が似ていても、種族が違うという事は――」

「ま、まさか――この期に及んで、そんなつまらぬ冗談を――」

 殿下が、組んでいた腕をほどき、俺に掴み掛かるためか、ふらふらとこちらへやってくる。


「冗談ではありません。 本当の話です。 私はこの世界では、子供を作れないんですよ」

「嘘であろう……?」

「本当です。 平民と交わった挙句、子供が出来ないとなると、殿下のお立場はかなり悪くなると思います」

「ああ、そうだねぇ――後で相手を代えようとしても、身分が高い連中程、初物にこだわるからねぇ。 しかも悪魔の後じゃ……」

 ステラさんの言葉に動揺する殿下と別の所からも、すすり泣く声が聞こえてきた。

 今度はミルーナだ。


「それでは、私はどんなに迫っても、お手を付けてくださらなかったのは、そのためなんですね……?」

「いやいや、君は候爵様にお輿入れが決まっているじゃないか。 俺が手を付けるはずないだろう」

「しかし……」

「君は、世継を残すという王侯の務めを果たすために、俺の所へ火傷跡の治療に来たんじゃないか」

「確かに、あの時はそうでした」

「今もそうだろう。 ファルタス王も王妃様も、その日が来るのを心待ちにしていると申されていたよ」

「うう……全て、私が悪いのです」

 ミルーナは、白い手袋を嵌めている両手で顔を隠してしまった。


「いや、悪いのは、ほぼ俺なんだけどさ」


「そうじゃな」 「そうだねぇ」 「まぁ、そうでしょう」 「その通りですね! ミルーナ様を悲しませるなんて!」


「お前等、俺に対する愛はないのかぁ!」

 思わず、ステラさんみたいな台詞を吐いてしまったが。


「あの――なんで、こんな修羅場になってるんですか?」

 ファラが俺の後ろから首を出す。


「君を無事にファーレーンへ連れていくためだが……」

「それが、なんでこんな事になるんですか?」


 シラネーヨ! こっちが聞きたい。


「ふふふ……ははははっ!」

 なんだか解らないが、殿下が突然笑いだした。 しゃがみ込んで、腹を抱えている。


「はははは……ヒッヒッヒッ」

 壊れた?


 殿下が突然、青騎士から剣を奪うと、俺に向かって勢い良く振り下ろした。


 真剣白刃取り!


