表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で目指せ発明王(笑)  作者: 朝倉一二三
異世界へやって来た?!編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/158

11話 初めての発明、初めてのトキメキ?


 滑車が空回りする音の後に、水面が弾ける音が井戸から響く。


 釣瓶つるべを井戸の中へ落とし――そして引き上げる、結構キツイ作業だ。

 水瓶ならすぐにいっぱいになるが、風呂を満たすとなると、コレが重労働。

 ここには水道がないので、水が欲しければ、井戸から汲むしかない。

 川の水もあるが、距離が離れているし登り坂だ、水は綺麗だがちょっと衛生的にもヤバい。

 寄生虫やら厄介者の例もあるしな。

 煮沸するならつかえるだろうけど、それなら井戸から汲んだほうが早い。


 そういえばガキの頃、爺さんの井戸にはアレがついてたなぁ、ガチャポンプとかいうやつ。

 レバーをガチャガチャすると、水が揚がってくるやつだ。


「あれなら作れるかな……?」


 構造はそんなに難しくない、水鉄砲を逆さにしたような構造になってる。

 何故造りを知ってるかというと、爺さんのガチャポンプから水が出てくるのが不思議で、どうやって動いてるのか知りたくなった。

 その挙句、近所の廃井戸についていたものを取り外して、分解してしまったのだ。

 分解したのはいいが元に戻せなくなってしまい、そのまま知らんぷりして、廃井戸に戻してしまったのだが、その廃井戸もいつのまにか、埋められてなくなっていた。

 あのガチャポンプも廃品回収とかに出されてしまったのだろうな。

 俺の親父の話だと、沢山あったポンプだが、今は全く見なくなったと言っていた。


「ふ~む……」


 材料はなんで作るかな? 日本にあったのは鋳物だったが、ここに鉄はない。

 鉄があっても加工できないしな――魔法で熱したり、溶かすのは無理だったし。

 う~ん……と、しばらく思案していたが、とりあえず、風呂に水を入れてしまおう。


 ------◇◇◇------


ティッケルト()がつかえるかな?」


 風呂に水を張り終えたところで思いついた。

 あれこれ考えても、現時点でつかえそうな材料というのは、それしか思いつかない。


 ティッケルト()林に鉈を持っていき、一番太いのから順に色々な太さの物を採ってきた。

 太さの違う物を組み合わせれば、ジョイントとしてつかえる。ここら辺は塩ビのVU管と同じだ。


 庭に竹を切る音が響く。


 俺のマルチツールから、ノコギリ状のブレードをだして、細工を切り出していく。

 この植物は節の間隔が長いんで、パイプとしては便利そう。

 しかし、マルチツール付属のブレードが小さいんで、こりゃ、加工がキツイわー。

 でも、鉈じゃ微妙な細工が出来ないんだよね。

 あれこれと四苦八苦してると、師匠が様子を見にやってきた。


「何をやってるのです?」

「はい、ちょっと工作を――道具がないんで結構大変です、ははは……」思わず誤魔化し笑いをしてしまう。


 それを聞くと、師匠は黙って家の中へ戻ってしまった。

 

「あれ? 仕事サボってるので、怒ってしまったのかな? でも、とりあえずの作業は終わってるし……」

 と、考えていたら、すぐに師匠が戻ってきた。


「これをお使いなさい」


 ガシャ! と置かれた――『おかもち』みたいな道具箱には大工道具が詰まっていた。

 ノコギリ、ノミ、かんな玄翁げんのう、ちょっといびつだが釘、日本の物とはちょっと形は違うが、一通り揃っている。


「ああ、大工道具があるんですね?」

「あるに決まってるではありませんか。家の修繕は、これがないとできないでしょ」


「はは……」力なく笑う。

 今までの苦労はなんだったんだ。


「まだ、欲しいものがありますか?」

「それでは、使えないような端切れでいいので『皮』と、にかわはありますか?」

「確か、あったはずです。探してきます」


 師匠は家に戻ると、しばらくして、皮切れと小壺に入ったにかわを持ってきた。


「解らない事があるなら一人で頑張らないで、とりあえず聞きなさい」

「そういう性分なので……」

「気持ちもわかりますが、私は師匠なのですから、もっと頼ってもらってもいいのですよ?」

 

