プロローグ
「……は?」
気付いたら俺は、球状の形をしたこじんまりとした部屋に全裸で浮いていた。部屋は電気が点いていないのか(というか、そもそも電灯も何もない)、全体に薄暗い。壁にはパソコンに表示されるようなウィンドウがたくさん映し出されていた。
俺は部屋とそのウィンドウを一つ一つ見渡して、一つ息をつき、呟く。
「いやいやいや……なにこれ? え? 何が何して何することでこうなったの? 何なの? 確か俺って普通に学校から帰ってなかったっけ? なのに何で変な部屋に全裸で浮いてるの」
俺は額に手を当てつつ、今日一日に起きた出来事を思い起こす。えーと確か、朝起きて、学校行って、昼飯食って、放課後下校して……。それで、口笛でも吹きながら、ご機嫌に坂を下って……ってあれ? こっから俺どうしたんだっけ? 家には着いたはずだよな……いや、あれ? まずい。上手く思い出せない。
「……ああ! 思い出した、確か坂を下っていたら、突然後頭部に衝撃が走ったんだ!」
それで俺は意識を失った。はず。記憶が曖昧なので確信は持てないが、恐らくそのはずだ。その証拠に、今でも俺の後頭部はズキズキとこぶをつくっている。でも、どうして? 後頭部の衝撃も気になるが、とりあえず今はこの状況の方が気になる。意識を失って、どうしたらこんな状況になるっていうんだ?
と、そこで、突然部屋中にアラート――警戒音のようなものが部屋に響いた。あまりにも唐突に鳴るので、思わず跳びあがりかけた。時間が経つにつれアラートは段々と小さくなっていき、やがてビーと音を立てて消えた。く、くそ、脅かすなよ!
『ルイン大陸へとようこそいらっしゃいました。まずはプレイヤー登録をしますので、これから表示されるウィンドウに設定をお願いいたします』
アラートが鳴り止んだと思ったら、今度は若い女性の声が部屋に聞こえてきた。というか思ったんだけど、これスピーカーどこにあるの? こんな変な形の部屋じゃ、取り付けるのは難しいはずだよな……。
それにしても、今度は一体なんだ? ルイン大陸? プレイヤー登録? 設定? なんだなんだ? ゲームの登録か何かだろうか。いやでも、こんな尋常ならざる状況で、ゲームの登録って……。まさかな。とにかく俺は、何をすればいいんだ?
ウィィンと、俺の前方のウィンドウに、茶色い背景で作られた何かの設定画面らしきものが出てきた。うわ、結構項目の数あるな……。これは一体何の設定なんだ?
『設定は全て音声入力で行うことができます。ただし、発音がはっきりしていなかった場合は再度入力をしなおしていただくことになりますのでご注意ください』
「ん、いやいや待て、まずこれは何の設定なのかを教えてくれよ。あと、俺はなんでここにいるんだ? 監禁は犯罪なんだぞ、今なら間に合うから警察に自首を――」
『ですから、先ほど申し上げました通り、プレイヤー――つまりあなた自身の設定でございます。これからルイン大陸で生きていくにあたって、まず最初にすべき必死事項でございます』
「はあ……?」
疑問点が多々あって、突っ込みたいことも多々あるのだが、その前に一つ、看過できないようなことをこいつは言わなかったか? ルイン大陸だか何だかしらないが、俺がそこでこれから生きて行くだって? 冗談じゃないぞ、俺は今まで普通に生活してきたんだ。そんなわけの分からないところに説明もなしで送られてたまるか。
これは夢なのか……? などと現実逃避じみたことを考えていると、女性の声が再び部屋に響いた。
『ご理解いただけない点もあるとは思いますが、それはこれから大陸で生きて行くうちに解消されることでしょう。今はまず、設定を済ますことが最優先でございます。ウィンドウに表示されている項目に設定を入力してください』
いやいやだから、¨その大陸で生きて行く¨ってこと自体が理解できないんだが……。分からないもんかね。分かるはずもないか。ああくそ、どうしてこんなことになったんだ。
俺は苛立たしげに髪をぼりぼりと掻いて、そして、半ば自棄気味にウィンドウの項目とやらと向き合った。¨アビリティ¨やら¨ギルド¨やら、日常生活ではおよそ使われないような、ゲームでしか使われないような単語がずらずらと使われている。やはりこれはゲームの設定なのか? いつまで渋っていても展開は進みそうにないので、俺はまず一つ目の項目、¨性別¨から設定していくことにした。
これは簡単な項目だ。男か女かを聞かれているだけで、別段考えるようなこともない。俺は迷わず¨男¨を選択肢し――ああ、音声で入力するんだったか。
「項目一、男」
