144話 帝国を操った男
獣人達が逃げまわる真学師パズズを数日の間追い回し、荒れ地へと追い込んだ。
俺は再び――今回、帝国が行った軍事行動の真の原因となったパズズと対峙した。
「よく生きてたなぁ、パズズ。 あの爆発から生還出来るとは思わなかったよ」
「あ、あれはやはり、貴方がやったのですか?」
「その通りだよ。 魔女の穴を作った、俺の師匠の魔法と同じ物だ」
「あれと……同じ。 貴方は間違いなく魔女の弟子ですね」
相当疲れているのだろう、パズズが力なく笑う。
「それだけの能力を、何故、人の役に立てなかったのかと思うよ」
「何を言ってるのですか! どんな倫理から逸脱した事であろうと、真理は真理ですよ。 逆に皆さんは、何故、真理から目を背けるのです!」
パズズが目を見開いて、天を仰ぐ。
「ああ、それに関しては俺は、お前に同意見だよ。 お前は生まれるのが早過ぎたんだ。 後数百年も経てば、お前のやった事も認められているかもしれない」
「そう言われるとは思いませんでしたよ……。 門を潜って出会った異世界人があの男ではなく、貴方だったら、この世界は変わっていたかもしれません」
「お前も、門の向こうへ行ったのか?」
「ええ! 素晴らしい理に溢れた世界でした。 我々も早くあれに追いつかなければ!」
この世界の人間は、教義で――他の世界へ行っちゃイカン! ――って事になってるのに、それに逆らったのか。
師匠とステラさんでさえ、行くのを嫌がったんだがなぁ。
「だから、それが早すぎなんだって。 それにだな、門の向こうは俺の故郷だ。 お前と出会ったとしても、故郷への侵攻なんて認めるはずないだろう。 全力で阻止して、同じ結果になっていたぞ?」
「は? だが、しかし……あの男の話では……」
「アイツから何を吹きこまれたかは知らないが、アイツは他所の国からやって来た、タダのよそ者だ。 言っただろう、アイツ等と組んで勝った国は無いってな」
「そんな馬鹿な……」
パズズはなにやら、下を向いてブツブツとつぶやき始めた。
「ああ、パズズ。 1つ教えてくれ。 サクラコの病気はお前が作った物か?」
「……そうです。 労咳――異世界では結核と呼ぶそうですね。 目に見えないような微細な生物によって伝染、感染する病……。 その理さえ、解れば魔法で改変することも可能なのは、貴方もご存知でしょう」
「そこまで理を解明してしまったのか……。 この世界の人間は、他の世界に行くなって教義を受けているはずなんだが、兵士達をどうやって説得したんだ?」
「それは――巫女の力を使って……」
どうやったかは解らんが、サクラコが使うようなあの力を使ったのか。
「う~ん……最後に、もう一つ。 ファルガリアとアルガリアは、帝国とどんな密約を結んだんだ?」
ここぞとばかりに、色々と質問を浴びせてみる。
「……て、帝国の巫女と引き換えに手に入れた、ファーレーンからの借款をそのまま両国に渡して……不可侵条約を結んだんです」
パズズは心ここにあらずという感じで、俺の質問に次々に答えてくれるので、こりゃ手間が省けたな。
「嘘だ! 騙されるな! その男は極悪人の真学師だぞ!」
ファルガリア、アルガリア――どちらの指揮官かは解らないが、パズズの発言に大声を上げた。
同盟国の御機嫌を取るために、パズズの情報を漏らしたのに、それによって彼等の所業が晒されてしまったのだ。
――その刹那、声を上げた男の頭部に、光る矢が音もなく突き刺さった。
やったのは、パズズらしい。
そしてそれが炸裂し、男の上半身が跡形もなく吹き飛んだ。
吹き飛ぶというか、バラバラに分解されたって感じだな。 どういう原理なのかは、さっぱりと解らんが。
しかし、魔法矢が当たったら、マジで死ぬじゃん!
