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異世界で目指せ発明王(笑)  作者: 朝倉一二三
異世界へやって来た?!編
147/158

147話 パズズの弟子


 パズズの工房に居た、黒いワンピースの女性、彼女の名前はファラ。

 彼女はファルゴーレとサエッタの知り合いで、パズズの弟子だと言う。

 だが、彼女は金のプレートを付けていない――まだ見習いのようだ。

 魔力は微力で魔法は殆ど使えないが、彼女が持つ卓越した能力は、記憶力。

 ここにある書物や、パズズのやっていた研究の殆どを詳細に記憶していると言う。


「私達は、ファーレーン軍です。 帝国軍が戦で負けたので、ここを接収しにやって来ました」

「ええ? 帝国は負けたのですか?」

「何も聞いていないのですか?」

「はい……」

 証拠隠滅どころではなく、連絡も来ていないとは……。


「こりゃ、皇帝の直属で動いていたので、誰も口を出せない状態になっていたのか」

「恐らくその通りであろう。 妾は、ライラ・リラ・ファーレーン(スォード)である。 戦の戦利品としてここを接収する。 抵抗するつもりなら容赦はせぬ」

「いいえ、抵抗するつもりはありません……ライラ殿下に従います。 あの……パズズ様はどうされたのでしょう?」

「俺が殺した」

「亡くなられたのですか?」

「ああ、あまりに禁忌を踏んだ危険なことわりの数々が認められたのでな。 仇を討ちたいというのなら、受けて立つが」

「そんなつもりは毛頭ございません」

 ここの研究を全て記憶して把握しているのであれば、パズズが何をやっていたかも当然知っているのだろう。


「ファラさん、お久しぶりです。 息災で何より」

「ファルゴーレ様も。 そして……サエッタさんも」

「『さん』 は必要ありません」

 サエッタの素っ気ない返事に、ファラがたじろぐ。


「で、でも……」

 ん? んん? なんだか、このファラという女性の様子がおかしいぞ?

