1日目
「まずはあなたの意見がききたいわ。」
「取りあえず、一般的な意見を言わせてもらえば良く言ってチャライ、悪く言えば荒れてる。ってとこでしょうか。」
「そうね。その通りだと思うわ。」
正直、俺は驚いた。
ここまで1年間通い続け、友達もいるであろう高校に俺はかなり辛辣な評価をしたつもりだ。
にもかかわらず、彼女はあっさり肯定したばかりか微笑している。
「先輩もこの学校がお嫌いですか?」
「現状はね。でも好きになれる状態にして見せるわ。」
成程、かなりこの話の内容がみえてきた。つまり、彼女はこの学校を変えるつもりらしい。
そして一つ気になることが出てきた。俺は抗うべき好奇心に逆らえなかった。
「先輩・・・ボッチですね?」
「な・・・!」
この学校の生徒の大部分は学校が好きだろう。好き勝手やれるし、友達と書いてダチもいることだし。
そんな学校を変えたい、というのだ。少なくとも現状に不満を持っている。
だが友達が大勢いたらそんなもの気が引けるし、実際にそんなこと口走ったらほぼ確実に自分にとって悪影響が起こる。
つまりボッチ。こういうわけだ。
ボッチだとしても俺なら波風立てず3年間大人しくしているが。
顔を真っ赤にして口をパクパクと動かしてから手をバタバタと振り回す。
必死で見ている分には楽しいのだが、本人はそれどころではないらしい。
ようやく落ち着いたのか、
「私は自分から作らなかっただけです。あんなチャラチャラウキウキな人たちと一緒にいたら壊れてしまうから。」などと、のたまって見せた。
「それに、いることにはいる・・・わ。うん。」
うわー、典型的なごまかし方だなぁ
と思いつつ共感もしないでもなかったので、あくまで丁寧に返す。
「そうですね。あいつ等といると、自分じゃなくなりそうです。」
「で・・・でしょ!?」
必死そうに先輩が食いついてくる。
「キミ達は傷をえぐるために話し合っているのかしら?」
見かねた先生が横槍を入れてくる。ま、当然ですよな。
コホン、と場を整えてから、話を続ける。
「要は、この学校を変えるためにこの部活を作り、俺を勧誘したということですね?」
「簡単に言えばそう。でも『変える』じゃだめよ。『革命』を起こすの。」
規模の大きさが違う、そういうことらしい。
「では、『革命』を起こすためにこの部活は何をするんですか?」
「今ネタバラシしたらつまらなくない?」
「いや、面白さは求めてませんし。何より、活動方針未定なんて部活はいる気にはなりませんよ!」
それもそうかと、考え直してくれたらしい。フム・・・とか言って先輩は考えるポーズをとっている。
「わかったわ。あなたに1週間の猶予をあげるわ。」
「猶予!?」
前言撤回。考え直してなかった。付け足しする文を考えてただけだったらしい。
「まぁ、仮入部みたいなもんよ。」
・・・意外とこの先輩はグイグイくるタイプだったらしい。
だが仮入部か、悪くないな。
「いいでしょう。そこで見極めろということですね?」
「入るのは決定だけどなぁ、キミの場合。」
先生がサラッと俺の意思を無視して事態を決定してしまっているがそこはスルー。
ガタッとイスから立ち上がり、
「では、明日から『生徒部』の『革命』を始めます!」
と先輩は恥ずかしいくらい、高らかに宣言した。
「で?」
仮入部決定の次の日。先輩の口ぶりからして今日からだと思っていたのに部室に誰もいない
上に鍵が開いていなかった。
「帰ってもいいのか?・・・・いいんだよな?だっていないし。仮入部だし。胡散臭い気も」
「あら、思ってたより早いのねぇ。」
後を向くと長い黒髪を払った先輩の姿。
冷や汗を流しながらも、軽口をたたく。
「やる気が有り余ってますから。もう生徒部のために粉骨砕身しちゃいますよ?」
ニッコリ笑いながら先輩は
「それはいい心がけね。感心感心。・・・・でもね?」
先輩の周りに微弱ながらも冷気を感じる。錯覚だと思いたいが・・・
「私たちは正当な部です。胡散臭いなんて私は思わないなぁ。ユウト君はどう?」
「へっ・・・ああ、うん。もちろん。もう素晴らしいくらいに信頼度抜群!銀行も見た瞬間大金貸しちゃうレベルです。いや、マジ。」
どうやらばっちり聞かれていたらしい。ニヤリと人が悪そうな顔をして、先輩は笑うと鍵を開け『空白』の看板がかかっている部室へ入っていく。
「何をするんです?今日は。」
「んー、ならクイズ!『革命』に必要なのは?」
さすがはこの先輩、なかなか訳が分からない。
しかしまあ、答えに関してはだいたいは分かる気がしないでもない。
・・・・なかなか自信ないな。俺。
「そうですね、とりあえず『戦力』でしょうか。」
「なるほど。ならそれが1つ目の答え。」
「なら!?」
まるでこちらの回答に合わせて答えも変わったような口ぶりだ。
「自分がそうだと思ったらそうなのよ。では、まずは『戦力』を集めるところからミッションスタートよ!」
ビシッっと効果音付きで俺の方向へ指が向けられる。この人がやると絵になる。うらやましい。
・・・・おい、ちょっとまて?何かがおかしい。なんだろう。ああ、そうか。
「どうやってやるか教えてもらいたいのと、俺だけが行動するみたいな感じ出すのやめてもらえます!?」
仮入部1日目。
4月下旬。桜はもう緑が差し始める。
生徒部による『革命』はまだまだ始まったばかりだ。