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現代勇者の歩き方  作者: 枝一季
入学編
7/11

情報収集

「俺に、やらせてください。」


再度俺は力強く先輩に頼む。先輩は戸惑った表情を浮かべながらも俺を試すように問いかけてくる。


「確かに私は彼女を説得することは出来ていない・・・・それに、我ながら少し弱気になっているとも思う。

私は何もできていない。認めるわ。でもあなたには彼女を説得することができるっていうの?」


「やります。」


『対価』を得るために、という言葉は心にしまう。

だが、それも大事だが俺がやらなくてはいけない理由はまだまだある。それを達成するためにもこの話は何としても自分がやるという方向にもっていかなくてはいけない。

だがこんな決意も無駄なものとなってしまった。

なぜなら、「いいわ。私にはできないのだからユウト君が出来なくても±0だし。」


と二つ返事で了承を得られてしまったからだ。しかし驚きのあまり余計なひと言を付け足してしまう。


「ええ!?いいの?」

「いいんですか、でしょうが!」


ユイナ先輩の足が飛んでくるがそこは流石に回避。当たったらマジで悶絶ものだ。


「いいわよ。あなたの力を見せてもらうわ。せいぜい頑張るのね。」


どこのマンガのキャラだ・・・・・


「そのかわり」


腕を組んで、おそらく威厳たっぷりだと彼女は思いこんでいる笑みを浮かべてユイナ先輩はこういった。


「本気でやるのよ。」と。


そして俺は高萩先輩に『ポーカーフェイス』と呼ばれた顔ではっきりと返事をする。


「はい。もちろん。」


※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



大見得を切ったものの実のところ手札はあまり多くはなかった。

しかし今さら引くわけにもいかないし、引けない。実のところを言えば初めから一人は生徒部に入れて置こうと思ったのだ。つまり、最初からやることは変わっていない。そう考えると簡単に思えてくる。


「さて、まずは何から始めようか。」


少し考えてからやはりまずは情報整理からにしようと決めた。情報ソースは癪だが高萩先輩なので信用できる。


彼女の抱えている問題は大きく分けて3つ。

1つは文芸部のことだ。これはきっと彼女にとって重要な部分なのだと考えられる。だって一人だけの部活にいつまでも籍を置くか?廃部になっていないってことは何かあるんだろう。そこも考えてやはり文芸部の存続は絶対だな。


2つ目は生徒部の共通点、青春を謳歌していない、あるいは謳歌できていない。簡潔に言ってボッチ。

俺の場合気にしないがここは現役女子高生として気になる部分だろう。ユイナ先輩と一緒に居る時は何となく輝いて見えたしな。


3つ目は先輩お姉さんのこと。おそらくこれが一番根が深い。しかし3つの中で一番どうしようもない問題だ。姉妹関係のことは外部から口出しはしづらいのは経験則で分かっている。


「んー、実際権限とか人徳とか根性がない今の俺にはかなりハードな内容だな。それでも、そうだな。まずは1つ目の文芸部から行くか。ここは先生に聞けば分かるだろうし。」


立ち上がり、大きな空を見上げて息を吸う。そして自分のことにも脳を働かせてみる。ここであった少女のこと、何故か知っていた昔のあだ名。そしてそれを可笑しそうに笑う高萩先輩。


これも俺が解決すべき問題。だがまずはユイナ先輩の為にも、『対価』の為にも九条を攻略しなくてはいけない。



俺はまたしても夕焼けを背景に吸った空気を吐き出して意図せず様々な思いが詰まってしまった屋上から出て行った。


※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「文芸部の件?ああ、部員数の最低ラインを下回ってるってこと?それならいいのよ。きっと先生方気づいていないだろうから。」


「気づいていないって・・・・どんだけくそ学校だよ。」


「『生徒の自主性を重んじる』、だそうよ。ったく重んじすぎてこっちが何のためにいるか分かったもんじゃないわよ。」

「先生ここ、職員室。」


翌日、俺はもうかなり足を運んだ異世界こと職員室へ来ていた。こんなに職員室へ来る生徒は今いないんじゃないだろうか。少なくともこの10年くらいはいなそうな気がする。社会科の先生で一番の古株、山田先生の反応が明らかに尋常じゃない。職員室来るのそんなに珍しいですか!挨拶するのってそんなに異常ですか!


