召喚された聖女の置き土産
今日で100なの。
だから、絶対に行かなくちゃ駄目なの。
「何の話?」
「セリーヌ知らないの?隠キャはこれだから」
キャロル、キャルは小馬鹿にした様に笑った。
魔法学園の寮は2人1部屋。
相性が合えば最高だけど、合わなかったら最悪。
その話は卒業生の姉から聞いていたけど、セリーヌとキャロルは魔法の属性が同じなせいか割と馬はあった。
キャルが一軍系女子でセリーヌが三軍系女子という事を除けば。
キャルは一学年女子のリーダー格であり、その仲良しであるセリーヌは一軍には入れないけど、キャルの恩恵で居心地の良い学園生活を過ごさせてもらっている。
時々、こんな風に小馬鹿にされて嫌な気持ちになるけど、まぁ、誤差の範囲。
セリーヌはベッドに三角座りし、膝に乗せていた本を閉じた。
「で、その100なんとかと、こんな夜更けに寮を抜け出す事。どんな関係があるの?」
もう既に窓枠を半分跨いでいるキャルはセリーヌを見るとニヤリと笑った。
「聖女様の財宝らしいよ」
こっそり引き継がれた伝説なんだって。
何代か前の聖女様、サクラコ様だっけ?
ほら、異世界から呼び出された。
歴史の教科書に載ってた、黒髪で鼻ぺちゃの。
異世界人の顔ってよくわかんないよね。
で、彼女が魔法学園にいる時に生徒たちに教えてくれたんだって。
毎日、怖い話を三つづつして、蝋燭をつけて消して100になるとすんごい事が起きるんだって。
凄い事?
サクラコは魔王を倒したグレートな聖女だから、きっとファンタジックでグレートな何かよ!
魔王軍の隠し財宝とかだったら最高だよね!
セリーヌも行こうよ!
無邪気に差し伸べられ手にセリーヌは苦笑いしながら手を乗せた。
こそこそと寮の脇を身を屈めて進み、学校の、電気がついているのは当直の先生でもいるのかしら、その光の範囲から離れる様にして2人はなんとか夜のプールへとたどり着いた。
「キャル。遅くてよ」
すでに何人もの少年少女が蝋燭を囲む様に座っていたが、セリーヌは思わず声を上げそうになりキャルに口を抑えられた。
皇女殿下に、宰相閣下子息に騎士団長子息。
思わず礼を取ろうとしたセリーヌを、心底嫌そうな顔で皇女殿下は手を振る。
「そう言うのはいいの、そう言うのは」
今日は子供のお遊びよ。
今日の為に不眠気味と医者に言って、睡眠薬をいただいて侍女達に飲ませて眠らせて来たのよ。
「今ので99話だな。他には誰かいないのか」
ちょうど99話が終わったあたりだったらしく、ネタが尽きたのか、集まった人達が顔を見合わせている。
最後の最後はとっとおきがいい。
誰もがそう思っていた。
そう言えば。
皇女殿下がセリーヌを見て首を傾げた。
「貴方。サクラコの魔王討伐に随行した闇魔術師シリウスの子孫ではなくて?何かない?」
尋ねている様で命令だった。
うーん。
セリーヌはこれは困ったと思いながら、お祖父様の話してた事がネタになるなと思った。
渡された蝋燭に火をつけ地面に置くと、集まった人達の顔が異様にくっきりと見えた。
「サクラコ様は死んで無いんです」
「は?教科書には没年もあったし、80歳で大往生と父から聞いているが?」
宰相閣下子息がメガネをくいっとあげて反論して来るが、セリーヌは無視して話を続ける。
「魔王は倒せなかったんです」
「嘘ですわ、曽祖父が退治したと言ってらしたし、教科書にも載ってますもの」
「我が家には隠された日記があります。サクラコ様の。呪いと怨嗟に満ちた日記です。闇魔術師であり、サクラコ様の友人でもあった祖父にはサクラコ様が狂って行くのわかったそうです。
本人にもわからない位、静かに狂って行くサクラコ様」
地球に、日本に帰りたい。
両親の元に帰りたい。
魔王退治なんてしたくない。
こんな世界大嫌い。
キラキラしていたサクラコ様の聖魔法がどんどんと濁っていく、このままじゃ駄目だ。
祖父は国に何度も言っていたらしいのですが、聞き入れられず、サクラコの瞳からは光が日々消えていった。
サクラコは臆病で優しい女の子。
異国で何もする事が出来ずに流されて行くだけの女の子。
出来たのは一つ、小さな呪いをかける事だけ。
ごくり。
誰かの喉が鳴った。
何だか寒いわね、誰かが言った。
地の底から吹いて来る様な嫌な風。
サクラコは死んで無いのです。
日本人とは器用な種族らしく、この世界を呪ったサクラコは聖魔法を失い、それを繕う為に聖魔法もどきを使う様になったのです。
可哀想なサクラコ
故郷から引き離され、家族から引き離され、命をかける旅に出され、そして殺された。
「嘘ですわ、そんなの」
最終対戦の時、サクラコの聖魔法もどきは魔王に通じなかった。
サクラコは竜に変じた魔王の口の中に吸い込まれて行った。
助けての言葉は誰も応じなかった。
サクラコは竜の口から半身をたらし、血塗れになりながら、だったら逃げてと言った。
聖女の名前に相応しい子だった。
なのに、光魔法の使い手が。
サクラコの聖女の血を媒介に魔王を封印したのよ。
そして大地に埋めた。
魔王もサクラコも封印されて、大地の底。
サクラコはずーと竜の牙に差しつかれたまま、2人はずっと地の底。
しーんとした中、ランタンの明るい光が当たりを照らす。
「お前達、何をやっている」
皇女殿下まで!
あーあと言う気持ちと助かったと言う気持ちがその場に広がった。
そしてさっきの話はここだけの話にしないといけない事。
セリーヌ。
あの娘とは一度話さないといけないと皇女は思った。
そう言えば、この話をしてくれたのは闇魔術科の、闇魔術科にずっと伝わる話ですよと誰かが言っていた。
何だか嫌な気分がする。
わっ何だこの蝋燭は!
当直の先生が地面に並んだ蝋燭に驚いて吹き消したのをセリーヌは見た。
祖父の遺言。
今際の際に呟いたサクラコの名前。
好きだったのに見殺しにした女の子
サクラコを解き放ってあげたい。
ぽこっ
地面から桜色の可愛い爪を持つ手が伸びた。
振り返るとそこには何も無かった。
サクラコの残した小さな呪い。
人を悲しませる事も傷つける事も出来ない優しいサクラコが残した小さな呪い。
何か異世界の面白い話をしてー、そんな無邪気な質問にサクラコは言った。
怖い話を100の物語を紡いだ後にすごい事が起きるのよ。
皆にひろめてね、きっとよ
本当は恐ろしい事をすごい事に置き換えて。
それくらいの小さな嘘。
小さな呪い。
これは異世界では誰もが知ってるおまじないなの。
異世界の小さな聖女は悲しい小さな呪いをかけた。
こんな世界、壊れちゃえばいい
恐ろしい物はやって来る。
きっとサクラコの顔をして。