全く、あの糞BBAめ……。
ステラさんによって、この魔法矢が俺に向かって何度か射られている事を思い出して、身震いをする。
「まだ、魔力があるのか?! だが、しかし――」
ステラさんを先頭に、エルフ達が前に歩み出て、すでに準備万端だ。
それと同時、軍と騎士団は後ろに退避を始める。
「それでは、エルフの皆さん、お願いいたします!!」
俺の合図で、パズズに向かって攻撃が開始された。
『爆裂魔法』
『爆裂魔法』
『爆裂魔法』
『爆裂魔法』
『爆裂魔法』
『爆裂魔法』
『爆裂魔法』
『爆裂魔法』
『爆裂魔法』
エルフ達による、防御と攻撃を分担したフォーメーションを組んだ、爆裂魔法の集中砲火である。
これだけ魔法が使える奴がいるのに、わざわざ苦労する必要も無い。
力押しで十分である。
爆炎と次々に荒れ地が掘り起こされ、巨大なキノコ雲になって、空に昇り――。
パズズを囲んでいた獣人達は皆地面にピタリと伏せ――その上を衝撃波が走り抜けていく。
いかな真学師といえども、これだけの集中砲火を食らったら、ひとたまりもないだろう。
――そして、攻撃が終わり辺りが静かになると、爆炎が風に流されて視界がクリアになっていく。
しかし、そこに現れたのは、防御魔法に守られた無傷のパズズだ。
「嘘だろ?」
「ははははっ! この赤い実というのは、凄いものですねぇ!」
奴がとんでもない言葉を発した。
俺の絶望と驚きの声と対照的に、パズズは両手を天に翳し、自ら手に入れた万能感を味わっているように見える。
「なに!? お前も赤い実を持ってたのか?!」
「私は、赤い実の人工栽培にも挑んでいたんですよ。 コレが、栽培第1弾です」
奴の話では後数個あったようだが、俺が使った禁呪の爆発で紛失したらしい。
門や巫女の秘密を解き明かしただけじゃなくて、赤い実の栽培もやっていたのか。
コイツはまさに天才だ。 1人の天才の仕事で、世の中にパラダイムシフトが起きることがあるが、コイツはまさにそれだろう。
あの偽巫女を量産して、赤い実まで量産に成功していたら、この世界どころか、ゲートの向こうの世界もとんでもない事に。
それじゃ、ステラさんと師匠がやって来た後、あのまま魔法の打ち合いになってたら、奴らも赤い実を使ってたかもしれないのか……。
そうなれば、勝負の行方はどうなってたか……。
続いて、エルフ達による魔法矢の連射が怒涛の如く始まるのだが、パズズの防御壁はいとも簡単にそれを跳ね除けたのだ。
奴の防御壁に触れると、次々と螺旋状に分解されて、小片になり消滅していく魔法の矢。
「お前はすげぇわ! やっぱり、生まれる時代を間違えたな」
俺は脇差しを抜くと、自分の身体に重量軽減の魔法を使う。
そして懐から、フラッシュバンを取り出すと、奴に向かって投げつけ――それと同時に、俺は防御壁へ突進した。
フラッシュバンに入っている火石に魔力を送ると、マグネシウムが激しく燃焼して、閃光を放つ。
「くっ!」
閃光に目が眩むと、魔法への集中力が途切れ、防御壁がピンク色の破片になって四散する。
――そのピンク色の光の小片を掻い潜りながら、俺の脇差しがパズズの身体を貫通した。
「うぐ……げぽ……」
パズズの口から、血が溢れだす――しかし。
奴は、俺を蹴り押しのけて脇差しを抜くと、傷ついた身体を魔法で修復し始めたのだ。
「げっ! お前、そんな魔法まで?!」
後ろに後退り、膝を突くと、次の攻撃に備えて脇差しを構える。
そして、懐を漁る――フラッシュバンは後一発しかない。
「ははははっ! 貴方も似たような事をして、王侯貴族から小銭を稼いでいたようですが、貴方に出来る事は、私にも出来るのですよ。 ははははっ!」
「そうかい! それじゃ、こいつはどうだ!」
俺は圧縮の魔法を使うと、目の前に高熱の圧縮弾を生成――脇差しを左手に持ち換えると、素手のままで捕まえた。
