124話 巫女の力の源とは(挿絵あり)
獣人達をファーレーンの正規軍に組み込むという話に、貴族達から待ったがかかった。
早い話が――彼等は、身分が低い獣人達の力を見くびっているのである。
それを貴族達に解らせるために、模擬戦を行なったのだが……。
『勝負あり!』
模擬戦の戦場に殿下の声が響く。
一瞬、静まり返って、ざわざわしていた観客達だが、すぐに怒号と物が飛び交い始めた。
「くそっ!」 「ふざけんな!」 「畜生! 金返せ!」
随分と手前勝手な観客達の怒りだが、無理もない。
善戦して、見どころがある勝負でもしていれば、拍手や称賛もあったのだろうが――結果は、為す術もなく一方的にボコボコ……。
そりゃ、怒る。
「くそっ、貴族共を信用した俺が馬鹿だったぜ……」
そんな声も聞こえるが――生まれた時から、王侯貴族は凄い、偉い! 輝かしく勇ましい戦の物語も誉も、主役は皆王侯貴族。
――とそんな物語を聞かされて育つ一般人なのだから、それも致し方無いところ。
獣人達がいくら活躍しても、語られる事など決して無いのだ。
戦場で無敵を誇り、『鋼鉄のニニ』 と呼ばれた獣人の英雄でさえ、獣人以外でその名前を知る人は少ない。
模擬戦は終了した――直接攻撃などはされていないが、落馬したまま動けない者もいる。
地面に転がる多数のけが人と数多の騎馬――ここでも、実戦と少々違うところがある。
馬を見ていると――落ちた騎士を踏まないように、避けたり跨いだりしているのだ。
これは別に、馬の優しさからきている行為ではない。
馬は、脚に怪我すると命取りになるので、異物を踏まないように避けているだけの動きで――。
馬の視界はかなり広く、余計な物が目に入るとそれに反応して飛んだり避けたりと様々な反応をする。
そのため、実戦で不必要な動きをされると困るので、馬の視界を制限する遮眼帯と呼ばれる板やカップが、馬の目に装着される。
今日は模擬戦故に、落ちた騎士を踏みつけないよう、遮眼帯を外しているのだ。
なお、馬は、脚に怪我を負ってしまうと、蹄葉炎(馬の蹄の病気)等の深刻な病気を発症し、命に関わる――それ故、脚に怪我を負った時点で予後不良とみなされて処分されてしまう。
どんな高額な名馬と呼ばれる馬でも、それから逃れる事は出来ない。
――と、突然黄色い悲鳴が上がる。
「きゃぁぁぁ!」
「へへへへっ! 戦利品だぜ!」
半裸に剥かれて、尻を丸出しにした魔導師――テテロ卿の脇にいた女が、獣人にかつぎ上げられる。
男の股間には、立派なテントが設営済みである。
「あの、馬鹿! 何やってんだ」
俺が、獣人の行為を止めようと、動き出した瞬間――女を抱えた獣人の尻をニニの横蹴りが捉えると、その雄は顔面から、地面に突っ込んだ。
「何やってるんだい! 今日は模擬戦で、戦場じゃないんだよ。 その女も味方だろ」
ニニの盛大なツッコミを受けて、彼も正気に戻ったようだ。
「あ! いっけねぇ! いつもの癖でよ」
獣人達が、ゲラゲラ笑っているが、獣人の男達は皆こんな感じ。
ニム曰く――あいつ等やる事しか考えてないにゃ! と、女達から嫌われるのも無理は無い。
元世界なら、セクハラどころか、後ろに手が回っておかしくない事案ではあるが――こんなのは、この世界では日常茶飯事、問題になることは無い。
つくづく、女子には厳しい世界である。
軽傷が多く、落馬して骨折した重傷者も数人いるようだが、死んだ奴はいない。
しかし、コテンパン(死語)にやられたはずのテテロ卿だが、まだ納得はしてない模様。
慌ただしく事後処理が進む中、ファルゴーレが叫びながら駆け寄ってきた。
「ちょっと待って下さい! 待ってください! あの大爆発は魔法ですか? ありえないんですが!」
俺が魔法と称している迫撃砲が、彼の眼には不自然な物と映ったのだろう。
そりゃ、魔法じゃないからな。
「そもそも、魔法の動きが――きゅう……」
