103話 ドラゴンの肉を食おう!(挿絵あり)
お城の裏に横たわる巨大なドラゴンの骸に、大ガエルの皮から作った手袋をした獣人達が群がり、解体作業を黙々とこなしている。
いよいよ内臓を捌くことになったが、背中の鱗程固くはないにせよ、腹にも横に長い鱗が走っている。
これが、文字通りの蛇腹のようになっていて、柔軟性を生んでいるようだ。
解体現場の前には、師匠の机と椅子が置かれ、紙が大量に用意されている。
紙が普及する前は、黒板という嵩張るノートの代わりの板が主流だったのだが、徐々に取って代わられている。
師匠は、解体作業を見ながら、ドラゴンの構造を具に観察、記録――その傍らには、ステラさんも構えていて、師匠と熱心に弁舌を交わしている。
ミルーナも、ハンカチを口に当てながら真剣に見学してはいるが、彼女は王女様だ。 動物の解体現場など、これが初めてだろう。
同じ王族の殿下は平気なのか?
その事を尋ねると、今はなき殿下の母君に――戦場で役に立たない王族では話にならないという事で、散々鍛えられたという。
どうやって鍛えたのかは、恐ろしくて聞けないのだが……。
俺達が来た時には、すでに尻尾と後ろ脚の鱗が剥がされていた。
そのため、それを記録できなかった師匠は、残念至極の表情を隠せないでいたのだが、ナナミが見たドラゴンの記憶から、尻尾と脚の鱗の状態が再現出来たので、事なきを得た。
作業の最中、殿下の下に商人達がお目通りを願っているのだが――。
彼等はドラゴンの素材を買いに来ている者達で、その中には、ファルキシムから、危険な夜間街道を走破した命知らず達も混じっている。
今まで、ドラゴン由来とされた物が多々あれど、その真偽は不明な物ばかりで、話のネタにしかならなかった。
だが今、正に本物のドラゴンの骸が目の前にあるのである。
ファーレーンで仕留められたドラゴンの物と売り込めば、幾らでも値段は付く。
商人達にとっては、喉から手が出るほど欲しい商品なのだ。
もちろん、殿下はそんな事は百も承知である。
幾らでも儲ける事が出来るのに、ここで安売りして、商人たちに儲けさせる必要は無いのだ。
じっくり時間を掛けて、値段を釣り上げれば良い。
「しかし、殿下。 これだけの鱗やらを市場に流しては、高価なドラゴンの素材が値崩れをいたしますなぁ」
「ふふ、そんな事をするはずが無いのは、其方も解っておるだろうが」
「まずは、ドラゴンの鱗で騎士団のスケイルアーマー等を造り、装備強化するのがよろしいかと」
「うむ、それは妾も考えておった」
「そして、品薄状態から飢餓感を煽りつつ、一枚そして一枚と捌いていくと」
「ふっふっふっ、其方も悪よのぉ」
「殿下には敵いません」
俺は、殿下の前で揉み手をしてみせる。
「「はっはっはっ!」」
殿下とお代官様ごっこをしていると、ドラゴンの蛇腹が外れ、真皮に到達した後、分厚い肉が切り出されていく。
食いごたえのありそうな肉だ。 ステーキ何人前になるんだろうか。 食ったら美味そうに見えるが……食えるのか?
殿下と一緒に、指揮所からその光景を眺めていると、それを見ていた観客の最前列に居た小さな女の子から、声が飛んだ。
「真学師様ぁ~! ドラゴンって食べられないの?」
無垢な少女の声に住民達はざわめき、顔を見合わせて、アレコレと談笑している。
そうだよなぁ。 やっぱり、そう思うよなぁ。 お城の料理人のヴェルガーさんもドラゴン料理を作りたいって言ってたし……。
俺は、指揮所から飛び降りると、腹を捌いている現場へ向かい、生臭さと酸い臭いが充満する中、腰の剣鉈を抜くと、肉の小片を切り出す。
そして、肉片を魔法で加熱すると、舞い上がった白い煙の匂いを嗅ぐ。
匂いは普通の肉だが……。
意を決っして口に入れようとしたら、ナナミが声を掛けてきた。
「毒味は私が致します」
「大丈夫なのか?」
「私に毒は効きませんから、大丈夫です。 そもそも、生理機能も人間とは違いますし」
マジで、こんなのをどうやって造ったんだろうなぁ。 全くもってゼロってのは何者なのか?