「ああ、そうね。悪態をつくのは飲み屋と家と部室で十分ね。」


「前2つはいいとしても最後は勘弁してください。」


ぺこりと頭を下げご勘弁を、という意を表す。

こんなくだらない会話なのに周りの先生方は感心した目を向けてくる。もちろん、先生と楽しくおしゃべりに来たのでも、愚痴を聞いてやるでも山田先生の異常な反応を見に来たのでもない。

屋上で決めた1つ目の難問のカギを先生から話を聞いて探しに来たのだ。出だしは良かったはずなのになぁ・・・

俺はええ~とか言っている山下先生に目線を戻す。


「ってことは文芸部は今の九条一人の状態でも存続していけるってことですか。」


「ん~、微妙なとこね。この状況がそもそもイレギュラーだし、次の秋ごろには危ないと思うわ。」


「イレギュラー、なんですか?」


確かに学校規模でイレギュラーだが、特に部活に関しては何もないと思っていたのだが。


「そりゃそうよ。この学校、今生徒会がないからね。」

「はぁぁぁぁぁぁ!?」


先生方は驚いた眼でこちらを見るが、怒りを目に宿している人は本当に少なかった。それで良いのかよ!


しかし、そこまでとは思ってなかった。そんなことがあるなんてこの世は不思議だ・・・・一人くらいやりたいヤツいないのかよ。

しかし考えてみれば生徒会って何をするのだろう。中学の時はあまり気にしないで済む問題だったし、興味もなかったからなぁ。部活に関係のある仕事もしているのだろうか。ハードワークっぽいな・・・


うん。決めるまでもないが、絶対に入らない!

あれ?でもたしか・・・・


「学校説明会のときはいましたよね?」


「ああ、多分それ小さな声で『代行』とかいったんじゃない?知らないけど。」


・・・・・このくそ学校!俺の小さなワクワクを返せ!


「で、生徒会があるかないかで文芸部のこれからも変わってくるってことですよね。」

「ま、そういうことね。さっきも言った通り、この学校のモットーは『生徒の自主性を重んじる』ってことなのよ。っと、ちょっと出ましょう?」


ドアを開けてこの学校の№1と№2、つまり校長と副校長が職員室に入ってくる。しかし山下先生の行動も速く、まるでデキる女スパイか忍者のように校長たちが入ってきたドアではないもう一つのドアを静かにあけ、校長の全身が入ってくる前に廊下に出ていく。あわてて追う俺はせていく寸前、山田先生が校長たちの餌食になるのを見た。


・・・・・・・ドンマイ。そう、心の中で呟いて俺は職員室を後にした。


生徒部の部室についてからお茶をいれ、席に着席したところで話は再開された。ユイナ先輩は先に帰ったようで、本人はおろか荷物もなかった。


「さっきの話の続きね?そんな顔しなくても話すわよ。」

「そんな顔してませんよ!」


「はいはい。そういうところをクラスでだせばいいのにねぇ」


この人、生徒部に加担してるってことは今の状況をよろしくないと思ってるはずだよな?それなのにそんな状況を作り出している奴らと仲良くしろだなんてわけわからん。


「さっきのモットーに従ってこの学校では生徒がかなりの権限を持っているわ。そんな生徒の中でも飛び切り力を持つのが生徒会。部活動の管理、維持はもちろん、校則も簡単な条件はあるけど作れるわ。イベントごとの運営も、政策も企画も。ほとんど全部生徒会が回すわ。」


