美樹の家にて(1/4) 悠の困惑
章タイトルが変わりました。
『プロローグ』から『プロローグ~噂の動物屋敷~』、『仮題「本編」』から『日常~動物屋敷へ~』。
前話(五月の出来事)を修正しました。高校二年の設定から高校一年に変わりました。ごめんなさい。細かいところのミスです。ストーリーには関係……ちょっとありますが、読むにあたってはあまり気にする必要はありません。
今話タイトル「美樹の家にて(1/4) 悠の困惑」。悠が困惑する原因は……?
翌々週、土曜日。
「ここが美樹ちゃんの家……」
「あ~、遠慮なく上がって」
「……美樹ちゃんの家だよね?」
ここは美樹の家だが、なぜか未来也が受け答えしている。
「そうだが?」
「じゃあ、なんでさっきからキミヤが案内してるの?」
「やーねー、永井くん。また『キミヤ』になってるわよ?」
なぜか美樹からのツッコミだった。……分からない。
「ごめん……って、さっきから二人とも逆じゃない?」
「そう? 未来也くんはどう思う?」
「いつもは未来也のこと『キ……』」
「さあ? なんのことかしら」
悠は、美樹にクッションを押し当てられて喋ることができない。
そんな悠が視線で未来也に助けを求めると、美樹の手を優しく掴んでクッションを下げさせた。
「あら、未来くん! 来てたのね!」
「母さん、来てたのね~じゃないわよ。今日来るって今朝言ったじゃない。それと、そっちにいるのが永井悠くん」
「初めまして。クラスメートの永井悠です」
「あらあら。美樹ちゃんがお世話になってるわね。私が美樹ちゃんの母です」
未来也は、小さいころからよく来ていて「第二の家」といった感じである。未来也が全て案内していたのは、美樹からは「遠慮なく~」とかいう言葉が出ないからでもある。美樹もそんなことを気にした様子はないので、これでいつも通りなのである。
美樹の家、森邸は広い。初めて訪れる人は迷子になる人もいるくらいである。美樹が二人を伴って帰ってきて、少し経ってから美樹の母がやってきたのはそれが理由である。
「悠くんって、男の子だったのね……」
美樹の母がそう呟いたのは、だから誰にも聞かれていない。
「ここって美樹ちゃんの部屋だよね?」
「そうだが、どうかしたか?」
「だから、それは美樹ちゃんが言うセリフだと思うんだけど……」
「そうだけど、それがどうかしたの?」
「美樹ちゃんが言っても、結局同じ答えしか返ってこないんだ……」
先程も同じようなやり取りがあったような気がするが、誰も気にしてはいない。
いや、悠だけは気にしているが、表面上は取り繕っている。
そんな悠は、疑問を解消するために、勇気を出して美樹に質問してみることにした。
「なんで美樹ちゃんの部屋に、男物の服があるの?」
女の子の部屋に男物の衣類が普通に置いてある。ちょっと不自然である。
「それは未来也くんのよ」
未来也は小さいころから、よく美樹の家に泊まっていて、そのときは美樹と寝起きを共にしている。当然、悠がそんなことを知っているはずもないので、悠が不思議に思うのも無理のないことである。
それなのに、さも当たり前のように言われてしまい、困惑する悠。それが普通なのか、と思ってしまいそうである。
そんな困り顔の悠に気づいた未来也が説明を始める。
「僕と美樹は幼馴染だ。ここまではいいな?」
「オーケー。それで?」
「そこまで分かれば特におかしなことはないだろ?」
「……えっ、説明終わり?!」
「それ以上何かあるか?」
仕方ないわね、と今度は美樹が話し始めた。
「小さいころから、未来也くんはよくここに来ているのよ。そこまではいいわね?」
「まさかそこで説明終わり、じゃないよね?」
とりあえず、悠の言葉を無視して話し続ける。
「小さいころからお泊りするときはこの部屋なのよ」
「その割には服のサイズが大きいと思うんだけど……」
「当たり前じゃない。十五年も同じさサイズの服を着られる子どもがどこにいるのよ?」
遺伝子やらなにやらの関係でそういう症状の人もいるようだが、一般的ではないので考えないことにする。
「ん? ということは、今でも泊まってるの?」
「そうよ」
「美樹ちゃんの部屋に?」
「ええ」
「美樹ちゃんはその間どうしてるの?」
「ここにいるわよ?」
何を当たり前なことを、という感じで言われてしまい再度困惑する悠。年頃の男女なのだから普通は別の部屋にするのではないか、と。しかし、この二人を見ていると、その方がおかしいのではないかと思えてくる。
「だいたい何でも一緒だよな」
「そうね。昔からトイレ以外は一緒よね」
「……俺ってもしかしなくてもお邪魔か?」
「何でそういうこと言うのよ! それだったら最初から呼ばないわよ!」
何気なくぼそっと言った一言だったが、美樹を怒らせてしまった悠である。そして、声を荒らげた美樹に驚いているのは未来也も同様で、少し思案顔である。
「まあ、美樹。少し落ち着こう。……ごめんな、悠。突然」
「ご、ごめん。……まさか聞こえるとは思わなくて」
今度は泣き出してしまう美樹。何がなんだか分からずにおろおろしているのは悠である。
「悠、なんていうか、……美樹は謝られるのが大の苦手なんだ」
「……ごめんなさい、未来也くん。余計な気を使わせてしまって。……永井くんも、ごめんね」
潤んだ瞳で未来也を見上げる美樹を見て、じゃあどうすればいいんだ? と思った悠であった。
お泊りすると、寝ても覚めてもず~っと一緒な二人です。
若干アレなセリフがありますが、お気づきでしょうか? 美樹のセリフですが、別にミスったわけではありません。(誤字があれば、ただの誤字ですよ)
美樹の母の「悠くんって男の子だったのね」は、クラス名簿で名前を見て男の子? 女の子? と迷っていて、美樹の新しい友達と聞いて、勝手に女の子だと思い込んでいたためだったりします。男性か女性か分かりにくい名前の人ってたまにいますよね……。
美樹の家が広いとありますが、部屋数が多く、一部屋の広さは普通サイズです。そのうち出てくる未来也の家もなんだかおかしいです。
なぜ、美樹は謝られるのが苦手なのか……?
自分が謝ることは普通にできますが、謝られるのが苦手です。ただ苦手というだけで、詳しい設定はありません。みなさんも『なんとなく○○が苦手……』なんてことありますよね? そんな感じですが、泣き出してしまうほど苦手です。(ぼくなんか、道で犬に吼えられると涙目で走って逃げます)
次話タイトル(予定)は「美樹の家にて(2/4) 約束」です。
どんな約束なんでしょうか。詳しくは次話にて(?) 2013.2.25 23:25