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交渉への道

 斉連では、引き続き狐狸の対策が議題となっていた。

 話が進まなかった中、ある提案が出てきたときにその流れは変わった。

 それは、周囲の大国と呼応して狐狸を討つというものであった。

 案に対して賛否が飛び交う。特に、反対派からは大国の神経を逆なでするのではという声が多かった。

 しかし、賛成派も引きはしない。狐狸の被害に困っている国と結託して討伐すれば、各々の負担が少なく皆が得をすると言って譲らない。

 賛成派と反対派の論議がしばらく続いた中、豪龍一志の一言が場を静まらせた。

「このまま狐狸の悪行を黙って見ているわけにはいかない」

 鶴の一声により、話し合っていた斉連の重鎮たちが黙って一志の方を向いた。

「大国……となると美水びすい武岳ぶがくだな。確かに両国とも味方となれば心強い」

「同盟を結ぶのですか?」

「とはいえ、こちらから一方的なものだと相手も腹を立てるであろう」

 一志は何かうまい方法がないものかと考えを巡らせる。

 大国相手に下に出れば出たでなめられ、不当な要求を突き付けられるだろう。逆に上から出たら関係がこじれ、戦争となる可能性が大きい。

 そのどちらもうまく回避する方法はないだろうか。

 一志はなおも考えを巡らせる。少なくとも損をさせるような話には乗らないだろう。

 斉連を含めた三国が得をする同盟内容を考えることにした。

(制圧した場所を自領にしてもよいというものにした場合、各国の戦力はもとより、対峙した戦力が原因でごねる国が出てくるかもしれない。しかし、美水も武岳も自国の戦力には自信を持っているだろう)

 同盟が実現すれば、狐狸の縄張りは三分割することにはなるだろう。一志はそう睨んでいた。

 そんな時だった。

 とある者の一言で、一志は頭を抱えることになった。

「そういえば、どのようにして武岳と美水に話をもちかけるのですか?」

 議会はまたも静まった。

 斉連の北東に武岳、東に美水があるのだが、斉連と美水の間の地帯は狐狸がはびこっている。いつ襲われてもおかしくない危険地帯だ。

 そうなると武岳へ行き、領内を通り、それから美水へと向かうのが比較的安全な道と言える。

 しかし、それではあまりにも遠い道である。だからといって下手に龍鎧兵を飛ばそうものなら敵対行為とみなされてしまうだろう。

「可能性があるとすれば、武岳から美水へ向かう道しかない……」

 一志が淡々と意見を口にした。周囲はまたも静まり返る。

 迂回を行うとなると、水や食料もかなりの量が必要となってくる。準備の時点で骨が折れそうだ。

 そもそも、武岳が交渉に応じるとも限らない。最悪の場合、命の保証もないのだ。水や食料どころでは済まなくなってくる可能性も十分にあった。

 一志自身も考えを整理していた。美水までたどり着けなかった場合、せめて武岳だけでも味方につければ狐狸に対する抑止力となるのではないかと。

 未だに話がまとまりそうにない。

 それどころか、またもや同盟にたいする賛否の話が蒸し返しそうになったその時だった。

「いずれにしても、武岳を味方につけたいと私は考えている。まずは武岳へ行こう」

 一志はきっぱりと言い切った。もはや交渉を前提としている。

 周囲からも、武岳を味方につける方がいいという意見が出始めた。武岳だけでも味方につければ狐狸に対して十分な牽制けんせいにはなるだろう。

 最終的には、狐狸討伐は大国を味方につけて行うことで合意となった。


 とりあえず話がまとまったので、一志は大部屋を抜けだした。

 長時間の会議というものは体にやさしくない。

 とはいえ、今後の斉連の未来を左右するかもしれない話だったことを考えると、話をする時間が短かったのかもしれない。

(次は、同盟の内容と交渉にあたっての人選だな……)

 一志は宮殿の外を眺めながら考え事をしていた。

 相手は武岳だ。武を重んじる気概は大陸一の国だ。弁説や頭の回転よりも根気や勇気の方が必要となってくるだろう。

 少なくとも一志にはそんな気がしていた。

(だが、美水に行けた場合は逆に弁舌が必須となるであろう……)

 武岳とは対照的に、美水は経済観念が発達している国だ。いかに今回の同盟が得なのかを説明できなければ話に食いつくことはないだろう。

 対照的な二国にどう接していくか、考える一志。

 少数精鋭で向かうことを考えているのだが、そうとなると一層人選に困ってしまう。

 そんな時だった。

 一志の目の前に雄士と子泉がやってきた。

「雄士殿、子泉殿」

「御用ですか?」

 子泉がいつもの笑顔で一志に返事をした。

(彼らは今や臣下とはいえ、国政に深くかかわってもらっていいものだろうか?)

 だが、彼らほど腕の立つ人間が自領内にいるだろうか。特に、龍鎧兵の存在が大きい。

 それを考慮に入れると、必然と一志の行動は決まってしまった。

「実は、折り入ってお願いがあるのだ。私と一緒に武岳まで来てほしい」

「武岳!? まさか、戦争ですか?」

「雄士殿、それは違う。我々は同盟の交渉に行くのだ」

 武岳と言えば闘争、そう考える人間は多い。今は過去に比べれば随分とおとなしくなった。

 だからといってそれでかつての印象がぬぐえるわけではない。

「あの国と同盟するのですか?」

「そうだ、狐狸を完全に討伐するためにね」

彼らもまた、被害者である。だから、狐狸の討伐に対して反対することはないだろう。

 とはいえ、骨の折れる話であることは間違いない。

「簡単にはいかないと思います」 

「そうだろうな。だが、奴らをこのまま野放しにはできん」

 一志は多くを語ることはなかった。それにその必要もなかった。

 その眼差しが何よりも強く雄士たちに語りかけていたからだ。

「我々もお供します」

 雄士と子泉の腹も決まっていたようだ。

 彼らなりに一志の思いを察してくれているのだろう。

「よくぞ答えてくれた」

 一志は彼らのような若者が斉連に来てくれたことを感謝した。

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