龍の山籠もり(中編)
結局、雄士たちが目的地に着くまで数日ほどかかってしまった。
途中の山道が土砂崩れによって進めなくなっていたり、橋が壊れていたりしたため、迂回せざるを得ない状況だった。
「随分と都から離れてしまいましたね」
「二人ともすまんな、すぐにたどり着くと思っていたのだが……」
「仕方ありませんよ」
謝る一志に、子泉が穏やかな表情で話す。
たどり着いた修行の地は、何とも言えぬ雰囲気であった。
一見すると普通の里山にしか見えないが、奥に何かを隠しているような神秘的な感じがする場所だった。
(これからどんな修行が始まるんだろう)
雄士は期待に胸を膨らませた。
「そろそろ始まるのですか?」
「その前に、二人にお願いしたいことがある」
雄士ははやる気持ちを抑えきれていないようだ。
「龍鎧兵をここで動かしてみてくれないか?」
「いったい何を?」
雄士と子泉は驚いた表情で一志の方を向いた。
「手合せをして欲しい。ただし、龍鎧兵に傷をつけないようにな。もし危なかったら私が割って入る」
一志が巻物を手に取った。その言葉に偽りがないことを証明するために。
「こうして手合せをするのは久しぶりだ」
「雄士、準備はいいですか?」
「ああ。……来い、赤龍!」
「行きましょう、緑龍!」
二人は龍鎧兵を呼び出した。赤と緑、二色の光の柱が天を衝く。
二体の龍鎧兵が対面する。
そのそばで、一志が二体の龍鎧兵を見つめていた。
「龍鎧兵が、二体も……」
「本当に龍族だったのか、あの二人」
周りにいた兵士たちも驚きながら龍鎧兵を見ていた。
雄士たちは龍鎧兵を一志達から離れた場所に移動させた。
「始めるか」
「そうしましょう」
ついに、二体の仕合が始まった。
赤龍の剣と緑龍の偃月刀が激しくぶつかる。
2合、3合とかち合わせていった。
赤龍が突然後退し、右側に素早く移動する。対する緑龍が赤龍を正面から受けるため素早く向きを変えた。両者とも機敏な動きを見せる。
先ほどとは違い、刃を交えては離れ、刃を交えては離れを繰り返す形となった。
赤龍が左右から果敢に攻め立てるも、緑龍が体勢を崩すことなく受け止める。
今度は緑龍の方から仕掛けていった。正面から来た緑龍の一線を赤龍が盾で受け流す。
攻防が次第に加速していく。
(多少荒いが、いい動きをしている)
一志が一挙一動を凝視していた。
(とはいえ、まだ原石といったところだろう。まだまだ彼らは強くなる)
緑龍が赤龍に再度攻めかかろうとしていたその時だった。
「雷龍、召喚!」
一志も龍鎧兵を召喚した。黄色と黒を基調とした色合いは、龍の名を冠しているが虎を想起させる。
翼があり、右手には大剣を携えている。赤龍や緑龍に比べてほんの少し小さめの体躯をしていた。
「二人とも、手合せはそこまでだ。次は『技』を見せてほしい」
「『技』?」
「どのような『技』でしょうか?」
雄士も子泉もよく分かっていないようだ。
「そうだな、例えばこういうのだ。皆、少し離れた方がいいかもしれん」
雷龍が大剣をかざす。剣先に雷があふれ出てきた。
「龍雷砲!」
一志の言葉と共に、雷龍が剣先から一条の光を放つ。
けたたましいその音は本物の雷とよく似ていた。
「私たちには、そのような技はありません」
「何一つ……」
雄士と子泉は申し訳なさそうに話した。
「よいのだ、技はこれから身につければよい。それだけのことではないか。私も初めはそうだった」
雷龍が掲げた大剣をゆっくりと下ろした。
「始めようか。修行の時間だ」
一志が雷龍から降り、雷龍を封印する。
それに合わせて雄士たちも龍鎧兵を封印した。
「こっちだ」
一志が手招きをしている。雄士たちはそれについていった。
石段があり、それを登っていくと人が座るのにちょうどいいくらいの石が五つ見えた。
人為的なものなのか、どれも同じような形と大きさをしていた。
「二人にはここで座禅をしてもらいたい」
「分かりました」
雄士はさっそく石に座ろうとした。
「雄士殿、一つ注意してほしいことがある」
「はい」
「座禅をするときは何も考えないことだ」
一志がうっすらと笑みをこぼした。
「以上だ。始めてくれ、私も行う」
「……? そしたらいつやめればいいのですか?」
「子泉殿、それは体が教えてくれる。君たちは何の心配もいらない」
一志の回答はとてつもなく奇妙なものであった。君主というよりもむしろ妖術使いのような言い回しだ。
とはいえ、そんなことを考えていたら修行にならない。二人は一志の言葉を気にすることなく修行に臨むことにした。
鳥の鳴き声くらいしか聞こえない状況となった。
雄士たちはじっとしていた。
座禅の時間は続く。
何も起こらない。
このまま何事もなく終わってしまうのだろうか。
三人は無心で座っていた。未だ時は来ず。体は何も語らず。
そんな時だった。
雄士たちは腰のあたりがだんだん熱くなっていることに気付いた。
龍鎧兵を呼ぶ巻物が熱を発している。
その熱さに雄士と子泉が顔を歪めていた。
「そろそろだな。二人とも、巻物を見てみるんだ」
雄士と子泉はおそるおそる巻物をつかむ。
開いてみると、普段書かれていないような文字が書かれていた。
中を見てみると、雄士の巻物には『龍炎』、子泉の巻物には『龍鱗』の文字が刻まれていた。
「それが君たちの龍鎧兵に秘められし力だ」
「龍炎……か」
「私は龍鱗……一体どのような力なのでしょう?」
「君たちが考え、作り上げていけばいい。次は、力を呼び覚ますための修行だ。ここから中々きつくなるが、ぜひ力をものにして欲しい」
「はい!」
雄士も子泉も力強い返事をした。
ここから、彼らの本当の修行が始まるのであった。