叫ぶファルゴーレをネックピンチで黙らせる。
余計な事を言われて、一般兵士や獣人達に不信感を与えられては困る。
俺は、ファルゴーレと一緒にいた、サエッタに伝えた。
「サエッタ――彼が眼を覚ましたら、あれはファーレーンの秘匿兵器だから、詳細は教えられないと言っておいてくれ」
「やむを得ません。 でも、残念です。 僕も興味があったのですが」
「まぁ、そのためには、ファーレーンの為に尽くして、殿下の信頼を勝ち取ってくれよ」
「解りました」
サエッタも、あまり表情は変わらないが、残念そうに見える。
模擬戦という祭りの後、ぞろぞろと観客達が帰宅の途につく中、関係者が集められ感想戦が始まった。
感想戦というのは――訓練や戦の後、あそこやここで、こうしてああしてりゃ良かったなぁ……という、反省会である。
口火を切ったのはテテロ卿だ。
「承服しかねる! いきなり大魔法を使うなど、卑怯千万!」
はぁ? 何言ってるんだ、この北の将軍様モドキは……。
しかし、この発言にはさすがの殿下も我慢出来なかったようで、テテロ卿に苦言を呈した。
「控えよ、テテロ卿。 其方は、帝国が矢先に魔法を使ってこないとでも、本気で思うておるのか?」
「うぐ……それは……」
「其方も魔導師を連れておったではないか。 獣人達に魔法を使おうとして、先手を打たれたのであろう。 機先を制するのを邪魔され失敗した故――それを卑怯などと、言い訳にもならん」
殿下の厳しいお言葉に、テテロ卿は、黙って頭を下げざるを得ない。
「卿、これ以上、妾を失望させるなよ?」
「ははっ! 帝国との戦の際には、殿下のご希望に沿う活躍をしてみせましょう」
「二言はないぞ?」
「は!」
テテロ卿は、釘を刺された格好だが――これに焦って、闇雲な突っ込み等をしなければ良いのだが……。
「それにしても、魔法を攻撃のためではなくて、目眩ましに使うとは……」
感想戦――まずは、侯爵様の発言から始まった。 彼の隣には、ミルーナもいて、黒板上の駒を目で追っている。
「今回は模擬戦なので当てませんでしたが、実際は敵の前衛に直撃させる事によって、さらなる混乱が期待できるでしょう」
「なるほどのう」
「そして、獣人部隊が突入した時点で、迫撃砲は前方へ移動――実戦では、私とミルーナ様の蒸気自動車に迫撃砲を搭載して移動できるように致します」
俺は、黒板上の駒を前方へ動かした。
「敵が大群の場合、前衛後衛もしくは、複数衛に分割されている場合が多いでしょう。 その時は、敵の後衛部隊へ迫撃砲にて攻撃を加えます。 この時、後衛部隊との距離がある場合――その途中へ砲弾を撃ち込み、後衛部隊の視界を遮断します」
「なるほど、爆煙と魔法によって敵の連携を断ち孤立させ、各個撃破を狙うわけですな」
近衛騎士団の団長が、俺の作戦の意図を理解してくれた。
「その通りです。 敵の部隊がいる限り連戦になりますが、このような戦い方をしても、獣人達であれば体力的に問題はありません」
俺がニニを見ると、彼女が獣人達の戦い方を述べた。
「飯さえ食えれば持久戦は問題無いさ。 3日ぐらいロクに寝ずに戦った事もあるし」
そんなの、ニニだけじゃないのか? ――と、ちょっと心配になるが、他の獣人達からも異論が出ないということは、過言ではないのだろう。
「敵を全滅させずとも良いのです。 敵の前衛が崩れた時点で、敵が退却を始めるかもしれませんし――その時は、そのまま敵部隊の尻を自動車で追い回し、敵の攻撃が届かない場所から迫撃砲の攻撃にて敵の限りなき流血を誘います」
俺は、迫撃砲の駒を横に動かし続ける。
実際は、殲滅を目指さなくても良いのだ。
見えないような長射程から、いつ飛んでくるか解らない魔法の弾に恐怖させ、逃げ惑う帝国軍に消耗を強いる。
「もしそのまま、国境沿いの川まで追い詰める事ができれば、橋を渡るために移動が滞った敵への大魔法攻撃等を使用した包囲戦が行えます」
