第4話 神化&進転
警視庁
いつものように大野は出勤し、司法解剖の結果をまとめていた。
「ちょっと、宇多原刑事は?」
宇多原がいない。
「ああ、彼だったら今朝成田から出国したよ。」
係長が答えた。
「出国?どこへ?」
「アメリカさ。どこかは知らないけど。」
ニューヨーク国連本部
国際連合。第二次世界大戦後、連合国側が国際的な平和、友好関係の発展、協力を目的とした組織。
宇多原はそんな組織に身を置いていた。
「お疲れ様宇多原。刑事の仕事も。」
「そんなことはない。淡々と成せば楽だ。シンクレア。」
シンクレアに宇多原は英語で答えた。
「で、クリスマスツリーを見たいのか?こんな春に?」
「樅の木だからだろう。通称だ。」
「はいはい。」
地下
国連本部の地下にはクリスマスツリーという未知が植えられていた。
「こいつを保存しろって言う上の話の意味が点でわからん。」
(ほぅ…あれの受諾のついでに、調べてみるか。)
城南大学
ようやく実況見聞が終わり、水琴の大学生活も再開した。
中央のホールに、バスケ部のメンバーが集まっていた。その中には昨日の一年生も。
「あの…すいません。」
水琴は草蒲に話しかけた。
「どうしたのかな?もしかして入部するのだったら部室で話そう。」
「先輩!俺も入りたいです!」
水琴の話を食うように現れた新入生、佐東満。
「それじゃあ、君から先に。」
部室
佐東は部室へと連れられた。
何か妙にサッパリとしており、匂いもファブリーズで洗ったような匂いだった。
「ここは春になると綺麗さっぱりにしておくんだよ。いいだろう?」
「…どうしてここへ連れてきたんですか?別に掃除をさせるようでもないし…」
草蒲はカーテンを閉めた。
「選別さ。君がチームにそぐわない人間かどうかを調べるための…」
すると草蒲は消えた。
そして奇怪な姿へと変わっていた。
佐東は逃げようとし、ドアに向かった。
しかし開かない。
「無駄だよ。内鍵でね。外の部員しか開けられない。」
そして怪物となった草蒲は佐東の心臓めがけて長さ10cmほどの蒲公英の種を刺した…
嫌だ…!嫌だぁ!…
「新メンバーの加入だ。開けてくれ。」
三島商事
文目は普通に仕事をしていた。
しかしついボーっとなり、夢のことを考えてしまう。
なんか、夢の前にも見たことがあったなあいつ、たしかどっかで…
すると右腕に激痛が走った。
ぐぅわぁ…
線路で、少年がその父親と手をつないでいた。
向こう側に少女が一人、こちらを見ていた。
自分を見ているようだった。
テンテンテンテンテンテンテンテン…
電車が来た。
ガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトン…
ウィーン…
少女はいなかった…
ギャァァァ!
「どうしたリンドウくん?」
会社の先輩が話しかけてきた。
「なんでも…ないです。」
「いや〜キュ〜に腕抑えてさ〜なにやってんのかな〜て思って。」
「あの…今女子叫びました?」
「ん?何言ってんの?病院行った方がいいよ〜。部長に言っとくから〜。」
三島商事周辺
ということで上司から無理やり休暇を取らされた。
こんな時間をどう過ごす?もう腕は痛くないししかも…
結局、街を散策することにした。
と言っても、文目は人がたくさんいる場所が嫌だった。
町外れを歩いた。
平日ということもあって人が少なかった。まぁこんな感じだと思ってはいたが。と、
5才ほどの女の子が文目のもとをするりとすり抜け、文目から向かってちょうど左側の花屋に駆け寄った。
「わ〜きれい!」
「なにがいい?」
「このきいろいの!」
「はいどうぞ。」
「ありがとう!」
「ひとり?」
「うん。きをつける!」
「そう。」
店員は気前よく黄色いシンビジュームを一輪あげていた。
その店員は文目だった。
高城文目だった。
「あ、竜胆さん!」
あちらも気づいた。
「あの…これはどうですか?このピンクのチューリップ。」
「あ、いや…」
「タダでいいので、どうぞ…」
「あ…」
ピンクのチューリップの花言葉
「愛の芽生え」
城南大学
バスケ部員達は「掃除」をしていた。
「はい、倉庫の鍵。」
「おいブルーシートどこやった?ストックある?」
「あ、ここここ。」
新人部員、佐東満と草蒲はこの光景を見ていた。
佐東の顔は青ざめていた。
「このくらい普通だ。後々になれば慣れる。」
草蒲は佐東に話しかけた。
倉庫
城南大学からそこそこ離れた郊外の倉庫、そこで何かしようとしていた。
「おいちゃんとしろよ。」
「俺これやんの初めてなんスよ。」
「生コンどこある?」
彼らの証拠隠滅。コンクリート詰め。
こうして東京湾に沈めるのだ。
城南大学
「みんないないんですか?」
「なんか、どっか行ってた。」
「山木ー!」
「俺も忙しいんだ。そんじゃ。」
先輩にも聞いてみたがダメだった。
誰かの視線を感じた。
振り向いた先にはまたあの男がいた。
「仙堂水琴くん…ちょっと、聞きたいことがある。」
今度は話しかけた。
水琴の体は勝手に動き、逃げた。
「待て!」
構内 並木道
「なんだなんだー。」
「あいつなにやらかしたんだー。」
激走する水琴を見て生徒は面白おかしいことが起こっているのかと思い、笑った。
水琴は、当然ばてた。なんといってもこの10ヶ月間、ましな運動をしていない。
そこで水琴は考えた。並木道を外れ、森へと向かった。
「ちぃ…」
森
ハァ…ハァ…
水琴は木に寄りかかっていた。
「見つけたぞ。」
あの男だ。
しかし違う。
怪物だった。
水琴は再び駆け出した。
「無駄だ。」
怪物ことサングラスの男は、肩についたハンマーを水琴めがけて振り回した。
グシャァン!