 俺は、振り下ろされた剣を合掌受けした。

 まさか、俺にそんなすごい技が使えるはずはない――腕輪の防御壁にぶつかって止まった剣を受けただけだ。


「何をなさいます?!」

「ショウ! 妾にも真理が見えたぞ!」

「真理って何の真理ですか!」

 殿下が渾身の力を込めて、剣を食い込ませてくる――と、言っても武術のたしなみもない非力な殿下では、たかが知れているのだが。


「其方を殺して、妾も死ねば、丸く収まる!」

「全然収まらないし、真理でもありませんね!」

 殿下の言ってる事はめちゃくちゃだが、目がマジだ。 もう、口からでまかせだろうが何だろうが、何か約束しないと収まらないだろう。


「解った! 解りました! 何とかしましょう」

「この後に及んで――」

「私が何とかすると申して、何とかならなかった事がありましたか?」

「では、本当に何とかすると申すのか?」

「ええ、勿論もちろんです。 ですが、殿下。 異種間に子供を作るなど――これは、確実に禁忌を踏みますよ。 よろしいのでございますか?」

「構わぬ! もう、地獄へ落ちるのは覚悟の上故にな!」

 決まったな。 必殺、問題先送りである。

 しかし、遺伝子レベルでいじるとか魔法で出来るのであろうか? それに、効果を確かめて結果を出すには人体実験だって必要だ。

 これでは、パズズと変わらないと思うのだが……。


「皆の者! 今聞いたことは、極秘事項故、他言無用だぞ?!」

 それで良いのか――そんな事を考えていると、横から抱きつかれた――見ると、リンだ。


「そ、それでは、私にもその機会が!」

「お前は、貴族から良いのを選べば良いだろうに」

「いいえ! 身内によって汚されてしまったこの身体、いったい誰が貰ってくれましょう? 最早もはや、ショウ様のお情けにすがるしかないでございます」

 俺をうるんだ目で見つめて、己の身の上を語るのだが――。


「あ~……まぁ、お前は色々と気の毒だからなぁ。 けど、いつになるか保証は出来ないんだぞ?」

「覚悟の上です!」


「ショウ! 妾も待つが――いつまでも待つつもりもないのだぞ?」

「承知しております」

 俺は、胸に手をあて、頭を下げた。

 まぁ、どうにかなるだろう。 どうにかならなかったら? そんなことは知らん! なるようにしかならんし。


「私であれば、いつでも手を出して良いのでございますよ?」

「フェルミスター公爵、妾より先に手を出したら、公爵領への援助を打ち切るからの」

「殿下、それじゃ職権濫用ですよ」

「黙るがよい!」

「それなら妾はどうじゃ?」

 今度は、サクラコが抱きついてきた。


「おいおい、サクラコと事に及んだら、巫女の力が無くなってしまうじゃないか」

「な! 其方は妾の事をそのようにしか考えておらぬのかぇ?」

「当然だな。 ショウは妾の事しか、考えておらぬ故」

 なんだか、得意満面の殿下だが、俺がそう言うと否定するくせに……。

 サクラコには悪いが、巫女の力を失うのは、今は非常に惜しい。


「くっ! それでは、妾の違う穴でまぐわえば良かろう!」

「それも、禁止! 禁止だ!」

「横暴じゃぞ?!」

「国家元首が横暴で何故悪い!」

 そこで、開き直るのか。

 殿下とサクラコが、とんでもない言い合いをしているのだが――。


「皇族、王侯貴族の方々がなんという下品な会話をしているんですか?」

「王侯貴族なぞ、そんな物だと、前に其方に話したであろう。 一度、社交界へ顔を出してみるがよい! 男も女も、まぐわう事しか考えておらぬ故」

 そこにいる俺以外の人間が、ウンウンとうなずいている。


「そうですねぇ、王侯貴族とお付き合いしていると、そういう噂話ゴシップには事欠きませんよ。 皇族の方々含めてね」

 ファルゴーレの言葉にサクラコがちょっと気まずい表情をしている。

 彼のような、ゴシップには興味無さそうな人間の耳にまで入ってくるのだから、そういう事が日常茶飯事なのだろう。


「まぁ、殿下の御母堂様も、イケメン騎士団作ってましたしねぇ」

「それは、忘れるが良い!」


 確かに、王侯貴族から聞こえているゴシップというのはそんな話ばかりだ。

 後宮、正室、側室、愛人、組んず解れつの大乱闘――ファーレーンだって、俺がハーレム作っているという話になってるしな。

 なんでそうなるの?


 ------◇◇◇------


 とりあえず落ち着いたので、ファラへの事情聴取を始める。

 外で待っていたメイドさんが、暇なのでお茶を入れたと言うので、それを飲みながら聴取を進めた。

 本やスクロールで埋もれた部屋だが、一応そういう生活用品も揃っていたようだ――まぁ、ここで暮らしていたんだろうから、そりゃあるだろうが……。

 やはり、パズズの実験施設は別な場所――帝都から20km程離れた、皇室の別屋べつおくにあると言う。

 彼女は、この屋敷に山積みになっている資料の管理と、パズズが行なった実験の記録を担当していたらしい。


「サクラコ、その別屋べつおくって知っているか?」

「あるのは知っているが、訪れた事はないわぇ」

「なるほど……皇族の持ち物なら、貴族でも簡単には入る事が出来ないからな。 秘密の実験場には最適だな」

「その通りじゃな」


 ファラの証言から、異世界を繋ぐゲートの詳細も解ってきた。

 あの白いゲートは1日1時間程しか使えないと言う。 しかも1日使うと3日程使えなくなる仕様のようだ。

 それじゃ、俺が使った時は、タイミング良かったんだな。 あの場で、再度ゲートを使おうとしても、繋がらなかったわけだ。

 簡単に計算してみたが――1時間程度では、効率良く兵を送り込んでも1万人ぐらいしか向こうへ送れないのではないだろうか?


