表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/10

2-2 神聖に当てられる心と、純粋なる信奉

桃華は祭壇の前に立ち、血を流す子供たちのために、全身全霊の祈りを捧げ始めた。


 


「高天原に神留まり坐す……大御神の慈悲の御光を、この哀れな雛鳥たちへ……!」


 


桃華の細く白い指先から、滝のように溢れ出したのは、純白と黄金の混ざり合う圧倒的な【治癒と豊穣】の神通力だった。その本物の奇跡の光が、本殿全体を昼間のように照らし、負傷した子供たちの肉体を優しく包み込んでいく。


 


ジジジ……カチッ、カチッ。


 


人間の医療では絶対に不可能な現象が起きた。少女の焼けた皮膚が一瞬で真新しい桃の肌のように再生し、少年の千切れた足の断面から、肉芽が急速に波打って骨と肉が再構築されていく。光を浴びた子供たちの脳内に、痛みの消失と共に、天上の救いとも言うべき【圧倒的な多幸感と、限界突破の身体強化】の濁流が注ぎ込まれた。


 


さっきまで死の恐怖に怯え、痛みに泣き叫んでいた子供たちの顔から、一瞬で「涙」と「苦悶」が消え去る。彼らの瞳から恐怖が消え、代わりに桃園神宮の絶対的な神聖に当てられた、異常な熱を帯びた瞳が開いていく。


 


「……あ……ああ……」


 


片足を再生させた少年が、ゆらりと立ち上がった。全身に無敵の力が漲っている。彼は魂の底から救われた歓喜に涙を流しながら、満面の笑みを浮かべた。


 


「すごい……痛くないや……。お姉様……お姉様の光が、僕を包んでくれている……! 僕は、僕は桃園神宮のために、お姉様のために生きるんだ!」


 


隣の少女も、再生した綺麗な顔を輝かせ、桃華に向かって両手を合わせ、純粋なトランス状態で呟き始めた。


 


「聖女様……桃華様……あなた様こそが、本物の神様だ。我が命も、我が肉体も、すべてはあなた様のために捧げます……」


 


「おお……おおお……!」


 


その奇跡を目の当たりにした藩主・丹羽長次もまた、激しい後悔から一転、歓喜の涙を流して桃華の足元へ平伏した。もはや大名としての矜持など、この人の前では何の意味も持たなかった。ただ、この光の前にひれ伏すことだけが、自分に許された唯一の誠実さだと、長次の全身が震えながら叫んでいた。


 


「桃華様……! あなた様こそが、この乱世に降臨なされた真の御使いだ……! 我が二本松藩、これより全ての領民、兵卒を挙げ、桃園神宮の忠実な信奉者となりましょう……! 薩長の理不尽な鉄火から、桃華様を、この聖域を護る盾となる……! それだけが、この子供たちの血に報いる、我らに残された唯一の道だ……!」


 


奇跡が終わった。


 


光が引いていく。


 


桃華はそっと祭壇の柱に手をつき、誰にも見えないよう、静かに息をついた。全身の力が、砂のように抜けていく。奇跡を使うたびに、いつもこうだった。救えば救うほど、人々は自分に縋ってくる。縋られるたびに、もっと救わなければという祈りが膨らんでいく。その祈りが、また自分の体を削っていく。


 


(……私は、この人たちにとって何なのだろう)


 


平伏する長次を、トランス状態で自分を見上げる子供たちを、桃華は静かに見渡した。救われた喜びで輝く瞳が、眩しくて、少しだけ、怖かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