言うと、きちんと¨男¨の選択肢の隣にある四角いマークにチェックがついた。おお、ちょっとすげえ。感動するような状況じゃないってのは分かっているんだが、それでも凄いものは凄い。
俺はさっさと他の項目も片付けていくことにした。二つ目。¨種族¨。これは……えーと、¨人間¨に¨エルフ¨、あとは――¨竜人¨。この三つの選択肢だな。これでゲーム内の何が変わるのかは大方検討がつくが、一応各種族の説明書きも見ておくことにしよう。
¨人間¨。生命力も知能も標準程度で、使える武器の種類が最も多い。また、人間専用アビリティ¨錬金¨が使用可能。三種族の中では一番戦闘タイプが安定していて、あらゆるレンジでの戦闘を可能とするが、得意射程はなし。
¨エルフ¨。生命力は低水準だが、知能が非常に高い。使える武器の種類は少なめだが、武器¨杖¨を装備すると種族ボーナスが入る。また、エルフ専用アビリティ¨精神力強化¨が使用可能。三種族の中では中・長距離戦闘を得意とする。
¨竜人¨。生命力が非常に高いが、知能がやや低水準。使える武器の種類は少なめだが、武器¨槍¨を装備すると種族ボーナスが入る。また、竜人専用アビリティ¨体力強化¨が使用可能。三種族の中では近・中距離戦闘を得意とする。
……ふーん。意外とちゃんとバランスがとれてるんだな。専用アビリティのアクティブだのパッシブだのは、恐らく能動発動と常時発動のことだろう。アビリティにも種類があるっていうことか。
俺はしばらく考えた末、¨人間¨を選択することにした。他の種族も中々悪くないが、やはりこれが一番落ち着くだろう。バランスもかなり良さそうだし、これがゲームだとしたらかなり安定したプレイが望めそうだ。俺は発音に気をつけて、¨人間¨と入力した。
ふう、次。三つ目、¨クラス¨。これは五つ選択肢があるようで、一見しただけでは一体何を決めるのかは分からない。ジョブ的なものでも決めるのだろうか? とにかく、説明書きを見てみるか。
¨スタンダード¨。初期ステータスは最低水準だが、五つのクラスの中では最も成長率が高い。アビリティ最大保有数は一番少ない。
¨アドヴァンス¨。初期ステータスはやや低水準だが、五つのクラスの中では二番目に成長率が高い。アビリティ最大保有数はやや少ない。
¨ハイレベル¨。初期ステータス、成長率共に標準クラス。アビリティ最大保有数も標準。
¨マニアック¨。初期ステータスはやや高水準だが、成長率は五つのクラスの中では二番目に低い。アビリティ最大保有数はやや多め。
¨マキシマム¨。初期ステータスは最高水準を誇るが、成長率が五つのクラスの中で最も低い。アビリティ最大保有数は一番多い。
ふむ、どうやら見たところによると、クラスとはステータスに関連するもののようだな。スタンダードみたいな素人向き――いや、むしろスタンダードは玄人向きか? 素人向きというならば、ハイレベルが一番素人向きっぽいな。とにかく、どのクラスも個性が強い。
アビリティ最大保有数とやらは、アビリティというシステム自体がどれほどなものかは分からないので、確信を持って言うことはできないが――どうやら、かなり重要なものではあると思う。先ほど種族を決めたときにちらっと出てきたが、アビリティというものは¨体力強化¨だったり¨精神力強化¨だったりと、割と使えるものが多いらしい。今挙げた例はパッシブのものだが、アクティブのものとなれば、いわゆる¨魔法¨――攻撃呪文や防御呪文などといった、派手で強力なものもあることだろう。アビリティ最大保有数というものがあるということは、アビリティを使える数には限度があるということであり、アビリティ最大保有数が多いということは、それすなわち自身を強化する機会が増え、自分の個性を出した自分専用のカスタマイズをする幅が増えるということだ。このことからも、いかにアビリティ最大保有数が重要なものかが分かる。
というわけで、俺はアビリティ最大保有数の一番多い¨マキシマム¨を選――ばず、黙って¨スタンダード¨を選択し、入力した。
……いやさ、確かに自分で散々アビリティ最大保有数大事ですよーとか言ってきたけどさ、やっぱり一番大切なのは成長率だと思うんだよ。だってさ、成長率っていうシステムはレベル制度がある限り、永遠に向き合っていかなければならないシステムなんだよ? アビリティみたいな使い方でどうこうとかいう話じゃなくてさ、もうシステム面のお話なんだよ? これはスタンダードを選ばざるを得ないだろう。まあ、レベル制度自体があるかどうかは現時点では不明だが、流石にゲームである以上はないということはないだろう。信じてるよ? 大丈夫だよね?