 顔が赤いし、モジモジしているのだが……。

 彼女の様子から察するに――この女性、サエッタに気があるらしい。

 そりゃ、残念だなぁ――当のサエッタは、ミルーナにホの字……いや、ぞっこん……いやいや、メロメロ……とにかく、そういう状態なのだ。

 彼女が進む道がけわしいのだけは確かだ。


「巫女様に於かれましては――」

「ああ、よいよい。 妾は最早もはや、平民じゃ」

 サクラコが堅苦しい挨拶をしようとするのを、止めさせた。


「サクラコは、彼女の事は知ってるんだよね?」

「無論じゃ、パズズと一緒の事が多かったからの」


 ファラという女性に案内されて屋敷内を調べるが、あるのは本やスクロール、黒板プレートだけで、実験道具やらは見当たらない。

 2階にあったパズズの私室という部屋を開ける。 8畳程の部屋だが――ここにも、あるのはベッドと本やスクロールの山。

 窓には、ガラスが嵌っており、カーテンを開けると、部屋に明るい日差しが入り込む。

 その光に輝く白い機械。 机の上に、元世界の製品を見つけた――白い顕微鏡だ。

 パズズは結核を病原性の伝染病だと理解していたので、こいつがその役割を果たしたのだろう。

 双眼装置が付いた立派な物で、最高倍率は1000倍。 メーカーを見ると、レンズや刃物で有名なツイード国製じゃないか。

 コイツは、結構値段が高いはず……。

 なるほど、パズズはこいつを病原菌の研究に利用していたとも考えられるが――顕微鏡があったとしてもすぐに病原菌の変異などを起こせるとも思えない。

 もっと早い段階で、病原菌の存在に気がついていたのだろう。

 こいつは単に、奴の仮説を目に見えるようにしただけだ。


「ショウ、これはなんですか?」

 顕微鏡を覗きこんだりしている俺に、師匠が話しかけてきた。


「え~と、ですね。 小さい物を拡大して見る装置です。 ん~、何かサンプルは無いかな……」

 パズズの机の上を物色する。 ここに顕微鏡があるって事は、プレパラートのサンプルがあるはずだ。

 ――それは、木製の箱の中に収納されていた。

 顕微鏡を使ってサンプルを見るためには、下から光を入れなくてはならない。

 そのために、光を取り入れるための反射板が設置されていたりするのだが、コイツにはLED照明が取り付けられている。

 スイッチをいれると――まだ照明は使えるようだ。

 LEDは消費電力が少ないので、電池が保ったのだろう。 木箱の中には換えの電池も入っていた。

 この電池が切れたとしても、魔石ライトに交換したりすれば、そのまま使えるはずだ。


 プレパラートを一つ取り出し――挟んで、覗き込みダイヤルを回して焦点をあわせる。


「師匠、覗いてみてください」

 俺にうながされて、師匠が双眼装置を覗く。

 

「こ、これは……」

「下のガラスに乗っている標本を1000倍に拡大しているんです」

「せ、1000倍ですか……?」

「もっと解りやすい物は……そうだ」

 俺は、自分の髪の毛を抜くとスライドガラスの上に乗せ、覗く。 ちょっと1000倍では拡大し過ぎのようだ。 1000倍の下は400倍らしい。


「師匠、髪の毛を拡大しています。 これは400倍です」

「この細い髪の毛がこんなに太く見えるのですか?」

「はい、こうやって、生物や植物のことわりを研究するための機械なんですよ」

 皆が、代わる代わる顕微鏡を覗き、感嘆の声を上げる。


「どうやって、こんなに大きく見えるようにしておるのだ? 魔法ではあるまい?」

「私が殿下の為にお作りした、望遠鏡と同じ仕組みですよ」

「ほう! なるほどのう。 遠くの景色を拡大するように、これも、ことわりの仕組みか……」

「その通りでございます」


 ひと通り皆が覗いて、最後にステラさんが見終わったのだが、彼女が顕微鏡を持ち上げて、叫んだ。


「これ! 貰ったぁ!」

 全く、何を言い出すのやら。


「ステラさん、ダメですよ。 接収した後に、皆でどうやって使うか考えましょう? 殿下――コレは、動植物の構造の解明や、病気の予防や治療に多大な貢献をする物と思われます」