「そうなのです。 ですから、戦闘ではなくて、交渉の為の武力誇示だと、師匠パズズは言ってました」

「なるほどな……」

 そりゃ、1人2人向こうへ送り込んで――俺は異世界の真学師だ! 朕はカミヨ大帝国皇帝である! と叫んでも相手にもされないだろう。

 頭のおかしい奴と思われて――最近暑くなってきたからねぇ、気の毒に――そこで終了だ。 向こうの政府と交渉など出来るはずもない。

 それで、ある程度の軍を投入して武力を見せつけ――オーガや魔法を使って存在を誇示すれば、政府としても相手をせざるを得なくなるって訳だ。

 いきなり大魔法を使ったりして攻撃すれば、非常事態とみなして自衛隊等が反撃してくる可能性があるが、交渉のためのファーストコンタクトと言われれば、日本は受け入れざるを得ないだろうなぁ。

 ここら辺の作戦には、あのゴールドって奴が絡んでいるな。 向こうの世界の仕組みを解っているやつが立てた作戦だ。

 日本政府の事だ――そうなってからもモタモタとあれこれすったもんだするに違いない。

 法律が整ってないとか、異世界とのコンタクトなぞ前例が無いとか、何かあったら誰が責任を取るんだとか、もめまくるだろう。

 そこで、時間稼ぎをしている間に、後続の軍を次々に送り込む作戦だと思われる。


「しかしなぁ、穴が開いたのが帝国でなけりゃ、向こうの世界と交易するのも、やぶさかでないのだが」

「だが、其方は異世界には途方も無い数の人がおると申したではないか」

 殿下がお茶を飲みながら、問題点を指摘してくる。


「その通りでございます」

「向こうから人が流れこんでくるのを食い止めねば、この世界が乗っ取られてしまうであろ?」

「故に、実際に交易を始めるとなると、かなり制限を掛けねばなりませんが――帝国はそこまで考えてはいなかったでしょうね」

 それに奴――ゴールドもそこら辺はぼかして、本当の事を言っていなかった可能性もある。

 その場合に奴が取る行動は、奴の祖国と日本国内にいる同胞と連動しての、この世界への浸透だ。

 未開な異世界にある帝国の中枢に同胞がいるのだ、絶対にそれを利用して進出をはかるに違いない。


 そればかりではない。


 ――未知の異世界(フロンティア)への通じる穴がある――。


 そんな事実を、向こうの世界の列強諸国が指を咥えて黙って見ているはずが無い。

 日本の同盟国――アメリア連邦をはじめ、オロシア帝国、中ノ華共和国と日本の周りだけでも、危険な国が多すぎる。

 オロシアや中ノ華なんかにこの世界へなだれ込まれた日にゃ、いったいどうなる事か……間違いなく植民地化されるだろう。

 それに、門が出来た日本への列強諸国からのプレッシャーも相当な物になるはず――そんな外圧に日本の政府が耐えられるか?


 だめだろうなぁ……今までの歴史からかんがみて絶対に押されまくってグダグダになるに決まってる。


 ファラへの聴取の中で、一つだけ幸運な事があった。

 パズズとゴールドが、火薬の製法を独占して秘匿していたらしい。 ゴールドの奴も、使い捨てされないように、情報を小出しにしていた可能性もある。

 それ故、火薬の製法は一般には漏れていないようで、これだけが不幸中の幸いだった。


 ------◇◇◇------


 ひと通りファラへの聴取が終わり、パズズの実験施設がある皇室の別屋べつおくには、明日向かう事になった。

 揉め事の発端となったノートPCの画面は、触っていなかったためにスリープモードになって画面は黒くなっている。

 皆が、もう一度白い花の写真を見たいと言うので、スリープを解除したのだが――ここで残り電池を心配し節約しても仕方ないだろう。

 次の充電が出来るかどうかも解らないのだ。


 サエッタにうながされて、ミルーナも画面を覗きこんでおり、彼も王女殿下の相手が出来て楽しそうである。

 それを複雑な表情で見ているファラ。 人生、中々上手く行かないもんですねぇ。

 皆が、一通り見終わったので、ノートPCのフォルダを漁る。

 何か、他の珍しいデータやらは入ってないかな?


