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僕だけ  作者: snowman
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1ページ目

 春が流れる。


軽やかな風が辺りの空気を入れ替えている。


 

 友達は少なくないし、バイトの仕事も出来る。

そんな毎日を送りながら、僕はいろんなものに苛まれている気がしてならない。

友達は多いが、好き嫌いが激しい。

仕事は出来るが、完璧主義。

上手く回れば良いのかもしれないが、崩れてしまうと手に負えない。

バイトはそれなりに上手くいっていた。


 3月。春が近付く時期。

バイト内でも入れ替わりがあった。

そして一番の動き。

仲の良かったバイト仲間が社員になる。


 その子とは去年の夏から一緒に仕事をしだした。

むこうが僕の2ヶ月後に入ってきた。

始めはキッチンとホールでそこまで仲が良かったわけでは無かったけど、同い年ということもあり

だんだんと話すようになった。

その子はサバサバした口の悪い子で、何故かとてもウマが合った。

年が明けてバイトの新年会で一緒に幹事をすることになり、一気に距離が近付いた。

仕事が終わった後に相談したり、買出しに行ったり。

その合間に2人で買い物をしたり、お茶をしたり。

あまりに仲が良いために、周りから勘違いされるほどだった。

僕自身はその子とどうこうなるつもりも無かったし、相手もまったく無いだろう。

「あたしなんかより、ずっと女の子みたいだ」

と言われてたし、実際僕は少し思考が女っぽいのかもしれない。

彼女はまさに僕の正反対で、大雑把で男っぽい子。

見た目は明らかに僕が男の子で、彼女は女の子で外見と中身を入れ替えた方が自然なくらい。


 それでもやっぱり彼女は女の子だ。

どんなに疲れていても笑っているその笑顔は、どう見たって色の白い繊細な女の子。

話す機会が多くなって、いろんな話を聞いていけばいくほど見えてくる。

好きな人が結婚しているということ・片思いのままでも良いと思っていること・その人の前で一度も泣いたことが無いということ。

人前で泣いたりしない彼女は、本当はとても繊細で弱い存在だ。


 そんな彼女が、半年ぶりに好きな人に会うという。

もうすぐ誕生日で、プレゼントをあげたいから買い物に付き合って欲しいと言われた。

胸糞が悪いとはこういうこと言うのだと思った。

二人きりの買い物は嬉しいのに、その見たことも無い彼女の好きな人のプレゼントを選ぶなんてイライラする。

出来るだけプレゼント選びという事を忘れて買い物を楽しもうとした。

彼女も僕の買い物にも快く付き合ってくれるし、「このジャケット良いよ!着てごらんよ」といって見立ててくれたりもした。

普通の買い物を楽しんでいる中でも、彼女はコレにしようか・・・コレだと重いかな・・・なんて考え事をしている。

そしてフラッと立ち寄った雑貨屋さんで、彼女は「決めた」と言ってシルバーのシンプルなジッポを指差した。

平然として「いいんじゃない?」と答えた。


 気に入ったものが買えた彼女は、とても嬉しそうに紙袋を抱えて駅まで歩く。

僕はつい「結局はどうなりたいの?」と問いかけてしまった。

きっと不倫をしたいとか思っているわけではなく、ただ好きな人にプレゼントを渡すことに心弾ませているだけであろう。

それでも聞かずには居られなかった。

その時の僕はまるで、お気に入りのオモチャを取り上げられた子供のようだった。

さっきまでとは違い、笑顔を曇らせた彼女は

「分かんない・・・」

と答えた。

彼女は笑顔が一番いいのに、曇らせてしまった。

「まぁチューの一つくらい奪ってこい!」

とおどけながら言うと

「ありえないから!」

と言って痛そうに笑った。

この時すでに、僕が彼女を好きなことは明白だった。

天邪鬼な僕は決して認めたりはしないけれど・・・





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