 殿下も、俺の言葉にうなずく。


「その通りだな。 これだけの物を、個人の私物とするのは難しいだろう。 いかに、ステラ殿とはいえ、それはちょっと無理筋だな」

「ぷう」

 ステラさんは、顕微鏡を机の上に置くと、口を尖らせている。


 そんな話の合間にも、エルフの長老ラテラ様が部屋の中を探索中なのだが、魔法でも使っているのか、チラチラと光が見える。

 彼女が部屋の中に入ると、天井が低く感じる。 天井の高さは3m程あるので余裕はあるのだが、ドアを潜ったりするときは大変そうだ。

 エルフの実家は、かなり大きな造りになっているんだろうな。


「ラテラ様、何をお探しなのですか?」

「それが見つかれば、ご説明いたしますので」

 ふむ、エルフ達や、その長老がわざわざ出張ってきたのは、何か探し物があるためらしいな。


「顕微鏡以外に、怪しそうな物は無いな……本の類は中身を検証してみない事には……」

 これだけの資料をいきなり破棄するのは、あまりに勿体無い。

 それに、パズズが記した資料等も暗号化がされていない――あまりに大量なので、面倒になったのだろうか。

 こちらとしては好都合なのだが……解読する手間が省けるからな。


 ――そして、あのゴールドってやつの私室もここにあるというので、案内してもらう。

 それは、パズズの部屋の反対側にあったのだが、奴もここに住んでいたのか。

 まぁデカい屋敷だし部屋は沢山あるからな、1人ぐらい住人が増えても、どうって事なさそうだが。


 ドアを開ける。

 ここのは、透明なガラスが使われていないようで、薄暗い部屋だ。

 本棚と簡素な机と、そしてベッド。


 窓の戸板を開け、それでも暗いので部屋の魔石ライトらしき物を点ける。

 青白い煌々(こうこう)とした光で、明るくなる部屋――いや、随分と明るいな。


「いや、こりゃ魔石ライトじゃないぞ」

「それは、試作中の人工蛍石(フローライト)ですよ」

 ファラが入ってきて説明してくれた。

 なんと、人工蛍石(フローライト)完成していたのか。


「天然の蛍石フローライトは蓄光して光るだけですが、人工のこれは、魔力からの電力で点灯します」

「こりゃ凄いが――電力?」

「ええ、あの男が電力という物だと……」

 あの男ってのはゴールドの事だろう。

 ライトのカバーを開けてみると、魔石ライトの仕組みに似ている――恐らく、あれを参考にしたのだろう。

 魔石電池から電線が伸びて、その先がコイル状になっており、人工の蛍石(フローライト)が1/3ほど中へ埋まっている。


「これで、点灯するのか」

「あの男のもたらしたことわりで色々とパズズ様の研究が捗ったのですが――あいつも一応真学師だっていうから、逆らえないし……。 口説いてきてしつこいし」

 どうやら、ゴールドはファラに嫌われていた模様。

 まぁ、そんな事はどうでも良い――テーブルの上を見ると、ボールペンとシャーペンがある。

 あとは、真空保温とかいうチタンのコップか……この世界にはチタンはまだ見つかってないので、何かに使えるかもしれない。

 そして、本棚を見る。

 並んでいる本と、包装されている紙の束――恐らくコピー用紙だろう。


「こりゃ、漫画か」

 漫画が数十冊持ち込まれていた。

 いやいや、こんな物を持ち込む前に、もっと持ち込む物があるだろう。

 テスターとかの計測機器、工具やら、ホビー用の旋盤やフライスでも、この世界の物より数段上なんだぞ?

 それに、超硬ビットや超硬ドリル、チップソー等があれば、工作師の加工能力もかなり上昇すると思うんだが……。

 恐らく、ゴールドはそういう工作機械等に詳しくなかったのだろう――というか、実家に旋盤やフライスを備えている俺の家がおかしいのか?

 逆に、詳しくなかったから助かったとも言えるが。

 元の世界の精密工作機械や計測機器を持ち込み、加工する為の単位寸法を統一化すれば、後装式の近代銃を生産する事も可能になるのに。


 ドアの方へ目をやると――ラテラ様が、部屋の外から覗きこむようにして、魔法を使って何かを探している。

 ステラさんも一緒だが、まだ臭いを警戒しているようだ。


「ショウ、ショウ! これはなんなのだ?」

「これは漫画といいまして、絵と文字を組み合わせて、物語を楽しめるように描かれた物です」

「ほう! 面白い! 言葉が解らなくても、なんとか解るな! これはなんと書いてあるのだ?」

「え~と……」

 殿下の開いている漫画のフキダシを訳してみる。


『俺の魔法を食らってみろ!』

『何ぃ! この魔法は!?』

暗黒無限重力地獄(ブラックホール)

