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現代勇者の歩き方  作者: 枝一季
入学編
2/11

道の始まり

次の日。特に誰とも話さず何の変化もない日常を終え、職員室と言う異世界に足を進める。

もちろん誰だって確実に嫌なことがある所になど行きたくはないだろう。

しかし先生の言うことを聞かなかった時の方がもっと嫌な思いをするに決まっている。


「でもなぁ・・・嫌だなぁ・・・」

結局わずか3分で着けるはずなのに10分もかけて異世界にたどりついた。


ガラガラっとドアを開け、山下先生を呼ぼうとしたが、その必要はなかった。

なぜなら、そこに仁王立ちで先生が構えていたからだ。


「遅っそおおおおおおおおい!」

「うおおおおおおおおおおお!?」


いきなりの登場&怒鳴りにおもわず声を上げてしまう。


「HRはもうとっくに終わっている!すぐ来るように言ったよな!?」

「いや、言ってないっすよ!」


必死の弁解むなしく、服をつかまれ引きずられていく。

あ、これ現実にも発生するイベントなんだ・・・・


この学校の廊下は長い。普通の学校の1.5倍はあるはずだ。

そんな距離をずっと引っ張っていくのも引っ張られるのもさすがに厳しいので手首以外は解放された。


「俺以外の子が職員室入ってきたらどうしてたんですか。」

「そんなことはありえないでしょ。この学校じゃ。」

「・・・んなバカな」


またしてもこの学校のイメージが低下していく。


「で、どこ行くんですか?」

「部室棟だ。」

「部室棟?」


現在この学校ではかなり多くの部活が存在している。

態度などをのぞけば、文化部も運動部もかなり良いチームがそろっている。


だが今それは関係ない。何のために連れて行かれるのか、そこが重要。

もしかしたらこの前学校で盛大な花火を打ち上げ、そのテンションのままガラスやらなんやらを壊したサッカー部、

もしくは夜中にタックルを仕掛けて来ると言うラグビー部か。

・・・ラグビー部の噂ってホントなのか?


余計な考えを巡らす俺を気にせずスムーズな動きで山下先生は部室棟に入っていく。

俺3メートル離れてこそこそと部室棟に入った。


文芸部、イラスト部を通り抜け、さらに進んでいく。と言うことはどうやら文化部らしい。だがまだ油断はできない。この学校で油断は命取りだ。


「ここだ」

しかしそこには部活が入っていないことを示す真っ白な看板。

「・・・部屋間違ってません?」

「いいや、ここだ。邪魔するぞ。」


先生がドアを開け、部屋に入っていく。俺もあわてて中に入る。

「この人ですか?新しい人材と言うのは。」綺麗で透き通った声がどことなく冷たさを帯びて先生に向けて発せられた。


「ああ、そうだ。私の見込みとしてはかなりいい働きをしてくれるはずだ。」

いやいや、働きませんよ、とツッコミを入れようと先生と会話相手を目にとらえる。


次の瞬間、俺は悟った。もう面倒事は避けられないと。何かが起こり、何かが変わる。


それほどに、先生の会話相手の女子の目は強く輝いていた。

「ジロジロ見ないでくれない?新入りさん。」


しかし俺は観察をやめない。『観察』はいい癖でもあり、悪い癖でもあると分かってはいるのだが。


身長は165㎝くらいと小柄でもなく、長く艶やかな黒髪(この学校では黒髪の方が絶滅危惧種だ)、かわいい、と言うより美人と言うイメージ。スタイルも良く、この学校の制服をきちんと着こなしている。ここまでくればあとは性格だ。こればっかりは話したり、聞くしかない。


「いつまで見てるの?・・・恥ずかしいじゃない。」

顔を少し赤く染め、恥じらう様子はとてもこの学校の生徒には見えない。

「失礼しました。先輩。」少し見すぎたという自覚はあったので、素直かつ丁寧に謝罪。


ちなみにこの学校には学年カラーというものがあり、上履きや校章の色で学年が区別できる。

もっとも、この学年カラーをつけている人は珍しいし、その情報すら知らない生徒も多い。


「いいのよ・・・分かれば。」思いが伝わったようで、和解が成立。

そこで先生がコホン、と咳払いをしたのでそちらを向く、なんてことはしない。


こういう時の話は大抵めんどくさい。非常に低確率であるがこのようにやる気を折ると話のめんどくささが軽減or話がなくなる、なんてことが発生する。


黒髪の先輩も何となく察しているようで、話を続ける。

「あなた、名前は?」

 

コホン、コホン


「ああ、言い忘れてた。俺は桐崎勇人。あなたは?」

 

コホン、コホン


「花里結衣菜よ。ユウト君。」

「お前らはいつまで私を無視するのか聞いていいか?」

「「諦めるまで?」」


完璧に合致した素晴らしいハモりかただった。

そういえばハモると良いことあったりするとか言う都市伝説もあった気がする。


「お前ら、覚悟はいいな?」

「先生、今のご時世暴力系は非難の的ですよ?」

「ま、手加減はするし、少々ならいいでしょう?」

先生の顔はとても悪そうに微笑んでいた。


そしてそこからは数十分間のお説教タイムが行われた。

幸い、物理的暴力はなかったが・・・・


「なんでユイナ先輩はあんまお説教されなかったんですか!」

「キミが主に会話の流れを作っていたから?」

「俺に聞かないでください!」


もはや男尊女卑の時代は過ぎた。これからは多くの男がしりに敷かれていく時代の到来である。

M男マジ良い時代に生まれたな。


「さて、本題に入っていいでしょうか、先生。」

ユイナ先輩が長い黒髪を払いながら問いかける。

無言で先生が頷き、会話が始まる。


「まずはこの学校について話し合いましょうか。」


そう、ここから始まる。きっと俺が待ち望み、恐れ、避けていこうとしていた道が。

どんな話であろうとも、断ろうと決めていたにもかかわらず。


そんな予感を俺は全身で、震えるほどに感じていた。

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