レイヘヴン
あれから草原を二十五分程度歩いて、俺たちは¨レイヘヴン¨へと到着した。道中様々な雑魚モンスターと出会ったが、いちいち¨越境¨を使うのも気が引けるので、頑張って素手で戦った。そこで気付いたのだが、どうやら¨越境¨を発動した状態で格闘を行うと、好きなタイミングで、また好きな出力で衝撃波を起こせるらしかった。つまり、無駄な破壊をせず瞬間火力アップができるというわけだ。
「ここがレイヘヴンか……? 本当にここなのか? なんか燃えてるが」
「お、おかしいですね。平和な村のはずですが……っと、なんでしょう、あれ……?」
業火に包まれている村の入り口から、よろよろと出てくる二つの影があった。俺は慌ててその影に近寄ると、それはボロボロの小さな少年と少女だった。
「ど、どうした? この村でなにがあった」
俺がそう聞くと、ボロボロになっている少年がつっかえつっかえ、必死で説明を始めた。
「し、自然が……。自然の奴らが攻めてきて、俺らの村を……。ちくしょう! 奴ら、自然の保護とかのたまって、俺らの土地を奪う気なんだ……!」
自然? 自然の奴ら? 村を攻めてきた? 一体どういうことだろうか、全く要領を得ない。
「恐らく、自然とは¨自然¨ギルドのことでしょう。ここいらは丁度¨自然¨ギルドと¨自由¨ギルドの勢力の境界線ですから、きっとそれで……」
俺は何とか少年と少女から詳しい話を聞きだして、キルコの情報と照らし合わせて状況を整理してみた。まず、¨自然¨ギルドは最近になって急に粗暴な態度を示し始めた。そして、異常なまでの自然信仰の仮面を被って「すべてを自然のもとへ還す」という建前をつくり、一気に他の勢力へと侵攻を始める宣言をしたという。そして、この村がその標的第一号となったわけだ。
「あいつら、おかしいよ……! 少し前までは穏やかだったのに、急にこんなことになっちまって……! 絶対に許せねえ! あいつらのせいで、母さんは連れてかれて、父さんは殺されたんだ!」
確かに、これはどう考えてもおかしい。やり過ぎだ。しかも、これは異常信仰を建前にした、略奪。許されるべきものではない。
「いかが致しますか? 牡丹様。この村を救うというならば、相応のリスクもございますが……」
「……もう少し俺が強ければ、即断も出来たんだがな。しかし、ちんたらとレベルを上げている暇はない。危なくなったら即逃走という条件で、この村に突っ込もう」
本当ならば関わり合いにはなるべきではないのだろうが、しかし、ことが目の前で起きている以上、見殺しというわけにもいかない。いくら俺のレベルが低かろうが、やれることはある程度あるはずだ。英雄にはなるつもりはないが、せめて、目の前の人助けくらいはしたい。
「はああ……なんでこんなことになってんだろうな……。今頃、普段なら家でのんびりしてたはずなんだがなあ……」
「愚痴を言っても始まりませんよ、牡丹様。それでは早速、参りましょう」
「いいや、お前はここで待ってるんだ」
「ゑ?」
素晴らしいほどに、素っ頓狂な声だった。また新しいキルコの一面を見れたような気がする。
「お前は今は装備もアビリティもない。そんな状態で行ったら破壊されてしまうかもしれない。だから、お前はその二人を守って待ってろ」
「し、しかし……! もし牡丹様に、何かあったら……!」
「いざという時は、¨越境¨を連発するから問題ないよ。それに、レベルもある程度上がってるから、武装スーツの持続時間も伸びてることだろうしな。超越者なめんな」
「……必ず、戻ってきてくださいよ」
「ああ、俺もみすみす死ぬ気はないんでね」
これは本心だった。この村には悪いが、俺が危うくなった場合には見捨てて逃げさせてもらう。あくまでボランティアなのだから、それくらいは当然だ。
俺は頬を両手で張り、気合を入れた。そして、一息つき、俺は業火に包まれる村の中へと突っ込んでいった。