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鉄処女のリゾンデートル『冬眠除夜』  作者: 囃子原めがね
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間章  熱に徹するは冬夜と語り

 間章  熱に徹するは冬夜と語り



 暗い室内に多くの寝息と火の音、それと静かな声が囁いていた。

 パチパチと音を立てて、石油ストーブが室内に炎熱を送り出す。

 そこに手を当てている重ね着の女が、穏やかな声を出した。

「……て、まあ~、三人の出会いはこんな感じだったわけ~」

 眠たくなる声で稔珠は、床に雑魚寝している仲間たちを見回した。

 光を落としたフロアで、仲間たちが深い眠りに付いている。銀架たちが毛布を掛けて回った時にも、誰一人目を覚ますことはなかった。

 すっかり話し切った顔をして続けない稔珠に、銀架は首を傾げた。

「ってあれ? そんな後味悪い感じで終わりですか? 最後二人とも立ち去って仲間にならなかったし、子供たちとか瀬田組とか、その後どうなったんですか?」

 というか。

「稔珠さんが出てこなかったです。宣伝に偽りありです」

「あっはは~。問題解決編や~、私の登場は後でね~。久々に長く喋ったから~、疲れちゃった~。ベロとあごへとへと~。休憩させて~」

「それなら俺、ココア入れてきますよ。銀架ちゃんも飲む?」

 はい、と手を上げて返事する。屏風が腰を上げて台所に向かった。

 今は、午前一時を三十分ほど過ぎた頃。昔話が始まってそろそろ三時間が経つ。こんな遅くまで起きていることのない銀架は欠伸を漏らし、噛み締めた。

 正直言えば、かなり眠い。だけど好奇心を燃料に脳も血を巡らせる。

「お三人方の昔話、面白いです。やっているのは今とそう変わりませんけど、鋭利さんたちも私ぐらいだった時、やっぱ青かったんですね」

「そ~だね~。特に鼎なんか~、拗ねていた時期だったし~」

「ああ、そんな感じします。それにしても、三人とも昔から傍若無人だったんですね……。三つ子の魂百までとは言いますが、何というか、蛙の過去は蛙というか」

「あっはは~それは言えてる~。でも変われないよ~、人は~。特に本質はね~。銀架ちゃんも~、今のま~んま、お~きくなるんだよ~?」

 先達者の含蓄ある言葉に、色々とミニマムな銀架は唇を突き出す。

「むー、有りがた迷惑です。最後の敵は自分ですか。私めっ!」

 屏風が戻ってきた。ココアのマグカップをこちらに手渡し、銀架の隣に座り直す。

 誰ともなくカップに口を付けて、ほっと一息。

「じゃあ~私休憩中だから~、次~、屏風くん何か聞かせて~?」

「聞かせてって言われても、俺ストックないですよ」

 あはは~、と間延び笑い。後ろにグデンともたれ、彼女は言った。

「嘘吐け~、あるじゃんか~取っておきのが~。びょ~ぶくんが~、四年前に~、《金族》に来る前に所属していた~、《八部(はちぶ)、」

「ってわわああああああああああああああ! ストッ、ストッ~~~プ!」

突然叫び、立ち上がった屏風が稔珠の耳元で声を抑えて、言った。

「……それは勘弁してぇー! 鼎たちにもそれ隠してんだから! 何より銀架ちゃんいるし! 彼女がそこにぃー!」

 内緒話をしているつもりのようだが、動揺のせいでオール筒抜けだ。

「私? 屏風さんの過去に、私が何か関係しているんですか?」

「あっ、いや何でもない何でもない。無関係モウマンターイ」

 安っぽく誤魔化してから屏風の首が向こうに戻って、囁いた。

「……お願いしますそれだけはマジで。ってか何で貴女知ってるの! 酷い!」

「私も~浅部に伝手あるし~? ま~、無理に話してくれなくてもいいけど~。んじゃ~屏風君イジって和めたから、そろそろ続き始めま~す。あの後どうなったか~、二人も気になっているみたいだし~?」

「今、猛烈に気になっているのが、さっきのなんですけど……」

 チラ、と目をやった屏風の猛スピード首振りに、吐息し、

「ええ。チキンは忘れることにします。別段それ程興味ありませんしこの人に」

 と吐き捨てた。

 うわーん、と隣で大の男が見っともなく泣き出すが気にしない。

「き、気にされて欲しくないのに、気にされないのって辛い!」

「じゃあ話してくれますか?」

 すると途端に真顔になって口を噤んでしまうのだから、この屏風という男もよく分からない。どこまで真面目でどこから冗談なのか。

 ……全部冗談の可能性もあるのが、この人ですし。

 黙り合った銀架と屏風を見て、稔珠は柔和に砕けると言った。

「まとまったみたいで~。じゃあ後半戦スタ~ト~。鼎が、橋の上で叫んだとこまで話したよね~。あいつはね~、そん時こう叫んだんだよ~」

 稔珠は袂をユラユラ揺らして、ココアを口に含む。味と温度を楽しんでから飲み、彼女はゆっくりと語り始めた。

 静謐な夜は深まり、過去の物語は紡がれる。




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