――そして。
「こいつでも、食ってろ!」
そのまま突進すると、高温で焼ける手の中の圧縮弾を、高笑いするパズズの口の中へ突っ込んだ。
このタイミングでは、防御魔法を使う余裕が無かっただろう。
次の瞬間――炸裂音と共に、奴の下顎が吹き飛び、鮮血が飛び散る。
「あがぁぁぁぁ!」
血まみれのまま、声にならない声を上げてその場に膝を突く――俺は、脇差しを天に向けて高らかに突き立て、そして奴の脳天目掛けて振り下ろした。
――その瞬間、頭に広がる何かの光景。
フラッシュバック? いや、違う。
緑の草原の上にそそり立つ大きな大木――周りに横たわる裸の子供達に輝く木漏れ日が射している。
そして、複雑に絡み合う木の中に見える、干からびた何か――ミイラ? 耳が長い――エルフ?
俺は、我に返った。 この間、1秒も経っていない。
パズズの頭蓋に垂直に刃が食い込み――それを引き抜くと、徐々に血が滲み始める。
そして、溢れる鮮血が顔と服を走りそのまま地面へ溢れ、正座したような格好で、彼はその動きを止めた。
さすがに、頭を割られたら、いくら赤い実を食べてても復活はしてこないだろう。
「ふう……」
脇差しの切っ先を下に降ろして残心。
動かなくなったパズズをじっと見つめていたのだが――。
「ショオォォォォ!」
叫び声がしたと思ったら、いきなり抱きつかれて、地面へ叩きつけられた。
ミサイルを食らったみたいだが、見たらフェイフェイだよ。
「巫女殿は抱きつきに行かないのか?」
「さすがに、人の頭を割った後に、抱きつく感性は持ちあわせておらぬ故。 そう言う、ライラ殿はどうなのじゃ」
「妾も遠慮しておこう。 だが、ショウが人を切ったところを見たのは、初めてだ……ショウは妾の為に、ずっとあのような事をしていたのだな」
「ライラ殿の為というのは、ちょっと驕り過ぎではないのかぇ?」
「いいや、ショウはいつでも妾のために働いておる故、間違いない」
「むう……」
俺は、フェイフェイに抱きつかれて、悲鳴を上げた。
「おわぁぁ! ちょっと待て待て、フェイフェイ、力入れすぎ! 鎧が痛い!」
獣人程ではないが、ダークエルフのパワーも半端ない。
ダークエルフの黒い軽鎧の角が当たって痛いのだ。
俺が、フェイフェイのパワーに身悶えしていると、パズズの懐に入ってた魔石が眩い光を放ちだす。
フェイフェイを引き剥がそうとした、ステラさんもその光景に固まる。
「フェイフェイ、待て待て! ちょっとおかしい!」
そして――ピクピクと死体の指先が動き、右に左に倒れながら、そしてゆっくりふらふらと立ち上がった。
どうみても、生きてるようには見えない、下顎が吹き飛んで口蓋が剥き出しなった顔と真っ白な肌、そして焦点が定まらない虚ろな目。
「こりゃ、死霊じゃないのか?!」
「いくら外道でも、ここまで自分からそこまで堕ちる事はないだろっ!」
ステラさんの頭上で光を渦を巻き、そこから魔法矢が放たれると、防御魔法らしき物で弾かれた。
「なんだってぇ?!」
そりゃ、ステラさんだって驚く。 俺だって驚く。 死んだ後に、自分の身体を死霊化するなんて。
「あれが、ショウが申しておった、魔法を使うという死霊か!」
そして、殿下も驚く。 そこにいた全員が驚く。
「パズズめが。 ジュネイ、あれがパズズが造り出した死霊だ」
「まさか、本当の話だとは……」
サクラコの警護に付いている、青騎士の顔色まで青くなる。
そして、もっと驚いたのが、獣人達だ。
「死霊だ……」 「死霊だ……」 「死霊……」
「うわぁぁぁ!」 「ぎゃぁぁぁぁ!」 「助けてくれぇぇぇぇ!」
近接戦闘最強と言われる、勇猛果敢な獣兵士が脱兎の如く逃げ出す。
しかも、速い! 全力疾走だろ、それ? そんなスピード見たことがないぞ?