「お、動画があるじゃん。 魔物か、魔法の動画かな?」

 そう、思って画面をタッチしたのだが――。


『ふにゃ~ん! にゃにゃ~』

『ふひひひ』

 画面いっぱいに広がる、エロ動画。

 獣人の女と、あのゴールドって奴が絡んでいる。


「あわわわ!」

 慌てて動画を閉じる。

 奴め、獣人とのハメ撮りを撮っていやがった。 恐らく、スマホで撮った動画だろうが、長さは2分程だ。

 動画は20本ぐらいあったが、全部ソレか?


「何? 今の? なになにぃ?!」

 嬉々とした表情で真っ先にすっ飛んできたのは、ステラさんだ。

 俺の所へやってくると、ノートPCを奪い取った。


「確か、ここを押してたよねぇ」

 タッチパネルを押すと、再び再生される、ハメ撮りの動画。

 下手に知能が高いから、順応性が高くて困る。


『ふにゃ~ん! にゃにゃ~』

『ふひひひ』


「おおおお! これは! これは、絵が動いでおるのかぇ? まさか、この中に人が入っているわけではあるまい?」

 今度は、サクラコが食いついた。


「そんな訳ないない」

 サクラコだけではない。 そこにいる全員が、エロ動画に見入っている。


「これはつまり――私達が見ている物を切り取って保存出来るという機械ですか?」

「さすが、ファルゴーレ。 それにかなり近いな」

「それでは、おっぱいプルンプルンの所を切り取って保存すれば、この機械で何回も楽しむ事が出来るという?」

「その通りだ」

「素 晴 ら し い。 アマテラスの御国は近づいた!」

 ファルゴーレは天井へ向けて、両手を広げている。

 このおっぱい星人め。 しかし、元世界でもこの世界でも、男が考える事は皆一緒か。


 それを見たサエッタは呆れ果てているのだが、エロ動画には興味があるらしく、チラチラ横目で見ている。

 やっぱり、男の子なら興味あるよねぇ。


 それにしても、元世界から拉致されて、殺されて、おまけにノートPC漁られて恥ずかしい動画まで見られちゃうんだから、ゴールドってやつも不憫だな。

 自業自得――身から出た錆ってやつだから、同情するつもりもないが。

 とっとと、逃げ帰ってりゃこんな事にはならなかったんだから。

 ゲートから出て、色々と買い込んでいる暇があるんだから、逃げる事だって出来ただろう。

 異世界にやってきて異世界貿易だぜ! ――と喜んでいたら、まさか俺みたいな奴がこの世界にいるとは思わないよな。

 本人もそう言ってたし。


 ステラさんと一緒にラテラ様まで動画を見ているが、それに参加していないのは、ミルーナとリンだけだ。

 恥ずかしいのか、顔を赤くして横を向いている。


「コレ、私が貰ったぁ!」

 またかよ……ステラさんがノートPCを抱きかかえ、また無茶な事を言い出す。


「ステラさん、ダメですよ。 それ、もう電池っていうのが無いんです。 そろそろ使えなくなりますよ」

 ――と、言っているうちに、画面に警告が出て、シャットダウンに入ってしまった。


「ええええ! なんでそんな意地悪するのぉ?」

「私がやったんじゃありませんよ。 私達で言う、魔力切れみたいなものです。 魔石ライトも、魔力が尽きると消えるでしょ?」

「じゃ、使えるようにして!」

「この世界じゃ充填出来ないんですよ。 そのうち出来るようになるかもしれませんが、故障したら修理もできませんし」

「うう~」

 ステラさん、余程ノートPCが気に入ったのか、俺を恨めしそうに見ている。

 そんな顔をされても、コレばっかりはどうしようも出来ない。


