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05話 ばーかぁ


先をひとりで歩く彼女に追いついた。

追い越せない。


「ごめん」


僕は、彼女の背姿につぶやいた。

自分がしたことで、彼女を傷つけた。

こんな代償があるなんて、想像もしなかった。

深く考えず、それでも良かれと思ったことが、こんなにもねじ曲がるなんて。


「なんで、あなたが謝るのよ」

「でも。僕がしたことで……」

「ふん。そんな貧弱なメンタルなら、最初からやらなきゃよかったじゃない」

「そう……だよね」


彼女の意見はもっともだ。

言い返せない。


しばらくすると、彼女はすっと立ち止まった。


人々が、彼女をすり抜け、追い越していく。


そして勢いよく振り向いて、「ばーかぁ」と言った。

その目は、薄く濡れていた。


「ごめん……」

「もういいよ。別にあなたのせいじゃないんだし」

「でも」


五十嵐淳子は、大きく腕を伸ばし、伸びをする。

そして、ふっと息を吐く。


「ほら、人が見てる。あなた、道路の真ん中で独り言を言っているのよ? キモチワルー」

「そ、そんな」


前を向くその瞬間、頬に笑みが見えた。

胸が締め付けられる。


彼女は強い。

強い振りをしている。


今の彼女がそうであるように、僕も。


「うん」


ひとり歩く。

彼女の横で一緒に歩けるなら、僕は何だってする。

そう決めたはずだ。


初詣に行き交う人混みに、僕はひとり紛れていく。

誰も隣の人のことなど知らない。

それでも僕は、目の前を歩く彼女には、幸せになって欲しい。

不幸なきっかけではじまった、爪切りの継承。


僕の世代で終わらす。


それはもう始まっている。

この世界の歪みを直し、継承を断ち切り、元の世界に戻るために。

そして、彼女の幸せのためにも。


両手をポケットに入れ、前だけを向いて、力強く歩き出した。


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