『うわぁぁぁぁ!』


「ほう! 門の向こうにも魔法があるのかぇ?」

 サクラコが、俺と殿下の間に割り込んできた。


「いや、門の向こうには魔法は全くないよ。 これは娯楽で、あくまでも想像の産物」

「そうなのかぇ? それでは、異世界人の其方が何故魔法を使えるのじゃ?」

「それが、俺にもよく解らないんだよねぇ。 何故なんだろう」

 この世界に紛れこんで、魔法が使えるようになるのなら、ゴールドの奴が使えても良かったはずだ。

 最初、師匠はことわりさえ解れば魔法が使えるようになる――と、言っていたが、そんな事は無かった。


 だが、今のところ、この世界にやってきたのは二人だけ、サンプルが少ない。

 もっと沢山の、元世界の人間が流れこんできたら、魔法を使えるようになる奴も出てくるのかもしれない。


 あ、そういえば、ゼロもいたよな。 奴は魔法を使えるっぽいぞ……う~む。


 机の上に奴のスマホを発見。

 スマホかぁ――こんな電波も届かない所で、何の意味もないな。

 電源は入るのだろうか? とりあえず、起動させてみる。

 すぐに、起動画面が立ち上がるが、ロック等は掛かっていないようだ。

 この世界の人間には弄れないと思って、甘く見たな。 後の祭り(カーニバル)だぜ。

 だが、当然電波は入らず、おまけに電池残量表示は真っ赤で殆どゼロ。

 すぐに、充電してくださいの警告が出て、電源が切れてしまった。


「それは何なのだ?」

 殿下がスマホの画面を覗きこんでいる。


「ええと、遠くの人と会話を可能にするカラクリなのでございますが、ここでは使えませんね」

「それは残念だの」


 部屋を漁り、もう一つ文明の力を発見。 ノートPCだ。

 こんな所にノートPC持ち込んで、電源はどうする? ――と、思ったらガソリン発電機まで、持ち込んでいやがった。

 発電機を確認するも、ガソリンはほぼ空。

 ずっと使って、燃料の補給が出来なかったようだな。

 これなら、持ち込むのは風力発電や太陽電池だろう……充電するのに時間はかかるが、燃料切れの心配は無い。

 この発電機をバラして、水車に繋げれば、発電機としては利用出来るが……。

 箱に放り込んだ、LED電球も見つけたが――部屋の明かりは人工蛍石(フローライト)にして、発電機はノートPC用に使い燃料の節約したのかもしれない。


 ノートPCを立ち上げてみるも、これにもパスは掛かっていない。 だが、こちらも電池が切れる寸前だ。

 ネットもないのに、PCの出番はないよなぁ。

 計算をしたり、表計算ソフトで国家予算の帳簿をつけたりには使えるとは思うが、バッテリーは数年で劣化するし、HDDやSSDが故障したら修理は不可能――そこでお終いだ。