「そいつはいいや。 魔法で橋を落としちまえば、帝国の奴等、逃げ場所が無くなる」
獣人の一人が、黒板を叩いた。
「――という机上の空理ですがね」
実際、帝国がどれほどの数を投入してくるのか不明だ。
獣人達が1万として、ファーレーン軍をギリギリまで徴集して1万――。
帝国軍が3万程なら、なんとかなるかもしれないが、4万~5万となると全く歯がたたないかもしれない。
今日の模擬戦で、1対4で勝てたのも、貴族達が余りにお粗末だったからに過ぎない。
だが、帝国主力――10万の半数を一箇所に投入するとなると、他の地域の防御が手薄になる。
帝国と対峙している国は、ファーレーンやファルキシムだけではないのだ。
帝国軍は強力だが、周りは敵だらけ。 常に睨みを利かせておかなければならず――その可能性は薄いと思われるが……。
「其方は空理などと申すが、実際、先の模擬戦でそれを示したであろう」
殿下が、なにやら難しい顔をしているが。
「……ショウよ」
「なにか?」
「我が母が生きていても、アマテラスに召されていても、結局変わりなかったな。 新しい理を用いた兵器群、そしてそれを使うための新しい戦術。 それらを使えば、数的に劣勢でも勝利を目指す事が可能になる」
「その通りでございます」
「これは、各国が新しい理、兵器、戦術を得るために、血眼になるぞ」
「殿下が申されているのが、戦乱の世の来襲を心配なされているのであれば、答えは簡単でございます」
「なに?」
「殿下が、この大陸を統一なされば宜しいのです」
「は! 其方らしい答えだが、帝国も黙って指を咥えているわけではあるまい」
「それは、そうでございます。 あくまで、一論でございますよ。 しかし、貴族、騎士団の方々如何でしょう。 戦術によっては、獣人達も非常に強力な戦力になると、お解りいただけたと思いますが」
参加者に異論は無いようだ。 テテロ卿だけは、なにやらブツブツ言っているが……。
「それと、ミルーナ様。 戦用に蒸気自動車を改造しなければなりませんね」
「あの迫撃砲を積むのですか?」
「それもあるのですが、道がある所は問題ありません――しかし、荒れ地を走るためには、車輪を樽のように太くしなければいけません」
俺が、黒板に幅広車輪の絵を描く。
「細い車輪では、馬車のように泥濘に嵌って動けなくなってしまう……」
「その通りです」
サエッタが、俺とミルーナの会話に入ってきた。
「雪の降る地方では、足に大きい板を取り付けるようですよ」
「ああ、カンジキだな」
俺が黒板に描いた、カンジキの絵を見て、獣人の一人が何かを思いついたようだ。
「それって、水溜りの上を滑っている虫みたいなもんですかい?」
この獣人が言っているのは、アメンボの事らしい。
「ああ、ちょっと似ているかもな」
面白そうなネタに殿下が反応した。
「なんだと! それでは、水の上も歩けるようになると」
「いやぁ、水の上は無理でしょう。 でも、重量軽減の魔法を使えばなんとか……。 後、細長い船のような箱を足につけるとか」
「ほう! 面白そうだな」
話が脱線したが――やはり殿下は、戦よりこういった面白そうな話の方がお好きなようだ。
そして話は変わり、獣人達がいったいどのくらい参戦するのか? という話になった。
「ニニ、獣人軍を作ったら、ファーレーンの獣人達は、何人ぐらい軍に加わると思う?」
「え? え~? え~と……」
コレは、俺が質問をしくじった。 獣人は大きな数が数えられないので、100人ぐらいはなんとなくイメージできるが、千人、1万人となると、全く見当もつかないと言う。
こりゃ、参ったな……。
その後、獣人達の戦に対する意識調査をするために、役人を獣人街や鉱山へ派遣して、参加人数を調べる事になった。
――そうそう、模擬戦での俺の賭け金は、金貨400枚(8000万円)で、テラ銭を引いた払い戻しが金貨950枚(1億9000万円)也。
