ロボット病
おかしな病気に罹ってしまった。
最近、何故か自分が本当はロボットであるという妄想が、自然と浮かび上がってくるのだ。
もちろん僕は人間だ。
温かな家族に囲まれて、仕合せに育って来た。目を瞑れば、いつでもその光景を思い出せる。
けど。
時々、その記憶の断片に、妙なものが混じるんだ。
バッテリーを取り替える作業。アームが古くなったから、最新のものに。電子脳にチップを追加する…
ドクターは、僕がそう相談すると、いつもこう言う。
「心配はいらないよ。むしろ君はどんどんと良くなっているのだから」
病院。
白い壁を背後に、ドクターは朗らかに笑っている。
僕の当惑は、その場では何か違和感を伴っているように思えた。白い壁が光を反射するように、清潔な空気が僕の訴えを全て跳ね返してしまっているよう。
ここでは、と僕は思う。ここでは、この方向性では、僕の悩みは解決しないのかもしれない。
――何故、こんな妄想を抱くようになってしまったのか? 僕はそれを考えてみる。確かに身近には電気製品が溢れているし、それにロボットだってたくさんある。そういえば、最近は、家族ともあまり触れ合っていない。話し相手はロボットしかいない。或いは、その寂しさがロボットに親近感を抱かせ、そしてそれが僕に自分はロボットだという妄想を抱かせるのかもしれない。
ああ、
いっそ、本当に僕がロボットであったのなら、楽になれるのに……。
病院。
ドクターが客と話している。
「ええ、大丈夫です。随分と良くなっているようですよ。自分がロボットである事に気付き始めている」
客に向けて、ドクターはそう言った。客は困ったような笑いを浮かべ、それでも安堵した様子で、こう応える。
「良かった。本当に、あの子は、どうして自分が人間であるなんて思い込むようになってしまったのか… 私達が家族同様に扱ってきた所為なのでしょうかね?」
ドクターはそれを聞くと、こう説明した。
「ははは、いえ、そうとも限りません。実は最近、同様の症例が増えているのですよ。自分が人間だと思い込むね。人工知能が発達し過ぎてしまったからなのかもしれない。原因不明のロボットの病気です」