「でもその生徒会がいない。となると今、部活動の管理は荒れたい放題。どんな部でも成立するし、維持できる。そういうことか・・・・」


「そのおかげで文芸部はまだあるのよ。おかげ、という意味では生徒部も同じかしら。」

「なるほど。それで、素朴な疑問なんですが・・・・何で生徒会がいないんですか?」


先生は苦々しい顔を浮かべた。というかこの話をしている時ずっとなのだが。


「居たわよ?一人は。」

「一人?」


俺のイメージでは生徒会というのは会長や書記なんかがいて六人くらいはいる感じなのだが。


「そう。一人、会長だけね。」

「なんで会長だったその人は居ないんですか?というか会長ひとりじゃ何もできないんじゃ・・・・」


「そうよ。何もできなかった。簡単なはずの校則の追加も、学校の内情を変えることもね。」


もっと頑張ってくださいよ!そしたら俺がこんな目に合うこともなかったのにぃ!


「というかそれだったら役員増やせばよかったのに!一人も立候補しなかったんですか!?」


「あー、この学校選挙ないのよ。」

「え!?それじゃどうやって決めるんですか?」


ここは素直に驚いた。普通高校ってのは将来世に出た時のために学習する、という名目のため選挙でトップを決める。それがないというのは一歩足を踏み外せば民主主義どころではない。独裁政治になってしまう。


「会長が残りを指名するわ。学校のモットーに従ってね。それほどに生徒会長の力は大きいの。今生徒会がないのは会長が誰も指名しなかったから。」

「何のために指名しなかったんだ?さっきまでの話を聞く限りでは学校を変えたい派だと思ったのに。」


「正しくは指名できなかった、ね。学校を変えたい、そんな思想を共有してくれる人を彼女は知らなかった。おおっぴらにそんなこと言ってたらまず会長から降ろされるわ。信用できる情報源も当時はなかった。それならば苦肉の策として、この学校を腐敗させるのではなく維持しよう。そう思ったのね。生徒会長は今病気にかかっててね。すぐに病院行きでそのまま入院。学校をどうこう出来る状態じゃなくなった。それで今この状況になってるってわけ。たくさん言ったけど理解できた?」


「なんとか。生徒会長さんは大丈夫なんですか?」

「ええ。今はだいぶ回復してるって聞いたわ。それであんた、結局何が聞きたかったの?私てっきり、九条関係だと思っていたんだけど。」


確かに、本題からそれまくってしまっている。

それでも全くの無駄、と言うことでもなかったが。

俺はこの学校の事、よく知らないからな。素直にこれは聞けて良かった話だ。


「ま、そんなとこです。」

「どうにかなりそう?」

「さあ?分かったら楽なもんです。」

「ふふっ。そうね。他に何かできることはある?」


おお、なんか先生っぽいな。生徒のために『できることはある?』だなんて。今さらながらやっぱりこの人は先生らしい。


「今、失礼なこと考えなかった?」


おお!漫画とかであるあるのパターンだ!現実にもあるんだな。


「いや?考えてませんよ。先生の力を頼ることはまだあると思いますけど、とりあえずは平気です。こんど詰まったら答えを教えてもらいに来ますよ。」


知りたいことは山ほどあったが、今聞くべきではないと判断する。


「知らないの?先生ってのは答えじゃなくて解き方を教えるものよ?」

「あはは、そうかもですね。それじゃ、今日は俺帰ります。」


先生の分のお茶も回収して洗う。これが面倒だからいつも使わないんだよなぁ。


「ん、分かった。気を付けて帰んなさいよ。・・・・・・ところで、もう校長達帰ったかしら?」

「知りません。」


俺は満面の笑みで返してからドアを開け、帰路に就いた。











・・・・・・訳ではなかった。

まだ下校時間まで時間がある。それならば有効活用するほかあるまい。まあ、先生にバッタリ、なんて事があったらそれはもう恐ろしいが。

とはいえ、それほど重要なことをしようというわけではない。ちょっぴり調べ物をするだけだ。


何せ時間がない。俺が自身にかけたノルマは7日間でひとつ成果を出すこと。こんな形になるとは思っていなかったが、この問題を解決すればもちろん成果を上げられたことになり、俺の計画どうりに進む。今は