殿下の賭け金は聞いていないが、しこたま儲けたらしい……。
------◇◇◇------
――後日。
ファルゴーレの弟子、サエッタが俺の工房を訪ねてきて、オヤツを食っている。
今日は、パンケーキとリンゴのジャム、生クリーム乗せにしてみた。
「ファルゴーレは何か言ってたか?」
「酷く、落ち込んでいましたよ」
「秘匿の兵器について教えなかったからか?」
「いいえ、兵器ではなくて、あの理を使った爆発の事です」
「さすが、真学師の目は欺けないか……だが、それについては何も言えないし、他言無用だぞ」
「解っています」
真学師らしく窓に嵌っている水晶ガラス等には目もくれないのだが――侯爵領でミルーナが作っているガラスが、帝国にも輸入されているらしい。
かなり高価な値段だと言うが、ファルゴーレも、実験等で透明なガラスコップを愛用しているという。
中が確認出来るからな、便利なのだろう。
「水晶ガラスの製法なら、教えてやっても良いぞ。 魔法が使えるなら、簡単に作れるんだが――ガラスが出来ても、器等の形にするのが大変なんだよ」
「なるほど」
ついでに、帝国で行われている研究について聞いてみた。 無論、秘匿されてる以外の物で。
「人工の蛍石の結晶についての研究を見たことがありましたよ」
「そりゃ良いな! こんなデカい装置を使わなくても、灯りが灯せる」
俺は、部屋のガス灯に火を付けた。
「それは……?」
「隣にある装置で、燃える気体を作って燃やして灯りにしているんだよ。 竈の代わりにもなっている」
「これは世の中に出回っていませんね」
「その話もあったんだが、外で使ったら虫だらけになってしまってな。 危険な突撃虫もいるし。 商品化はされず、俺が個人的に使っている。 だが、人工の蛍石なんて物があれば、こんな大袈裟な装置も要らなくなるなぁ」
恐るべき異世界、人工蛍石の蛍光灯とか素敵! 早く実現してくれないかな。
なんだ、帝国でも色々と研究はされているんだな。
サエッタと帝国の事について話していると、殿下がお見えになったので、彼が食べているのと同じオヤツをお出しする。
「其方は――ファルゴーレの弟子だったな」
「はい、ライラ妃殿下には御機嫌麗しく……」
サエッタが、椅子から立って挨拶をしようとすると、殿下は止めた。
「よいよい、ここでは堅苦しい挨拶は無用だ」
「はぁ……」
サエッタが、テーブルに戻りまたパンケーキを食べようとすると、殿下が続けた。
「ファルゴーレが申しておったが、其方は、かなり優秀だそうだな。 あの男が褒めるのだから、かなりのものだと思うが……」
「まだ、師匠には遠く及びません」
「謙遜するでない」
俺も、サエッタの実力は間違いないと思っている。 それに、変人が多い真学師の中でも、彼はかなりまともそうだ。
「それでの、ショウ。 模擬戦の時の続きになるが――妾が大陸を統一してどうなる?」
「どうなる? とは異な仰せ。 この大陸にも平和が訪れましょう~短期間ですけど」
「恒久的な平和は無理かの?」
「残念ながら、殿下のお子様や孫の能力が優れている保証もございませんし……となれば、国の支配力も落ち、また各国の台頭を許すでしょう」
「ハッキリ言うのう――となれば、また戦か。 なんとか、平和を伸ばす方法は無いものかの?」
「政の仕組みを変えるのは如何でしょうか。 それとて、長続きするとは思えませんが」
「例えば、どのような政だ」
殿下に、立憲君主議院内閣制の説明をすると、サエッタが反応した。
「帝国が、一応それに近い政の仕組みになってますよ」
彼の話では、貴族、商人、地区の代表等が議員になって、帝国議会が成り立っているという。
だが、内閣は存在せず、皇帝が最終決定権を持っているが、そこでも純血の巫女の発言力は大きいらしい。
帝国議会は存在するが、結局は有力貴族や、大店の商人の意向が尊重され――。
