第3話 高城文目
上野こども遊園地
大野と宇多原はみた。
彼、竜胆文目が福士を殺したのを。
そして彼の右手を。
異形…
その一言に尽きた。
大野が声をかけようと自分の体をおそるおそる突き出すと、
彼は消えた…
ンッ…お前…何が…どうなって…んだ…?
あなたの体の一部を使わせてもらっただけ。それにこうなるのもわかってたでしょ。
…?
もういい。
目が覚めた。
気がついたらここにいた。
アパートの一室
文目の住むアパートの、ベッドの上に。
夢だったのか…
なんだか一安心した。
それにしても変な夢だったと自分に言い聞かせていた。
ふと、右手を見た。確か夢の中ではココが痛かった感じがした。
何だ…
文目の右手は普通の人間の右手だった。だけど何か違う。
コレは俺じゃない…
上野こども遊園地
深夜。
今回はあまり悟られないように少人数の現場検証となった。
現場検証に来たものは皆驚きを隠せなかった。
異形の生命体の遺体が遊具のあちこちに、バラバラに、部分的に発見されたからだ。
「おい昨日の第二発見者。これのことをアンノウン・スペックってゆうのか?」
「スペックっては…恐らく。」
「徹夜でこれは目がさめるぞ。」
目がさめるどころかねむれないようなものを見てしまった。
朝
風呂にも入らず。ボロボロな文目の住むこのアパート。
ピンポーン
誰か来た。
ドアを開けた。
「どうも、隣に引っ越した高城文目です。竜胆さんですよね?」
…?
どこかで見たことあるよな…
…夢で見た女⁈
「あ、はい。」
「あの…名前同じですよね。」
「え…」
「なんか、偶然ですよね漢字まで一緒だなんて。」
漢字まで一緒ってのはどういうことだ?
偶然だろう…
そう文目は信じていた。
仙堂家
水琴はテレビを見ながら何かを感じた。
「…え〜、極めて異常な快楽犯がこの都内にいるということです。以上、現場から原馬でした。
はい。関田さんどう思いますかこれ。
いや〜これは、え?ってことはやっぱ…」
ブチン!
水琴の母親がテレビを消した。
「やだやだこんなニュースみんの、朝ごはんがまずくなる。」
「あ…そういえば母さん。バッシュってまだある?」
「え、どした急に?」
「いや、一応部活やクラブで、構内限定じゃないものだったら体験は出来るみたいで、俺これからもやってみようかな〜って。」
「あそう…都のとき以来だから腐ってるかもしれないけど。」
「いやそういうのはないでしょ。」
仙堂家 押入れ
「くっさ!」
水琴は鼻をつまんで叫んだ。
上野駅前
なんだかんだあって水琴は電車で目的地まで行くことにした。
が、
視線を感じる。
さっきから怪しい人間がついている。
1人はスーツ姿にサングラスをかけた関目そうな男。もう1人は普通な格好だが目線で丸分かりな女。
水琴は早足で人ごみの中に飛び込んだ。
男は水琴を見失わないよう尾行を続けた。
「見失った〜。」
女は仲間に電話をかけた。
「宇多原さん、見失いました〜。…え、追いかけ続けろ?でもあっちも見失いましたし…え、切られた!もーやだもーやだこの仕事!」
尾行していた女はいじけていた。
と、そのとき…
「じいや、止めてくれ。」
「何でしょう綾助様。」
「本当の婚約者を見つけた。」
じいやはリムジンを止めた。
「さぁいってらっしゃいませ。」
綾助は人混みへと飛び込んだ。
そして見つけた。
「おいそこのフィアンセ。ちょっとお茶でもしないか?」
「…フィアンセ?、何言ってんの?」
「俺のフィアンセということに決まっているだろ。
俺は若宮グループ次期CEOの若宮綾助だぞ。若宮グループ。1947年当時18歳の若宮正孝が創業。若宮製薬、若宮工業、若宮食品、若宮エンターテイメントなど数々の事業を展開し成功。そんな家系の俺のフィアンセになるべきなのが…お前だ。」
この時彼女は感じていた。
ウザ…
「おい今ウザ…って思っただろ!この俺に…」
「いや、第一なんでこんなおぼっちゃまが私になんて。」
「一目惚れに決まっているだろ。父の紹介する女はつまらん顔のばかりでな。そう…さっきも…」
1時間前
お見合い会場
「いやど〜も若宮様。今日はよろしくお願いします。」
「こちらこそ、ですよ。」
若宮貴義
若宮グループ現CEOで世界の富豪第2位である彼の息子のお見合いに彼が出席している理由はただ一つ。
「貴方方もいよいよこちら側に入る日をいつまで待ちわびていたことか…」
そう、見合い先の企業の代表と親しくなり傘下にしようとしていたのだった。