 データのバックアップも出来ない。 無用の長物だ。

 持ち込むなら、機械式のタ○ガー計算機とかだろう? あれなら、100年ぐらいは持つ。

 歯車を使った機械式なら、工作師ならコピー出来るかもしれないしな。

 ――などと考えながら、ノートPCのデスクトップ画面を眺めていたが、閃いた。

 ポケットに入ったままになっていた、ガラケーを取り出して、マイクロSDカードを抜く。

 ノートPCなら、データが読めるはずだ。


 後ろにいる皆が、不思議そうに俺の行動を見ている。


 しかし、こんな新しいOSはいじった事が無い。 俺は、金が無くて世代遅れのOSを使っていたのだ。

 俺がここに来てから2年半は経ってる。 このノートPCに搭載されているのは、俺の知らないバージョンで、さらに新しいOSらしい。

 慣れないノートPCのパッドと、OSの操作が解らなくて四苦八苦。

 こいつは折りたたむとパッド型になり、タッチパネルも使える奴だな。

 タッチパネルのほうが、操作が簡単そう……なんとかSDカードのフォルダを開き、中を確認。

 その中には、俺が携帯で取った写真が何枚か入っていたが、その最後の何枚かが、あの白い花の写真だ。

 ガラケーの電池が無くなったので、すぐに電源を切ったはずだが――確か3枚程、写真を撮ったはず。

 一番最後から3枚を選択して、開くと――白い花の写真が出た。

 やったぜ! しっかりと綺麗に写っている。


「殿下、コレが白い花ですよ! 綺麗に写ってます」

「おおお! コレが、白い花か!」

 霧の中で白く輝き、花弁の先が透明になっている大輪の花に、殿下が目を丸くする。


「まるで目の前にあるような絵だの! 其方が描いたわけではないのであろう?」

「絵じゃないんだが――ちょっと説明が長くなるし、どうやって説明したら良いのやら……」

 植物となると、やっぱり師匠も気になるようだ。 殿下の後ろから、ノートPCの画面を覗きこんでいる。


「師匠、その後に花が枯れて赤い実が成ったんですよ」

「それでは、これが花の最終齢という事になりますね」

 有名で、ファーレーンの国章にも刻まれているのに、滅多に見ることが出来ない白い花ということで――やはり、興味があるのだろう。 そこに居た全ての人々が代わる代わる画面を覗き込む。


「私が見たのと同じだ」

 つぶやいたのは、ファラである。


「君も見たのか? パズズの奴が、赤い実を人工栽培していると言ったんだが、君は知っているのか?」

「……」

「ここにはそれらしき実験設備は無いから、どこか別の所なのだろう?」

 その時、パズズの頭を割った時に見えたビジョンが、フラッシュバックした。


「大きな樹の下で、裸の子供たちと、干からびたエルフの屍に関係あるのか?」

「え? どうしてそれを……?」

「其方が何か知っているなら、大人しく全て話した方が身のためだぞ? 隠し事をするようであれば、容赦はせぬ」

「……」

 殿下の言葉に黙るファラだが、俺の目に何かが映り込む――彼女の頭の上に黒いモヤのような物が見えるのだ。

 彼女の魔法か? だが、魔法を使っているようには見えない。


「今、なんて言った? エルフの屍って言ったでしょ?!」

 ステラさんが、部屋に入ってくるなり、ファラに掴み掛かった。


「このガキ、何か知ってるね?」

 ステラさんが今にも八つ裂きにしそうな目で彼女を睨みつける。 こんな表情のステラさんは見たことが無い。

 その震え上がるような眼力から目を背けるために、ファラは横を向いている。


「其方が意地を張っても、妾の力を使えば、すぐに口を割らせる事が出来るのだぇ?」

 そう、サクラコが言うように――師匠達の感応通信(テレパシー)は魔法で防げるが、巫女の力は防げない。


「まぁまぁ、手荒な事はやめてください」

 ファラの胸ぐらを掴んでいる、ステラさんの手を解き、ファラを廊下の端に連れ出した。

 その様子を、皆が部屋から首を出すように見ている。


「……」

 服の胸元を直している、ファラに話しかける。


「貴方が何か知っているのは解りました。 何かパズズに義理立てする理由があるのですか? 愛人だったとか?」

「違います」

「パズズのたくらみに加担していたとなると、貴方も死罪を免れないかもしれませんよ? パズズの企てに好んで協力していたわけではないのでしょう?」

勿論もちろんです。 あれが許されないことわりなのも解っています……しかし、育てていただいたご恩もありますし……」

 下を向いて話す彼女だが――なるほど、詳しくは解らないが、俺が師匠に助けられたのと同じようにパズズに助けられたのかもしれないな。


「良いのですか? このままだと、もうサエッタに会えなくなりますよ?」

 それを聞いた、彼女が顔を上げた。

 ファラに顔を近づけると、小声でささやく。


「貴方は、サエッタが好きなのでしょう? ここで処刑でもされたら、もうそれっきりですよ? 遅かれ早かれ、白状をさせられるなら、協力した方が得策かと思いますけど。 どうでしょう、協力してくださるなら、ファーレーンの真学師として雇うように、殿下に意見具申してあげますよ」

「……しかし、エルフ様は絶対に反対なさるかと……」

 俺が見たビジョン――そして、彼女が知っている事にエルフの屍が関わっているのは、明らかだ。

 そうなれば、彼女がお城にやってくるのを、ステラさんが反対するのは目に見えるが――。


「まぁ、これから調べる事にエルフが関係しているのであれば、そうでしょうねぇ。 しかし、殿下が認めれば、口は出せませんから。 それに、貴方は、ここの研究を全て熟知しているのでしょう? 私にとっても、極めて貴重な戦力になるのですから、協力をいといませんよ」