科学と魔法を融合させて、普通の科学じゃ出来ないような事も出来るのかもしれない。
実際、師匠やステラさんの防御魔法や大攻撃魔法だって、元世界のテクノロジーでも不可能なのだ。
その謎テクノロジーの結晶、ナナミの口にドラゴンの肉を含ませる。
彼女は咀嚼した後に、ゴクリと飲み込み、しばし沈黙。
「どうだ?」
「……」
俺の問いかけにも無言だが、毒の有無を確かめているに違いない。
「大丈夫です。 毒はありません」
彼女の言葉を信じて、肉の小片を口へ放り込む。
噛む、噛む、脂身は無いな。 鳥の胸肉みたいな感触だが――無論鶏肉ではない。
「どうでも良いが、かったい肉だなぁ」
しかし、普通に食える。 堅いが美味い肉だ。 肉を噛み締めながら、指揮所の殿下へ叫ぶ。
「殿下! これだけの肉、早々に傷み始めてしまいます。 どうでしょう、腐らせるぐらいなら、住民達に配ってしまわれては!」
「う~む」
「これだけの量は手早く保存も出来ませんよ」
「塩漬けにするとしても、大量の塩が必要になるか……あい解った!」
殿下は、マイクを取ると、住民達の方を向き声を張り上げた。
『ここに大量にある、ドラゴンの肉を我々だけでは処分できないので、食える部分は住民達に分配することにする』
「「「「「おおおおおお~っ!」」」」」
住民達が一斉に沸いた。
掛かる事態は迅速をもって良しとする。 早速、人手を増やして、肉を切り分ける作業に入る。
ナナミの目測では、ドラゴンの体重は100t強。 10万人で分けて、1人1kg――20万人なら500g。
無論、100tの重量、全部が食える肉でもないから、ここにいる人数を加味して、1人500gが妥当な線か。
余ったら、その分は保存するなり、商人に売るなりしても良い。
住人1人当たり500gの肉が、増員された獣人達によって切り分けられていく。
パワーが必要な仕事は獣人達の独擅場だ。
しかし、計る仕事や数字の扱いには逆に向かない。
切り出された肉は、お城の役人達によって、棒天秤によって計量されて住人達に分配される。
肉を受け取った住民の手には炭によって×マークが書かれて、二重取りを防いでいるが、一家4人いれば2kgも貰えるわけで、インチキする奴もいないと思われる。
それに、目の前に真学師がいる限り、嘘をつけばすぐにバレるので、誤魔化す連中は少ないはずだ。
そのまま手を出して、肉を受け取る者。
そこら辺に生えている葉っぱで受け取るおばさん。
肉を受け入れる桶やボウルを取りに自宅へ走る者、住民達の行動は様々だ。
殿下にドラゴンの素材を譲ってもらえないと解った商人達は、住人達に配られた肉に群がった。
なにせ、本物のドラゴンの肉だ。
こんな貴重な物は滅多に手に入らない。
住民からしてみても、食らえば不老長寿になれると真しやかに噂が流れる神獣の肉。
高いなら、売っても良いが、安価なら食う。 ここら辺は商人との駆け引きだ。
特に、殆どの家を吹き飛ばされた、貧民街の住民達は少しでも高く売って、生活の糧を得たいだろう。
需要が逼迫すれば、当然物の値段も高騰する。 今は、肉を保存するため使う塩の需要がそれに当たる。
当然、ファーレーンの塩の値段もウナギ登りだが、これについては、自分達も商人ならば同じ事をするはずで、とやかく文句は言えない。
必要な物を値段釣り上げて高く売る。 これは、商売の基本だからだ。
ただ、相手もさるもの、この事を見越して、大量の塩を持ち込んだ商人もいるらしい。
