116話 異世界カレーの後にやって来るもの
ダークエルフの村に残るというファルゴーレを置いて、俺はお城に帰ってきた。
そして次の日――。
もう、カレーだよ、カレー!
そもそも、異世界初のカレーを作ろうとしてただけなのに、どうしてこうなった!?
トラブルは一通り全て片付いたので、本格的にカレーの実現を目指す事にするか。
先ずは、ナナミに手伝ってもらい、ターメリックを増やさなければ。
俺は、お城の中庭に植えたターメリックに水と追肥をガンガン入れて、成長促進魔法を掛けまくる。
以前なら、こんな事をするとすぐに息切れしたのだが、今は魔石に貯まっているフローの魔力が使えるので、このぐらいの魔法なら、使いたい放題だ。
その甲斐もあって、数日で青々とした葉っぱが茂る、立派なターメリック畑に成長した。
根元には白い花も咲き始めた。 改めて思う――やっぱり、魔法の威力は凄いぜ。
成長したターメリックの根を掘り起こして、乾燥させ、粉にすると――。
赤い! 真っ赤だ。
元世界の色のイメージからすると、赤い=辛いってイメージあるのだが、コイツは辛くはない。
だが、カレーの黄色い色ってのは、ターメリックの色なのだが、これじゃカレー色にはならないよなぁ……。
そんな事を考えつつ、他のスパイスも準備する。
辛味を出すスパイス――こちらの言葉でチェネーロとかいうらしい。
この香辛料は完熟すると赤くなるのは、唐辛子に近いと思う。 だが、唐辛子ではない。
そして、ターメリック、コリアンダー、クミン、そして、ギョウジャニンニクモドキ。
夕食のカレーを目指して、スパイスを並べつつ、吟味する。
全てを鍋に入れて香ばしい香りが出るまで炒めたら、すり鉢に入れて粉に――これで、真っ赤なカレー粉が完成!
う~ん、見た目は凄く辛そう……なんとかマサラとか言うんだっけ? 解らん。 見てるだけで、汗が出てきそうだ。
とりあえずどのぐらい作ろうかと迷ったが――スープを大量に作り、それが完成したら、少量小さい鍋に移してカレー粉を使ってみれば良いという結論に達した。
その時点で、カレー粉が失敗なら、残りは普通のスープとして食えばいいからな。
うん、そうしよう。 じゃあ、スープは10人前程にするか。
大量のタマネギと少量のギョウジャニンニクをすり潰し、魔法で飴色になるまで加熱。
これ、フライパンとかでやると、結構大変なのだが、魔法だとすぐに出来て超便利。
肉も大量に炒めて準備OK。
肉を炒める時にも、カレー粉を使って下味を付けた方が良さそうだが、このカレー粉が使えるか、まだ解らんしなぁ……。
次の機会にやる事にしよう。
そうだ、芋も入れよう。
俺は、自分でカレーを作る時はジャガイモを入れない。 玉ねぎだけで人参も入れない。
だが、具が少ないとちょっとさびしいので、ジャガイモを入れてみた。
ナナミと一緒に、ジャガイモの皮を剥く。 コレは、魔法じゃ出来ないから、手作業だ。
全部を寸胴鍋に入れ、塩と昆布だしも投入して煮込む。 浮いてくる脂と、灰汁を掬い、スープのストックが完成した。
「ちょっと味見を――」
うん、美味い。 これだけで、スープとしていけるが――少量を小さな鍋に移して、いよいよ、カレー粉を投入。
手作りのカレー粉を投入すると、みるみる真紅に変わる鍋。
ぐつぐつと煮えくり返り、全てを飲み込み真っ赤に染まるその姿は――。
正に、別府温泉血の池地獄!