 ――と言われても、お世話になりまくりなんですけどねぇ……。


「そういえば、師匠の師匠様もいらっしゃるんですよね?」

「もういません」

「あ……、申し訳ございません……」

「いいのですよ、もう昔のことです」


 はう、また地雷を踏んでしまうとか、俺ってやつぁ、ああ自己嫌悪……。


「そんなに一生懸命に何を作っているのです?」

「え~とですね、井戸の底から水を汲み上げるカラクリを作っているんです」

「えぇ? 井戸の底からですか? そんなことは聞いた事ありません、それがショウにできるというのですか?」

 師匠は、俺の言葉を信じていないようで、冷やかな視線を送ってくる。

 

「多分ですけど……上手く成功すればですが」

「ああ、私はなんと優秀な弟子を迎えてしまったのでしょうか? まったく師匠冥利に尽きると言えるでしょう。私は大陸一の幸せ者デス」


 また完全に遊んでますよね?


「もう、ホントに出来たらどうするんですか?」俺は、師匠のわざとらしい挑発にちょっと声を荒らげてしまう。

「ショウのいうことを、なんでも一つ聞いてあげましょう」

「え? なんでも?」


 なんでもって、あんな事やこんな事や、あんな事やこんな事とか? あんなところをペロペロしたりとか、こんなところをクンカクンカしたりとか?

 いや、待て待て! 妄想やめろ! 師匠に心読まれたらどうする。


「約束ですよ、師匠? 楽しみにお待ちください」

「ふふ、待ってますよ、是非私を驚かせてください」師匠、まったく信用してないだろ?


 くそぉ、見てろよ。


 ------◇◇◇------

 

 大工道具が揃ったので、ポンプの本体はなんとか形になった。レバー部の強度がちょっと心配だが、とりあえず大丈夫みたいだ。

 ピストン部のOリングはゴムがないので、皮を巻いたが、本物のガチャポンプも皮だった気がするなぁ……。

 あとは、井戸へ降ろすパイプなんだが。

 どうやってパイプに使う太いティッケルト()の節を抜こうか、節の数は3個ほどある。

 長い鉄の棒でもあればいいんだが、そんなものはない。

 考えた末、一回り細いティッケルト()を差し込んで、そのまま立てて、パイルドライバーのように地面に打ちつける事にした。

 ティッケルト()自体の自重が加わるので、どの節も2~3回試すとスコーン! という音を出して抜けた。

 穴を覗き込んでみると、向こうが見えるわ。こういうのって、意味もなく覗いてしまうよね。


 これを見て思いついた。これって迫撃砲が出来るんじゃね?

 

 全然ポンプに関係なくて、脇道に逸れるけど――思いついたことは試してみないとダメな性分なので。

 1mほどの長さで、太さ5cmぐらいのティッケルト()を地面に埋めて立てると、実験の開始だ。

 そこへ、空気圧縮の魔法で光球を作って、筒の中へ誘導――弾の代わりに小石を入り口に置いて、光球を開放すると……。


 スポーン! という音と共に、2mばかり石が飛び上がった。

「たまや~」


 だが、もう少しピッタリと填まる弾じゃないとだめだな。

 今度は、一回り太いティッケルト()の節の部分を逆さに差し込んでみることにした。

 そういえばコレって、エアライフルのつづみ弾と同じだな。

 いや、この形だと、旧帝国軍のム弾に近いか。

 

 もう一度、空気圧縮の魔法を使ってから、つづみ弾みたいなのを差し込んで、開放!


 今度はポン! というか、カン! という甲高い音と共に、50mほど弾が飛び上がった。


「すげぇ」ゲラゲラ笑いながら、グルグル意味もなく回ってしまう俺。

「なんだ、TVもねぇラジオもねぇで、やる事なくてツマんねぇとか言ってたけど――面白い事が結構あるじゃん!」

 

 馬鹿騒ぎしていると、それを聞きつけて、師匠が家から出てきた。


「何を騒いでいるのです」

「むふふ、なんでもありません」

「そんな顔して、なんでもないわけないでしょう?」

「ただ、魔法を使って遊んでたんですよ」


 師匠は俺の戯言を聞いて、がっかりとした表情を見せた。

「はぁ……そんな事するために、貴方に魔法を教えたわけではないのですよ?」

「いえいえ、どんなバカな事でもそれが後々に繋がるというのは、多々ある事です」

「こ の ――減らず口を~」

 指で、俺の頬をグリグリする師匠と、成すがままにされる俺。

「はっはっはっ、師匠の愛のムチは、敢えて受けさせて頂きますよ」

「その減らず口で約束した、水を汲み上げるカラクリはどうしたのです?」

「もう少しで完成します。楽しみにして下さい」


 そう言って、俺は作業に戻った。

 