ここら辺の想像力が、商才と言えるものか。
住民達に配られる肉が切り分けられる傍らで、ドラゴンの内臓へのアプローチが続いている。
「ドラゴンの体内に毒物が残っている可能性がある。 液体が溜まっているような臓器には、十分に注意してくれ」
作業をしている、獣人達に注意を促す。
ガキの頃、親父が解体した鶏を見たのを初めとして、この世界へやって来てからも、沢山の鳥や四脚の解体をしたが――まさか、ドラゴンの解体をするなんてなぁ。
内臓へのアプローチが始まって、最初に引きずり出されたのは、パンパンに膨らんだ巨大な臓器。
「これは燃料袋じゃないよなぁ……師匠?」
「これはおそらく、胃袋でしょう」
師匠の見立ては、ドラゴンの胃袋というこの臓器。
これだけ膨らんでいるということは、中に何か入っているはずなのだが……。
その巨大な肉の袋が切り開かれると、作業を眺めていた住民達から悲鳴が上がった。
「うわぁ!」 「きゃぁぁ!」
悲鳴は様々だが、いきなりこんな光景に出くわしたら、そりゃ悲鳴も上がるってもんだ。
巨大な刃物によって切り開かれたドラゴンの胃袋から酸い臭いと共に流れ出てきたのは、原型をとどめた人間の死体。
しかも、赤、緑、金糸の刺繍と見るからに高価そうな綺羅びやかな服装をしている。
「殿下!?」
殿下に、突然目の前に出現した、現状の確認を試みる。
「ふっ、知った顔がおるわ」
殿下のお話によると、ドラゴンの胃液に塗れた哀れな遺体の主達は、帝国の重鎮等だという。
ぱっと見、西洋風な服装が多いのだが、中には和服のような服装もチラホラ散見される。
俺を襲ってきたフェルミスター公爵始め、俺の魔法施術を受けにファーレーンにやって来た貴族達は、西洋系の服装や装備をしていたのだが、元帝国人のミズキさんや、お城が主催した祭りにやってきた帝国の外交官などは、東洋風の格好だった。
どうやら、貴族の格に関係なく、皇室に近いほど東洋風な格好になるらしい。
なるほど、この手の情報に詳しいのは、ステラさんだ。
彼女に、詳しい説明を求めようとすると、彼女はいきなり甲高い声で笑い始めた。
「ぷっ! あははは! クソざまぁぁぁぁ!」
そう高らかに叫んだステラさんは、何を思ったか、青色のドレスの裾を捲り、白くて長い脚をのぞかせた。
「ち、ちょっと、ステラさん! 何をするんです!?」
「いやぁ、余りにざまぁ――な光景だからさ、小便でも引っかけてやろうかと思って」
ゲラゲラ笑いながら、そんなことを宣うので――ドン引きしながら強引に止めさせたのだが、観客達からはヤンヤの声援が飛んでいる。
ちょっと、待て。
この世界、遺体に対する尊厳等は少々拙いところがある。
どんな悪人でも、死んだら神様という元世界とはちょっと異なるので、戸惑う事も多い。
「殿下、この死体を塩漬けにして、帝国へ送り返せば、金が取れますよ」
ステラさんを止めるために、殿下へそんな進言をしてみる。
「おおっ! それもそうだな。 というわけだ、ステラ殿自重するようにお願いする」
「ちぇっ!」
さすがに、そうと決まれば、ステラさんも無茶は出来ない。
結局、ドラゴンの胃袋から引きずり出された遺体は、31。
よくもまぁ、こんなに入っていたもんだ。 帝国を襲って、すぐにファーレーンまでやって来たので、消化しきれなかったのか。
でも、腹いっぱいなのに、ファーレーンを襲ったのか?
それとも、遊びのつもりだったが、俺の作った兵器群で攻撃されたので、逆に興味を示したのか?