全く恐ろしい物を作っちまったぜ。
冗談はそのぐらいにして、味見を……。
一口いれると、ピリピリとした舌への刺激と、鼻に抜ける懐かしいスパイスの香り――美味い! 確かにカレーだ! しかし……。
「ゲホッゲホッ! マジかよ、ちょっと辛すぎた。 この辛味スパイス、こんなに辛いのかよ!」
涙目になりながらむせると、鼻の頭や髪の毛根から汗が吹き出してくる。
鼻水をすすりながら、辛味を抜いたスパイス群をもうひと塊作り、それを足して辛味を薄める作戦に出た。
「カレー粉投入! 俺色に染まりやがれ!」
寸胴鍋にカレー粉を投入、真っ赤になった鍋を煮込んでいると、ニムが工房に飛び込んできた。
さすが獣人、鼻が良い。
獣人達は、スパイス料理が大好きだ。 辛い物も大好きなのだが――。
スパイスは値段が高いので、あまり頻繁に食べることは出来ないと、嘆いているのが常だ。
「なんにゃ! なんにゃ! 凄い良い匂いがするにゃ!」
「おおニム、いいところへ来た。 夕食に、これ食わせてやるから、お城の食堂からパンを沢山持ってきてくれ」
「ふにゃうう! 解ったにゃ」
ニムは、俺の話を聞いて飛び上がったかと思うと、目にも留まらぬスピードで見えなくなった。
「速!」
ニムがパンを取ってくる間――ちょっと、トロミが欲しいので、小麦を水で溶いた物を投入する。
かき混ぜると、いい感じで手応えが増してくる。
ちょっと、再度味見をすると……コクが足りないような。
1/3程分けて、クリームとバターを投入したバージョンも作ったみた。
こいつは、コッテリ味だが、クリームを入れたぶん、少々ピンク色になって、不気味さが増したような……。
「しかし、赤いなぁ。 真っ赤だな。 ナナミ、テーブルに皿を並べてくれ」
「承知いたしました」
盛りつけて、仕上げに木の実を砕いた物を振りかける。
――異世界カレーが完成した。
パンを持ってきたニムと、ちょいと早い夕飯にすることに。
「ショウ様! コレ、真っ赤にゃんだけど、血を煮込んだにゃ?」
「違う、違う。 赤いけど、香辛料の色だよ。 血なんて煮込んでないから心配するな」
ニムは、恐る恐るスプーンで掬ったカレーを、一口運ぶと――勢い良く食べ始めた。
「美味いにゃ! これは、美味いにゃ!」
「どれ、俺も食うとするか」
麦飯を炊くのは面倒だったので、俺もパンで食うことにしたが、パンに付けてもカレーは美味い。
真っ赤なのが気になるところだが、色を除けば、元世界のカレーと変わらない気がする。
だが、その味は鮮烈だ。
元世界のカレールーを使ったカレーが、布団の上だとすると――このカレーは、剣の山にある平均台。
落ちたら死ぬ――そんなバランスの上に成り立っている気がする。
ちょっと、自分でも言っている意味が解らんが。 とにかく、美味い。
内蔵プログラムに従った発言なのか解らないが、カレーが食いたいと言い出したナナミも、黙々とカレーを食べている。
「ナナミ、どうだ? 異世界カレーは」
「私のデータベースにあるカレーとは一致しませんが、とても美味しいです」
「そうか、良かったな」
まあ、プログラム的に、そう言っているかもしれないが――野暮な事は言うまい……。
「なんかいい匂いがするぅ」
そう~っと扉を開けて入ってきたのは師匠だ。
だが、早速俺が出した真っ赤なカレーにドン引き。 またもや俺が、得たいの知れないゲテモノ料理を作ったのかと思ったのだろう。
「師匠、心配しないでください。 この前、ファルタスで採ってきた香辛料で作った、普通の料理ですよ。 色は、ちょっと普通じゃありませんけど……」
俺に促されて、師匠もカレーを食い始めたのだが……。
口を押さえている。
「師匠、お口に合いませんでしたか?」
「いえ、あの……凄く美味しいのですが、辛くて」
