閉幕 安眠暁を覚えず
閉幕 安眠暁を覚えず
十二月三日の朝が訪れようとしていた。
夜通し行われた一つの物話が終わり、語り手さえ夢に落ちている未明。
屏風は、ブルッと震えて、一人目を覚ました。
自分はソファに寄りかかるかたちで寝ていたようだ。座席では鋭利と銀架が抱き合って寝ていて、やはり苦しそうにしている。稔珠も置物のように動かない。
屏風は軽い鈍痛のある頭を抱えて、台所にノロノロと移動する。二日酔いは軽くある。身体に残っている倦怠感の多くは、寝不足と筋肉痛が原因だ。
蛇口を捻り、突き刺すような冷水を喉に落とすと意識がシャッキリした。変な体勢で中途半端な時間寝てしまったこともあるだろう、首や背中が痛む。
昨日、結局どこまで聞いたんだっけ? チーム結成まで行って、安堵の心地で旅立った覚えがあるが、グダグダの脳でもあったので、はてさて怪しいものだ。
「んー、そうして《金族》が生まれた、か……」
彼女は、その後のシリオたちの話をしなかった。
蛇足だと思ってか、気分良く終わらしたかったからか。
だが確かなのは、現在の浅部に《天楼族》という名の組織も、《深森の騎士》も《魔女の火と釜亭》も存在しないということ。そして、稔珠が今ここにいるという事実が、一つの結末を物語っている気がする。
稔珠が話さなかった。なら、自分らが知るのはそこまででいいのだろう。
口をすすいで屏風は身体を起こし、視界の右に人影を引っ掛けた。
出口のところにボンヤリ立っている一人がいた。
「……ん? もう起きたの、稔珠さん、っ!」
台所から出ていった屏風は、不意打ちにキスをもらった。
接吻。口吸い。キス? あれ? これって本当にキスなのかな。いやだって、唇と唇が触れているし、だけどっていうか何でだろう、って待て待てえええ?
脳内が乱麻し、プスンプスンと蒸気を上げるが、ふと口元が離れた。
えっへへ~、と得意そうな顔の、聞き慣れた声の彼女。
「へ、へ? 稔珠さん? な、何で俺、あれ? 夢でも見て?」
「屏風くんは~、モテなくて~、気が楽~」
赤面を押さえるこちらに対し、実行犯は涼しい顔して、ソファに突っ伏している銀架に屈み、ホッペチュー。銀架だけじゃなくて、その隣の鋭利にも、床に転がる鼎にも虚呂にもフィリアにも伽藍にもホッペチューを振りまく。
そしてから、満足げに屏風の前に戻ってくる。
「それじゃ、春までみんなを任せたよ、屏風君」
その時になって屏風は、彼女の身長が自分とそう変わらないことを知った。
ポンと肩を叩かれ、すれ違う。酒と醤油の臭いがした。
振り向いた時にはすでに、どこにも彼女の姿はなかった。
屏風は叩かれた肩と、とうに冷めている口元をそっと触れた。
「行っちまった、か。おやすみ稔珠さん。くれぐれも、いい夢を」
時刻は朝の六時。右に左に忙しくも騒がしく、楽しんだ宴会も昨日のこと。
思い出したように、屏風は仲間を叩き起こしに回る。
二日酔いや胃潰瘍で苦しんでいる彼らの介錯。部屋の掃除。衣服の洗濯。
とりあえず今日の仕事は、その辺から始めるとしようか。
The Metal Maiden's Reason D`etre
[Sleeping Bell] ……FIN