 あとは、汲み上げ用のパイプとポンプを連結して、固定するだけだし――余裕でしょ。

 井戸の石組の上に板を張って、円形に穴を開けるが、綺麗に開けるのは結構大変――ノコギリで切れ目を入れて、ノミで整えた。

 そこに井戸底までパイプを入れて、ポンプを連結。最後に石組に張った板と固定した。


 やった完成だぜ! ガチャポンプー!(例のネコ型ロボットの声で)


「これが、そうだというのですか?」

「はい、細工は流流仕上げを御覧じろ――ですよ」


 そういって、俺はポンプのレバーを動かし始めた。

 金属製ではないので、ガチャガチャとはいわず、スコッスコッって感じだ。

 ……と、しばらくやってみたが、水は出てこない。


「あるぇ?」

 おかしいな、水が出ないぞ?


「どうしましたか? もうお終いですか?」すでに勝ち誇っている顔が見え見えの師匠。

 機能的には問題ないはずだけどなぁ……なんで水が揚がってこないんだ?

 爺さんのポンプで遊んだ記憶を反芻はんすうすると――ポンプを使う際に、ある儀式をやっていたのを思い出した。


 ああそうだ、これって呼び水がいるんだっけ?


 台所から、桶に水を汲んできて、ひしゃくでポンプの上からジャバジャバと入れながらレバーを動かす。

 今度は、スコッスコッではなくて、ジュポジュポという感じになり、4~5回レバーしたところで、ぐっと手応えが重たくなった。


 そして次の瞬間、ダパダパと綺麗な水がポンプのくちばしから溢れだした。

 だけど、もう少しといを長くしないとだめだね。

 

「ヒャッホ~イ! 成功したぜぇ!」はしゃぎ回る俺。

 

「くっ、さぁそのことわりを説明なさい」悔しそうに師匠が叫ぶ。

 そんなに悔しそうな顔しなくてもいいのに……。

  

 俺は、ポンプの構造を黒板プレートに図を描いて、動作仕組みを説明したが――さすが師匠、その動作原理を一発で理解したみたいだ。

 

「悔しいですが、これは単純明解にことわりに適っており、真理と認めざるを得ません」

「そんな面と向って悔しいとか言わなくてもいいじゃありませんか」

「さあ、ショウが勝負に勝ったのですから、私の身体を好きになさい」

「はいぃ? そんな約束してませんし!」

「私の身体にあんな事やこんな事をするのが望みなのでは?」


 やべぇ、心読まれた!?


「違います、そんなの望んでませんし!」

「ああ、粗暴な弟子に凌辱されてしまう、うら若き師匠、こうやって堕ちていってしまうのですね?」

「堕ちませんって、凌辱とかいう言葉は止めて下さい。STOP! 妄想! ダメ! 絶対!」

「何故しないのです?」

「命の恩人の師匠にそんな事するはずないじゃありませんか」


 チッ!


「なんで、そこで舌打ちが入るんです。そんなのオカシイですよ師匠」

 師匠はそのまま、膨れ面で横を向いてしまった。


 この人は……意外と面倒くさい人なのかもしれない。


「勝負の約束は保留にしておいてください、別の機会に使いますから。それより師匠、余ってる薄布と糸ありませんかね?」


 師匠は部屋に戻り、30cmぐらい四方の薄布と糸を持ってくると、俺に投げつけてきた。

 

 もう……そんな不機嫌そうな師匠を横目に、俺はさっき作ったティッケルト()つづみ弾の尻に穴を開けて糸を通し――そして薄布を結んで、つづみ弾の尻に押し込んだ。

 地面に埋め込んだままのティッケルト()の迫撃砲に、再び空気圧縮の魔法をかけて、つづみ弾を差し込む。


 甲高い音と共に天高く弾が打ち上がり、落下し始めると、パッ! と花が開くように落下傘が開いた。


 唖然と師匠が見上げる中――。


「イェ~!」


 俺は、その落下傘を拾いに林の中へダッシュしていた。

 俺は小学生か。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
124fgnn52i5e8u8x3skwgjssjkm6_5lf_dw_a3_2
スクウェア・エニックス様より刊行の月刊「Gファンタジー」にてアラフォー男の異世界通販生活コミカライズ連載中! 角川書店様より刊行の月刊「コンプティーク」にて、黒い魔女と白い聖女の狭間で ~アラサー魔女、聖女になる!~のコミカライズ連載中! 異世界で目指せ発明王(笑)のコミカライズ、電子書籍が全7巻発売中~!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