相手が死んでしまったドラゴンなので、確かめる術などもう無いのだが。
見るからに立派な刺繍等が施された服に身を包んだ遺体達。
高貴な身分でも、やんごとなき人でも、死んだらタダの肉の塊。
まさか、ドラゴンに食われて人生を終了するとは、夢にも思ってなかっただろう。
ファーレーンの塩商人が呼ばれて、塩の調達が始まる。
塩の需要が高まって、値段が高騰しているが、殿下相手に無茶な商売をすれば、お城の御用聞きを失い兼ねない。
殿下も、値段が高騰しているのを承知しているので、無茶な要求はしない――多少高い塩代を払っても、帝国貴族から金をせしめる事が出来るからだ。
塩漬けにした遺体と、殿下と師匠、ステラさんの署名を入れて送り返す。
そうすれば、敵国といえ、身分がしっかりとした3人の署名を無視する事は出来る筈もなく――。
よくぞ身内の遺体を取り戻してくれました――と、逆にお礼を言わなければ、貴族の沽券に関わる事だと言える。
盛り上がっていた、ドラゴンの解体現場だが、人間の死体が胃袋から出てきてしまったので、一気にトーンダウンしてしまった。
人を食ったドラゴンの肉を食って良いものなのか? そんな倫理的な葛藤もあるのだろう。
ただ、この事でドラゴンの肉の受け取りに並んでいる人の列が減ったかと言えば、そうは見えない。
この場所で食わなくても、家に帰って食う――そんな人々もいるのだろう。
それでなくても、ここには死臭が充満し、とても飯を食う状況では無いように思える。
そんな事にもお構いなしに、肉を焼いて食っている連中もいるのだが……。
巨大な骸から引っ張りだされた内臓は、師匠が魔法で作ったプールに投げ込まれて、虫の餌になっている。
放り込まれているのは、安全と確認された、腸や肝臓――その他だ。
虫は、街の子供達に探させて、銅貨2枚(1000円)で引き取った物。
先着20匹に金を払う約束だったが、集まったのは25匹で、結局、全部引取りプールの中へ放された。
餌を与えられた虫はすぐに、肉を喰らい尽くして、巨大化するだろう。
巨大化すれば、彼等は更に大量の餌を食うので、おそらくあっという間に内臓の処分が済むと思われる。
「真学師様、石とか見つけたら、どうしやす?」
獣人の1人がそんな事を言ってきたのだが、石というか、結石だな。 鯨の結石も何とか香とかいって、高価な物らしいからな。
ハーピーを倒した時に貰った、石も結構値が張るといっていたし……。
「まあ、もし見つけたら、褒美をやるよ」
「ホントですかい?」
「本当だから、くすねるなよ」
「ウチ等じゃ、売るために経路も無いし、偽物とかケチを付けられた挙句、結局買い叩かれて終わりですからねぇ」
獣人達を監督しているニニがボソリと呟いた。
まあ、そんなところだろうなぁ。
どんな物でも、売るためには販売ルートという物が必要で、ルートがあれば、大した物でもなくても値段がついたりする。
語弊があるかもしれないが、アート作品などがいい例だろう。
かくいう俺も、師匠の弟子となり、真学師という身分がなければ、どんな発明をしたとしても買い叩かれて終了――そんな結末になっていたかもしれないのだ。
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作業も順調に進み、お昼近くなったので、俺は昼飯を作るため自分の工房に引き上げる事にした。
シンクは外してしまっているので、台所には大穴が開いているが――まぁ、なんとかなる。
昼飯の材料はもちろん、ドラゴンの肉。 そして、試してみたい事があったので、脂身と脚の指の骨も何本か貰ってきた。
指の骨といえど、牛の大腿骨程もあり、デカい。
ナナミに手伝ってもらい、極太の骨を割り、骨髄を掻き出し、丸ごとの野菜、昆布だしと共に圧力鍋に投入。
最近、料理を作る量が多くなったので、それに合わせて圧力鍋も寸胴型の大型を製作していた。
朝、ナナミが用意したスープもコイツで作られていて、これなら30人前ぐらいは余裕だ。
魔法で圧縮弾を作り、材料を放り込んだ圧力鍋に投入すれば、あっという間に圧力が掛かる。 これで、しばし煮る。