はい次。ぐだぐだ考えない。四つ目。¨ギルド¨。これは三つ選択肢があるようで、どれに入ったらどれどれなんていう有利不利はないみたいだ。強いて言うのならば、自分の思想に合ったものを選ぶと気持ち的に有利だってことくらいか。説明書きをみてみよう。
¨自由¨。なにものにも縛られない、自由なスタイルをよしとするギルド。三つのギルドの中では一番勢力が多く、実力も相応に高い。
¨平和¨。諍いごとをよしとせず、平和で福祉的な生活をよしとする。三つのギルドの中では勢力は中程度で、実力はやや高い。
¨自然¨。全てを自然のままに委ね、共同していくことをよしとするギルド。三つのギルドの中では勢力は低いほうだが、実力はそこそこ。
うーん。¨自由¨と¨平和¨っていうのはすっと理解できるんだけど、¨自然¨っていうのが少し理解しづらいな。要するに、自然と共存していくってことなんだろうけど、他にも何か言いたげなんだよなあ。……まあいい。とりあえずギルドっていうものはこのゲームにおける¨派閥¨というものなのだろう。または少し向きを変えて言い換え、¨宗教¨ととってもいいかもしれない。俺は生憎無神論者なので、そういう捉え方をすると抵抗が出てくるのだが。
何を考えるでもなく、俺は¨自由¨を選択して入力した。とりあえず、まだこのゲームのことを俺はよく知らないのから、これが一番ベターだなと思ったのだ。もう少し考えてから選んだ方がよかったかもしれないが、まあいいだろう。大抵ギルドとか、そういった¨派閥¨系のシステムは、後で変えられるものだったりするしな。
さて次。五つ目。¨ボーナスアイテムの抽選¨。ふむ、これはまあ、なんだ、よくあるよな。うん、よくある。まあ少し説明させてもらうと、この手のボーナスアイテムだとかそういう類のものは、運が良ければ非常にゲーム内において強力、または便利なものが手に入ることが多い。初プレイとかだとよく価値が分からないことも多いが、明らかに初心者に持たすべきではないアイテムなども手に入ったりする。当然俺はこのゲームは初プレイ――というかそもそもまだこの状況を飲み込めていないのだが――なので、強力なアイテムだとか便利なアイテムは名前を見ただけでは分からないが、大体雰囲気で見分けるくらいのことはできるつもりだ。親切なゲームとかでは、各アイテムにレア度などがふられていて、非常に分かりやすい場合もある。まあとにかく、こういう機会だからこそゴミアイテムを引かないように祈りたい。
えと、¨抽選¨って言えば勝手に抽選が始まるのか。二回までできるみたいだな。早速やってみるか。
「抽選」
一回目。ウィンドウで、スロットのように高速で回るアイテム名。次第にそれは緩やかになっていき、そして、あるアイテムの名前をもって止まった。
そのアイテムとは――¨感情及び心機能搭載ガイドオプション(女)¨。……なんぞこれ。うん、いやいや、なんぞこれ。全くもって意味不明なんだが。それでも頑張って意訳してみると、人間みたいな感情と心を持った女ガイドさんがゲーム中でつきますよってことか? ¨オプション¨なのでレア度は分からないが、これはちょっとゴミなんじゃないか? そりゃあ、さっきは雰囲気で見分けられるとか言ったけどね、こればっかりはノーカンだろ。微妙すぎるわ。
気を取り直しつつ、俺は二回目の抽選を行うことにした。頼む、次こそは……!