水琴は幸い当たらなかったが、木が360度めちゃくちゃになった。
そして今度こそはともう一度ハンマーを振り回した。
その時。
バン!
チェーンが切れた。
「そこまでよ。」
水琴を尾行していたもう一人の女、立花梨楽だった。
「あなたのボディガードをしていたの。早く逃げて。」
水琴は全速力で、感謝も言わず逃げた。
「さぁ吐いて、なぜ彼を殺そうとしたか。」
「貴様らにも関係するが知らない方がいい。そこをどけ!」
バン!…バン!
梨楽は特殊な拳銃で男を撃った。
効果はそれなりにあった。
「これで決まれ!」
バン!…バン!…バン!…バン!…バン!
5連発撃ち、確実に仕留めたと思ったその時だった。
傷がどんどん癒えてきている。
「最初の2発はどうなるかと思ったが、特異体質でな。すぐに抗体を作る事ができる身体に成ったのだ。俺は。」
梨楽はさっきの5発で全ての弾丸を撃ってしまい、太刀打ちができない。
梨楽は、後ろ向いて逃げる。そうしなければ生きられないと思い、逃げようとした。
「逃げてみろ。逃げられないからな。」
梨楽は男に背を向けたはずだった。
それなのに今、目の前に男の背がある。
「俺は自分では動いてないぞ。ただ単にお前が軸になって俺が移動できるって能力を持ってるのを言い忘れただけだ。」
これは読者だけでなく、梨楽にも意味がわからなかった。
ただの徒手空拳力技のアンノウンスペックなら報告書に書いてあったが、物理法則を嘲笑するかのような能力は警察の報告書でも聞いたことがない。
恐怖心が沸き立ってきた。
その恐怖をさらに引き立てるかのように、梨楽に向かってゆっくりと歩み寄ってきた。
拳を振るい、梨楽に向かって…
攻撃しなかった。
「ふん、俺の目標はあくまで仙堂水琴でな。そして死よりも恐ろしい恐怖を味わせた方が俺は面白い。」
その死よりも恐ろしい恐怖を味わっい、梨楽は気絶した。
郊外
文目はピンクのチューリップに魅入られて、足を止めていた。
キュイーン!
先程の女の子が車から轢かれそうになり、クルマも大きくカーブした。
文目は驚くことしかできず、チューリップを落としてしまった。
「危ないなぁ!」
女の子は泣きじゃくれてしまった。
「泣くな!騒ぎ立てられる…」
女の子を轢きそうになったのは草蒲だった。どうやら倉庫に向かおうとしたのだろう。
未だに女の子は泣き、止まらない。
文目は草蒲に文句を言おうとしたが草蒲の口は止まらない。」
「第一きみが蛇行して走ってたんだ。きみが謝ればいいじゃないか。」
「お前、これ以上関わりたくねぇようなツラしやがって。」
「…ん、なんだかお子様のようにおはなを眺めていた午前上がりのサラリーマンがなんでまだいるんですか?まぁ本物のお子様持ってるのをこのザマですけどねぇ!」
あろうことかく草蒲は女の子を蹴った…!
雨が、降り始めた。
森
「どうなっているんだ?」
水琴は森からの出口を探していた。
後ろから男の影が迫ってきた。
雨が、降り始めた。
郊外
草蒲は姿を変えた。
文目は!
…その怒りを…その怒りで全開して!…
その言葉は文目の体全体に響いていった。
森
「見つけたぞ。仙堂水琴。」
霞む森、男が水琴を見つけ、水琴は逃げようとしたが彼は満身創痍。どこも動かせなかった。
その時、突如として力がみなぎった。
「「ハァァァァァァ!」」
2人は怪物になった。
その身の全てに、人間の痕跡がない。
文目も右腕だけで無く身体全体が、
完璧に人間を失くした…
文目は醜い怪物の姿をフロントガラスから見た。
それは自分だった。
水琴は雨粒で歪んだ水面から自分を見た。
醜いと言うよりは、神々しかった。
潰れたピンクのチューリップが雨に濡れる。
2人は拳を強く握る。
ガァァァァァ!
2人はそれぞれの標的に襲いかかった。
戦いを始めた…
つづく