そのぐらいのスピードで、獣人達が全員その場からいなくなった。
だが、残っている獣人がいる――ニニだ。
彼女でも恐ろしいのか、全身の毛を逆立たせて、腕を組んで仁王立ちをしている。
そして、殿下の護衛に付いている、ニニの娘――ニムもなんとか踏みとどまっている。
辺りを見回すと、もう1人いた。 ファルキシムからやって来た獣人達の頭――あの黒い狼のような犬人だ。
「いい加減死んどけよぉ!」
ステラさんとエルフ達から、魔法矢の連続攻撃が始まるが、やはり弾かれて奴には届かない。
ふらふらと動き続けるパズズに、ステラさんが何かデカい魔法を使う準備に入ったのだが――俺はそれを止めた。
「死んでも、赤い実の効力があるのかもしれない。 俺がやる!」
懐から最後のフラッシュバンを奴に投げつけると同時に突進する。
聖地にいた巫女の死霊には、フラッシュバンは通用したんだ、こいつにも通用するだろう。
それに、この短期間で何か新しい能力を詰め込む時間は無かったはず。
奴の目の前で、フラッシュバンが炸裂――眩い光を放つと同時に、ピンク色にフラグメンテーションされた魔法を破片を縫い、ヤツに近づく。
――そして、一閃。
ドスンと首が落ちた遺体が2~3歩歩くと、そのまま崩れ落ちた。
ゾンビやグールの弱点と言えば、首を落とすことだ。 この世界でも、コレが正解だったはず。
「最初から首を刎ねれば良かったんだ。 くそ、とんだ二度手間だ」
首を刎ねた事で支えが無くなり、地面に落ちた真学師の証――金のプレートを拾い上げる。
そして、転げ落ちた頭の髪の毛を掴むと、横たわる奴の背中に乱暴に乗せて、乾燥の魔法を使う。
どんな悪党でも死んだら神様仏様って国で育った俺だが、こいつにはそんな気分には到底なれない。
一刻も早く、目の前から消してしまいたい。
魔法により、パキパキと音を立てて、みるみる干からびていく、パズズの亡骸。
そして、魔法で火を付けると、弾ける音を立てて燃え始める
フェイフェイが、精霊魔法を使って風を送り込むと、さらに勢いを増した火柱と化した。
勢いよく燃えているパズズの死体ではあるが、時間が立つと見たことがない変化が現れた。
オレンジ色の炎に、緑の光が混じり始めたのだ。
不可思議な炎の色に、俺は首を傾げた。
エルフ達に聞くと――これは精霊が燃える色だと言う。
「精霊が燃えてる? まさか死霊に関係あるとか?」
「死霊を燃やした話はあったけど、そんな話は聞いたことがないねぇ」
ステラさんの話に、他のエルフ達も皆頷く。
「それじゃ、赤い実かな? パズズは赤い実を食べてたろ?」
だが、皆首を振る――解らないようだ。 千年近く生きているエルフにも解らないんじゃ、どうしようもないな。
殿下達と師匠がやってきて、燃えているパズズの亡骸を見ている。
「これが、ショウが申しておった、魔法を使う死霊か」
「はい。 このような物が集団で襲ってきたら、苦戦は必至です。 それに、奴が栽培していたという、赤い実が問題です。 この期に及んで、ハッタリ等をかますはずは無いと思うのですが」
「赤い実を食えば、魔力の相当な底上げが出来ると聞いた事があるが……」
「そうです。 それこそ、ステラさんの爆裂小球や、師匠の爆裂魔法(大)が撃ち放題に」
「撃ち放題って事はないけど、3~4発はいけた感じだったなぁ」