「それって、議会の意味あるのかな?」
「ありませんよね」
サエッタも呆れ顔で生クリームを舐めている。
「結局、どんな政の仕組みを採用しても、100年もすれば腐敗――形骸化、そして、戦や革命という暴力によって、また最初からやり直し……」
俺は、元世界の歴史をなぞってみるも――結局繰り返し。
「歴史は繰り返すか」
「そうですねぇ。 この世界でも5000年間、戦が無かった時代は無かったはずです。 その中で、殿下が大陸を統一なされ、100年でも平和が訪れれば、その時代はこの上なく貴重な100年になると思われます」
ファーレーン悠久の歴史みたいな話をしていたら、離への扉が開いた。
「おう、凡俗が悪魔の口車に乗せられておるわぇ」
突然入ってきた、サクラコにサエッタは飛び上がり、最敬礼すると――
「恐れ多くも畏くも、巫女様に於かれましては――」
「よいよい! 妾はもう皇族でも巫女でもない故――妾にも同じ菓子をたもれ」
「はいよ~」
「しかし……」
戸惑うサエッタだが、サクラコは彼を全く意に介していない模様。
「国を治める者が、悪魔の口車に乗せられて――そのような事でよいのかぇ」
「余計な世話だ! それよりも、巫女殿は、何故当然のようにショウの横に座っておる!」
「それは、この前話したであろう? 妾の操を奪われ、反魂により魂も混じってしもうたわぇ。 それに、この者に頼らねば、もう妾は生きてゆけぬ故」
「そうか解った、ならば……」
殿下は、パンケーキを持った皿を持ち上げると、テーブルの周囲をぐるりと回り――俺の膝の上にドッカと腰を下ろした。
「何故、そのような場所に座るのじゃ!」
「この者は妾の物、この城も妾の物。 故に何処に座ろうが、妾の勝手であろう。 さぁ、ショウよ。 いつものように、妾の身体を弄んでもよいぞ」
「いつも、そんな事してませんよね?」
「それならば、妾とて体中弄られて、胸に耳を当てられたぞぇ!」
「なんだと! 其方はやはり!」
「違いますって、治療だと説明したでしょ。 ああっ! サエッタ君の視線が痛い!」
サエッタの凍るような視線を躱し、殿下を膝から下ろすと、工房から聴診器を持ってきた。
「このような道具で、胸の中の音を聞いて病気を判断するんですよ」
俺の胸に聴診器を当てて、殿下にお聞かせする。
「おおっ! 呼吸する音がよく聞こえるな! なるほどのう」
「あの……僕も聞いてみたいのですが」
サエッタが聴診器に興味を示したようで、彼に貸すと自分の胸に当てて音を聞いている。
「どう?」
「凄くよく聞こえますよ! これは興味深い」
「病気の症例をたくさん集めて、その音と関連付けする事で、病気の判断が格段に早くなると思うんだ」
「治癒魔法を使った治療は高価ですからね。 医学も発展させる必要は、僕も感じていましたが……」
「特に、子供の病気による死亡率を下げられれば、国の人口も格段に増えるはずなんだ」
「やはり、貴方は人として全く尊敬できませんが、真学師としては尊敬出来る存在です」
「ハッキリ言う! 気に入らんな」
「でも、ショウ様なら出来ると思いますよ」
「はは、とりあえずは、君の言うことを信じるとするよ」
なんだか、どこかで聞いたような会話だったが……。
その会話を聞いていた殿下が、皿を持って自分の席にお戻りになられた。
「つまらぬ言い争いをしてしまったな。 このように、常にファーレーンの事を想うてくれるショウと妾はすでに一心同体。 ここに割って入るなど、巫女殿でも不可能というわけだ。 無駄な事は諦めるがよい」
殿下の口から出た余裕綽々の言葉に、少し苛立った表情を見せると、無言のまま掌を掲げ――。
「ほう、その男と其方は一心同体なのかぇ」
「そうだ……」
何やら、殿下の様子がおかしい……。
「しかし――そろそろ、其方の束縛からこの者を解放してやっても、良いのではないのかぇ」
「そうだな……」