煮ている間に、ドラゴンの肉を切り刻みミンチにして、堅い肉を食うにはこれが最善だと思う料理を試してみる事に。
ミンチをボウルに入れ、みじん切りにした玉ねぎと、塩、スパイス、卵――ドラゴンの肉は全く脂肪分がないので、別に持ってきた脂身を刻んで投入。
この世界では歯ごたえがあった料理のほうが好まれるので、繋ぎに小麦粉をいれてみた。
十分に練り出来上がったタネを適当な大きさにして、手のひらに打ち付け空気を抜いた後、中心を凹ませる……。
そう、これは、ドラゴンハンバーグだ。
せっかく作って不味かったら困るので、少々千切って焼き、味見をしてみたが、こりゃ美味い。 間違いなく美味い。
朝に作ったワンタンモドキが中々美味かったので、ハンバーグ用に作ったタネを薄く延ばした小麦粉で包んで再びワンタンモドキを作ってみた。
スープが出来上がったので、別の鍋に移し、ワンタンモドキを入れて煮込む。
これは豚骨ならぬ、竜骨スープという事になるだろう。
豚骨は白濁するまで煮込むと嫌な臭いがするが、竜骨は大丈夫のようだ。
料理の匂いを嗅ぎつけて、フローが起きてきたが、相変わらず裸のまま……。
「フロー、殿下がお見えになるから、服を着ろよ」
「わかったっす」
さすがのフローでも、雇い主の前で裸は拙いという、常識的な判断はあるらしい。
まあ、俺達は身内だから――そんな意識が彼女にはあるのかもしれないが……。
ナナミと一緒にテーブルに配膳をしていると、殿下達がお見えになった。
「ショウ、其方がドラゴンの肉で料理を作るというので、ヴェルガーも興味津々のようだぞ」
お城の料理人、城内では白っぽい料理服を着てトレードマークにして、城内一の紳士とも言われるヴェルガーさんもやって来ていた。
職人と言われる人は、頭が堅い人も多く、新しい技術や知識を頑なに拒否する人も多いのだが。
このヴェルガーさんは、かなり柔軟だ。
面白そうな、料理を聞けば、積極的に取り入れたりしている。
その甲斐あってか、殿下もヴェルガーさんの料理を召し上がる機会が増えたと、彼も喜んでいた。
努力している部下を労わねば、殿下の心情に反するのだろう。
そして、ここへやって来た初顔が2人。
ドラゴンの解体を指揮していた、革屋の婆さんと、オニャンコポンの主ニニだ。
2人共、この部屋の明るさに眼を回している。 やはり、ここへ来た人達が最初に驚くのは透明な水晶ガラスの窓から差し込む陽の光のようだ。
「あたしのような下賤な者が、こんなところに入って良いんですかねぇ?」
婆さんは、洗ってきたとはいえ、汚れた服装でこのメンツに加わることを気にしているようだ。
「婆さん、気にする事はないさ。 どんな職業も、どんな人種でも、アマテラスの下では皆一緒。 ドラゴンの胃袋に入っちまえば、皆同じさ」
「とは言え、ああはなりたくないけどねぇ」
ステラさんが苦笑いしながら言う。
「妾とて、一歩間違えば、ドラゴンの腹の中だったという訳だ。 其方達は、ドラゴンの臓物に塗れ、十分な仕事をしてくれている。 多少なりとも労わねば、妾の顔が立たぬ」
「まあ、騎馬でひっくり返った、貴族領の騎士達に比べたら、十二分に殿下のお役に立っているのだから、遠慮しなくて良いと思うぞ」
「全く、その通りだな。 あ奴等め……」
貴族達の無様を思い出して、ブツブツと文句を言っている殿下達にスープをお出しした。
「最初にスープを、今から肉を焼きますので」
一口スープを啜った殿下が、驚嘆の声を上げた。
「おほっ! これはまた夢に出そうな程、濃厚なスープだの!」
「これは一体……」
ヴェルガーさんも、スープの原料が気になるようだ。
「そのスープは、ドラゴンの骨髄で作りました」
「なんと! 骨髄とな」
ヴェルガーさんも一口啜った後に、スープを見つめたまま、唸っている。
「こりゃ、美味いねぇ。 こんな贅沢したら、後が怖いよ」
婆さんがそんな事を言うのだが……。
「婆さん、牛や豚の骨でも、似たようなスープは作れるぞ。 魔法を使わないと、時間は掛かるけどな」
「へぇ!」