「――というわけです。 諦めてください」

 ステラさんは不満顔だが、未知の機械では手の出しようがないだろう。

 壊したらそこで終了だしな。


 とりあえず、捜索を終了したが――やはりここには、本やスクロール等の資料の他は、我々とエルフ共々目当ての物はないようだ。

 この資料は全て、俺に一任される事になった。

 元世界の本なんて、俺が訳さない限り読むことは不可能に近いからな。


 資料館でも作って、その管理をファラにやらせれば良いだろう。

 ここの蔵書をほぼ覚えてしまっている彼女なら司書として適任だ。

 彼女自身も、本が大好きなようだしな。


 屋敷の捜索が終わったので、近くにあった小屋を漁る。

 そこで見つけたのは、全農と書かれた黄色い袋に入った20kg入りの硝安と一斗缶のアセトン。

 硝安だけなら、畑の肥料かと思ったのだが、あの畑の様子を見てもそうは思えない。

 一緒にあったアセトンを見ても、爆薬の原料として購入した物だろう。

 最近はちょっとうるさくなったのだが、特に許可も要らずに購入できる手製爆発物の代表的な原料で――農協に行けば、硝安や硫安の袋が普通に積んである。

 恐らく、ネットでググった物を再現しようとしていたと思われる。

 硝安爆薬は起爆は難しいが、この世界には火石や魔法があるので、起爆方法ならいくらでもあるのだ。

 やはり、帝国との戦が長引くとかなりヤバイ状況になっていたようだ。


 結果論ではあるが、捨て身で突っ込んで正解だったな。


「それは何なのだ?」

 殿下が黄色い袋を指さす。


「これは、畑の肥料なのですが、火薬より強力な爆薬の原料として輸入した物でしょう」

「畑の肥料が火薬になるのか?」

「はい、私が作っている火薬も、硫黄を抜けば肥料として使えますよ。 作るのが大変ですけど」

「それでは、肥料を作ることわりと火薬を作ることわりとは同義なのだな」

「その通りでございます」

「むう……」


 つまり、化学肥料を合成できる科学力があるなら、爆薬も合成できるって事だ。

 そうなってしまうと、火薬や爆薬の製法を秘匿するのは不可能になるな。


 帝国が持っていた火薬は、かなり不純物が少ない印象だった。

 もしかしてパズズが、なにか化学合成に必要な魔法を開発していたのかもしれない。

 パズズの残した研究資料を、分析してみない事には、何とも言えないが……。


 ------◇◇◇------


 ――次の日。

 護衛の騎士団を引き連れ、パズズの実験施設があるという皇室の別屋べつおくへ向かう。

 エルフが十数人と、ダークエルフ達も同行している。

 エルフの面々は、長老のラテラ様程ではないが、かなり背が高いので高位の者達なのだろう。

 この面々に護衛なんて必要は無いように思えるが、帝都から離れれば、帝国貴族の残存部隊がいるかもしれないので、注意するに越したことはない。

 なお、獣人達は護衛には同行していない、これから行く施設で死霊ゾンビの研究が行われている可能性が高いからだ。

 また、パニックを起こされてはたまらん。

 獣人達は、死霊ゾンビの恐怖から帝都に入る事が出来ず、帝都の外でキャンプ村を作り始めた。

 帝都の正門前にいたニニ達も、帝国軍の抵抗やトラブルも特に無かったので、外のキャンプ村へ合流したようだ。


 殿下と真学師一同と、エルフの長老ラテラ様は蒸気自動車へ乗り込み、俺とサエッタはあぶれてしまったので、馬で手綱を握り――その後ろをフェルミスター公爵が馬で付いてきている。