「この者の行く先は、妾の下が相応しいと思うのじゃが、どうかの?」
「確かに、その通りだ……」
「おい、待て待て、なんだこりゃ?」
「巫女様の魔法ですよ!」
「え? まじで?」
俺は慌てて席を離れ、殿下の後ろに立つと、彼女の両肩に手を乗せた――。
すると、殿下は突然夢から覚めたように身体を震わせた。
「はっ! 妾は何を!?」
「巫女の魔法ですよ」
それを聞いた、サクラコが舌打ちをしたようにも聞こえたが……。
「サクラコ様、お戯れを。 それにしても、このような魔法があれば、やりたい放題ではありませんか」
一連を見ていた、サエッタが続けた。
「そうですね。 自分の奴隷契約書に署名させたり、犯してもいないような罪を認めさせて、自害させたり……」
「妾の力は、そのような事をするためにあるのではないわぇ」
「ええ? それじゃ、今のは?」
俺の、問い詰めにサクラコは横を向いてしまった。
「そのような悪事に力を使えば、アマテラス様の怒りを買う事になる」
「ん~? それじゃ、巫女の力というのは、アマテラス様から授かった物なんでしょうか?」
「その通りじゃ」
ああ、なるほど――それで、エルフの魔法を外法とか言ってたのか。
話を聞くと、巫女の力プラス、いわゆる普通の詠唱系の魔法も使えると言う。
真学師が使う理の魔法の代わりに、アマテラスから授かった特殊魔法が使える……といった感じかな。
それが、魔法なのか特殊能力なのかは、不明だが。
しかし、こんな能力があるなら、マジでやりたい放題だな。
どんな奴でも洗脳し放題だし、占領したい国へ訪れ、そこの王侯貴族達を洗脳してしまえば、たとえ難攻不落の城でも無血開城――。
こんな凄い力があるのに、帝国の版図を広げるために使わないとなれば、そりゃ帝国の重鎮達にさぞかし疎まれるだろう。
巫女の力を受けた、殿下は何やらフラフラしている。 若干、後遺症が残るようだ。
「サクラコ様。 我が主にこのような事をなされては、私も黙っているわけにもまいりませんよ。 これ以上なさるというのであれば、隣国のファルキシム辺りに身を移されては――彼等も両手を上げて、喜ぶでしょうし」
「ただの戯れじゃ、許すが良いぞぇ」
俺の厳しい口調に、ふてくされたように吐き捨てる巫女――しかし、この力を見て、気がついた事があった。
「あ、もしかして、オーガとかいう、生物兵器を操る力ってのも、コレなのか?」
「そうじゃ」
「そうかぁ――それじゃ巫女の力が切れて、オーガが暴走したってのも、本当なんだな」
「待たれや! その話は、妾は聞いておらぬぞぇ」
サクラコの話では――制御を失った生物兵器は、再度支配下に置かないと暴走を止められないと言うのだが……。
オーガが処分されたという話は聞いていないので、どうにかして暴走を止めたという事になるが、一体どうやって?
謎は残る。
謎と言えば、俺が魔法を使える事も謎だし、そもそも、こんな世界へやって来た事自体が謎だ。
「サクラコ様。 もう一つだけ質問が……」
「何かぇ?」
「あの――皇宮で夜な夜な繰り広げられる、ナニというのは……」
「それは……その……なんという事を聞くのじゃ! 其方は女子に対する細心に欠けておるわぇ! 念のため申しておくが、妾はしておらぬぞぇ! アマテラス様に誓ってよい」
ああ、真っ赤になっているサクラコを見ると――その他の巫女がやっているというのは本当なのね。
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獣人達の軍を作るという噂を聞きつけた、隣国ファルキシムの獣人達も参加したいという。
ファルキシムの獣人達は、犬人が多い――仲が悪いと言われる猫人と犬人だが、相手が帝国となれば、そうも言っていられないのだろう。
帝国では、犬人も迫害されていると言うのだから。
調べた結果、最終的な軍への参加人数は1万5千を超えたという。





