1話 とりあえず 異世界にて(挿絵あり)
目が覚めるとそこは異世界でした。
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お城の中庭にある俺の工房で、まったりと過ごす。テーブルにはピコというコーヒーに似た飲みもの。
ここは四方を城壁で囲まれているお城の中だ。長方形の結構広いスペースがあったのだが、荒れ地で草ボーボーのまま、放置されていたので、俺が手入れをして使えるようにした。
お城の主、王女殿下にも許可を取って、ここに自分の工房を建てて住み着く事にしたのだ。
この中庭で畑を耕し作物を植えて自給自足。実験用の植物群や農作物の品種改良も行っている。
この安定した生活を得るために、紆余曲折があった。
俺は、異世界の森の中で目を覚まし彷徨った挙げ句、死にそうになったところを師匠に助けられて、その師匠の下で『真学師』という職業の見習いをやっている。
真学師というのは、「物事の理を明らかにして、真理を追究する者」と言われていて、まあ日本で言う『科学者+技術者+賢者』みたいな者。
時には、物事の理を明らかにして、国を照らし――。
時には、新しい発明品を作り、国を豊かにし――。
そして、国の政にアドバイスをして、国を助ける。
実力がある国&王侯貴族は、その真学師という人物を抱え、いろんな研究や発明をさせてそれを外部に売って商売をしている。
つまり真学師というのは、国の重鎮――立派な国の戦略級の重要人物扱いだ。
とはいえ、この世界には技術も知識も不足している、元世界の中世ぐらいのレベル。
そこで俺は、日本にいた時にネットでググッて蓄積した、チートとも言える知識を基にして、いろんな発明をして小金を稼いでいる。
ただ、なんでも作ればいいってものではなく、この異世界はマジでなんにもない。
機械っぽいと言えば、羅針盤やら原始的な時計があるぐらいだ、工具すら満足になくて、ほとんど俺が自作している始末。
そんな異世界で、コンピューターやらスマホとか言い出しても、全く意味がない。
日本で言う、実用新案レベルのちょっと便利な物ってのが受ける。
俺がこの異世界に来て最初に作ったのは、井戸に取り付けるレバーポンプとかガチャポンプとか言われる物と脚立だが、これは大ヒットになってアッというまにこの異世界に広まった。
それからいろんな発明をして売り出し、現在、俺がお世話になっているこの国は、好景気に沸いている。
だが、国の景気が良くなれば、他の国から狙われたり、疎まれる確率が上がるのも事実。
この国にも魔導師や騎士団はいるが、大国に比べればかなり劣る現実。多勢に無勢。戦いは数だよ兄貴。
そこで、数の劣勢を補うための防御の兵器群の開発や、抑止力とするために、火薬の合成も行っている。
正直、火薬の技術と知識をこの世界にもたらしていい物なのか? ――それには、かなり悩んだ。
戦争に火薬が使われるようになってしまえば、死者の数が数桁跳ね上がるだろう。
マジで真剣に悩んだ。
しかし、お世話になっているこの国のためにもなるかもしれないので、とりあえず火薬を合成。その使用の判断は、師匠とこの国の支配者――つまり王女殿下に委ねた。
火薬の原料となる硝石の合成は極秘にしたいので、なるべく一般人が近づかない場所を選んだ。
それは、『魔女』と恐れられている、俺の師匠の自宅近辺――。
そこなら余程の好事家以外は誰もやって来る事はない場所。
師匠の自宅の脇を下ると川が流れていて、その上流には俺が森の中を彷徨った挙げ句倒れていたという滝がある。
師匠は、その滝までよく散歩するのだが、そこで瀕死になっている俺を見つけたらしい。
そう、感謝すべき命の恩人。
見習いとはいえ、この職業が出来るのも全て師匠のおかげ、いくら異世界のチート知識を持っていても、どこの馬の骨だか解らん奴が相手にされるはずもない。
その師匠には足を向けて寝られない。
火薬という兵器を作って、そんな師匠に嫌われたりしないだろうか? 悩みは尽きないが、師匠もこの国の支配者も聡明な方だ、きっと理解して正しい判断をしてくださるだろう。
「んあ?」
俺は、椅子からずり落ちそうになって目を覚ました。
窓から斜めに差し込んだ陽の光でポカポカになり――ウトウトしていたらしい。
お陰ですっかりピコが冷めてしまった。
俺は力を使うと、飲み物を温めなおす――すると、黒く苦い液体から白い湯気が立ち上る。
これが『魔法』だ。
この異世界には、魔法を専門に使う魔導師という職業の人もいるが、俺達真学師も魔法が使える。
ただ、真学師の魔法は、物事の理を解明する過程で、ついでに魔法が使えるという感じなのが、魔法が本職の魔導師とちょっと違うところだろう。
無論、真学師も魔導師が使うような呪文を使う――所謂魔法も使えるのだが、何故か俺は、それが全く使えない。
才能がないのか、何か他の要因があるのかは、全く不明。
だが、使えない物は仕方あるまい。使える物で頑張るしかないのだ。
誰かが言ったな――「人は配られたカードで勝負するしかないと」
このチートとも言える魔法を使うことで、火薬の原料となる硝石や、発酵を使ったアルコールの生成を行っている。
工房に陽の光が入ってきているが、窓に嵌っている透明なガラスも俺が合成して、この国にもたらした。
俺が使えるようになった魔法は超絶地味なやつばかりだが、コレが案外役にたつ。
物を温める魔法
物を冷やす魔法
植物の発育や、発酵を促す魔法
等々……
物の温めは鍋一個分とか、植物の発育促成も精々2~3株とか、派手な要素は皆無で、超地味なやつばかりだ。
地味とはいえ――例えば糖蜜を用意し、酵母を投入して発酵促進の魔法を使う。すると数週間~数ヶ月かかる醸造が数時間で出来てしまう。
こいつは使える力だし、すごく便利だ。
この魔法だけでも、真学師になった価値があるかもしれない。
地味な魔法でも使い方次第では強力な武器になる。
それも結構後から気がついた。要は使い方次第って事だ。
つ~か、コレだけで十分飯が食えるよ、うん。