 殿下の馬車も同行しているが、乗っているのは、お付のメイドさん達だ。


 護衛の騎士団には、青騎士が同行しているのだが――。

 帝国騎士団から人を雇うなんて、近衛騎士団やファーレーン貴族騎士団からうとまれるじゃないと心配していたのだが、それは杞憂きゆうだったようだ。

 この青騎士ことジュネイは、ファーレーン騎士団の間でも有名な実力者のようで、逆に歓迎されている。

 自動車と騎馬で縦列を組んで行軍――目的地まで約20kmの距離だが、この部隊のスピードなら1時間程で到着した。

 到着寸前の高台から見下ろした感じでは、円形の高い壁の中に木々が生い茂っているという場所のようだ。


 到着した場所は、荒れ地の中にたたずむ巨大な施設。

 巨大な木製の扉の前に立つと――施設の周りは5mほどの高い壁に阻まれて、この場所からは中がどうなっているかは解らない。

 円形に作られた施設の直径は500m程か……。


 馬を降りた、騎士団に声を掛ける。

「ジュネイさんを雇うのに、ファーレーンの騎士団から反対の声が上がるんじゃないかと心配していたのですが」

「いや真学師様、ジュネイ殿を敵に回すなら、味方に付けた方が何倍頼もしいかと」

 近衛騎士団の団長――ワルターも彼の実力を認めているようだ。


「ファルキシムの戦いでも、我軍と互角に戦っていたのは、青騎士の部隊だけでしたからね。 その上、我軍の薄い所を突いて、離脱までしていますし」

「いえいえ、私も必死でしたから」

 彼は、あまり武勲を誇るような人物ではないようだ。


「ファーレーンで雇うといっても、実際は巫女様直属の護衛ですから。 純血の巫女様を頂点にした、神聖カミヨ大帝国亡命政府の騎士団団長になるわけですが」

「そんな話は聞いておらぬぞぇ? 亡命政府なぞ、利用するだけ利用して闇から闇――だろうがぇ」

「まぁ、冗談だよ」

「ふん、気に入らぬとはいえ、妾の力がなくなれば、平民の女子おなごと変わらぬ故、守る価値もなくなるわけじゃが……」

「それでも、唯一残った純血があるじゃないか」

「あまり嬉しゅうないわぇ」

 どうやら、パズズの工房での会話で、ちょっとねてしまっているらしい。


 俺達の会話を、にが虫を噛み潰したような顔で聞いているのが、ステラさんだ。

 彼女は、ファーレーンに帝国出身者が増えるのを良く思っていないようだ。


「ステラさん、人材の育成には金と時間が掛かります。 そんな時間が無いのであれば、帝国から引っ張るのが一番早いじゃありませんか」

「そんな事は解っているよぉ」

「帝国がダメになりましたから、ファーレーンはこれから大きくなりますねぇ」

 ファルゴーレが会話に入ってきた。


「今までは、帝国のまつりごとに不満があって、ファーレーンへ行きたくても、敵国へ行くという不安感がありましたが、それが無くなるわけですからねぇ」

「人口はどのぐらいになるだろうか?」

「さてねぇ……恐らくは40万から50万にはなるでしょうねぇ」

「そうなれば、こちらがファーレーン大帝国だな」

「その通りだ、ショウ! 妾は皇帝なぞになるつもりはないが、国が大きくなればなるほど、良い人材は喉から手が出るほど欲しい! 帝国の至宝は根こそぎ頂く!」

「おお~! さすが殿下。 お頼もしい」

「やめよ、其方の世辞など、背中が寒くなる」


 ファーレーンの先々について会話をしていると、重厚な門がゆっくりと開いた。


「なんだ、つまらないのぉ。 抵抗するなら、ルビアの魔法でドッカーンだったのにぃ」

「ダメですよ、師匠もステラさんも、破壊は最後の手段にしてください」

「全く、エルフというのは、面白ければ良いと思っているのだから、困ったものだ」

 ダークエルフの長老――リンリンの独り言を耳にしたステラさんが、彼女達にガンを飛ばしているのだが――。


「ステラさん!」

「解っているよぉ。 私に対する愛は無いのか」

 ステラさんはブツブツ言いながら肩をすくめているが、ダークエルフ達の言うとおりだな。


 そして、いよいよ俺達は、パズズの実験施設があるという場所に脚を踏み入れた。



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