盗賊の里(後編)
光の先に巨人の姿在り。
その巨人は『龍鎧兵』と呼ばれている、魔力と術式で動く巨大兵器だ。
作り出されてから1世紀以上たった今でもこれを超える兵器が出てこないことから、未来からもたらされたのではないかと言われるほどだった。
雄士が呼び出した赤い龍鎧兵が『赤龍』である。
堂々とした偉丈夫のような体躯と、赤を基調とした色鮮やかな体が特徴だ。
左腕に盾を、右手に剣を装備している。
隣には子泉が操る『緑龍』がいる。
赤龍とにているが、こちらは緑色の美しい鱗に覆われたような姿をしている。
大きな偃月刀が緑龍の武器だ。
二体の龍鎧兵がゆっくりと地上のほうへ降りてきた。
そして、光を発しながら雄士たちに近づく。
光を受けた雄士たちは次の瞬間、龍鎧兵の中にいた。
「雄士、どうします?」
「……相手が戦意を失ってくれれば十分だ」
龍鎧兵に乗り込んだ雄士たちは、単に盗賊たちを追い払うつもりでいた。
だが、盗賊たちの行動が雄士たちを驚かせた。
盗賊たちもまた、龍鎧兵と同じくらいの大きさの巨人を繰り出してきたのだ。
荒野の地面から続々と姿を現す。最終的には、八体もの巨人が現れた。
「あれは、石兵か?」
「近頃の盗賊は物騒ですね」
「子泉、どうやら遠慮はいらないみたいだ」
対峙する『石兵』もまた、龍鎧兵と同じく巨大兵器だ。
龍鎧兵のように魔力と術式で駆動している。
龍鎧兵と違う点は、石兵は量産ができることある。しかし、物資を大量に必要とするために生産は大国にしかできない。
狐狸の人間たちはそれをどのようにして手に入れたのだろうか。
答えは一つ。何らかの形で他国から奪い取ったのだ。
とはいえ、乗っている盗賊たちに罪悪感はない。
当たり前のように乗り込み、当たり前のように使っている。
盗賊の石兵が掌から光弾を放ってきた。
八体から放たれる光弾の量は馬鹿にできない。
赤龍と緑龍は空を飛び上昇して、射線上から遠ざかった。
「飛んだ? 馬鹿な……」
「信じられねぇ」
「生意気だ、撃ち落としてやる!」
悠々と空を駆ける龍鎧兵の姿に、盗賊たちが一瞬驚いた。しかし、すぐに攻撃が再開され、赤龍と緑龍に向けて光弾が撃ち込まれていく。
「雄士、二手に分かれましょう」
「分かった。左は子泉に任せる」
二体の龍鎧兵は左右に展開し、斉射を避けながら石兵に近づく。
赤龍が速度を上げ、手前の石兵に向かって突き進んでいった。
「こんなところで立ち止まるわけには、いかない!」
雄士の一声とともに、赤龍が踏み込んだ。そして剣を振りかざす。
袈裟切り、横一閃と続けざまに石兵を切り込んだ。
切られた石兵は音を立てて崩れてしまった。
「こちらも仕掛けるとしましょう」
赤龍の動きをちらりと見て、子泉がつぶやいた。
子泉の緑龍も一番近いところにいる石兵へと近づく。
急降下しながら偃月刀を振りおろし、石兵を一刀両断してしまった。
その後、緑龍は再び空を飛び、掌から光弾を撃ち始めた。
発射された光弾が一体の石兵を直撃した。
「ふうっ、この調子なら。……うっ、ううっ」
子泉が緑龍の中で体を震わせて苦しみ始めた。
しびれ薬が効きだしたのだ。
同じ頃、赤龍がもう一体の石兵を剣で突き倒していた。
突きを受けた石兵が大穴を開けて倒れている。
残る石兵が四体となっていた時、雄士が異変に気付く。
緑龍の動きが緩慢になっていたのがはっきりと分かった。
「子泉、どうしたんだ?」
「雄士、すみません。……っ、やつらに盛られた薬が効いてきたようです」
「戦えるか?」
「雄士、私のことは構いません。あなたは、自分の心配をしてください」
「お前を見捨てて一人で逃げる俺じゃない」
「しかし、雄士」
「俺が前に出る。後ろから援護してくれ」
「……分かりました」
子泉の返答が苦しそうだ。
(すぐにでも決着をつけないと)
雄士は赤龍を前進させる。
盗賊たちは、雄士たちの狙いがすぐに分かったらしい。
相手の石兵が散開して赤龍と距離を取り始めた。
そして、後ろにいる緑龍に光弾を放った。
今の緑龍にまともな回避行動は困難だった。
直撃こそ避けたものの、脚部や腕部に光弾を受けてしまった緑龍。
(くそっ、しまった)
慌てた雄士は赤龍を後退させ、緑龍の救助に向かう。
赤龍もまた、相手の石兵の光弾を右肩、左足と被弾してしまった。
「子泉!」
「雄士、あなただけでも……」
「馬鹿を言うな! 俺はもう、これ以上何かを失うのはごめんなんだ」
雄士はそばに岩場があったのを見逃さなかった。
緑龍を連れ、赤龍を岩場の陰に移動する。
そして、岩場から赤龍が光弾を放ち、牽制を始めた。
(国も民も家族も失った。その上我が友を失うことなど、耐えられない)
そんなことを考えているうちに、今の自分の不甲斐無さに腹が立ってきた。
今の状況を打破できないことに対する怒り。
友や国民の思いを自身の手で裏切ってしまうことに対する怒り。
そして、何も果たすことなく、志半ばで斃れてしまうかもしれないことに対する怒り。
それらすべてが雄士の心のうちからこみ上げてくる。
「あきらめるものか、この程度が何だ!」
雄士は身震いを始めた。しびれ薬によるものか、怒りによるものなのか分からない。
初めは両方だったのだが、やがて前者のほうが強まっていった。
(視界が、ぼやけてきた……。俺はこんなにもやわな人間だったのか)
雄士が弱っていくのと同じように、赤龍も体勢を崩していく。
雄士はふと隣を見た。そこにはいたはずの緑龍の姿はなかった。
代わりに子泉が地面に横たわっていた。生きているのかどうかも分からない。
(友よ……、生きていてくれ。友よ)
雄士は気を失った。それと同時に赤龍も姿を消してしまった。




