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番外編――相田弥勒

番外編では、別の人物が語り部となります。

 コンビニ袋を片手に、俺は横断歩道の前で立ち止まった。向かい側の歩行者信号は赤を示している。

 俺は一つ嘆息しつつ、仰ぐように青空を見上げた。今日も雲一つない快晴である。

 俺は顔を正面に戻し、目の前を通り過ぎていく車をぼーっと眺めた。すると、助手席の車窓から子供が顔を出している車を見つけた。その車は間もなく俺の目の前を通り過ぎるだろう。

 車が目の前を通り過ぎた。助手席の子供と目が合う。子供は凄まじい剣幕で俺を睨みつけていた。


「…………」


 ほんっとうに嫌になる。いったい俺がなにをしたというのか? 毎回毎回、昨日も今日も明日も明後日も、何故こんなにも俺は嫌われる?

 信号が青になった。俺は頭をがじがじと掻きながら、横断歩道へと歩みだした。すると、ぎゃあぎゃあ大声で会話をしている女子高校生二人組が後ろから俺を追い抜いた。俺は意識的に遅めに歩いているので、追い抜いた行動は不自然ではない。追い抜いた行動、はな。

 あれだけ大声で話し込んでいた女子高生二人が、俺を追い抜くときだけしんと黙った。まるで猫の死体を見せ付けられたかのような雰囲気でだ。

 女子高校生二人組は、俺を追い抜くと、なにやらひそひそ声で話し始めた。


(今の人、かっこよかったね。身長も高かったし。……でも……)


(うん、ちょっと雰囲気がね……。なんていうか、不気味っていうか……こっちが落ち着かなくなる感じ?)


(あーそれそれ分かる! なんか凄い気まずかったよねー!)


 ……全部、まる聞こえなんだが。

 まあいい、まあいい。「雰囲気がおかしい」というのは言われ慣れていることだし、陰で何かを言われるのも慣れている。ただちょっと勘弁して欲しいのは、通り過ぎる時は黙らないで欲しいということだ。無駄な罪悪感が込みあがってきてしまう。

 俺はしばらく歩き、二つ目の横断歩道に差し掛かった。これもまた、向かい側の信号は赤を示していた。この二つ目の信号の赤は長く、軽く二~三分は待たされる。よって横断歩道前の道には列ができるわけだが、ここでも、また。

 俺はその列の最後尾に静かに並んだ。すると、前に並んでいる数人のサラリーマンやらおばちゃんやらがこちらを振り向き、その後もばつが悪そうにちらちらと見てくる。実に不快だった。こっち見んなよ。前見てろよ。本当俺がなにをしたんだよ。

 俺としては結構普通に振舞っているつもりで、そして実際第三者視点から見てもそれはそうなのだろうが、何故か俺は注目を集め、嫌われる。その大半の理由は「雰囲気がおかしい」だとか「雰囲気が不気味」など、雰囲気がらみのものばかりである。おかげで俺は小さい頃から学校でハブられていて、先生からも不待遇を受けている。そうして俺はどんどんひねくれた性格になっていき、そしてそれが更に嫌われを加速させるという悪循環までもができた。

 あーやだやだ。どうしてこう上手くいかないものかね。俺には何かとり憑いているのだろうか。



 例えば、神さまとか。



 ……いや、もちろん冗談だ。それにもし俺になにかがとり憑いているとしたら、それはきっと悪魔に違いない。神がとり憑いているとしたならば、こんなにも惨めになっているはずがない。

 ふう、自分で自分の欠点を確認して、少しナーバスになってしまった。最近こんなことばかりだ。受験生だというのに、こんなんで大丈夫なのだろうか。

 信号が青になった。溜まりに溜まっていた人という名のゴミが、横断歩道へと吐き出されていく。俺もその中に混じって歩みを進めた。

 と、そこで。突然後頭部に、重い衝撃のようなものが起こった。

 俺はその衝撃に耐え切れず、地にひざをついた。それでもまだ頭はぐわんぐわんとしていて、俺は両手も地につけ、うずくまるような姿勢になる。

 横断歩道のど真ん中でこんなことになっているので、ただでさえ体質で注目を集めるというのに、更に人の目が集まった。まだ信号は赤になっていないが、このままだといずれ赤になり、数多のクラクションと共に渋滞が起きるだろう。

 しかし、道往く人々は誰も俺を助けてはくれなかった。俺はこんなにも苦しんで、悩んで、頭を抱えてうずくまっているというのに。その人々の冷たい態度には、激しい怒りと――一抹の、寂しさを覚えた。

 誰か、俺を助けてくれ……!

 誰か、俺に話しかけてくれ……!

 誰か、俺に構ってくれ……!

 誰か、誰か、誰か。



 誰か、俺を救ってくれ。



 お願いだ、神さま。

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