「ミルクをお出ししましょう」
俺が、師匠にミルクを用意していると、今度は匂いに釣られてエルフ達が飛び込んできた。
「何かいい匂いがするっす! ショウ! 腹減ったっす!」
「何? 良い匂い」
「俺が作った、新しい香辛料料理ですよ」
「なんか、真っ赤なんだけど……」
ステラさんも、やはり色が気になるようだが、フローは、そんな事はお構いなしに食べ始めた。
「美味いっす! コレ、美味いっすよ!」
フローに辛くないかと聞くのだが、辛いが美味いという返答。
平気なようだな……と安心していたら、ステラさんが騒ぎ始めた。
「辛い! 辛い! 辛い! 辛いんだけどコレ!」
スプーンを持ったまま、口の周りをパタパタ扇ぎ始めた。
どうやらステラさんは、辛い料理が苦手のようだ。 そういえば、ここで辛い料理って作った事が無かったな。
肉を焼くときに少々スパイスを利かせるぐらいで……。
「もう、私が辛いのを苦手なのを知ってて、嫌がらせで作ったんでしょ?!」
「そんなわけないでしょ。 チェネーロって辛い香辛料の分量が分からなくて、ちょっと辛めになってしまったんですよ。 これでも、薄めたんですけど」
「私に対する愛が無いから辛くしたんだ」
ちょっと涙目になりながらカレーを食うステラさんだが、ブツブツ文句を言いつつ食べてはいるので、味は問題無いようだ。
「もう、良い子だから、そういう事言わないでねぇ。 お母さん、嫌いな子に料理作ったりしないんだから」
カレー食いながらワザと小言で呟くが、エルフは耳が良いので、ちゃんと聞き取っている。
「だれが、お母さんなのよぉ」
辛いと文句を言っているステラさんに、バターとミルクを入れたピンク色カレーを出してみたが――それでも辛いと言うので、ミルクを再度投入して温め直した物を作った。
色は、マジでピンク色になってしまったのだが……。
「まだ辛いけど、これなら食べられる……」
師匠もピンク色カレーの方が良いようだ。
「う~ん、これじゃ、カレーの鍋は辛味で分けた方が良さそうだな」
元世界のウチの実家。 カレーの鍋が2つあった。
俺や親父が辛いのが好きなのだが、オカンが全くダメ。 カレーは好きなのだが、超甘口なのだ。
辛いのがダメなので、辛い料理を作る時も味見をしない。
どのぐらい辛いのか解らないので、目分量で鷹の爪や青唐辛子をドバドバ入れたりする。
その激辛料理を、俺と親父が涙目になりながら食う――だが、オカンは、知らんぷり。 文句があるなら、自分で作れというわけだ。
そんな過去だった日常を思いだした。
「そんなの嫌!」
ステラさんが、また訳の判らん事を言い出した。 要は、鍋を分けるなんて仲間外れみたいで嫌! お前等が私に合わせろという事らしい。
本当にもう、この人は。
「それじゃ、ニムの鍋だけ別に作るか……」
「ウチも、同じで良いにゃよ?」
口の周りをカレーだらけにして、ニムが言う。
「そうかぁ。 ニムは優しいなぁ。 それに引き換え、ウチのエルフ様ときたら……」
「……何よ、みんなショウが悪いんだから」
あくまでも、俺が悪いらしい。
まぁ、師匠もフローも甘口の方が良いらしいので、甘口に統一する事になった。
俺も別に甘口でも良いからな。
「ショウ様! ショウ様! ウチの母ちゃんの店でもコレを出したいにゃ!」
「これをか? 香辛料沢山使うからかなり高くなるぞ?」
俺は、使ったスパイスの山を指さして計算を始めた。
小壺で5000円ぐらいのスパイスを半分使って、それを4種類……、ターメリックとギョウジャニンニクモドキは、俺が栽培している物だから――2500円×4+α
肉やら野菜やらその他材料費を10人前で15000円と見積もってみるか。
1人分1500円の原価で、飲食店の原価は30%程なので……売値は、5000円!