「抽選」
再びウィンドウの中でガラガラと回るアイテム名を見つめつつ、俺は心の中でレアアイテムを祈った。お願いします、レアアイテムじゃないとしても、せめて便利なアイテムくらいは……! やがて高速で回転するアイテム名は緩やかになっていき、とあるアイテムで止まった。
¨特殊専用武器使用可能オプション¨。……お、おお。またオプションだが、これは中々良いんじゃないか? これって、使える武器の種類が増えるってことだろう? 分かりやすく整理すると、俺専用の武器が使えるようになったってこと。まあ、そんなものがあるかどうかはこの際置いといて。でも、さっきよりは絶対に良い。ていうか全体的に見てもかなり良いほうなんじゃないか? おおお、ちょっとテンション上がってきたぞ。
よしよし、とりあえず今はこの興奮はしまっておいて、次に行こう。六つ目。¨ボーナスアビリティの選択¨。またボーナス系か……随分と初心者に優しいゲームなんだな。なにはともあれ、初プレイである俺には有利であることは変わりない。有効に活用させてもらおう。
ざっとウィンドウに表示されたリストを見てみたところ、これは先程の¨抽選¨とは違って、自分でリストの中から三つほど¨選択¨する形式のもののようだった。今回は運の要素が絡んでいないということで、自分で考えてことを運ぶことができるのだが、やはり選択形式であるということで、いかんせんパッとしないアビリティが多かった。あと、今見てみて気付いたことだが、どうやらアビリティにもEからSまでのレア度――ああいや、レア度というより、ランク? みたいな……とにかく、そういったアビリティの強度をを示す記号があるみたいだった。まあこのリストの中のスキルは、ほとんどCだとかDばっかなのだが。
一つ目のアビリティ選択。俺はまず、¨成長率強化①(Dランク、パッシブ)¨を選び、入力した。¨①¨という記号が示す意味については分からないが、まあその同系統アビリティ内でのレベルを示すものか何かなんだろう。Dランクで①ということは、一番その中でも下級という意味だと思われる。
二つ目のアビリティ選択。¨成長率強化②(Cランク、パッシブ)¨を選び、入力した。これは成長率強化①を選んだら、突如その下のリスト欄に追加されたものだ。どうやら順番に習得していかなければならない類のアビリティのようらしい。あ、ちなみに効果は重複するそうな。
三つ目のアビリティ選択。¨成長率強化③(Bランク、パッシブ)¨を選び、入力した。……なんだよ! 別にいいだろ! 強いと思うんだよ成長率強化! 絶対にこれ重要なアビリティだからな! 絶対だからな!
少々偏った結果になったが、滞りなくボーナスアビリティ選択も終了した。次はいよいよ最後の項目、¨個別専用アビリティのスキャン¨。なんだこれ。個別専用アビリティっていうのは各プレイヤーの個性を出せて中々良いシステムだと思うんだが、スキャンってなんだ? まさか俺の体を¨スキャン¨して、そこからアビリティを捻り出すのか? さっぱり分からん。説明書きを見てみよう。
¨個別専用アビリティのスキャン¨とは、プレイヤーの潜在能力及び資質、性質を測定し、それに見合ったアビリティをオリジナルとして作り出すシステム。
んん? プレイヤーの潜在能力及び資質、性質を測定? ってことはこれ、アンケートも何もないし、やっぱり俺の体をスキャンするってことなのか? ……凄いシステムと言ってしまえばそれまでだが、実際、こんな技術なんてあるのか? 思えば、今俺がいる部屋も何やら謎の技術が使われているようだし、実際俺も浮いてるし、何か途轍もなく大きいスケールの事態が起きようとしている気がする。俺がこんな場所にいる理由もゲームをする理由も謎だし、一体何が起きようとしているんだ? 拉致監禁されておいて今さらだが、俺は無事に、家に帰ることができるのか?
俺は恐る恐る、震えた声で「スキャン開始」と言った。とりあえず、とりあえずだ。とりあえず、展開を先に進めないと。でなければ何も始まらない。……くそ、正常な思考じゃないとは自分でも分かってはいるんだが、なぜかこの部屋にいると、展開を先に進めたくなってしまう。なんでだ?