「それではT &Funny会長の山田氏、よろしくお願いします。」
「あ、では、私の愛娘。愛乃と言いまして〜全国小学生ピアノコンクール低学年の部優勝の実績を持つほどの実力を持っておりまして〜。」
「んッんー、しゃっちょさん。ピアノ以外は?」
綾助が自ら口を出した。
「いや〜申し訳ありません。うちは…楽器専門でして〜。」
「こんな感じの話を10分した後さっさと家に帰ろうとしたのだ。そのときだ…」
リムジン内
綾助はじいやに話しかけていた。
「なんか憂鬱だな。写真でしか見てない女と親と一緒に物食うのは。親も一緒だぞよりによって。」
「じいや、どう思う。」
「綾助様は以前もそのようなことをおっしゃっておりましたねぇ。このような時は自分の意見を述べ、貴義様に考えを改めさせれば良いのではないですか。」
「アドバイス乙、じいや。でもじいや、あんな奴の考えを変えんのは俺には無理だぜじいや。あっちもあっちであんなのただの捨て子に化粧させただけだろ。そんなのを選ぶセンスがないじゃないのか?」
「そのような比喩を言ってしまっても良いですからね。なにせT& Funny 社は2003年創業の新しい会社ですもの。まぁ10周年記念に、ということでしょうがまず…」
じいやのうんちくを聞き流しながら外を見つめていた。
すると誰か輝いていた。
「それがお前だ!」
「改めて、ウザい。」
「今なんて言った!」
「悪かったですねぇそういうことしか言えなくて!ドトール行くんで…」
「おい待て!せめて名前だけでも…」
「立花梨楽!………あ。」
梨楽はイラついていてすぐに名前を言ってしまった…
「ドトール派なのか…普通スタバだろ…まぁ俺行ったことないけど…はぁ…じ〜や〜…」
T&Funny 本社
その頃文目と上司が外回りをしていた。
「あの〜ですね。その〜ですね。これは我が社の〜ですね。新システム〜でしてね。」
「うざい。もう帰って。」
先方が上司にダメ出しした。
「いやあの〜。」
「この口調がうざいの!いっつも〜が付いてんじゃん。これ変えたら買うよ!」
「はいあの〜」
「もう帰れ!」
そんな会話を文目は第三者のように聞いていた。
三島商事前
「そんじゃ〜ど〜部長に言おっかリンドウくん。」
上司が急に文目に話しかけてきた。
「え?どうって普通に言やぁいいじゃないすか。」
文目は適当に答えた。
西町体育館
水琴の体験入部先は、バスケ。
水琴がバスケ部に入部しようとした理由は、あまりない。特にバスケが得意なわけでもなく、バスケの漫画を読んでいたのがそれかもしれない。
「やぁ1年のみんな。今日は、楽しんでね。あぁ僕の名前は草蒲公英。主将です。」
彼のバスケは見事だった、彼らのチームは。
草蒲を中心にボールが次から次と回り、スリーポイントを決める。
理想的
なものだった。
「どうだったかな、僕たちのバスケは…」
草蒲は水琴達一年生に問いかけた。
「すごいです!本当ここに入部したいです!」
そういう者もいた。
「それじゃあ、今日は見てもらってありがとう。」
体験入部(見るだけ)が終わった。
「あ、そうだ。さっき入部するって言った子、ちょっと来てくれる?」
「はい。」
ふーん、何か話でもあるのかと思い水琴は体育館を出た。
三島商事
「あのね佐峰くん。またなの?またやらかしたの?」
上司が上司からこっぴどく叱られているのを文目は見た。
「あの〜それは〜」
「まず口調でしょ。いちいち〜をつけないで。」
「あの〜それは〜向こうでも〜」
「言われたんか!」
またあの2人が噂してる。
「あの佐峰。あれ入社6年で未だに平社員なんでしょ?」
「あーそれマジだよ。私達入社2年目のまだピチピチの女の子だけどねー。」
「何言ってんの中途採用のアラサー(笑)。」
「アラサーって…29だもん!アラサーって言うな!」
「83年生まれじゃん。」
「うるさ〜い!」
そんな会話を聞き、文目は過ごしていた。
しかしここ最近何処か浮いた感覚だ。
何か貴重な物になろうとしている。
この感覚はなんだ!
そんな気持ちを抱きながら帰宅しようと準備をした。
家路
感覚を知ろうと、文目は必死だった。
「「あ…!」」
必死になりすぎて前を見ず、人とぶつかった。
「あ…すいません…花で前が見えなくて、あ…」
花屋前
「竜胆さん…」
「あ…俺と名前が同じな…」
「高城です。大丈夫でした?バラのトゲ刺さってたりとか。」
「別に…」
文目は真面目に感謝の言葉を言えなかった。
いつも以上に言えなかった。
その心は…
つづく