「ニム、売値を一皿小四角銀貨1枚にしないと、商売にならん」
「そ、そんなに高いにゃ!?」
「かなり、高価な香辛料を沢山使っているからねぇ。 そのぐらいはかかるでしょ」
使った香辛料を見て、ステラさんも同意見のようだ。
「安くする手はある。 自分達で香辛料を栽培すれば良い」
だが、農家で力仕事をしている獣人はよく見かける光景だが、彼等は金で雇われているだけで、農作物を育てているわけではない。
農業に必要な、作物の世話や管理とかになると、獣人達のかなり苦手な分野になってしまう。
「難しそうだにゃ」
「人を雇ったり、農家に栽培を依頼するって手もあるが、人を挟むとどうしても経費が掛かり高くなるからな」
それに、獣人に雇われて良しとする人がいるかどうかだ。
普通は、獣人は雇われる者。 人を雇うなんて事例は、例外を除けば今までは無かった。
「いよいよ、獣人が人を雇う時代が訪れるのかな?」
「獣人達が力を付けてくれば、当然の流れになるでしょう」
「儲けギリギリか、赤字でも良いからカレーを安く売って、他の料理で儲けるという手もあるぞ」
「この料理を客寄せにするのねぇ」
「そうです。 だが、俺しか作ってない香辛料もあるし、目当ての香辛料が手に入らない時もある。 この料理を作るとなると、香辛料の栽培は、どの道必要になるだろうなぁ」
ニムは、カレーを彼女の母親――つまり、オニャンコポンの女主人ニニの下へ持っていって、相談してみると言う。
カレーは、いかにも獣人達が好きそうな料理だ。 きっとニニも気に入ると思う。
問題は、いくらにするか? それだけだな。
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――次の日。
殿下のお話があると言うので、俺の工房でちょっと早いお昼ゴハンに。
カレーの上に半熟卵を乗せて、お出しした。
「うむ、これは美味いな! そして、香辛料の香りが食欲をそそる。 しかし、辛い!」
「この料理に使う香辛料を探しにファルタスまで出かけたのでございますよ。 それが、何故かあんな事に……」
「其方が、この工房に篭っている間には、何も問題が無かったのだぞ? 其方が、城壁から出てあちこちに出かける度に問題を増やしおって」
「ライラだって、それにかこつけて儲けてるじゃないか」
「うぐ」
そんな話をしつつ、俺も一緒にカレーを食うが、芋や肉にもカレーが染み込んでいて、美味い。
そう、残り物カレーというのは美味いのだ。
カレーをスプーンに乗せ、美味しいそうに口に運ぶ殿下であったが――その表情を見ると辛そうだ。
殿下も甘口だったか。 これはやはり、甘口に統一した方が良さそうだな。
「殿下、何かお話があるという事でしたが……」
「そのことだがな……」
殿下の口から語られたのは、少々驚くべき事だった。
「借款でございますか? つまり、国の借金」
「うむ」
俺が諸問題の根源である公爵夫人を亡き者にしてしまったので、リンを筆頭にした帝国公爵領がやっと平定。
俺がリンに期待した、帝国とファーレーンとの交渉チャンネルが機能し始めたようだ。
早い話が、帝国がファーレーンへ借金の申し込みをしてきたらしい。
全く、どの面下げてと言いたいところだが、そのぐらい切羽詰まっているという事なのだろうか?
「それで、金額は如何程……」
「金貨2万5千枚(約50億円)だ」
「ファーレーンの国家予算に匹敵する金額じゃありませんか」
「今は人口が増えている故、もっと増えておるがな」
「まさか、無利子で貸すなんて事は……」
「戯けた事を申すな。 そのような事を妾が許すはずがなかろう」
「ですよね」
先ずは、利子分として帝国とファーレーンとの国境線にある土地の割譲。
これによって、帝国とファーレーンとの国境線が100リーグ(160km)程、帝国側に移動する。
だが、あの辺りは2国間の緩衝地帯となっており、人もあまり住んでおらず、荒れ地が広がっているだけ――少しぐらい国境線がズレて土地が増えたとしても、何のありがたみも無い。
だが、問題はその後だ。
「人質ですか? 一体誰を……」
「巫女だ」
「え!? 巫女って、帝国の――あの純血の巫女ってやつですか?」
「他に誰がおる」
ええ? そんなことがあり得るのか? そこら辺の王侯貴族とは訳が違う――帝国、いや、この世界の象徴とも言える存在が、人質になる?
この世界の夜明けから5000年、帝国とこの世界を絶えず支えてきた、無二の存在。
殿下はピンと来ないのかもしれないが、元日本人の俺が考えるのは――。
例えば、いくら日本の財政が切羽詰まったとしても、畏れ多くも畏くも天○陛下を人身御供として差し出すだろうか?