突如俺の周りを、水色の文字で構成されているリングが何重にも覆いかぶさってきた。リングはチキチキと音を立てながら光ったり暗くなったりして、やがてピーという甲高い音を立てて消えていった。さて、一体俺専用のアビリティとは、どんなものなのか。まあ楽しみではない、と言えば嘘になるな……。
きた。ウィンドウに表示されている二つのアビリティが、俺専用のアビリティのようだった。へええ、二つもあるのか。さて、説明書きを見ていこう。
専用アビリティ一つ目。¨超多武装特殊アーマードスーツ(Sランク、アクティブ)¨。きた。きたきた。Sランク。SランクSランクSランク。俺専用のアビリティ、そしてSランク! これって、個人の資質や性質が反映されるんだろう? ならば、俺には相応の資質があったということか……? とにかく、嬉しい。それにしても、超多武装特殊アーマードスーツってなんだ? これが俺の¨性質¨なわけだろう? とりあえず説明書きを見てみよう。
全身に武装を仕込んだ、超硬質装甲を持つアーマードスーツ。このアビリティを発動している間は、使用者に高度な肉体強化のパッシブアビリティを適用する。武装の内訳は以下を参照。
・雷鎚ミョルニル(Sランク武器、雷属性、神器。出現式。装備者に瞬間攻撃力大幅上昇のパッシブアビリティを適用する)
・飛槍グングニル(Sランク武器、無属性、神器。出現式。敵を攻撃する際に、僅かに追尾補正がかかる)
・光剣アロンダイト(Sランク武器、無属性、神器。出現式。装備者に大幅な速度上昇のパッシブアビリティを適用する)
・硬質剣×六(Aランク武器、無属性、剣。装備式。右腕部位と左腕部位に折りたたんだ状態で装着されているものが二本と、両肘部位にそれぞれ収納されているものが二本と、両踵部位に収納されているものが二本)
・硬質銃×三(Bランク武器、無属性、銃。装備式。両手首部位に収納されているものが二丁と、腰部位収納ホルスターに格納されているものが一丁)
・速度補正スラスター×六(Aランク装備、無属性、アクセサリ。装備者に瞬間速度大幅上昇のパッシブアビリティを適用する。両肘部位と両踵部位、背中部位にそれぞれ格納されている)
・投擲用硬質ブレード――
・感知――
・使――
・
なんだこりゃあ! と、思わず叫びそうになったが、何とか押しとどめた。これはやばい。やばすぎる。途中で読むのを止めたが、この武装の多さは一体なんだというのだろう。しかも¨神器¨が三個も。神器、神器だぞ? こんなもの、序盤から持ってていいのかよ。もう一回言わさせてもらうが、これはやばい。俺なんかに、上手く使っていけるのだろうか。何だか手に余るような気がする。
俺は一つ深呼吸をしてから、もう一つの専用アビリティを見ることにした。
専用アビリティ二つ目。¨超越者(Sランク、パッシブ)¨。おおおおおおお!? またSランクだと!? またSランクだとぅ!? 一体俺は何者なんだ!? こんなホイホイSランクアビリティが出てもいいものなのか……? ちょっとやばいな。自分が怖くなってきた。
¨種族¨が¨超越者¨となる。
¨超越者¨。生命力も知能も非常に高水準で、特殊装備を含めた全武器を装備することができ、武器¨神器¨を装備すると種族ボーナスが入る。また、超越者専用アビリティ¨第六感¨と¨越境¨が使用可能。オールレンジでの戦闘を得意とする。
はいチート。もうこれ公式チート。全種族の上位互換ってレベルじゃねえぞ。さっき種族決めた意味ねえじゃん。どうなってんだよこれ、マジで即ゲームクリア出来るレベルの戦力保有しちゃってるよ俺……。なんというか、引いた。自分で引いた。ドン引きである。
『お疲れ様でした。無事設定を終えたようですので、これからフィールドへと転送を開始します。転送には準備時間がかかりますので、その間に少しだけ、ルイン大陸についての説明をさせていただきます』
俺が自分で自分に引いていると、例の女性の声が聞こえてきた。ああ、そういえばそうだったな。というかマジで? 本当に俺、そのルイン大陸とやらで生活していかなきゃならないのか? ちょっと待てよ、確かに¨設定¨してた時は結構ノリノリだったけど、でも、いや、あの……
『まず、フィールドへの転送は決まった場所へは行われません。数あるスタート地点の中から一つが完全にランダムで選出されます。転送が終わったらもう自由ですので、自由に動き回っても構いません。次に、プレイヤー――つまりあなた自身のことですが、戦闘などで深手を負って死亡した場合、コンテニューは二度と出来ませんのでご了承ください。それでは転送の準備が完了したようですので、これより転送を開始します。どうかお気をつけて』
俺がもごもご考えていると、声は俺の思考を遮るように、言葉をまくし立ててきた。……いや、実際にはまくし立てるような物言いはしていなかったとは思うが、今の俺は非常に精神が不安定なので、そのように聞こえたのだろう。
意識が沈んでいく。視界が揺れる。俺はこの揺らぎ沈む意識の中で、完全に途切れるその時までずっと、今までの生活のことを反芻していた。死んだ家族のこと、数少ない友達のこと、えーとあと……あれ?
俺、そんなに未練なくね?