07話 姉は、妹と似ていた
「よく間違えられるのよ。双子じゃないかって」
朽木先輩に似た人は、そう言って笑った。
どうやら僕の勘違いだったらしい。
「なんだ、お前。妹の知り合いかぁ」
褐色の肌の男は、前田と名乗った。
二人は、半年前に引っ越してきたらしい。
ということは、父は何処に行ったんだ。
心配は心配だったが、実は、そんなことを考える余裕さえなかった。
彼女は、朽木先輩の姉、朽木静香さんだった。
あの世界で、僕は彼女の妹、朽木琴音に先導され、歪んだ世界を終わらすために奮闘した。
結果、朽木琴音は、五十嵐淳子で……。
「で、どこに忘れたの?」
「あ、はい。たぶん、僕の部屋に」
「そうなの? なにもなかったけど、ねえ、健二?」
「だな。どっかに隠しているとかか?」
僕の素性がわかり、二人とも協力的になってくれるのは嬉しいけど、違うんだ。
ウソなんだ。
健二は顎に手をあてて、「やっぱ男の子だよな。秘密の隠し場所ってやつだな」といって二ヒヒと笑う。
「そ、そんなじゃないですよ」
「まあ、イイってことよ。男はみんな好きだからな」
え、健二さん。何と勘違いしてます?
「嫌らしいわね。男ってほんと馬鹿」
「そういうな、静香。ほら、見てこいよ。俺たちはここにいてるからさぁ」
健二さんは僕を、ほらほらと部屋へと追いやった。
成り行き上、逆らえず、部屋に入りドアを閉める。
様変わりした僕の部屋。
微睡みの残り香のなか、大きなベッドが置かれ、机も椅子も、本棚もない。
父が引っ越した先に僕の持ち物を、と思ったが、この世界は都合よく改変される。
貯めたお金で買ったレアカード。
五十倍の抽選を勝ち取ったのに、力が抜けた。
青色のカーペットに座り込んだ。
入りきらなかった服装が、壁際に並んでいる。
どこにもゴスロリファッションはない。
「姉の趣味って言ってたけど、本当は自分の趣味じゃないのか?」
ため息が湧いて出る。
見るものなんてこの部屋にはない。
「なにやってんだろう……」
そう思い、視線を彷徨わせたときだった。
部屋の隅。
窓の下に、何かが光っているのが見えた。
のそのそと近づいて、息が詰まった。
「どうしてこれが……」
手に取る。
この爪切りは。
体に電気が走ったように痺れる。
僕はテコを動かし、確認する。
間違いない。
金属の爪切りは、テコを動かすと少し鉄が擦れる音が、
キィ。
やっぱりそうだ。
これは、未来の爪切りだ。
そう思うと急に、鼓動が早くなる。
するべきことは一つだけ。
震える手をゆっくりとポケットにしまう。
「おい、見つかったか?」
背後から声が聞こえ、びっくりして飛び起きる。
「い、いえ。なかったみたいです」
「そっか。残念だったな」
ドアが開いた。
健二さんは本当に残念そうな顔をしていた。
心の中心がチクリと痛む。
その後は、逃げるように家を出た。
「またいらっしゃい」
「遊びに来いよ」
手を振る彼女の爪が、偶然目に入る。中指だけが平らになっていた。
僕は怖くなり、振り向きもせず部屋を出た。
背中越しに聞こえる二人の声に、僕は必死に謝りながら、マンションを後にした。
どれくらい離れたのか。
気づくと、学校近くの公園まで来ていた。
触れなくても分かる。
ポケットには、爪切りが入っている。
歩くたび、微妙に動き、否応なしに意識させる。
ベンチに腰を下ろして、一息つく。
他所様の家から僕は、盗んだ。
それに、朽木琴音のことも聞けずじまいだった。
そっとポケットに手を突っ込み、取り出した。
陽の光の下で見る爪切りは、怪しい光を放っていた。