そんなのは、ありえないだろう。
そこら辺を殿下に説明しようとするのだが、殿下には解っていただけないようだ。
それよりも、帝国の象徴とも言える巫女を人質にする事によって、帝国とファーレーンの永きに渡る争いに有利に立てる――そういう思いに突き動かされている気がする。
帝国としても、担保になりそうな物がそれしか無いという事なのかもしれない――しかし、何か良からぬ予感がするのだが……。
殿下がお決めになった事には口出しは出来ない――俺としては、何も無い事を祈りつつ、成り行きを見守る事しか……。
だが、帝国がドラゴンに襲撃された時から、巫女の姿が見えないと囁かれていたが――これで、生きている事は解ったな。
話が決まったとしても、その実行には時間が掛かる。 色々と準備が必要だ。
送金と言っても、元世界のように銀行間送金があるわけではないから、2万5千枚もの金貨を全部馬車に積み込んで、騎士団で護衛して運ぶのだ。
おそらく重さ500~750kg程になるであろう金貨を馬車2~3台で運ぶと思われる。
まあ、最近活躍の場が無かった騎士団には良い仕事が出来たな。
------◇◇◇------
――数日後、帝国との借款の話が纏まりそうだという。
護衛の仕事に魔導師か真学師が必要なはずだが、今回の仕事に――殿下は、ファルゴーレを使うようだ。
彼は、巫女の事も知っているようだし、今回の仕事は正にうってつけ。
それに、殿下は彼に仕事をさせて、このままファーレーンでやっていくつもりがあるのか――その忠誠心を確認するおつもりだ。
だが、ファルゴーレは、城下町に家を探していて、リンリン――ダークエルフの長老の女性と暮らす気満々だし。
そんなに心配は要らないと思うのだが……。
俺の出番は無いようだし……やる事がないので、武器の手入れでもするか。
工房で、テーブルの上に手入れの道具を用意して、脇差しと剣鉈に塗っている油をアルコールで拭く。
時代劇で、刀身に打ち粉をポンポンしているシーンがあるが、アレは石の粉に油を吸わせて、拭き取るためにやっている。
要は油を拭き取れれば、何でも良いのだ。
アルコールで拭いた方が手軽だし、刀身に傷も付かないので、俺はアルコールを使っている。
ただ、刀身から油を拭うと、みるみる錆びが出てくるのが解る。
切れ味を増そうと、刀身の材料に炭素の量を増やそうとすると、錆との戦いになるのだ。
それ故、小まめな手入れが欠かせない。
砥石も何種類か用意してあるが、色々と試してみるも、これといった決定版は見つからなく――この世界で、砥石を何種類も使って研ぐなんて物好きもいないようなので、情報の共有も出来ない。
ただ、仕上げには柔らかい砥石を使ったほうが、刃紋が綺麗に出る。 だが、刃紋が出たからといって、切れ味には変化は無く、タダの自己満足に過ぎないのだが……。
でも、刀っていったら、刃紋っしょ! 男のロマンっすよ! 男のロマン!
大事なことなので二回言いました。
脇差しと剣鉈の手入れをしていると、フェイフェイがやって来た。
「ショウ、あの男が、長老と一緒に暮らすという話になっているぞ」
あの男というのは、無論ファルゴーレの事だ。
「ああ、そうらしいな。 意外と、相性が良かったんじゃないのか?」
俺は、刃を上にして脇差しを高く掲げ、刀身の歪みを確かめる。
「全くもって意味不明だ」
「彼女も、1000歳超えた長老を女として口説く男の姿に感動して、心打たれたんじゃないの」
「う~む」
「良いじゃないか、2人が幸せになれるならさ。 人は異郷に生まれ、故郷を求める。 彼は故郷を見つけたんだよ。 良い事じゃないか」
「そうか……そうだな」
フェイフェイは困惑している様子だが、フェイフェイだって、異種族の俺の所へ来ている。
俺とファルゴーレは歳も似たり寄ったりだし、350歳と1000歳の違いはあれ、異種族間交流には間違いない。
彼女としては、彼とのファースト・コンタクトがロクでも無かったので、わだかまりがまだあるのかもしれないが。
フェイフェイが、森へ狩りに行くと言うので、急ぎの仕事が無い俺も、仕上がったばかりの武器を持つと同行する事にした。