ハンバーグが焼きあがったので、皆に振舞う。 当然、ソースも掛かっている。
「おお、これは柔らかいが……美味い!」
「うまっ! うまっ!」
「ドラゴンの肉は、非常に堅いので、このように加工して調理してみました」
「なるほど! 細かく切り刻んだ肉と、野菜やスパイスと混ぜて、料理として再構築したのですな」
ヴェルガーさんのプロの料理人らしい、分析が光る。
「これは美味いねぇ。 オニャンコポンで出してる肉玉を平たくして、焼いたような料理ですか」
ニニも、ハンバーグには興味を示したようだ。 堅い肉じゃないと、食った気がしないなんて言われるかと思ったが、意外と好評のようだ。
豆腐は不評だったが、柔らか過ぎただけだったか……。
「ドラゴンの肉には脂身が無いので、別に採取した皮下の脂身を刻んで入れたりしています」
「この上に掛かっている調味料は?」
ヴェルガーさんは、ソースも気になるようだ。
「それは、野菜を煮込んだ物にスパイスと調味料、そしてリンゴ酢を加えた物で、とろみはマメ科の植物を加工した物を使っています」
ここで使っているマメ科の植物は元世界のタマリンドに近い物になる。
「1つの料理に、よくぞこれだけの要素を詰め込んだ物よのう……」
「全くでございますな」
殿下の唸りに、ヴェルガーさんも相槌を打つ。
「ひゃぁ~、肉なんて食うのは10年ぶりぐらいだよ」
婆さんは突然、そんな事を言い出した。
「肉や革を扱っているのに、肉は食わないのか?」
「いやさ、歯が悪くなってしまってねぇ、ここしばらく堅い肉なんて食えなかったのさ。 こんな美味い物を食っちまったら、益々長生きしてしまうねぇ」
「ドンドン長生きしてくれよ。 年寄りは国の宝だからな」
それを聞いた婆さんが、突然涙ぐみ始めた。
ああ、これは拙い。 年寄りの人情話は長いんだよ。
元世界の曾祖母のところへ遊びに来た年寄りに捕まってエライ目にあったことがあった。
グスグスと鼻を鳴らす婆さんをなんとか宥めてハンバーグを食わせる。
「歯が悪くても、肉をこうやって食えば良いんですね……。 真学師様、ありがとよ」
「違う動物の肉を混ぜても、美味く成る事があるぞ。 色々と試してみれば良い」
牛と豚の合挽肉なんて物もあるから、この世界独特の組み合わせもあるかもしれない。
魔物とか虫とかな……元世界の常識はあてにならない。
「ショウ様! 調理してばかりで、全然食べていないではありませんか。 私が食べさせてあげます。 あ~ん……」
ミルーナが、調理ばかりして料理を食べていない俺を不憫に思ってくれたのか、皿に乗せたハンバーグを食べさせてくれた。
「んぐんぐ、美味い! 美味すぎる!」
ハンバーグを頬張りながら、振り返ると、婆さんを除く女性陣の眉がつり上がっている……。
「あたしも、あと40歳程若けりゃねぇ……」
「おい婆さん、エルフ様の前で年の話は厳禁だ」
「おっと、こりゃ失礼」
婆さんがヒャヒャヒャと笑いを飛ばしているが、この拙い雰囲気をどうするんだよ……。
「街の噂じゃ、伯爵領の聖女様とショウ様が怪しいって話だったんですが、本当なんですねぇ」
「待て待て、ニニ。 変な噂を街に流すなよ」
「私は構いませんけど?」
ミルーナはそんな事を言うのだが、構うだろう。 そりゃ、拙いよ。
「ミルーナ、其方もしつこいのう。 いい加減に諦めるがよい」
「あら、私の想いに、勝ち負けなどありませんけど」
殿下とミルーナの間に、見えない火花が飛ぶ。
さすがに、殿下の前ともなると、師匠達も口を挟めなくて、黙々とハンバーグを食べている。
この光景を黙ったまま見ていたナナミが、無表情のまま口を開いた。
「ショウ様、いっその事、全員に種付されればよろしいのでは?」
「種付言うな!」
「失礼いたしました。 それでは、交尾ですか?」
「同じだ、同じ!」
思わず、ツッコミを入れてしまったが、ドラゴンの解体もまだ途中なのだ。
さっさと飯を食って、そちらを優先しないとな……。
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