ステラさんの返答に、師匠も黙って頷く。
しかし、ステラさんの星々の雫は、それほど燃費の悪い禁呪ではないんだな。
俺のやったアレは、一発で魔力が根こそぎ何もかもが無くなった感じがしたんだが。
まぁ、威力も半端無かったわけだが……。
「そのような者が何人もいたら、軍が10万いたとしても怪しいではないか」
「それに禁呪もありますしね。 両軍で赤い実を食いまくって、魔法と禁呪の撃ち合い……いったいどうなるか、想像もつきません」
魔法は強力だが射程が短い故、あまり強力な魔法を使うとただの自爆技だ。
ステラさんが使った星々の雫みたいに、谷の中へ落とせば、自分への被害は少ないかもしれないが――防御魔法を使える奴とペアを組んでの、大魔法の自爆合戦か……ああ、考えたくもない。
「うむ……相打ちになって、跡形も無くなるやもしれん」
殿下の感想が、一番近いかもな……。
サクラコに近づき、耳打ちする。
「サクラコ、あの偽巫女って禁呪を使えたりしたかな?」
「あれは、妾の母から伝えられた物じゃからな、無理だろうな。 だが、パズズが何か禁呪を見つけていた可能性はあるじゃろ」
「なるほど……」
ああ、何もかも綱渡りの上、偶然に拾った勝利だったようだ。
俺が胸を撫で下ろしていると、大きな人影が近づいてきた。
「古にその過ちを犯したのが、古代のエルフの世界なのですよ」
エルフの長老ラテラ様が、俺達の会話に入ってきた。
彼女の口から語られる、エルフ達の古の世界。 テクノロジーでサポートされた魔法によって、兵器が空や星の海まで飛び交い、彼等の世界が火の海へ沈んだと言う。
まるでSFだ。
だが、魔法とテクノロジーは融合可能なようだ。 ソレが聞けただけでも、大きなヒントになるかもしれない。
今は、蒸気機関などのテクノロジーを魔法がサポートしているが――逆に、魔法をテクノロジーがサポートする事も可能ってことだ
「あの光は使える」 「あの光は何だ?」 「魔法ではなかったぞ?」 「理か?」
どうやら、エルフ達が、俺の使ったフラッシュバン戦法に興味を持ったようだ。
――しまった! こんな大勢の前で使って、ネタバレをしてしまったら対策を練られる。
まぁ、いずれはバレるんだろうけどね。
もっと、エルフ達が普通に協力してくれればなぁ――と、一瞬思うのだが。
いや、待て待て――もうエルフは間に合ってるだろ。
これ以上、お城にエルフが増えたら身が持たん。
「ちょっと手を見せて!」
ステラさんに強引に手を取られる。 俺の掌は圧縮弾の高熱で焼けただれていた。
師匠も俺の所へやって来ようとしたみたいだが、一歩遅れてステラさんに先手を取られたようだ。
彼女はこういう場面が多い。
師匠であるから、俺には厳しく接しなければ――みたいな葛藤があるせいで、一歩遅れるのかもしれない。
「こんな、無茶をしてぇ」
ステラさんが、治癒魔法を掛けてくれると、ヒリヒリとした痛みが和らぐが――火傷が酷いので、数回に分けて治癒をしないとダメのようだ。
精霊魔法により、消毒もしてもらう。
他のエルフも手伝おうとしたのだが、彼女が追い払ってしまった。
だが、俺の火傷なんて大した事はない。
その気なら、火傷部分を切り取って、俺の再生魔法で穴を埋めてしまえば良いのだ。
