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MA討伐作戦①

一ヶ月ぶりの更新です。長引いてしまって申し訳ない。

 カリムオという町は、普段はとても活気に満ちた町だそうで、本来は決してこんな殺伐とした雰囲気は醸していないという。

 ならば何故こんなにも暗い雰囲気が漂っているのかというと、それは昨日、この町に略奪犯グループが現れたからだという。

 カリムオに居を構える大貴族¨レッドフィール¨。

 まず初めにその家が襲撃され、家来共々、家の人間は皆殺しにされた。町常駐の兵士が挨拶回りに向かったところ、それを発見したという話だ。

 家の中は酷い有様だったという。その兵士の言を直接引用するならば、正に『地獄絵図』だったらしい。土足で踏み込まれた後が幾つも散見され、数多の家来兵は全て内臓をぶち撒かれ、家の当主は身体を散切りにされて壁に貼り付けられ、その妻と一人娘は行方不明。当然家の財宝は全て持ち出されていたらしい。

 すぐに町中に厳戒態勢が敷かれたので、略奪犯グループの犯行はそれが最初で最後みたいだったが。

 今は町に潜んでいるグループの一味を、軍が兵士の数に任せて炙り出しているところだという。一般市民も怖がって中々外に出ないので、町が殺伐としているのはそのためだ。


「……という話みたいだが、この爆音はいったいなんだ? まさかあんたら、兵器をバカスカ撃って炙り出しているんじゃないだろうな」


「そんなことするか。ついさっき、メンバーの一人が見つかったらしいんだよ。ご丁寧にもレッドフィール家のご令嬢を連れていたらしいぜ。で、いま討伐作戦に移っているわけ。周辺じゃ避難勧告も出されてる」


「討伐ゥ? 捕獲じゃなくて、いきなり討伐しちまうのか? 色々引き出したい情報とかあるだろうに」


「まあな。だから最初は捕獲作戦だったんだが、その、どうにも手強いらしくてな。捕獲は難しそうだから、討伐命令が」


「ふうん、手強いのか。具体的には、どんな感じなんだ? 派手なアビリティとかババーンと撃ちまくったりしてくんの?」


「んん、どうだったかな。聞いた話によると、そいつに近づいたらもの凄く気持ちが悪くなって正常な判断ができなくなったり、頭を弾丸で撃ち抜いたはずなのに死ななかったり、ごっつい翼を生やして空を飛んだり……。

 あ、あとアビリティ攻撃を消滅させたって報告もあったかな」


「う、うわあ。化け物だなそいつは。そりゃ厳戒態勢も避難勧告も出されるわけだ。出来ればお目にかかりたくないね」


「なに言ってんだ、出来なくてもお目にかかれないさ。ほら、さっさとどっか行っちまいな。そういうわけだからこの町は出入り禁止になってるって何度も言ってるだろうが」


「そこをなんとか! 俺ら、装備とか買いたいだけだからさ。買ったらすぐ出てくって」


「駄目なもんは駄目だっての! それに状況が状況だから、武器屋――……いや、どこも店なんか開いてないと思うぞ」


「ええ~。……ったく、迷惑な略奪犯グループだぜ――って、んん? そういえばさっきあんた、『ご令嬢を連れて』とか言ってなかったか? まさかいま、そのご令嬢ごと攻撃してんのか?」


「なわけないって! ご令嬢はしばらく前に何故か開放されてきたよ。その際に『攻撃しないでください! 彼は悪い人ではありません!』とか泣きながら言ってたらしいが……。可哀想になあ。洗脳されちまって」


「開放……ね。なんでだろうな……。そういえば、とっとと売っちまわないで、のこのこ連れて町を歩いてたってのも気になるが……。何かありそうだな」


「ほらもう行った行った! なににしろ入れないんだから、そんなこと考えても意味ない意味ない! この町の外周をぐるっと回って数キロ歩けばバセスっていう町があるか

ら、装備ならそこで整えな。ほら、地図やるから」


 そう言って、ぐいぐいと乱暴に地図を押し付けてくる門兵。はあ、結局町には入れずじまいか。

 ――あの『聖戦』から、数時間が経っていた。

 あの聖戦のあと、俺らは腰を落ち着けられる場所を探して、このカリムオの町へと出向いた。

 レイヘヴンがあんなことになっちまって、いつまでも装備も道具も補充ができないのは辛いし、いい加減情報収集もしたいので、キルコのガイドではるばる草原を歩いてこの町へと来たのだが……。