仮入部期間5日目。あと2日だ。この土日でどれだけ九条の内面に迫らなくてはいけないのか。考えるだけで億劫だ。人はそんなに簡単なものじゃない。それを分かっていて、見せかけのパズルを少しのピースと嘘と、詭弁と、その他いろんな、言ってしまえばズルで補うのだ。どれだけバカにすればいいのやら。


さて、調べ物というのは他でもない。九条花楓の姉のことだ。当てがあるっちゃあるのだが、それではいささか不安だ。先生に聞かなかったのは「それを聞いてどうするのか」と聞かれた場合簡単には答えられないからだ。ただでさえ生徒の情報には気を遣うだろうし、しょうがなく聞かせてもらうというのもどこか悪い。実際、図書室に行けば済む問題ということもある。


この学校の図書室はかなり優秀だ。漫画からラノベ、文庫本、伝記、参考書などおそらく調べれば大抵のものは揃っている。だが俺が見たいものはその中のどれでもなく、この学校にしかないオリジナルの一冊だ。

俺は図書室の奥の方でそれを見つけた。なかなか色合いが渋く、文字は金色で『卒業アルバム』と書かれている。去年のやつなのであまり埃は被っていなかった。

俺は丁寧にそれを広げ、お目当ての苗字を探す。



九条九条っと・・・・・うわー、卒業写真に髪染めたまま写るか?普通。こいつは変顔してるけどカッコいいつもりか?乱れた服装だなあ、おい。別にかっこよくないからね?だらしないだけだよ?


この学校の校風を再確認しながら探すこと約5分。ついにその名前を発見する。


九条花香。他に九条という名字の人がいなかったので彼女が花楓の姉だろう。姉妹揃って美人だなぁ。

だが妹と比べると姉の方が活発そうな印象をうける。というか比べるまでもなく活発だ。これも『問題』に関わってくるのだろうか。実際先生に聞いた話でも九条花香はかなりのリア充のようだった。どうしたって比べられるものだよな、姉妹とか兄弟って。


ついでに『思い出の写真』的なのものぞいてみる。良く写っているな。しかも写真写りがいい。こういうところによく写ってるってことはかなり明るい子なのだろう。カメラマンだってブスッとしている子よりも明るくしているこの方が撮りがいがあるに決まっている。

それにしても、学年が上がってくごとに写ってる写真が減ってくなぁ。

減っていくのに比例してどんどん九条っぽくなってくな・・・・本当は逆だが。


本を元に戻して図書館を立ち去る。今日学校でできることはもう終わりだ。さっさと帰って家でできることをしよう。


「ん?」


今のってユイナ先輩?でももういないよな。あたりを見回してもそれらしき人は見えない。それにもう下校時刻まじかなので部室にいなかったユイナ先輩がいるとは考えにくい。

・・・・・見間違いだったのか?世の中には似た人もいるもんだなと考えながら今度こそ帰路に就いた。


※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「ただいまーってブッ!」

別に帰ってそうそうギャグをぶちかましたわけでは無い。人間大砲が直撃した反動だ。


「おかえり!お兄ちゃん!」


満面の笑みで我が妹が迎えてくれる。その笑みを消し去るため俺は拳を目標めがけて振り下ろした。そんなに強くいってはいないがいい音がする。


「なにすんのよ!せっかくかわいい可愛い妹様が抱き着きながら迎えてやってるのに!」

「黙れ!迎えるためじゃないだろ!?どーせそこのコードに躓いただけだろ。」

「ばれたか。いやー危ないところを助けて頂いた。」


見れば携帯電話の充電器のコードが引っ張られた跡があった。

てへペロッと舌を出してウィンクしてくる。どうしてこんな風に育ったんだか。お兄ちゃん悲しいぜ!