「……」

「ファルゴーレとサエッタは、ファーレーンの真学師になってますから、貴方も来れば、いつでも会えるようになるんですよ? 貴方がその気なら、彼との間を取り持ってあげるのも、やぶさかではないのですが……」

 無論、大嘘だが――彼女が、サエッタという単語を聞く度に、ピクピクと反応している。


「彼にこう言うと怒りますが、可愛いのでモテるんですよねぇ。 後数年もすれば三国一の美青年になって、数多からの縁談のお話が――」

「解りました。 ご協力いたします」

 ファラの覚悟は決まったようだ――恩人より、男を取ったか。


「貴方が話が解る人で良かった」

「……悪魔」

 彼女が一言(つぶや)く。

 そう言われるのは慣れたので、気にも留めない。


「そう、俺が悪魔――ファーレーンのショウだ。 よろしくな」

 

 2人で部屋に戻る。

「殿下、話は付きましてございます。 身柄の保証と引き換えに、彼女は我々に協力するそうです」

「なんじゃ、またたぶらかしたのかぇ?」

「人聞きの悪い。 ちゃんとした取引だよ」

「承知した――だが、まったくお咎め無しと言うのは……どうかの?」

「彼女も不本意ながら、従っていたのでありましてぇ――情状酌量の余地はあるかと」

「う~む」

 殿下は、腕組みをして考えこんでいらっしゃる。


「可能であれば、彼女の身柄を私に預けていただきたい。 ここにある資料と、彼女の知識は膨大な富を生みますよ?」

「この悪魔め……そうやって、妾をまた悪事に引きずり込もうとしているのであろう」

「そんな事はありませんよ。 私は常に殿下の御為、ファーレーンの為」

 俺は、部屋に設置されている蛍石(フローライト)のランプを指さした。


「あの蛍石(フローライト)を見てください。 あれだけでも、抱え切れない程の金貨に化けますよ?」

「わ、解っておる!」

「納得出来ないのであれば、私が今までファーレーンにもたらした富の対価だと考えてください。 それに、私は帝国の本隊を壊滅させて、ファーレーンを勝利に導きましたよ。 その褒賞ほうしょうが娘一人なら、安い物でしょう」

「なれば……」

 いつもなら、すぐに決まるような話だが――今日は、殿下が条件を付けてきた。


「一つ条件がある」

「条件ですか?」

「妾を抱くのが条件だ!」

 殿下が面前でとんでもない事を言い出した。

 抱くってアレだよなぁ――殿下をお姫様抱っこして、抱きました――とか最早もはや通用しないよなぁ……。


「いやいや、殿下。 それはまずいでしょう。 沢山の方々の面前で」

「今まで、のらりくらりと躱しおって、今日という今日は、逃さん!」

 いや、参ったなぁ――と、思っていたら、部屋の中を何やら黒い物が漂ってくる。


「うわぁ! 師匠、ちょっと落ち着いて!」

 殿下の方しか見ていなかったのだが、いつの間にか師匠が爆発寸前だった。

 ――だが、いつの間にかステラさんが、師匠の後ろに回りこんでおり、彼女の首を掴むと、糸が切れたように膝から崩れ落ちた。


「はい、あんたは面倒だから、ちょっと静かにしていてねぇ」

 ステラさんが、師匠を抱え上げると、ベッドの上に寝かせている。


「ステラさんも首掴み(ネックピンチ)を使えるんですね」

「何言っているのぉ? 元々、エルフの技だよ?」

 そういえば、そんな話を聞いたような、聞いてなかったような……。


 いやいや、そんな事はどうでも良いんだ。

 どうしよう。

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