 どうやらまた、事件らしい。

 どうなってんのかね、全く。俺が行く先全部呪われてんじゃねえだろうな。だとしたら俺、疫病神? ひええ、そりゃやだなあ。

 さて、それはさておき。

 せっかくなので、この町の概要をかいつまんで説明しよう。

 大都市カリムオ。俺が出現したスタート地点を挟んで真逆の方角に位置する町。ヴァルハラ草原から続く唯一の町らしい町。

 以上。分かりやすかったろ? 『でかい』ってこと以外特に目ぼしいところはないんだってよ、この町。まあ大都市らしいし、それだけで説明にはなってるか。

 あああと、町全体がでっかい壁みたいなもので囲われているのも特徴的だな。東西南北に門が設置されていて、人や物資の出入りはそこで行われるらしい。

 それで、現在俺らは、その南門にいる。

 天を衝きそうな大きさの壁についているのだ、当然門もでかい。恐らく、四十メートルはくだらないんじゃないかな。

 門はぴっちりと閉まっていて、その前に小さい派出所みたいな小屋が建てられている。さっきの門兵とは、そこの入り口で会話をした。

 俺はそのばかでかい門を名残惜しげに見遣りながら、溜息をついた。なんだかお預けをくらった気分だ。


「まあまあ牡丹様。そんな肩を落とさないでくださいな。どうしてもこの町に入りたいというのであれば、方法がないわけじゃないでしょう」


 目に見えて肩を落としている俺に、キルコは慰めるように言った。

 今日も、胸がでかいな。

 ――っ!

 ……いま一瞬、銀髪少女から鋭い視線が送られたような気がしたんだが……気のせいか? ……気のせいであってほしい。

 背中に寒いものを感じつつ、キルコに問い返す。


「……方法って? まさかあの門兵殴り倒して入るとか言うんじゃねえだろうな。そんなことしたら俺たちまで討伐の対象になっちまうよ」


「あ、いえいえ。そんな物騒な方法ではないのです。――ただ、この壁に穴をあけて入れば良いのではないかと……」


「そっちも大概物騒だろ!」


 さらっとなんてこと言うんだよ、この機械……。

 まあだが、悪い案では、ない。

 少々分厚いのが骨だが、俺のアビリティを使えば難なく穴くらいあけられるだろう。門兵にばれるかもしれないが、それは少し離れた場所でやればいいだけの話だし。

 うん、実行するだけの価値はあるが……ただ、前提として。


「入っても、店やってねえんだろ? やっぱそれじゃあ、入る意味なんてないよな……」


「……本当に、そう思いますか?」


 控えめな俺の発言に対して、見透かしたような発言で返すキルコ。

 くそ、読まれてるな。


「……分かってるよ。あの門兵の話を聞く限りじゃ、そのいま戦ってるグループの一人とやらには何か秘密がある。洗脳なんて言葉で片付けられちまってるけど、その令嬢とやらの言ってることも引っかかる。

 どちらにしろそのグループの一人を捕まえれば、事件もその秘密も解決する話なんだし、確かに、そう、入る意味は、ある」


 しかし、ただ。

 それでは。


「……しかし、見透かしたようなことを言っておいて、その挙句町に入る方法を提示しておいてなんですが、わたくしとしては、いまこの町に入ることは賛成できません。

 それは確かに牡丹様が無事その一味を捕まえられれば万々歳ですが、やはり、そう上手くいくとは思えません。かなり手強いそうですし――というか大都市軍を総動員しておいて尚討伐できていないというのは明らかに異常です。もし牡丹様の身になにかあったら」


 そう。

 俺もただでは済まないかもしれない。

 逆に敵を捕らえきれず、殺しきってしまうかもしれない。殺人をまた犯してしまうかもしれない。

 そのグループの一人の秘密を知りたいがために、それだけのリスクを冒せるかと聞かれれば――俺は否と答えるだろう。

 だって、馬鹿らしいじゃないか。

 装備なら、さっき門兵が言ってたようにバセスって町へ行けばいいわけだし。

 秘密だって、結局は他人事だ。重大でもなんでもない、気にかかる程度の秘密。

 そんなことのために、ここまで身体を張るだなんて馬鹿らしい。

 馬鹿の、することだ。


「……そうだな。そうだ。よし、じゃあこの町に入るのは中止だ。あの門兵の忠告どおり、バセスに行こう。もう少し、辛抱しよう」


「ですね。それが最善の行動だと思います」


 かくして。

 俺たちは、このカリムオの町には、入らないことを決めた。

 自分の安全を優先して、グループの一人の秘密も秘密のままにしておくことに決めた。

 俺たちは、実に無難な行動を選択したのである。

 ……したはずなのに、何でだろう、こんなに罪悪感が湧き出てくるのは。

 まるで、レイヘブンでの一件の時のような。

 まるで、人を見殺しにしてしまったかのような――

 ――止めよう。

 いまは考えまい。いまはただ、ひたすらバセスに行くことだけを考えよう。

 第六感なんて、知るもんか。

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