フェバル世界の宇宙について
ダイラー星系列 本星宇宙研究セクター著『宇宙概論』より一部を引用
【マルチユニバース(多元宇宙)】
宇宙は一つではなく、無数が並行して存在している。それぞれは独立して存在するものではなく、互いに影響を及ぼし合っている。我々の暮らす宇宙は、数ある宇宙の内の一つに過ぎない。無数の宇宙の中には、ほぼまったく並行的な存在――パラレルワールドと呼ぶべきものや、似ても似つかぬ別の宇宙もあると推測されている。便宜上、我々の暮らす宇宙を内宇宙、それ以外の宇宙のことを外宇宙と呼ぶこととしよう。外宇宙の存在は確かに観測されているが、未だその実態は謎に包まれている。
【宇宙の未来、五つのシナリオ】
宇宙の大きさは通常、常に変化を続けている。
古来、宇宙の未来には三つのシナリオがあるとされてきた。
引力と斥力の総和のバランスが、宇宙の行く末を決めるのである。
一つ。縮小シナリオは、引力が斥力に対して勝る場合に起こる。宇宙の膨張がある時点で止まり、やがては縮小へ転ずる。ついには一点へ――ビッグクランチという終焉を迎える。
二つ。定常シナリオは、引力と斥力の均衡が取れている場合に起こる。宇宙がほぼ一定規模を保つシナリオである。
三つ。発散シナリオは、引力に対して斥力が勝る場合に起こる。宇宙の拡張速度が光速を超えて、やがて宇宙は引き裂かれる――ビックリップという結末を辿る。
持続可能な宇宙のシナリオとは、言うまでもなく定常シナリオのみである……と長らくはされてきた。
しかしながら、外宇宙の存在がさらなる二つのシナリオを与えるケースがある。この二つは、結合シナリオと呼ばれている。後述するが、うち拡張シナリオは宇宙に新たな存続解を与える。
【外宇宙とスプレッド効果】
宇宙が膨張する最大の要因は、実は外宇宙による引力である。無数に存在する外宇宙が互いに引っ張り合うことで、よほど特殊な要因がない限り、宇宙は膨張する。これを外宇宙によるスプレッド効果と呼ぶ。
【宇宙結合反応と二つの結合シナリオ】
スプレッド効果で互いに引き合うため、位置の近い宇宙同士の外辺が触れ合うことがある。互いの侵入が進み、共有領域が一定以上に達したとき、壮大な宇宙結合反応が巻き起こる。この反応のいかんによって、新たに二つ、拡張シナリオと破裂シナリオが生じる。
反応が緩やかに進む場合、二つの宇宙は融け合って、やがては一つのより大きな新しい宇宙となる。この場合、元は異なる宇宙の知的生命体同士によって、交流が行われる可能性もあるのではないかという中々に夢のある推察もなされている。
反応が劇的に進む場合、二つの宇宙はともに破裂して消滅する。この際生じた絶大なエネルギーが、他の宇宙も巻き込んで、連鎖的に消滅反応を引き起こす場合がある。凄まじき破裂シナリオと言えよう。
我々が観測した限りでは、拡張シナリオと破裂シナリオを辿る確率はほぼ半々である。
【内宇宙――ヒトの宇宙】
以上が一般的な宇宙の概況であるが、我々の暮らす宇宙、内宇宙特有の事情に目を移してみることにしよう。
周知の通り、内宇宙は――ヒトの宇宙と呼ばれている。なぜなら、姿形のほぼ共通したヒトという知的生命体が宇宙全域に渡って存在し、唯一の支配的な存在として知的文明の繁栄を謳歌しているからである。
これは当然のことではなく、むしろ極めて不思議な事実であるが、ヒトという形態こそが存続可能な知的生命の唯一解だったのではないか、と言われている。
【内宇宙の現況】
内宇宙は、中々特殊な状況にあると言えるだろう。現在、内宇宙の外辺は、他の外宇宙とは一切接触していない。最も近い宇宙の外辺も、遥か彼方にある。すなわち、内宇宙は外宇宙との繋がりが一切断たれている「閉鎖宇宙」状態である。
では、なぜ内宇宙は閉じているのだろうか。これは星脈の存在によるのだ。
【星脈とバインド効果】
内宇宙の環境を支配する最も大きな存在として、星脈が挙げられる。星脈は宇宙全体を覆う網目のように張り巡らされている。それが保有する極めて高いエネルギーにより、ヒトの存在する星々を強固に結び付けている。無数の星という点を押さえることにより、宇宙全域が固定され、繋ぎ止められる。これを星脈によるバインド効果と呼ぶ。バインド効果により、内宇宙の膨張速度は極めて緩やかとなり、しかも観測によれば、その速度は年々減少している。
【内宇宙の悲観シナリオ】
以上の観察から、我々の内宇宙については、悲観的な縮小シナリオを導くことができるだろう。
すなわち、繰り返すならば、我々の暮らす内宇宙は、いずれは膨張が止まり、縮小へと転ずる。そして遠い未来に、一点に潰れてしまうことだろう。
現在、我々は持続可能な宇宙モデル実現のための研究を続けている……。