10話 異世界30分チートクッキング
台所に戻ってくると、料理の下ごしらえを始める。
異世界30分チートクッキング――。
薪を運んで竈に火を入れると、鍋にお湯を沸かす。
料理だと連続で温め続けないとダメなので、魔法で温めは向かないだろう。
こういうのはやっぱり適材適所だね。
ただ、鉄や石を加熱出来れば、高い温度は保持出来そうだから、それをコンロとして使用したりは出来そうだな。
――と、ここで気づいた……菜箸がない(長いやつね)あれがないと、凄い不便。
急遽ティッケルト(竹)を鉈で割って、菜箸を作った。
お湯が沸いたら、作った魚の干物を臼で砕いて入れる。だが、そのまま入れっぱなしだと魚臭くなるので、グルグル3回転ぐらいさせたら、すぐに濾す。
出汁殻はどうしよう。こんな何もない世界じゃこれを捨てるの勿体ないよね。
取ってきた蜂蜜で煮て、甘露煮にでもするか。
出来上がった出汁を味見するために小鉢に入れて、岩塩を振ってみる。
……ウメぇー!
くそぉ、味噌汁飲みてぇよ! 米の飯が食いてぇ! 銀シャリだよ銀シャリ! チクショウ!
もう、そんなのも食えないのか~とか考えると、ちょっと悲しくなってきたわ……。
でも、豆と麦があるなら、麦味噌は作れるじゃん。
米だって探せばあるかもしれん。麦はあるから、麦飯は食えるしな。
やってやるぜ! ……多分。
出汁に塩と野菜を入れて煮始める。
塩梅は、いつもの料理の感じが師匠の好みかもしれないから、それを参考にして、ちょっと薄味。
つくねには、小麦粉と香辛料と塩を混ぜてよく捏ねて、丸めて潰す。
卵が欲しいけど、我慢。
つくねはいっぺん炒めたほうが良いか――浅めの鍋を用意して、油を探す。
菜種油みたいのがあったんで、これでいいや。
丸く潰したつくねを炒めた後、鍋に投入。
あなたのためにチャイニ~ス~♪ かき混ぜながら歌う俺。
ちょっと鍋を味見……うん、美味い――実に異世界情緒に溢れている。
炒めに使った鍋に、蜂の子も投入し炒めて塩をふる。
ホントはバターが欲しいところだが――大分出来たわ。
「なにかいい匂いがするぅ……」と師匠が台所を覗き込んできた。
「師匠、もうすぐ出来ますんで、仕事しててください」
「ち、ちょっとショウ!」
ハイハイ――と言って、師匠の両肩を押して、仕事部屋に押し戻した。
これからちょっと裏技。
鍋にいっぺん冷やす魔法をかけて、そして再び温める。
こうすると、具材に味がしみこむ……はず。魔法ならではの料理法、これは使えるかもしれん。
目指すか、魔法使い料理人。また真学師の道から外れてるって、師匠に言われるネ。
あれこれやって、やっと完成!
材料集めて、ゼロから作るとなると結構手間かかるなぁ、魔法があって大助かりだぜ。
------◇◇◇------
テーブルに食器を並べ、料理の盛りつけが終わると、師匠を呼んだ。
「師匠、出来ましたよ、一緒に食べましょう」
師匠は部屋から出てきて、テーブルにつきながら――。
「いい匂いがしてくるので、仕事に集中できませんでした……」
そんなことを言い出した。
「一応、師匠の塩梅を参考にして味付けしましたが、お口にあえば良いのですが」
師匠は1口スープを啜って
「美味しい……」
「いただきます。うん、良い味出てるな、つくねも美味い。これは、骨ごといったのがよかったか。こりゃ、実に美味い鳥だな」
これは、焼き鳥にしてみたいな。
「ショウは、食べる前に何か言葉を言ってますが、それは神への感謝の言葉ですか?」
「宗教的な意味合いはないです。諸説紛々色々と言われますが、人間に食べられるいろんな生命への感謝の言葉だと思ってください」
「良い風習ですね」
それから、師匠は黙って食べていたが、そのうち表情が曇りだして、ボソっと言葉を発した。
「私の料理、不味かったでしょ……?」
ギクゥッ!
