昨日までの僕らのこれから
意識が徐々に覚醒していくのを感じ、ゆっくりと目を開ける。
夢を見ていたような、そうでなかったような。
いい匂い。
横のかすかな温度を伴う空白を確認し、部屋の中を探す。
先に起きたんだ。
掛け布団に残る自分の温度を惜しみつつ、ベッドから這い出す。
僕が呼ぶ名前への返答はすっきりとしたもので、朝が弱い僕からすると羨ましい限り。
飲む?と聞きながら湯のみにティーバッグを叩きこみお湯を入れテーブルの上を僕の前まで滑らせ、まだ返事してないのに、という僕の抗議に物凄く意外そうな顔で飲まないの?っていや飲むけどそうじゃあ無いでしょう……
おや茶柱、と覗きこまれた湯のみに疑問を感じ僕も覗くとティーバッグ破れてるじゃねーか。
徐々にもやが晴れてきた頭を軽く振って、どうしてティーバッグが破れているのか、破れているのに何故入れたのか、イタズラだったら怒る、とまくし立てると、いやこれ潮吹き面湯のみだし、と。
朝から卑猥な事を、と湯のみを顔面に叩き込んで潮吹き面湯のみが何なのか問いただす。
いつだか行きつけの雑貨屋で面白そうだったし安かったから買った、とあまり面白く無い事を言うので湯のみの上からもう一発。
この紅茶鉄の味がする上にしゃりしゃりするから外れだな、とか馬鹿なことを言う馬鹿を蹴り倒し、朝食を作ろう。
冷蔵庫を確認し、
――空じゃん。
そういえばそもそも冷蔵庫を開けるのが久しぶりじゃないか、と自分に確認して苦笑し、宣告する。
――即ち、朝食は無い。
床を拭きながら呆然とし、一度雑巾をバケツで洗い、固く絞ってから更に拭き、抗議っぽい大声をあげる。
そんな声を出されても霞から食材も料理も作り出せません。とさらに言うと、バケツと雑巾を片づけ、じゃあ外で食べようか、と恐らく昨晩ぶりにまともな言葉を放つ。
ならあのたまに行く24時間営業のファストフード店に、と言う前に俺ナン食いてえカレー屋行こうぜカレー屋あのインド人のカレー屋と喚く口に僕の靴下をご馳走する。お粗末様でした。
取り敢えず着替えて、家を出る。
勿論カレー屋は昼からだし、本人も本気でカレーを食べるつもりでは無いので、僕の予定通り、ファストフード店へ。
注文した品を受け取り、人の居ない店内を進み、奥の席を確保。
コーヒーに口をつけながら、久しぶりの休日だけどどうしようか、と問う。
サンドイッチを摘みながら、どうしたいよ、と返る。
ポテトに手を伸ばし、朝から外に出てるし家で、ってのは無いよねぇ、と疑問。
更にサンドイッチを囓って、じゃあちょっと遠くのショッピングセンターでぶらつくか、と提案。
サンドイッチに手を付け、車出すの面倒臭いなぁ、と少し甘えると、
コーヒーに何も入れずに一気飲みして、行き俺で帰りお前、でどう、と譲歩。
苦い、と顰めた顔を見て、久しぶりに二人だね、と茶化すと、
顔を赤くして吃りながら何事か言う、けど何言ってるかわからないから取り敢えず落ち着けと、コーヒーを手渡す。
飲んで気づいてさらに顔を赤くして、じゃあ一度帰って車を出そう、と話題をそらす。
これだからからかい甲斐が或る。
知人に世話を頼んでいたお陰でバッテリーもガソリンも無事で、あとでお礼を言わなくては。
当然の様に助手席に陣取る僕を見て苦笑して、運転席へ。
……どうだったっけ、と首を捻って、鍵を差し込みエンジンをかけ、おおかかったかかった、合ってたな、とか不安な事を呟くのを白い目で見てから、
昨日、じゃないかもしれないけど、よかったね、と声をかける。
同意した上で、ま、かなり驚いてたけどな、と付け加えて、ニュートラルのままアクセルを踏んで首を傾げる。二三度目でようやく気付き、レバーに手を置く。
原因がそうであれば結果も然り、そうでなければそれはどちらかが間違っていて、だっけ、かっこよかったよ、と微笑むと、車が突然バックして車止めにタイヤが当たる。
ま、まあな、と同様しながらようやくドライブに切り替え、緩やかに発信させて、まあ、運命だろ。そう思うだろ?とちょっと恥ずかしい事を平気で言う。
ま、お前は鈍感だから解らんだろうけどな、と口の端を上げる顔に気づく。
嫌な人だねーと顔を赤くして言うと、お前に味を解って欲しかったんだよ、と笑い顔で言う。
結局また俺が飲んだけどな、という顔を軽くつねって、じゃあ、今この僕らの原因はこれからどうなるの、と拗ねた口調で問うと、
――運命だしな、神のみぞ知る、だろ
カードゲームのあれが詰まってるのでちょっと別のものを。
内容の話としては、
僕と俺は前日までパートナーを両親に紹介する旅に出ていて、これは帰宅した翌朝。
僕も俺もどちらの性とも取れるように、とか因果関係はとりあえずこれの中だけで完結するように、とか色々考えるのが楽しかったり。