「いつもお前は危なっかしいよな。気をつけろよ?そいで、姉さんは?」

「はーい。姉さんは帰ってきてないけど我が愛しの妹なら帰ってきてるよ。」

「そうかい。ありがとよ。」


軽く礼を言って自室がある2階へ向かおうとするが、手首をガッチリ握られる。


「私のお兄様はどんな悪だくみをしていらっしゃるので?」


にんまり笑いながら覗き込んでくる。こいつの同級生あたりならばドキドキの展開かもしれないが兄としてはそんな要素は全く皆無。いや、妹の為に言っておくが我が妹、桐崎真希はかわいい。というか俺以外の家族みんなルックスがいい。現に学校では人気者だ。友達をよく家に連れてきたりなんかしている。ま、末の妹はそうはいっていないようだが。


「さあね。兄の素行の悪さをうつしたくないから教えない。どうだよ、この家族思い。」

「くそくらえだね!」


もううつっている気がするな。もう手遅れか。


「どしたの?頭抱えて。」

「いや、お前の将来が心配になっただけ。お前、お嫁に行けるかなぁ。」

「さっきの流れからどうしてそこまでいったの!?」


ま、なんだかんだ言っても大丈夫だろうとは思っているが。


「あ、お兄ちゃんお帰りー。」


末の妹、美希が姉と違い落ち着いた様子で迎えてくれる。


「もうご飯出来るから早く用意してね。真希お姉ちゃんまてないだろうから。」

「うん!待てないから早くしてくれよ、兄ちゃん。」


それでいいのか、そこの姉!とまぁこんな具合に妹とじゃれた後、重大であるはずの仕事に取り掛かる。妹の声に急かされながらも二階に上がる。


向かうは姉、桜の部屋。俺の家族は現在、姉、俺、妹2人と男が極端に弱い。それに加えて俺は本格的に姉さんと仲が悪い。本気で俺は今、あの人と喧嘩をしている。(喧嘩というほど生易しいものではないと思うが)妹が引き止めねば一人暮らしをしていた。

とにかく戦争状態だ。今俺の意向としては二度と姉と仲直りするつもりはない。それくらいに俺は姉さんが嫌いだ。


よって、部屋に侵入したことがばれれば大いに困る。ボッチスキル『警戒』を常時稼働状態にしながら姉の部屋に入り、本棚にある『禁断の書』を手に取る。『警戒』は結構使えるもので、必須スキルなのだが、ほとんどが杞憂に終わる。今回もその限りではないらしい。気配は全く感じられない。


本棚の最前列、真ん中の2列目に巧妙に隠してあるほか、ブックカバーが小説のものに変わっている。姉はとんでもなく優秀で計算高いが、おそらく弟がこの本の存在を、内容を、隠し場所を知っていまい。


俺はこの本を使いたくはなかった。この本は見てはいけない類のものだ。姉はよくこんなものを作ったものだ。こういうところも嫌いな要因の一つだ。


俺は余計な情報は頭に入れないようにしながら目当ての情報を探した。

一階からは、何も知らない無垢で元気な声で妹が俺を呼んでいた。


「お兄ちゃーん、ご飯できたよー!」


俺はいつも通り、もしかしたらいつもよりも明るく返事をした。


「分かった。今行く!」


俺は賑やかな食卓へ向かうために本を元の位置に完璧に戻し、階段を下りて行った。


※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


夜。起きているのは俺だけだ。妹たちはもう寝てしまったし、姉は帰ってきていない。

しかし心配はしないし気にも留めない。別に姉がどこに行っているかなんて興味はない。


そんなことよりも、俺は最近の学校生活で手いっぱいだった。

ユイナ先輩と会ってから一週間も経っていないというのに、生徒部と接触してからいろいろなことがあった。そんなのでは済まない。ありすぎだ。


全く、おかしな話だ。こんなに短時間にやらなければいけないことがたくさんあるなんて。

もう、時間がない。そろそろ決着をつける時だ。情報はほとんど集まった。あとはこれを活用できるかどうか。まだまだモヤモヤする部分もあるが、一つずつ消していこう。


これまでのことを思い出しながら、瞼を閉じる。ちょうど夢の世界へ飛び立とうとした時、ドアが開く音が遠くから聞こえた気がした。

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