後方部隊にはフローがいるので、手伝わせれば良いしな。
まぁ、ステラさんがやる気になっているので、花を持たせてやらないと後が煩いし、彼女に任せる。
攻撃魔法を使うとおかしくなるというステラさんだが、今は見たところ普通だ。
一発でぶっ倒れるような星々の雫や爆裂小球のような大魔法ならいざ知らず、魔法矢程度の攻撃魔法では問題無いらしい。
まぁ、お城で魔法矢を使った時も、普通だったしな。
ステラさんの場合――攻撃魔法(大)を使うと魔法からのキックバックが酷く、1種の魔法酔いのような状態になると言う。
彼女に治療を任せながら、手に持ったパズズのプレートを眺める。
よく見たら、金のプレートって、名前が入ってるじゃん。
これじゃ、使い回しが無理だな――作りなおしてもらうか。
しかし、金のプレートを手に入れたので、首からぶら下げていたのだが――こいつは重いし、脇差しを振り回す時に暴れて非常に邪魔だ。 肩こるし……。
呆れ顔の師匠曰く――。
「真学師なのに剣を振ること自体が間違いなのです」
確かに普通は、突っ立って魔法を使うだけだからなぁ……。
ステラさんに治療してもらった手を握り――獣人達がいなくなってガランとした荒れ地を眺め、ため息を吐く。
しかし、獣人達はどうしようか
どこに逃げたかも解らんし、いつ戻ってくるかも解らん。
残っているのも大将のニニと彼女の娘のニムだけだが、ニニも全身の毛が逆立って、いまにも倒れそう。
ファルキシムの黒い犬人は、逃げはしてないが、その場でぶっ倒れていた。
恐怖の余り気絶したものと思われる。
「ニニ、大丈夫か? 無理しないで、ここからしばらく離れても良いんだぞ?」
「わ、私がいなきゃ、奴らも戻ってこられないじゃないですか……」
「こんなに、毛が逆立っちゃって、よしよし……」
彼女の腕を取って、優しく撫でる。
ニニはなんとかがんばるようだ――さすが、獣人達の大将。
「ニムも無理はするな」
「だ、大丈夫にゃ。 死霊が現れても、ショウ様がいればやっつけてくれるにゃ!」
「ああ、俺に任せとけ」
ニムを抱き寄せると、小刻みに震えているのが解る。
余程、怖いのだろうな……。
総大将のニニが一緒にいれば、獣人達もおいおい戻ってくるだろうし――ここを出立しても、仲間の臭いを辿って合流できるだろう……たぶん。
彼等は心が折れても、頼れる強い心の支えがいれば、すぐに立ち直れるのだ。
そして、ニニ達の支えには俺がなってやらねば。
その日は、そこにキャンプを張り、獣人達が戻ってくるのを待った。
ニニは料理が出来そうにないので、干し肉とパンの夕食。
だが、そのまま朝が来て、戻ってきたのは約半数。
その戻ってきた者も、いつ死霊が出てくるのかと、耳をくるくる回してビクビクしている。
これでは、戦力として使えるかどうか。
ああ、なるほど。 逃げている連中は俺が死霊を倒したのを知らないから、まだ死霊がいると思って戻ってこられないのか。
死霊は倒して、もういない! ――という噂を流せば、ボチボチと合流してくるかもな。
それに、これだけのエルフを引き連れているんだ、最早戦力の残っていない帝国軍の抵抗は無いに等しいだろう。
獣人達が半数でも、問題はない。
最後まで楯突く帝国貴族共を根こそぎ排除して、俺たちはいよいよ帝都に踏み込んだ。