「いやぁ、そ、そんなことは、ははは――は、あの、すみません……」
「別にショウが謝ることじゃないでしょ」
「そ、そうですが、すみません」
「……これからは美味しい物が食べられそうね」
「任せてください、少しでも師匠に恩返しをしないと」
「そんな事を気にしなくても良いのに……」
「そうはいきません」
師匠がパンを口に運びそうだったので、蜂蜜の入った小壺の蓋を開けた。
「パンにはこれを塗ると美味しいですよ」
「これは……」
「蜂蜜ですよ」
「わざわざ採ってきたのですか? 刺されませんでしたか?」
「大丈夫ですが、巣を一つ潰してしまいました。少しずつ採っていけば、巣はどんどん補修されるので、ずっと楽しめるのに……勿体ないことをしました」
「目先の利益のために、大局を見失ってしまうというのは、この世も同じですね」
「はい」
「ショウの御国ではどうでしたか?」
「まあ同じですよ。目先の利益で自然を破壊して、その結果――国土は荒廃。もしくは豊かな資源があったのに無計画に乱掘して国家破綻、それこそ数知れずです」
「どこでも同じですか」
「はい、他の国は違うように見えても、結局同じなんですよねぇ……私の国の言葉で、隣の芝生は青く見える、なんて言いますけど」
「ふ、それも真理ですね」
あ、師匠、蜂の子も美味そうにムシャムシャ食べてる。案外、こちらではメジャーな食材だったか。
結構食べるなぁ、食が細いわけではなかったのか。
「それにしても、ショウにこんな特技があるとは知りませんでした」
「特技というほどではありませんが、料理は好きなんですよ。というか、物造り全般が好きですね。なければ作る、これがモットーです」
「モットー?」
「ああ、え~と、座右の銘ですかね」
「なるほど」
「師匠風の言い回しをするとですね、料理の理を明かして真理を追究すれば、美味しいものに近づくんですよ」
「それでは、私はかなり精進が足りませんね」
「あ、いや、そういう意味では……」
「ふふ……」
なんだか、にこやかに笑ってる、機嫌は直ったみたいだ。
よかったよかった。
------◇◇◇------
夕食を食べ終わって、師匠は居間のテーブルでお茶を淹れている。
コレは自分でやるらしい。
俺は台所で片づけと食器を洗いながら、師匠に質問をしてみる。
「師匠に1つ質問があるのですが」
「なんでしょう」
「治癒の魔法というのはあるのですか?」
「ありますが、ショウには無理ですよ」
「どんな病気や怪我でも治るとかそういう感じなんですかねぇ?」
「そんな便利な物ではありません、基本は人体の自然治癒能力を高めるという物ですから」
「それじゃ、健康な人は治癒魔法で治りやすいけど、病人は治り難いってことですか?」
「そうです、病気の末期だとまず無理ですね」
俺は洗い物が終わって居間に戻ってきた時には、師匠はお茶を静かに飲んでいた。
「やっぱり、病気というのは早期発見、早期治療が一番良いのですか」
「そうです、それが真理です」
俺も、ティーカップを持って、お茶を飲み始める。
「病気と言えば、ここら辺で注意すべき伝染病とかあります? 例えば、鼻が落ちる病気とか」
「そういうのは、そういう行為をしないと感染はしません。ショウは興味があるのですか?」そこはかとないプレッシャーと共に言葉を返してくる師匠。
「いいえ、聞いてみただけです」やっぱりあるのか。
「それじゃ、結核とか肺病の類はどうなんしょう?」
「結核……?」
「咳をしまくって、最後には大量の吐血をするような病気ですけど」
「労咳ですか、それは多い病気ですよ」
「それでも、感染初期段階なら、治癒魔法で治るんですよね?」
「治ります」
「それでは、1度感染して治った病気には2度感染しないというじゃありませんか。健康な人に故意に初期感染させて、強引に治癒魔法で治して、防疫するというのはどうなんでしょう?」
師匠はお茶を飲む手をピタリと止めて、目だけで俺を制して、短く鋭く切り込んできた。
「その話を誰にききました?」
「いいえ、私の思いつきですけど」
「誰かに話しましたか?」
「ここには、私と師匠しかいませんが……」
「わかりました。その話は他言無用です。いいですね?」
「はい」
師匠はティーカップをそのまま置くと、自室に戻ってしまった。
……俺はまた何か踏んじゃいました?
予防接種的な物を魔法で代用できそうな話だけどなぁ、やっぱりこういうのは禁忌なんだろうか。
種痘も最初は迫害されたとか聞いたし……。





